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「旅硯振袖日記 上之巻」 7

(毎年のように戴く花の苗が今年も届いた)

名前はそれぞれへメモを付けたと聞いたが、花が咲いてからのお楽しみということで良いのかもしれない。

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「旅硯振袖日記 上之巻」の解読を続ける。

さすが知られし弓取りの、娘と知らぬ判官は、ふとんに、やおら寝そべりて、しきりに呼べば写絵は、屠所のひつじの思いにて、歩みもなれぬ恋の床、立ち寄る気配に判官が、とん/\こゝへと、うつゝなき、そばへ寄るよと見えけるが、写絵はいと猛く枕刀を抜くより速く、打ち遂げたりし。判官が、肩先はっしと斬りつけたり。
※ うつつなき(現無き)- 何かに気を取られて、ぼんやりとして。
※ 猛し(たけし)- 勇猛である。勇ましい。
※ 枕刀(まくらがたな)- 寝るとき枕もとに置く護身用の刀。


薄手なれども、思い掛けねば鼓の判官、大きに慌て、「やれ、家来ども出合え、出合え」と呼ばわる声に写絵は、皆々来ては難しと、庭へ駆け出で垣を越して、足をばかりに逃げ去ったり。
※ 薄手(うすで)- 戦いなどで受けた、軽い傷。浅手。

集う家来は走り来て、判官が痛手を負いしと心得、ただ気を呑まれて狼狽(うろた)うるを、判官は苛で下知を伝え、
「わが傷は浅手(あさで)なり。われに構わず、下種(げす)女を、早くひっ捕えて連れ来たれ」と、言われてよう/\家来共、女は早く陣屋の外へ、逃げ出でたるに相違なし。疾(と)く追い止めよと、罵(ののし)り合うて、てにでに(てんでに)槍を引っ提げて、あえぎ/\ぞ、追うたりける。
※ 苛で(いらで)- とげとげしく。
※ 下種(げす)- 心根の卑しいこと。下劣なこと。また、そのようなさまやその人。


さる程に、写絵は、判官を切り捨てにして、陣屋の外へ逃げ出でしが、案内(あない)も知らぬ道もせを、しきりに走る鈴鹿山、嶮しき側を行く程に、追手の声が騒がしきに、立止りて耳を澄ませば、これ谷川の水音の、木霊に響きて聞こゆるなり。
※ 道もせ(みちもせ)- 道の狭い所。

写絵少し心落着き、しばし疲れを休めんと、なお引っ提げし、判官が枕刀を大事に突き立て、片辺(かたえ)の岩に腰うち掛け、初めて息をほっとつき、独り言に言いけるは、如何に女の年行かぬなればとて、侮(あなど)りて、無体にわなみをなぐさまんと、心驕(おご)れる皷の判官、操を破れば、許婚の男に立たず、さればとて否(いな)にはこの身を殺されん。女子ににげなきわざながら、是非なく彼に手を負わせ、あやうい場所を逃(のが)れしも、兼ねて父上の御指南を受けた剣術が、今日初めて役に立ちしと呟く。
※ わなみ(我儕)- 一人称の人代名詞。対等の者に対して、自身をいう語。
※ にげなし(似気無し)- ふさわしくない。似合わない。
※ 手を負わせ - 手負いにこと。
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