サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 09404「未来を写した子どもたち」★★★★★★★★☆☆

2009年10月10日 | 座布団シネマ:ま行

インド・コルカタの売春窟で生まれ育った子どもたちが、カメラを通して外の世界へと飛び出していく姿を追ったドキュメンタリー。売春婦たちの取材に訪れた女性カメラマンが、子どもたちに写真を教えるだけではなく、多くのチャンスを与えようと奔走。劇中に映し出される子どもたちが写した写真からは、インドという国の実態が垣間みられる。その一方で、急速な発展を遂げるインドの隠れた一面に驚くとともに、売春窟から抜け出せる可能性と難しさの両面を見せつけられる。[もっと詳しく]

売春窟の子どもたちはインスタント・カメラによって、開かれた視線を手に入れた。

僕たちは英語でカルカッタと読んでいたが、2001年から西ベンガルの首都でもあるこの巨大都市は、ベンガル語でコルカタと呼ぶようになった。
フォト・ジャーナリストのザナ・ブルスキは1998年このおもちゃ箱のような町(喜びの都市という別称があるが)で、売春窟に入り込んで、そこの子どもたちにインスタントカメラを手渡し、「自由」に写真を撮らせるとともに、写真の撮り方、現像術なども教える写真教室を開いた。
8歳から十数歳ぐらいの子どもたちは、貧困と劣悪な生活環境の中で、もちろん満足な教育も受けられず、女の子は自分も売春婦になるのが当たり前のような雰囲気の中で育ったのである。
2000年には、友人である映像作家のロス・カウフマンをこの町に呼び、子どもたちの生活を映像化することを依頼した。
数年間の映像記録を編集し、『未来を写した子どもたち』という作品は、世界中の映画祭で大反響をよび、ついにはアカデミー賞ドキュメント部門でオスカーの栄光を獲得したのである。



この子どもたちは、インスタント・カメラという「道具」を与えられて、なにを得たのだろうか?
かれらの写真をみればすぐに納得できることなのだが、かれらは「観察」することを得たのだ。
それまでの売春窟の空間は、彼らが生まれたときから、所与のものとして、つまり「環境」として存在していた。
その「環境」のなかでもちろん喜怒哀楽があり、それぞれの子どもたちにはそれぞれの個性が備えられてあるのだが、たぶん世界を見ている視線は、ほとんどが売春窟のなかの日常に限定されていたのだ。
ザナ・ブルスキはそこにインスタント・カメラを持ち込むことによって、開かれた視線を与えたのだと思う。



もちろん、言葉や教育によって、知識はどこまでも拡大され、観念はどこまでも遠隔化されるかもしれない。
けれども、この売春窟の子どもたちは、学校に行くということ自体が、ほとんどありえないことなのだ。
大人たちからは罵声を浴びせられ、ひたすら従順さを求められ、食うや食わずの環境の中でそれでも「生存」することにひたすら注意を向けてきたのであろう。
その子どもたちにとって、インスタント・カメラのファインダーごしに覗く世界は、たとえそれが売春窟のなかの生活の一齣であろうが、それまでの視線の在り方とはまったく異なる体験であったはずだ。
「世界を視る」ということは、そこに必ず自分の主観が入ることになる。
「なにを題材にしてもいいのよ、フリーだから」
そのことによって子どもたちの主観は、世界の中での唯一であることが保証される。
そのことの意味は、売春窟の子どもたちにとって、とても重要であったはずだ。



映像で記録されたのは主として8人の子どもたちだ。
ときどきは動物園やはじめてみる海に連れ出されて、彼らは歓声をあげながら、夢中でシャッターを押す。
そして、撮られた「作品」からどの写真が気に入ったか、それをみんなで選びあったり、自分の言葉で語らせるようにする。
そのことによって、無意識の「主観」が、客観化されることになる。
それは、子どもたちが、自分自身を知っていくことと同義である。



そこまでいけば、その先は自明である。
自分が将来、何をしたいのか、そのためにいまどうあるべきなのか、そのことに気づくようになるということだ。
けれども、簡単なようでここから先はとても困難だ。
なぜなら、子どもたちはこの売春窟から簡単には脱け出すことは出来ないから。
もちろん、学校に行くお金もないし、かりに教育が何らかの機関で支援されたとしても、親の同意が得られるかどうかは、また異なる問題だからだ。
そのためにザナ・ブルスキは走り回る。
パスポートひとつを取るにしても、延々と待たされる不合理なお役所仕事とつきあわなければならない。
時間の約束なんて、あってなきがごとしのお国柄だ・・・。



それでも、ザナ・ブルスキたちは怯まない。
子どもたちの作品展を書店ギャラリーで開催し、その作品を売って「子ども支援基金」を設立した。
正式名称は「KIDS WITH CAMERAS」と呼ばれている。
目的はふたつ。
ひとつは「写真教室」の子どもたちに教育支援をすること。
もうひとつはこうしたワークショップに参加するフォトジャーナリストを現地に派遣することだ。
そして、カルカッタをはじめ、エルサレム・ハイチ・カイロなどにこの活動は拡がっている。
もちろん、『未来を写した子どもたち』という優れたドキュメンタリー作品が、世界中で公開されていることも、この活動の大きな支援になっているはずだ。



もちろん、世界には、この子どもたちのような教育も受けられず生まれてこの方貧困とともになんとか生存している子どもたちは何億人もいる。
ザナ・ブルスキーらの組織で、恩恵を受けた子どもは、その一握りにも満たない。
けれども、こうした活動を持続しアピールし拡大していくことにはとんでもなく意味がある。
こどものひとりで芸術的な資質を持ったアヴィジットという少年は、母親の死でしばらくは教室にもこれなくなったが、ザナたちの必死の努力でオランダの学校に行けることになった。
現在は、ニューヨークの学校で、将来は映像制作にかかわり、カルカッタの町に影響を与えるような仕事がしたいと発言している。
そうなのだ、「未来を写した子どもたち」が育ち、きっとまた同じように、種を蒔いて行くことになるのだ。



アヴィジッド、プージャ、スチートラ、ゴウル、コーチ、マンク、シャンティ、タバン。
この子どもたちが3年後、集まったところが特典映像に収録されている。
子どもたちの成長は早いし、結局、売春婦になったり、結婚して地元に住んだり、海外で勉学したり・・・それぞれの人生はさまざまだ。
けれども、このひとりひとりの「写真教室」で撮った写真は永遠に残り、その歓びの息吹は、これからも彼らの人生を照らし返すだろう。
たとえ売春窟で屈辱的な生活を味わっていたとしても、その写真には「ここにあたしがいるよ、僕がこの構図をみつけたんだ」というとても活き活きした脈動が、刻み込まれているからだ。
そう、そこには「未来」が写されている。
たとえば日本の都会の中で、無感動に群れて同じように携帯カメラでバシャバシャやって、「撮る」ことを消費している多くの子どもたちとはまったく異なったといいたくなるような、子どもたちの「視る」世界がある。




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2 コメント

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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2010-03-09 11:43:07
コメントがなしですか。観た方が少ないんですね。
残念だなあ。

>そのことによって、無意識の「主観」が、客観化されることになる。
>それは、子どもたちが、自分自身を知っていくことと同義である。

7日のNHK「課外授業」という番組で、TV脚本家の田渕久美子が後輩の小学生たちに、相手の気持ちを洞察させることで本当の自分を発見させる、という試みをしていました。
こちらは誘導的ですが、ちょっと似ています?(笑)

>「ザ・コーヴ」
ふーむ、結果的に観客を日本の捕鯨批判に導いていきそうですね。
昨年の秋ごろでしたか、外国人を100人くらい集めたビートたけしの番組を観ていたら、「捕鯨に反対」という人はアメリカ人5人オーストラリア5人その他各国併せて20人くらいでした。
日本にいる外国人は多少日本びいきになる可能性があるにしても、世間で言われるほど捕鯨が世界的に嫌われているとも思えない結果でしたよ。
オカピーさん (kimion20002000)
2010-03-09 12:43:15
こんにちは。
NHKの「課外授業」はいい番組ですね。
僕はいつも思うんですが、大学なんかで定年退官された教授でもいいんですが、子どもたちにいろんなことを教えることができると思うんですね。
そういう授業を増やせばいいのにな。
知識と言うより、興味を引き出せば、そのきっかけになれば、あとは自分で拡げる力を持ってるんですから。教科書なんて、どうでもいい。

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