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「壺石文」 下 15 (旧)一月廿七日(つづき)~

(散歩道のムクゲ)

「壺石文 下」の解読を再開する。

ここまで来て、菅雄さんは初めて、自分のことを語る。「古文書に親しむ(経験者)」の受講者、服部菅雄さんの子孫にあたるH氏の話では、服部家に婿養子に入った菅雄さんは、結局家業を傾かせ、何もかも放り出して、「壺石文」の旅に出てしまった。御先祖の菅雄さんのことを色々と調べながら、菅雄さんの行状を認められない、H氏の複雑な心情は聞いてはいたが、ここで、菅雄さんの口から、当時の事情の一端を聞くことになる。

あるじの長老も野郎も、物へ物して、ただ独り、つれづれと(なが)暮らす古寺の雪は、道踏み分けて、さらに訪い来る人も無きまゝに、および(指)を折りて、かき数うれば、あわれおとつとせ(一昨年)長月ばかりの事なりけり。
※ 野郎(やろう)- 若い衆。
※ 物へ物して(ものへものして)- どこか、仏事でもあって、揃って出かけたのであろう。
※ 詠め(ながめ)- 歌を詠じること。
※ および(指)- ゆび。
※ 長月(ながつき)- 旧暦9月の異称。


世の中おかしからず、身を用無きものに思いなりて、かつがつ、病(やまい)付ける心地しつれば、妻子(めこ)の諌めをも聞かず、世の誹(そし)りをも思わず、湯浴みせず、梳(くしけづ)らざりければ、髪も髭も垢づきて、ひた乱れに乱れにたりき。
※ おかしからず - つまらない。
※ かつがつ(且つ且つ)- 少しずつ。


空ん事だに物憂きまゝに、おふし立てぬれば、木の葉を着ざる山人と見えて、我ながらも、むくつけく覚ゆ。今は、よう/\(つか)にも余れるが、半ば過ぎて白うさえなりぬれば、鏡を照らして掻き撫でて見るには、つれづれなる折り/\の心の(なぐさ)の一草(ひとくさ)なりけり。
※ 空ん事(そらんごと)- そらごと。つくりごと。
※ おふす(生ふす)- 生(は)やす。伸ばす。
※ 木の葉を着ざる -(参考)「木の葉衣」木の葉をつづって作った衣。仙人が着るという。
※ 山人(やまびと)- 仙人・世捨て人。
※ むくつけし - 気味が悪い。むさくるしい。
※ 束(つか)- 手の指の巾、四本分の長さ。8センチほど。(ここでは髭の長さを示す)
※ 慰(なぐさ)- 心を慰めるもの。なぐさめ。音から「七草」に通じる。


  氷の肌(はだへ)、何ならん、
  雪の髭こそ、目出たけれ、
  はこやの山の、山人と、
  人も見るがに、老いてけり。
※ はこやの山(藐姑射の山)- 中国の想像上の山名で、仙人(せんにん)が住むとされる。


読書:「人生の一椀 小料理のどか屋人情帖1」倉阪鬼一郎 著
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