波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オショロコマのように生きた男  第42回

2011-11-01 09:44:47 | Weblog
少し気が重くて来たのだが、彼女に会ってすっかり気分が変わった。そしてどんなやつか知らないがこんな可愛い子を振るなんて
なんてもったいないことをするんだと勝手に思ったりしていた。
とりあえず、近くの喫茶店に入り話を聞くことにした。恥ずかしそうにしていた彼女の口から出てきたのは、幼友達で小さいときから付き合っていたが、それがだんだん大きくなるにしたがって恋へと変わり、一緒になりたいと思うようになった。
しかし、彼は彼女の気持ちとは裏腹に学業に熱中し医学を目指していた。そしてある日、何も言わずに島を出てしまったのだ。
彼女は自分の気持ちを抑えられず、彼の家を訪ね、東京へいったことを知った。どうしても忘れることも出来ず、又彼の気持ちを確かめたいと手紙を何度か出したが、返事をもらえず、とうとう会って気持ちを聞きたいと出てきたのだと言う。
そこには何の飾りも無く、彼女の赤裸々な気持ちが出ていた。聞きながら宏は男として少し義憤を感じていた。自分なら、こんな卑怯な行動をとらないだろう。はっきりと自分の気持ちを話した上で、別れるなら別れる、待ってくれと言うなら待ってもらうと
意思を伝えたと思うと、勝手に考えながら話を聞いていた。
そのうち、彼女も感情が高ぶってきたのだろう。話しながらハンカチを取り出し、しくしくと泣き始めた。男にとって涙はまったく弱い。言い訳も出来ない。周りの客のことも気になる。「大体話は分かった。もう少し話をしたいので、場所を変えよう。」
そういうと立ち上がった。肩を支えてたたせると店を出た。どこへ行く当ても無かったが、静かなところで食事でもしながら
気持ちが静まるのを待つしかない。そう思い、歩き出した。渋谷は若者の町とされ、道行く人は若者が多く、宏は自分がその中で何となく気後れがする感じだった。
歩いていると門構えのレストランが見えてきた。庭に続いて奥まったところに店があるらしい。ここなら静かな部屋が取れるかもしれないと入ってみた。案内に聞くと、個室が取れると言われ、そこへ案内された。
お任せで食事を頼むと、とりあえずビールを頼んだ。自分は呑む気は無かったが、ここは何としても彼女の気持ちを変えなくてはならない。宏はビールが来ると形だけ口はつけたが、殆どんど飲むことは無かった。彼女は美味しそうにビールを飲むと大きくため息をついた。やはり、彼のことを思いつめているのだろうと思いながら宏はどう話そうかと思案していた。

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