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桑原黙斎の「安倍記」 6

(土手のイヌタデ)

昨夕、息子が山梨から渋柿を買ってきた。20個で1200円だったが、肉厚の、よい干柿に出来そうだ。今朝、加工した。これで幾つになったのか。数えてみたら、229個となった。

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桑原黙斎の「安倍記」の解読を続ける。

嶺を下るに、この辺り閑古鳥啼き続けて、もの淋しくも打ち過ぎるに、川原に下り、河を西へ渉りて、山の尾を打ち越し下りて、また川原を北へ過ぎ行く。西へ向えて川瀬を渉り、終に村落に抵ずる
※ 閑古鳥(かんこどり)- カッコウの別名。
※ 抵ずる(ていずる)- 至る。


こゝなん、口坂本村なり。里中に、六間許りなる刎ね橋あり。橋上より下流を臨めば、両岸に山葵(わさび)を多く植え置きたり。向こうの橋詰に巨巌二つ、三つあり。高さ三間、横四間許りの石なり。こゝより少し登れば、商家あり。立ち寄りて茶を喫し、暫時、休(いこ)いけるに、雨降り出しける。

去りて左に折れて、坂口にかゝる。右の丘に薬師堂あり。堂後に大杉一樹、周回十囲、椎一樹、周二囲。こゝに老人出で来れるまゝ、向いの高山は何と云うにや、と問えば、南光山とて、麓よりは一里の登りなり。

さて羊腸たる嵯峨しき坂にかゝる。則ち大日嶺の東麓なり。登り/\て右転左転し打過ぎるにぞ。漸く石地蔵の、左傍らに建ちたる所に至れば、その辺りより清冷水涌き出でて、流れをなしぬ。
※ 嵯峨しい(さがしい)-(甲州弁で)急斜な。

いざや、この所に休みて、茶茗(お茶)を煎じて、中食せんとて、泉汲みて落葉掻きくべて、茗を煎ず。餉(かれいい)取り出して食うべけるに、雨また降り出でぬれば、とりもあえず(とりあえず)、この所を立ちける。

路次(途中)、深山躑躅(ミヤマツツジ)、小笹、或は楓樹(かえで)志手、小楢(コナラ)、橅(ブナ)、猿滑(サルスベリ)、その他雑樹の林の中を過ぎ登りて、嶺に至れば、左に大日堂あり。四間四面許り、東に向いたり。
※ 志手(シデ、四手、椣)- カバノキ科の落葉高木。アカシデ・イヌシデ・クマシデなどの総称。

折しも、雨降り頻り、雲霧覆い重なり、四望糢糊として、弁じがたし。老樹の枝には猿おがせ、長くかゝりて、山風に吹き乱れて、千筋の糸を乱せるに似たり。
※ 四望(しぼう)- 四方を眺めること。また、四方の眺め。
※ 糢糊(もこ)- はっきり分からないさま。ぼんやりしているさま。
※ 猿おがせ(さるおがせ)-樹皮に付着して懸垂する糸状の地衣」(広辞苑)。 霧藻、蘿衣ともいう。ブナ林など落葉広葉樹林の霧のかかるような森林の樹上に着生する。


しばし堂に立ち入りて憩いけるに、汗俄かにおさまり、皮膚そう/\として、寒さ身にしみける。麓よりは一里半許りの登りとぞ。この嶺より西は井川に属せりとかや。


読書:「獺祭 軍鶏侍」 野口卓 著
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