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「壺石文」 下 21 (旧)二月十日

(たけ山に降りた雲)

午後から、路面を湿らす程度の霧雨が降ったり止んだり、散歩道から見える、たけ山より低く、雲が降りて来た。

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「壺石文 下」の解読を続ける。

十日、今日は彼岸なりと云うめれど、なお空冴えて雪ふる。例年(れいとし)よりも、こよのう寒き春なりと、人々言うめり。荒町とか云える所に住まうなりと言える檀越(だんおつ)呉公屋の某とか言える男(おのこ)詣で来てけり。つれづれなるまゝに、向い居て煙(けぶり)吹きつゝ、時移るまで物語す。
※ 檀越(だんおつ)- 寺や僧に布施をする信者。檀那。檀家。

もと常陸の国水戸人なりとし言えば、かのわたりの事どもを問うに、何くれと答(いら)えける。序(つい)でに、語らいけらく、あわれ廿年ばかり昔の事なりけり。世に似なく親に孝養ありける童(わらわ)侍りきとて、まず泪ぐみたり。

耳傾(かたぶ)けて聞けば、鼻声になりて言う様、父は左官三次と云いて、家の業をばおさ/\勤めず。酒にふけり、博奕に遊(すさ)びてのみ。されば、常も朝夕の煙(けぶり)だにも、立て侘ぶめるやもめ住みなりけり。(むぐら)より外の後ろ見(うしろみ)もなきに、一年、甚(いた)く煩いて手足もなえて、もごよひ臥しにき。
※ おさおさ - ほとんど。まったく。
※ 侘ぶ(わぶ)- 落ちぶれる。貧乏になる。まずしくなる。
※ 葎(むぐら)- 広い範囲にわたって生い茂る雑草。
※ 後ろ見(うしろみ)- 陰にあって人を助け世話すること。また、その人。
※ もごよう - 足腰が立たず腹ばいになって行く。


月日経(へ)て、活計(たつき)なくなりゆくまゝには、(かだま)く、性無(さがな)心も、いよ/\立ち勝りて、かの童(わらわ)一人をぞ、わりなうはしたなめせめぐなる。さりけれど、侘しげなる気色も見えず。親の心に露も背かで物しけり。
※ 活計(たつき)- 生活の手段。生計。
※ 奸し(かだまし)- 心がねじけている。性質がすなおでない。
※ 性無し(さがなし)- 意地悪だ。性格が悪い。
※ わりなし - ひどい。甚だしい。この上ない。
※ はしたなむ - きびしくとがめる。たしなめる。
※ せめぐ - 責め苦しめる。


(よわい)十にも足らわざりける、幼い心に営みて、昼はひねもす、辺り(ほとり)の人々に乞い、雇われて、さるべき雑事(ぞうじ)など、取りまかなう業(わざ)おおな/\、まめ/\しげなりければ、誰も/\見放(はな)たざりけりとなん。
※ おおな/\ - ひたすら。
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