サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 07267「300 スリーハンドレッド」★★★★★★★☆☆☆

2007年12月08日 | 座布団シネマ:さ行
『シン・シティ』でも知られるフランク・ミラーのグラフィック・ノベルを基に、スパルタの兵士300人がペルシアの巨大軍と戦う姿を描いたアクション超大作。監督は『ドーン・オブ・ザ・デッド』のザック・スナイダー。屈強なスパルタの王レオニダスを『オペラ座の怪人』のジェラルド・バトラーが演じる。色彩のバランスを操作し、独特の質感になるよう画像処理を施した斬新な映像美とともに、屈強な男たちの肉体美も見どころとなっている。[もっと詳しく]

ポスト・プロダクションの「玉手箱」のような技法に、すっかり酔いしれてしまったよ!


最初にこの映画のポスターをちらっと見たとき、「300VS100000」に見えたのだった。
嘘でしょ、いくらあの「シン・シティ」や「バットマン・ビギンズ」も映画化され、話題をよんだフランク・ミラーのグラフィックノベルだとしても、10万人の敵を300人で迎え撃つなんてあんた、一人当たり333人を相手にするってことじゃないの。
1万人だってありうることじゃないよ、やれやれ・・・。
ところが、それは僕の勘違いであり「300VS1000000」であったのだ。つまり100万人を300人で迎え撃つ。もう、呆れるよりなにより、こういう壮大な設定をすること自体に、驚かされた。



2007年、この作品は、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ギリシャ、ロシア、韓国で次々と、観客動員数NO.1を打ち立てた。
納得である。文句なしに面白い。ひとつの映像革命だといってもいい。
撮影後全編にわたり、3次元環境で執拗に手を加え、ポスト画像処理を徹底している。
フランク・ミラーの独特の大胆な構図を「フランク・フレーム」と称し、ザック・スナイダー監督以下のスタッフたちは、ノリにノッテ、「映画でグラフィック・ノベルをつくる」という大それた試みをし、驚愕すべき成果を挙げたのだ。

それにしても、ギリシャの都市国家スパルタのレオンダス王(ジェラルド・ベトラー)以下のスパルタ兵士たちのマッチョぶりはどうだ!
僕たちの世代で言えば、「ベン・ハー」(59年)でのチャールトン・ヘストンとローマ兵士たちの円形闘技場での肉体美を誇示するかのようなぶつかりあい以来、とくに古代世界を扱った欧米のスペクタルドラマでは、どこからこんなステロイドかなにかしらないが筋肉増強剤をバケツで飲み干しているかのような、マッチョな「大部屋男優」が続々と湧いてくるんだ、といつも不思議な思いをしていた。
ちょっと、残念だが、日本の古代の戦争場面では、とてもとてもこんな肉体のぶつかりあいは不可能なことだ。



たしかに、この作品でも、専門のトレーナーがついている。
撮影の8週間前から、徹底して、肉体作りにいそしんだらしい。
複合運動、リフティング、投擲などを組み合わせ、特別食を用意した。
肉体作りだけではない。撮影が開始されて以降は、スパルタ軍団特有の戦闘術を美しく迫力もって見せるための、徹底した集団トレーニングが続けられた。
とくに、「ファランクス」と呼ばれた密集体型。右手に剣、左手に盾。
亀のように集団で密集して蹲り、敵の攻撃を忍んでは、剣を振り払い、立ち上がって斬りつけ、また、盾とともに密集する。
なにがあっても、自分のレフトに位置する仲間を守れ!戦術は、信じ難いほど、シンプルだ。
しかし、軍服と武器だけで、なんと体重の半分にもなる。戦いは、超駑級の重量級だ。
刃と盾、刃と刃、盾と盾。ぶつかりあうたびに、血飛沫のように、火花が飛ぶ。



ペルシャの大軍勢に劣勢に立たされていたギリシャ軍にあって、スパルタ軍は、多勢に無勢であるが、ヘロドトスの「歴史」にも描かれているBC480年の「テルモビュライの戦い」では、自然の要塞である「ホットゲート(関所)」に相手を誘き寄せ、奇跡的な戦闘を展開したのだ。
しかし、300VS1000000。スパルタ軍団は、はじめから勝つことは考えていない。
自由を求めての美しい死。
後退するな! 降伏するな!
スパルタの戦士たちは、生れ落ちたときから、戦士であることを義務付けられて、あるいは、誇りとともに選び取って、生きてきたのだ。
現在のような民主主義の対話型社会においては、あまりにもアナクロニズムな美意識であり、価値観である。
「戦争の美学」などと、口に出すこと自体、憚られる。
戦士は、つねに愚かなあるいは権力欲にとりつかれた指導層に、使い捨てられる奴隷のようなマシーンでしかない。
しかし、それは、現在的な価値観であり、この古代西欧におけるスパルタの戦士たちには、いかに奇妙に見えようが、異なる共同幻想が、確固として存在したのである。

対極にあるのが、100万を擁するペルシア軍だ。
兵士の多くは征服された民族から成る奴隷であり、ひたすら世界を跪けさせたい、自らに敬意を表させたい、というのがクセルクセス王の「支配」の論理である。
特異なブラジル人俳優であるロドリゴ・サントラは、全身に宝石を飾りたて、冷血無比でありながら、どこかで臆病さもみえるこの「神になりたかった王」を迫力を持って、演じている。
もちろん、スパルタ軍も大男揃いなのだが、クセルクセス王の設定は身長が220cmの巨人。映画では、逆遠近法ともいえる撮影効果で、一見すると、3メートル近い巨人のようにも見えるのだ。



ペルシャ軍の造形は、フランク・ミラーの面目躍如だ。
巨大な犀が突進してくるかと思えば、カニ男が立ちはだかる。
異星人風の軍団が登場するかと思えば、火を扱う魔人軍団が跋扈する。
裏切者となる異形のエフィアルテスを不吉に登場させ、悲劇を暗示させながら、スパルタ軍には、殲滅した敵の死体で、「死者の壁」をつくらせる。
こうした想像力豊かなキャラクター造形では、フランク・ミラーに敵うものは居ないし、もちろん、フランク・ミラー自身も制作スタッフに加わり、若いスタッフたちを鼓舞している。
歴史のリアルを作り出すために、あえて、トンデモで奇々怪々なフリークスを登場させる。
グラフィック・ノベルの映画化だもの、こうでなくっちゃ。

ところで。
この作品に対して、イラン政府は、イラン人の祖先であるペルシャ人を冒涜している、と抗議をしている。
たしかに。
ディズニーであれば、世界市場に摩擦を生じさせないように、こんな設定は、回避したかもしれない。
にもかかわらず。
歴史劇の造形は、偏見と誇張と一方の立場からの解釈は、免れ得ないしそれでいいのだ、と僕個人は思っている。
腹が立てば、崇高なるペルシャ人の歴史的立場から、物語をあるいは映像作品を提出すればいいのだ。
それがどんなに、西欧社会の人間にとって、「虎の尾を踏むこと」になろうと・・・。



この戦闘シーンが延々と続くスペクタクルは、しかしほとんどのシーンがスタジオで撮影されたものだ。
そのこと自体にも、驚かされるが、世界4カ国の10の工房に、ポストプロダクションが委託された。
そのために、制作陣は、詳細な「スタイル・ガイド」を作成したという。
いわば、「設定資料集」のようなものか。
そんなものが書店の店頭に並ぶのなら、どれだけ高価であったとしても、僕は、走ってでも、買いに行くのは、間違いない(笑)。

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26 コメント

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TBありがとうございました (sakurai)
2007-12-11 11:33:18
最近、「『300』にも匹敵!」と銘打った『ベオウルフ』なんつうのを、見に行ったのですが、これに比べると、しょぼい、しょぼい。
やはり生身の人間のすごさにはかないません。
そのすごさと、CGの映像の使い方が見事だったと思います。
やっぱ、これはスクリーンがお勧めでしょうねえ。
TBありがとうございました (kain)
2007-12-11 12:26:57
『300』の肉体美はすばらしい物がありますよね。
あれだけのマッチョがそろうというのは、なかなか壮観です。

(V)o\o(V)
sakuraiさん (kimion20002000)
2007-12-11 20:00:40
こんにちは。

>しょぼい、しょぼい

ん、そうなの?見に行こうと思ってたのに(笑)

kainさん (kimion20002000)
2007-12-11 20:02:15
こんにちは。
あれ、絶対、ステロイド剤、がぶ飲みしてますよねぇ(笑)
非難轟々 (メビウス)
2007-12-11 23:08:49
kimionさんこんばんわ♪TB有難うございました♪

最近こういう歴史スペクタルな映画や社会派な映画って、史実や事実と異なる部分があると、その舞台となってるリアルなお国がすぐ非難轟々する事が多くなってきましたね~(^^;)

自分も冒涜と大袈裟な程じゃないと思っていますし、むしろペルシア軍の多種多様な軍勢に驚愕し、そのおかげもあって本作はとても面白く観れたんですけどね。
映像と肉体 (miyu)
2007-12-11 23:46:43
もうそれに尽きますよねぇ~。
お話なんて単純だけど、
それでも男たちの熱い、暑苦しいまでに、熱い
魂と肉体のぶつかり合いに興奮しました。
メビウスさん (kimion20002000)
2007-12-12 00:10:26
TBありがとう。
まあ、文化摩擦なんでしょうけどね。
ペルシャ軍も、ある意味で、スパルタ以上にユニークですよね。弱かったけど(笑)
miyuさん (kimion20002000)
2007-12-12 00:11:48
こんにちは。
この度を超えた暑苦しさは、逆に一服の清涼剤のようなものです(笑)
TBありがとうございました。 (hyoutan2005)
2007-12-12 10:23:00
随分前に鑑賞した作品ですが、映像に圧倒されたことを思い出します。
最近見た『べオウルフ』は何だか作り方がこの『300』に似ているような気がしますが、完成度は『300』の方が上でした。
引っ越し先の新しいブログ(アメブロ)からTBのお返しをさせていただきますね。

hyoutan2005さん (kimion20002000)
2007-12-12 17:11:11
こんにちは。
僕は、残念ながらDVDで鑑賞だったんだけど、それでも、口をポカンとあけて、圧倒されて見ていました〈笑)

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