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「富士日記」 29 (旧)八月三日

(庭のムラサキシキブの実)

庭のムラサキシキブの実がもうこんなに色付いて来た。秋は着実に近付いている。

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「富士日記」の解読を続ける。

三日、主、つとめて(早朝)、花の元に、烏帽子に笛描きたる絵と、柳の陰に無弦の琴を置きて、片方(かたえ)に菜描きたるを持て出て、歌詠みて、書きてと云えるを、否びたれど、強いて望みければ、詠みて書き付く、その歌、
※ 無弦の琴(むげんのこと)- 学問芸術の真髄を極めるならば、弦の無い琴でも曲を奏でることが出来る。つまり、手段にとらわれているようでは、真髄を極めることはできないという諺。
※ 否ぶ(いなぶ)- 嫌だと言う。断る。辞退する。


   桜花 匂う春間は 散りたりと
        吹く笛の音も 心有らなん


   青柳の 糸絶えにたり 玉琴の
        辺りに菜
(さい)の 花も匂えり

とばかり(しばらく)あるに、好道も来たれりければ、主も共に、今日は酒折の社に詣でむとて、辰の時(午前八時)ばかり、そこを立ちて詣ずる道、国玉(くだま)の御社にも詣で給え。神主磯部正辺も、この道に志し深き人に侍れば、立ち寄りて、諸ともにこそはと言うに、さらばとて詣でたるに、大国玉命を祭れりとて、いと神々しき宮居なりけり。
(原注 大国玉命、大穴牟遅、五名の一つ)

さて磯部の家に徴信入りて、消息すめり。やがて出迎えて、とくより(早くより)名は聞き侍りぬとて、客居(まろうどい)に据えて、暫し語らうほど、昼の食(お)し物、設けて出したり。
※ 消息(しょうそこ)- 来意を告げること。案内をこうこと。
※ 客居(まろうどい)- 客を通す座敷。客間。


御社(やしろ)を国玉(くだま)の宮と云えれば、立ち入りて詠みて奉りし。

   広前に 磨きて仰ぐ 玉の宮
        掛けし鏡の 名残りなるらん


玉の光はこよなければにや、隠れざりける。
※ こよない - この上ない。格別だ。

とばかり(しばらく)ありて、この主もいざとて、酒折に詣づ。ここは日本武尊の仮宮にて、新治、筑波を過ぎて、幾夜か寝つる、と詠みせし跡にて、世に名立たる所なれば、殊に尊し。
(原注 古事記、倭建命東征の段云う、甲斐国に出、酒折宮に坐すの時、歌い曰く、新治(にいばり)、筑波を過ぎて、幾夜か寝つる、にその御火焼の老人続き歌曰く、日日並べて、夜には九夜、日には十日を)
※ 日日並べて(かがなべて)- 日数を重ねて。
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