映画・アート・時代を読む

映画、演劇、アートの感想や批評、ときには日々の雑感を掲載します。

福島智  バリアフリーの教育

2009-06-20 23:29:45 | Weblog
今日は、東京大学安田講堂で、「教育のバリアフリー、そしてバリアフリーの教育」という公開フォーラムに参加した。これは、東京大学教育学研究科に新たに設けられたバリアフリー教育開発研究センターの開設記念行事として行われたもので、メイン講師は、福島智(東京大学先端科学技術研究センター教授)氏であった。800名の参加者の多くと同様に、私も福島氏の講演を聞くことが目当てでこのフォーラムに参加したのだが、氏のお話はもとよりフォーラム全体から予想以上に大きな収穫を得ることができた。

私が強く共感したのは、「バリアフリー」という概念をどのように理解するかという点だ。バリアフリーとは、すなわち「障壁のない状態」を指す。そしてわれわれはしばしばそれを社会のめざすべき理念型として語る。しかしながら、それを一つの理念として語った瞬間、それは対極の現実を前に、空虚なスローガンと化してしまう。また「バリアフリー」は、人間の善意ややさしさを前提とした調和的な社会規範としてしばしば理想化されがちである。

それに対して、福島氏は「バリアフリー」にとってのポイントは「異質なものがぶつかり合うときの摩擦や衝突」であると主張した。

つまりバリアフリーにとって重要なのは、人間のやさしさや共感、調和ではなく、誤解、葛藤、対立、抗争なのだ。それは、障害者と健常者(それはときに逆転することすらある)の、あるいは障害者と障害者の葛藤(例えば「段差や起伏」など身体障害者にとって不便なものが、視覚障害者にとって有意味であったりすることがある)、対立の一つ一つを克服していく過程としてのアゴーン空間である。

その意味で「バリアフリー」とはある完成された理想状態を指すのではなく、いまだ完成されざるものに向けた「未完のプロジェクト」を指すものでなければならない。

彼の「バリアフリー」論は、慈善家のそれではなく、まさにその葛藤の渦中にあった(にある)人間の言葉としてとてもリアリティがあった。福島氏は言う。「人間は異質であり、完全に同化できないがゆえに、つながり合おうとし、コミュニケーションを求めるのだ。」

暗闇と静寂、孤独のふちにあった彼を救ったのは「指点字」であった。彼は、指先の感覚だけで、この世界とつながり、この世界へとコミュニケートする。

近年、教育の世界で「コミュニケーション力」といったことが盛んに言われるが、彼の語る「コミュニケーション」は、それとはまったく別物である。それは「社会的動物(ゾーン・ポリティコーン)」としての人間存在の条件とも言い得る。「バリアフリー」とは、われわれの社会が、人間の条件としての「コミュニケーション」を回復する営みなのだ。

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社会
キーワード
社会的動物 人間の条件 コミュニケーション力 視覚障害者 身体障害者 教育学研究科
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3 コメント

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お伺い (東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター)
2009-07-07 09:25:06
初めまして。東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センターの担当の者です。突然の連絡を失礼いたします。先だってはフォーラムへのご参加をどうもありがとうございました。

当センターでは現在、フォーラムの報告ページを作って、皆様から戴いたご感想や、写真などを掲載しようと準備しています。その中に、こちらのブログも紹介させていただけたらと考えているのですが、いかがでしょうか。
バリアフリー教育開発研究センター様 (ブログ管理者)
2009-07-07 17:27:01
ご丁寧にありがとうございます。お伺いの件、了解いたしました。どうぞご活用ください。できれば文章と一緒にブログのURLも付していただけるとありがたいです。
ありがとうございました。 (東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター)
2009-07-09 23:21:07
ご快諾ありがとうございます。それでは、早速近日中に掲載させていただきます。

掲載の際には、ブログへのリンクのご紹介という形になると思います。

またその際にはご連絡いたします。どうぞ宜しくお願いします。

東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター

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