
前の住人が忘れていった1冊のノートを読んだことによって、ヒロインが真実の愛に出会うまでを描く感動作。携帯サイトで連載され100万アクセスを突破した雫井脩介の同名小説を基に、1冊のノートによって結ばれていくかけがえのないきずなをつづる。『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督がメガホンをとり、『手紙』の沢尻エリカと『いま、会いにゆきます』の竹内結子が初共演を果たした。運命が巡り合わせる切ないドラマに胸打たれる。[もっと詳しく]
伊吹の存在を隣にいるかのように、観客もまた錯覚したいのかもしれない。
雫井脩介は僕はまだ映画は未見なのだが、大薮春彦賞を取った「犯人に告ぐ」が、「樹の海」(04年)の滝本智行監督によって、映画化もされた。とても注目のサスペンス作家だ。
この「クローズド・ノート」は、迫真に満ちたサスペンス・タッチの雫井脩介のいつもの文体と異なっている。
少しミステリアスでファンタジーめいたラブストーリーだ。どちらかといえば、乙一の小説作法に近く感じる作品と言ってもいいかもしれない。
実際は、雫井脩介の亡くなった姉が残した記録や教え子の綴りをもとにして、この小説(映画)のとても魅力的な真野伊吹というヒロインの原型としている。
この作品は、おそらく亡き姉に捧げたオマージュといっていいのかもしれない。

監督は行定勲。「世界の中心で愛を叫ぶ」(04年)のヒットを契機に、「北の零年」(04年)、「春の雪」(05年)という文芸大作を任されるようになり、その1カット長回しの手法とともに、すっかり中堅監督の貫禄が出て来た。
竹内結子、沢尻エリカ、伊勢谷友介という人気どころを揃え、主題歌は書き下ろしでYUIという布陣、興行収益では一人勝ちの東宝から配給されており、結果としても10億円の興行と手堅いヒットを果たしている。
この作品の披露会で、沢尻エリカのふてくされコメントに非難が集中したというハプニングはあったが、それはそれで、別のお話だ。

僕はこの作品を通底する基調音のようなものは、「出会い」の神秘性、運命性、共時性ということではないかと思っている。
といっても、「ハーレークインロマンス」のような、近代的なドラマツルギーを基本とした波乱万丈の恋愛劇かというと少し違う。
新しく小学4年生を受け持った女教師の学園成長物語でもなければ、その女教師のアパートの後釜に偶然引っ越してきた同じく小学校教師志望の女子大生の青春ドラマということでもない。
画家である不器用だが人のいい青年をめぐる恋の駆け引きでもない。
女教師は、不遇の交通事故で短い生涯をとじてしまうのだが、その事実に物語の最高潮をもっていこうとしているわけでもない。

「出会いというのは運命の糸でつながれているから、あるのだと思う。限りあるめぐり合いの中で出逢うのだから、それは奇跡だと言ってもいい」
女教師真野伊吹(竹内結子)が4年2組のお別れ会の日、3月22日にノートに記した言葉である。
そのノートをたまたま部屋に置き忘れてあったのだが、女子大生である堀井香恵(沢尻エリカ)が読むことになる。
読み聞かせる相手は、伊吹が心を寄せた恋人である隆(伊勢谷友介)であり、同時に香恵が思慕することになった石飛リュウ(ペンネーム)であった。
たまたま同じ部屋への居住が前後し、たまたま小学校教師と教師志望者という同一性があり、たまたま万年筆によって書かれた伊吹のノートと万年筆屋でバイトする香恵という接点があり、その万年筆を契機としてたまたま心を寄せたのが同一人物であった・・・。
こうした出会いの「たまたま」は、運命の糸で繋がれており、それは奇跡としかいうしかないものなのだ。

ありえなさそうなことなのか、それともこの世界には、そういう奇跡がほとんどは気づかれないまま、偏在してあるのか。
こうしたテーマをもっとも得意とするのは、ここ数年の韓国映画であるかもしれない。
とはいうものの、あざといこれでもかというような、ありえなさそうな運命の交錯、秘密めいた複雑な家族環境、難病や突然の事故などによる不幸の連鎖などを、視聴率稼ぎのために執拗に繰り出してきた韓国のある時期のドラマとは異なり、もう少し静かに運命の不思議さを挿入するような作品群のことを指している。

たとえば、クァク・ジェヨン監督の心に残る作品であるが、ソン・イェジンが若き日の母親とその娘を一人二役で演じる名作「ラブストーリー」(03年)がそうだ。
たまたま見つけた母親の若き日のラブレター。そのラブレターで書かれた母親の娘時代の悲恋とラブレターを読む娘の現在の恋が、ファンタジックなシンクロを果たし、運命的な糸で繋がれた不思議な出会いが恩寵のようにもたらされる・・・。
「ラブストーリー」では母子という時間、「クローズド・ノート」では出会ったことのない同じアパートの同室の女性の前後した時間という違いはあるが、、「出会い」の神秘性、運命性、共時性という基調音には通底するものがある。
「クローズド・ノート」は、釜山国際映画祭に招待され、野外に集まった5000人の観客の前で上映され、幕後はスタンディングオベーションの嵐であったという。
歴史劇ではこうした「運命」は、東西を問わず貴種たる登場人物たちの物語の構造上の骨格として、不可欠なものとしてある。
けれども、いま僕たちの前に提出されているのは、「ラブストーリー」にせよ「クローズド・ノート」にせよ、普通の生活者にたまたま恩寵のようにもたらされたものとして記述されている。

理性を働かせれば、そんな共時性など、きわめて低い確率でしか存在しない、ということになる。
そんなことは分かっている。けれどもたぶんどこかで、もしかしたら自分もそんな運命のような「出会い」の蓋然性がゼロではないこと、少しでも多く無意識に見積もりたいという心性を排除することは出来ないことを、了解しているのだ。
そして、その恩寵は、もしかしたら伊吹や香恵や隆のような、透明で内側からの情熱に照らされている者に、彼らが持つ「こころね」に宿るのかもしれない、という予感のようなものを持っているのだ。
宗教でも、ヒューマニズムでもなく、ふだんは捻くれものの僕でさえ、羞恥を感じながらも、そう思いたくなるときもあるのだ。
それは静かな心の向かい方であり、「愛と感動と涙」ということで大騒ぎをする業界人たちの繰り出す世界とは、そうした情緒の押し付けとは、実は対極にあるもののような気がする。

いまどきあんな素直な笑顔ばかりのクラスなんてあるのかい、という揶揄も飛んでも不思議ではない。
原作がもっていた緻密な構成と余韻とを、映画では説明過剰にしすぎたのではないか、という批評も出るだろう。
行定監督は、もう初期のリリシズムには戻れなくなってしまったんだなあ、というコアなファンの嘆きもあるだろう。
でも、クラスの一人ひとりに伊吹賞を与え、登校拒否の少女を見捨てることが出来ず、一見冷たそうに見えるけど心の芯が太陽のように温かで陽だまりのような隆の存在を思い、生きてて良かったと万年筆で丹念にノートに記す真野伊吹のような存在を、僕たちはどこかで信じたいのだと思う。

勝手にノートを読んではいけないと思いつつ、伊吹に同化していく香恵。
気後れのため決して伊吹の正面像を描けず、香恵に仮託して描きあげた光差す窓からこちらを見て微笑む伊吹の肖像画の前で号泣する隆=リュウ。
先生の面影を忘れられず真っ青な空に伊吹の真似をして紙飛行機を飛ばす教え子の子どもたち。
そう、彼らと同じように観客は、大丈夫といって、こぶしで自分の心臓を軽く叩いて勇気を出す伊吹が、自分のそばにいて、大切なのは「心の強さよ」と、励ましてくれるかのように錯覚したいのかもしれない。
「出会い」の神秘性、運命性、共時性はたぶん、いつでも、いつからでも、だれにでも、ひとしなみに、微笑みかけるのだと思いたい。













ここまで考えて作品を見る人がいるなんて、
監督もうれしいんじゃないでしょうか。
「万年筆」については監督自身にも思い入れがあるんでしょうか。
「万年筆」に関しては、原作者に愛着があるんでしょうね。それにしても、あの万年筆屋のロケーションは良かったですね。
真野伊吹先生の太陽のような存在。
きっと何処かにこんな先生がいるのでは?
と思わせる普遍性。
それがこの作品の共感を呼ぶ理由のひとつであるのは、確かだと思います。
印象に残る画が多く、映画館で観るべき映画のお手本のような作品だと思いました。
竹内結子さんが演じたから、良かったと思いますね。
離婚して、映画界に戻ってきてくれて、良かったなあ。
ともやはちょっと天の邪鬼な子なので、宣伝で感動作とか称される作品って苦手なんです(苦笑)。
いい作品と感動作は決してイコールでは無いとも思ってます。
多分この作品は感動作とは対極の位置にあるんでしょうね。
感動させようなんて思ってない。
ただこんな不思議な絆っていうものがあるんだ…って。
そういう意味でもすごく好感の持てる作品でした。
何だかんだバッシングされようとも、沢尻エリカっていうのは、ものすごくいい女優さんだと思います。
早く復帰してほしいですけどねぇ。
そうですね、沢尻エリカはいい女優の資質を持っているだろうと思います。
これからが、楽しみですけど、まだまだ「女王様」って、騒がれるでしょうけどね(笑)
「ラブストーリー」も好きな映画の一つで、そういった意味では共通している雰囲気があるなと思い出されました。
奥深く見ている鑑賞レポ、素敵ですね。
ラブストーリーは、なかなか心に残った映画でした。
ソン・イェジンのすっかりファンになってしまいましたよ(笑)
この映画は全然興味なかったんですが、エリカ様の「別に」発言のおかげで、気になってみた映画です。
「別に」発言はそれなりに宣伝効果があったのでは…、と思ったり。
んで、失礼ながら意外にもホロリさせられた映画でした。
「ラブストーリー」も好きな映画です。
エリカ姫は、ヨーロッパで年上おじさんとすっかりリッチに遊び歩いているようですけどね。
宣伝になったかどうかは、微妙ですね。
DVDで観まして・・・
読み応えある記事でしたのでTBさせてもらっちゃいました。
”出会いの奇跡”
その不思議には、感慨深く思いを巡らせてしまいますね。
さりげなく描かれた内容に、珍しく染み入るものを感じた映画でした☆
映画の質としては、それほど高い評価は出来ないと思います。けれども、感慨をもって見ることが出来た映画なのではないでしょうか。
中学が統合された時のこと。
貼り出された生徒名の中で唯一目を引いた名前の女性に初恋をしたわけですが、何という神秘なのだろう、と僕は未だに思っていますよ。
そんなの、たまたまの後付でしょ、なんて言われたとしても、やっぱり「奇蹟」を信じたいという気持ちは残りますね。