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「赤誠の森」を読む

(「赤誠の森-谷洋一の牛歩の八十年」)

民主党の小沢党首の秘書が、西松建設から禁止されている企業献金を受け、報告を怠っていたとして、政治資金規制法違反で逮捕された。小沢党首は記者会見をして、何ら問題は無いと、検察と全面対決する姿勢を明らかにした。来る衆院選で政権をほば手中にしたと思われていた民主党の掌から、政権が」ぼろぼろとこぼれていくのを感じる。同じことを何度も繰り返す体質は、まるでマルチ商法の経営陣を見るようである。いったい日本の政治はどうなってしまうのであろう。このままでは世界に相手にされなくなる。

そんな折り、水島元著「赤誠の森-谷洋一の牛歩の八十年」という本を読み終えた。水島元氏は故郷但馬で教師を退職後、執筆生活に入り、但馬に題材を取った歴史小説を何冊も書いている作家である。故郷の兄の知り合いで、この本も一年ほど前、兄から頂いたものである。

谷洋一氏は故郷の選挙区で衆議院議員を9期つとめた政治家である。故郷ではあるが自分が投票に関わったことは全くない。この本も、谷洋一氏への興味というより、功成り名遂げた政治家の一代記をどんな風にまとめるのか、作家水島元氏の捌き方を見てみたくて読んだ。結局、水島元氏の術中にはまったようで、最後まで読んでしまった。

谷洋一氏は子供のころ眼を病んで、盲学校に1年少々通うという辛い経験をしながら、故郷で町会議員、町長、県議会議員とステップを登って衆議院議員となった。故郷但馬は山また山で、トンネルを掘って掘って、故郷へ利便をもたらすことが最大の役割であった。一年に1000件を越す地元からの陳情や依頼に、骨惜しみをせずに働いた。その一つ一つが票につながるとの打算ではない。故郷の人々が幸せになってくれればとの思いであった。

故郷が山国ゆえに、山歩きが唯一の趣味で、山林の振興にはひと際、力を尽した。毎年行われる植樹祭、育樹祭には必ず出席して、植樹をした。阪神淡路大震災には寝食を忘れて、知事とともに復興に力を尽した。海外ボランティアや故郷の山林の視察など、議員を終えてからも続けている。

中曽根康弘氏を師として仰ぎ、一見浪花節的な古い形の政治家である。大臣には2度なったが、政治野心があったわけではない。金には縁がなく、東京は議員宿舎に泊まり、故郷の自宅も昔の家を改造して使っていてこだわらない。

谷洋一氏を但馬の名牛、但馬牛に譬え、牛歩ながらも確実な歩みとしてとらえる。古い形の政治家だけれども、政局に明け暮れし、品の悪い目付きでテレビに顔を見せる政治家たちを見ていると、このように地元に根を下した政治家が懐かしく思い起こされる。作家水島元氏の面目躍如というところなのだろう。
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