『戦争をしないための仕組み』づくりへの
転換を「集団自衛権」
=孫崎享= 通販生活
EU、アセアンの根底にあるのは
「戦争はバカらしい」という価値観です。
アメリカ一辺倒の安全保障政策から
アジア各国と連携した
『戦争をしないための仕組み』づくりへの転換を
経済的合理性の観点から見ても、
東アジア共同体が、日本にとって
メリットがあることは明らかです。
集団的自衛権を行使することは、
日本の安全に貢献しないだけでなく、
むしろマイナスの状況をつくり出します。
私はこう考える(3)孫崎享さん|通販生活®
集団的自衛権を行使することは、
日本の安全に貢献しないだけでなく、むしろマイナスの状況をつくり出します。
アメリカとともにイラク戦争やアフガニスタン戦争に参加した国で何が起きたのか。ロンドン(05年)やマドリード(04年)でのテロ爆破事件です。
イスラム教では「目には目を」の価値観が支配しています。集団的自衛権の名の下に日本が軍事行動を起こせば、平和な日本社会にテロを呼び込む可能性も出てくるわけです。
北朝鮮のミサイル問題も同様です。アメリカに向けられた北朝鮮のミサイルを、集団的自衛権を発動して発射前に攻撃すべきと言う人もいます。
そうなれば北朝鮮は当然、日本に報復をします。北朝鮮には日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイルが200~300発あります。現在の日本のミサイル防衛システムでは、そのすべてを防ぐことはできません。
こうした危機的な事態をまねきかねないのが、
集団的自衛権の行使です。
そうまでしてアメリカの軍事戦略に
貢献しようとしている安倍政権ですが、
アメリカは決して評価していません。
象徴的なのが、アメリカの経済誌『フォーブス』が毎年発表している「世界で最も影響力のある人物」のランキングです。2013年版の1位はロシアのプーチン大統領で、2位がアメリカのオバマ大統領、3位が中国の習近平国家主席でした。安倍首相はというと、ずっと順位が下がって57位です。
北朝鮮の金正恩第1書記(46位)や、韓国の朴槿恵大統領(52位)より低い。アメリカにとって、安倍首相の存在感はそれほど希薄だということです。
日本に集団的自衛権の行使を求めているのは、アーミテージ元国務副長官など、
いわゆる「ジャパンハンドラー(知日派)」と呼ばれる一部の人たちであり、
彼らはオバマ政権の中枢ではないのです。
日本の貿易相手地域は、
圧倒的にアジアが中心。
日本は国民の安全を脅かすアメリカ一辺倒の外交政策から脱して、東アジア諸国との連携に軸足を置いた「東アジア共同体」構想へと外交政策の転換をはかる時期にきていると思います。
広域の地域統合として先例になるのは「EU(欧州連合)」ですが、その中核国であるドイツとフランスの間では、第一次・第二次世界大戦やアルザス=ロレーヌ地方の領有権問題など、多くの問題を抱えていました。
しかし、争うことによって失うものの大きさを両国民が深く認識したのでしょう。
戦争をするよりも、相互依存関係を深めたほうがメリットがあると考えた両国は、領土係争地域で産出される石炭や鉄鋼の共同管理を始めました。
それが周辺4ヵ国を含めた欧州石炭鉄鋼共同体となり、現在のEUの出発点になったのです。
タイやインドネシアなど東南アジア10ヵ国からなる「アセアン(東南アジア諸国連合)」も、EUから学び結成されたものです。
アセアン加盟国の間でも、タイとベトナムなどかつてベトナム戦争で対立した国もありました。しかし経済分野での連携が増すことで、イデオロギーの対立を超えて結びつくことの重要性が増したのです。
地域統合の根底にあるのは、
「戦争はバカらしい」という価値観です。
そのために「戦争しない仕組み」をつくる。
日本もその考えを学ぶべきです。
経済的合理性の観点から見ても、東アジア共同体が、
日本にとってメリットがあることは明らかです。
財務省の貿易統計(2012年)を見ると、日本の輸出総額のうち、中国や韓国などアジア地域は54・6%なのに対し、アメリカは17・5%、EUは10・1%です。輸入総額でも中国が圧倒的に1位(21・2%)で、中国を含めたアジア地域は44・2%。アメリカ(8・6%)やEU(9・3%)を大きく引き離しています。日本の貿易相手地域は、圧倒的にアジアが中心になっているのです。
一方、中国の輸出統計(2012年)を見ると、日本はアメリカ(17・2%)、EU(16・3%)、アセアン(10・0%)に続く4位(7・4%)。韓国も輸出の24・5%を中国が占めており、両国とも、輸出先としての日本の価値は下がっています。
「東アジア共同体」が、
自主外交復活のカギとなる。
東アジア共同体を、具体的にどうつくっていくのか。そのイメージやプロセスには様々な考え方がありますが、ゴールは「戦争がバカバカしくなるほどに相互依存関係を深めること」です。
たとえば民主党政権のときに、日中間で、それまでドルを介在させていた円と元の決済を、直接できるようにした「円・人民元直接交換取引」という制度が実現しました。こうした金融面の互恵システムも、相互依存関係を深める大きな役割を果たします。
経済発展著しい東アジア諸国では環境問題が大きな政策課題になっています。そこに日本が得意とする環境技術、特に「水」分野での連携は、相手国からも歓迎されるでしょう。そうした連携が多国間に広がれば、共同体構想へのはずみにもなるはずです。
一点、政治的な配慮が必要とすれば、アメリカとの関係です。アメリカには日中の連携が深まることに懸念を持つ勢力もいますから、アセアンにアジアの経済大国である日本・中国・韓国の3ヵ国が加わる「アセアン+3」を基本線とするのがいいと思います。
現時点で北朝鮮を東アジア共同体の一員として想定するのは少し難しいでしょう。それでも北朝鮮を孤立させ、冒険主義に走らせないためにも、国際社会の一員として多国間互恵関係の枠組みに取り込むことは、長期的には日本の安全保障に資すると思います。
日本とアジア諸国との間に、領土や歴史認識問題で確執があるのは確かです。中国が「防空識別圏」を設置した問題も、決して望ましい行動とは言えません。しかし、隣国との間で問題を抱えない国はほとんどありません。
経済的な交流を深めることで、政治的・思想的な確執を克服できることは歴史が証明しています。
かつての日本には、石油の輸入戦略で中東との関係構築を図るなど「自主外交」を模索する動きがありましたが、今は「対米追従」一辺倒。東アジア共同体を目指す動きこそ、日本の自主外交復活のカギと言えるのではないでしょうか。
通販生活® より
http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/140104/index3.html
転換を「集団自衛権」
=孫崎享= 通販生活
EU、アセアンの根底にあるのは
「戦争はバカらしい」という価値観です。
アメリカ一辺倒の安全保障政策から
アジア各国と連携した
『戦争をしないための仕組み』づくりへの転換を
経済的合理性の観点から見ても、
東アジア共同体が、日本にとって
メリットがあることは明らかです。
集団的自衛権を行使することは、
日本の安全に貢献しないだけでなく、
むしろマイナスの状況をつくり出します。
私はこう考える(3)孫崎享さん|通販生活®
集団的自衛権を行使することは、
日本の安全に貢献しないだけでなく、むしろマイナスの状況をつくり出します。
アメリカとともにイラク戦争やアフガニスタン戦争に参加した国で何が起きたのか。ロンドン(05年)やマドリード(04年)でのテロ爆破事件です。
イスラム教では「目には目を」の価値観が支配しています。集団的自衛権の名の下に日本が軍事行動を起こせば、平和な日本社会にテロを呼び込む可能性も出てくるわけです。
北朝鮮のミサイル問題も同様です。アメリカに向けられた北朝鮮のミサイルを、集団的自衛権を発動して発射前に攻撃すべきと言う人もいます。
そうなれば北朝鮮は当然、日本に報復をします。北朝鮮には日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイルが200~300発あります。現在の日本のミサイル防衛システムでは、そのすべてを防ぐことはできません。
こうした危機的な事態をまねきかねないのが、
集団的自衛権の行使です。
そうまでしてアメリカの軍事戦略に
貢献しようとしている安倍政権ですが、
アメリカは決して評価していません。
象徴的なのが、アメリカの経済誌『フォーブス』が毎年発表している「世界で最も影響力のある人物」のランキングです。2013年版の1位はロシアのプーチン大統領で、2位がアメリカのオバマ大統領、3位が中国の習近平国家主席でした。安倍首相はというと、ずっと順位が下がって57位です。
北朝鮮の金正恩第1書記(46位)や、韓国の朴槿恵大統領(52位)より低い。アメリカにとって、安倍首相の存在感はそれほど希薄だということです。
日本に集団的自衛権の行使を求めているのは、アーミテージ元国務副長官など、
いわゆる「ジャパンハンドラー(知日派)」と呼ばれる一部の人たちであり、
彼らはオバマ政権の中枢ではないのです。
日本の貿易相手地域は、
圧倒的にアジアが中心。
日本は国民の安全を脅かすアメリカ一辺倒の外交政策から脱して、東アジア諸国との連携に軸足を置いた「東アジア共同体」構想へと外交政策の転換をはかる時期にきていると思います。
広域の地域統合として先例になるのは「EU(欧州連合)」ですが、その中核国であるドイツとフランスの間では、第一次・第二次世界大戦やアルザス=ロレーヌ地方の領有権問題など、多くの問題を抱えていました。
しかし、争うことによって失うものの大きさを両国民が深く認識したのでしょう。
戦争をするよりも、相互依存関係を深めたほうがメリットがあると考えた両国は、領土係争地域で産出される石炭や鉄鋼の共同管理を始めました。
それが周辺4ヵ国を含めた欧州石炭鉄鋼共同体となり、現在のEUの出発点になったのです。
タイやインドネシアなど東南アジア10ヵ国からなる「アセアン(東南アジア諸国連合)」も、EUから学び結成されたものです。
アセアン加盟国の間でも、タイとベトナムなどかつてベトナム戦争で対立した国もありました。しかし経済分野での連携が増すことで、イデオロギーの対立を超えて結びつくことの重要性が増したのです。
地域統合の根底にあるのは、
「戦争はバカらしい」という価値観です。
そのために「戦争しない仕組み」をつくる。
日本もその考えを学ぶべきです。
経済的合理性の観点から見ても、東アジア共同体が、
日本にとってメリットがあることは明らかです。
財務省の貿易統計(2012年)を見ると、日本の輸出総額のうち、中国や韓国などアジア地域は54・6%なのに対し、アメリカは17・5%、EUは10・1%です。輸入総額でも中国が圧倒的に1位(21・2%)で、中国を含めたアジア地域は44・2%。アメリカ(8・6%)やEU(9・3%)を大きく引き離しています。日本の貿易相手地域は、圧倒的にアジアが中心になっているのです。
一方、中国の輸出統計(2012年)を見ると、日本はアメリカ(17・2%)、EU(16・3%)、アセアン(10・0%)に続く4位(7・4%)。韓国も輸出の24・5%を中国が占めており、両国とも、輸出先としての日本の価値は下がっています。
「東アジア共同体」が、
自主外交復活のカギとなる。
東アジア共同体を、具体的にどうつくっていくのか。そのイメージやプロセスには様々な考え方がありますが、ゴールは「戦争がバカバカしくなるほどに相互依存関係を深めること」です。
たとえば民主党政権のときに、日中間で、それまでドルを介在させていた円と元の決済を、直接できるようにした「円・人民元直接交換取引」という制度が実現しました。こうした金融面の互恵システムも、相互依存関係を深める大きな役割を果たします。
経済発展著しい東アジア諸国では環境問題が大きな政策課題になっています。そこに日本が得意とする環境技術、特に「水」分野での連携は、相手国からも歓迎されるでしょう。そうした連携が多国間に広がれば、共同体構想へのはずみにもなるはずです。
一点、政治的な配慮が必要とすれば、アメリカとの関係です。アメリカには日中の連携が深まることに懸念を持つ勢力もいますから、アセアンにアジアの経済大国である日本・中国・韓国の3ヵ国が加わる「アセアン+3」を基本線とするのがいいと思います。
現時点で北朝鮮を東アジア共同体の一員として想定するのは少し難しいでしょう。それでも北朝鮮を孤立させ、冒険主義に走らせないためにも、国際社会の一員として多国間互恵関係の枠組みに取り込むことは、長期的には日本の安全保障に資すると思います。
日本とアジア諸国との間に、領土や歴史認識問題で確執があるのは確かです。中国が「防空識別圏」を設置した問題も、決して望ましい行動とは言えません。しかし、隣国との間で問題を抱えない国はほとんどありません。
経済的な交流を深めることで、政治的・思想的な確執を克服できることは歴史が証明しています。
かつての日本には、石油の輸入戦略で中東との関係構築を図るなど「自主外交」を模索する動きがありましたが、今は「対米追従」一辺倒。東アジア共同体を目指す動きこそ、日本の自主外交復活のカギと言えるのではないでしょうか。
通販生活® より
http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/140104/index3.html