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江戸繁昌記初篇 9 吉原 4

(庭のサルスベリにコガネムシ)

庭のサルスベリにコガネムシがたくさん付いて、咲き遅れた蕾を食べている。これから卵を産み、幼虫は地中で二年過し、成虫となる。始めハナムグリの一種かと思った。コガネムシは黄金色をしていると思い込んでいた。

「江戸繁昌記初篇」の解読を続ける。

大凡(おおよそ)ここの境に遊ぶ者、愚かにして色に溺るゝ有り。にして情の喜ぶ有り。を使いて媚(こび)を取り、興を買いて痴を愛す。或は黠(わるがしこ)くにして数を挟み、他を賺(すか)して、物を掠め、これを以って自ら好(よ)くする者、これを賊と為す。萬金を車載し、興を人意の表に取りて、気をして一點脂粉に挫かれしめざる者、この如くは即ち豪なり。豪か賊、達や興なり。
※ 達(たつ)- 物事によく通じること。
※ 威(い)- おごそかで犯しがたい力のあること。
※ 人意(じんい)- 人の心。


道学(朱子学)の極みならずと雖ども、また吾が落魄生輩の得て知る所ならざるなり。凡そ、事その域を履(ふ)むにあらざるよりは、情至らず。如何んぞ、善くその光景を画かん。こはこれ、稈史本の翻訳。
※ 落魄(らくはく)- おちぶれること。零落。
※ 生輩(せいはい)- 自分のことをへりくだっていう。小生。
※ 稈史本(かんしほん)- 洒落本。江戸後期、主として江戸市民の間に行われた遊里文学。


人有り、曲を按(あん)じ、その声を聞いて、その面を見ず。詞に云う、雪楼に満ち、夜将に中ならんとす。氷の如く、寒威雄なり。夢裏覚めず。相抱き着す。膠の如く、漆の如くに弓を交ゆ。金屏障へ尽して寒を護ること密なり。なおこれ生憎す、戸隙の風、水調雅淡、真に人をして肉飛ばしむ。蘭房香気芬馥、燈影暗黯六曲の秋江図、屏裏鴛鴦一雙、相依りて三蒲団上に在り。
※ 衾(ふすま)- 寝具の一種。現在の掛けぶとんのようなもので、平安時代から宮中で用いられた。
※ 寒威(かんい)- 寒さの勢い。寒気の激しさ。
※ 夢裏(むり)- 夢の中。夢中。
※ 金屏障(きんへいしょう)- 金屏風。
※ 生憎(あいにく)- 期待や目的にそぐわないさま。都合の悪いさま。(原文に「にくらしい」とルビが振られている)
※ 水調(すいちょう)- 雅楽の調子の一。黄鐘調の枝調子。呂旋に属する。
※ 雅淡(がたん)- 飾らず上品な、優雅であっさりとした。
※ 蘭房(らんぼう)- 女性の美しい寝室。また、美人の閨房。
※ 芬馥(ふんぷく)- ぷんぷんとよいかおりがたちこめるさま。かおりが高いさま。
※ 暗黯(あんあん)- 暗い。光の乏しい。
※ 六曲(ろっきょく)- 屛風が六枚折りであること。
※ 屏裏(びょうり)- 屏風の裏面。
※ 鴛鴦(えんおう)- おしどり。
※ 一雙(いっそう)- 二つで一組になっているもの。一対。一つがい。
※ 三蒲団(みつぶとん)- 三枚重ねの敷布団。江戸時代、最高位の遊女の用いたもの。
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