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「人生やり直し読本」を読む

(柳田邦男著「人生やり直し読本」)

近頃の「かさぶた日録」は古文書の解読ばかりで少し気が引ける。今一番に興味を引かれているものだから、多分、しばらく続きそうである。今日は少し気分を変えて、読み終わったばかりの本について書いてみよう。

柳田邦男著「人生やり直し読本」、何とも刺激的な題名を付けたものである。この11月に発行されたばかりの本を、図書館の新刊書コーナーから借りてきた。著者は元NHK記者のノンフィクション作家である。自分の評価では現代ノンフィクション作家の第一人者だと思う。難しい問題を判りやすく、しかも読み始めたらいつの間にか最後まで読みきってしまう、読ませる何かを持った文章である。真似たことはないけれども、文章のテクニックだけではなくて、作品の発想や構成まで含めて、自分が文を書くときに理想とする作家である。

若いときは、航空機事故問題など、現代の先端技術がはらんでいる問題などをたくさん描いてきた。後年はがん治療などの先端医療の問題を取り上げてきた。息子さんを若くしてなくしてから以降は、命の問題に取り組んでいる。

たくさんのエピソードを重ねながら命について考えさせ、21世紀が持っている様々な問題に切り込んでいる。

最初のエピソードは強烈だ。若くて脳出血に襲われ、意識不明に陥ったフランスの雑誌編集者が、先端医療技術によって意識を取り戻したが、左のまぶたを残して、すべての運動機能を失った。しかし、意識も考える力も記憶も完全に元のままであった。容態を見守っていた友人たちのチャレンジで、何と左まぶたの瞬きだけで、一冊の本を書いて、その本がベストセラーになったという話である。その本の題名が「潜水服は蝶の夢を見る」である。

次いで、精神運動発達遅滞という診断名が付いている子供に、障害の程度のテスト問題で、「お父さんは男です。お母さんは?」と質問すると、「お母さんは大好きです」と答えた。求めた答えとは違っているけれども、その子にとっては母親の本質を突いたものであった。「IQ37」と診断されたが、この「IQ37の世界」は「実はとっても素敵で優しくて、あったかい世界なんです」と母親に言わせたものは何なのか、考えさせられる。

著者はこの本で、閉塞感のある21世紀の我々に、子供の感性に戻ることに解決の糸口があるといい、幼児期の子供たちに感動の原体験をさせることが大切だと語る。そのためには絵本の重要さを述べる。

さらに、手書きが前頭葉を発達させると主張し、活字文化の崩壊問題、教育のデジタル化の恐怖、被害者・遺族に配慮する社会など、さまざまな問題提起を行なっている。

確かに、最近電車に乗ると老いも若きも携帯を持って、ピコピコ(音はしないが)やっている。周りのほぼ全員がやっている姿に、異様さを感じるのは自分だけではないと思う。携帯を売りまくっている会社の経営者がその異様さに気付くことは永久に無いのだろうか。
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