サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

mini review 10482「ウェイブ」★★★★★★★☆☆☆

2010年08月26日 | 座布団シネマ:あ行

独裁政治を学ぶ体験授業をきっかけに洗脳されていく高校生たちの姿を描き、ドイツで大ヒットを記録した心理スリラー。アメリカで起こった実話をドイツの高校に置き換え、『エリート養成機関 ナポラ』のデニス・ガンゼルがメガホンを取った。主演には『エーミールと探偵たち』などに出演するドイツの俳優ユルゲン・フォーゲル。単純な興味や好奇心、ゲーム感覚から、あっという間に集団狂気に変化していく様子は、実話ならではのリアルさを帯び、身の毛もよだつほどのラストも衝撃的だ。[もっと詳しく]

どんな集団性にも、この「体験授業」のエッセンスは内包されているかもしれない。

「独裁政治を学ぶ体験授業」を受け持つことになったベンガーが、数十人の生徒を前にして、決めたルールはたったの四つに過ぎない。

一、リーダーの名前には様をつけ、敬う。
二、許可なく発言してはならない。発言する時は挙手と起立を。
三、クラスの仲間はお互いに助け合う。
四、制服として白シャツを着用。

なんら特異なものではない。
僕の高校時代であろうが(60年代末)、制服はあったし、厳しい教師は発言に「挙手と起立」を求めたし、リーダー(先生)には、ちゃんと○○先生と呼ぶことや、敬意を払うことを求められた。
『ウェイブ』という映画で映し出されるこの高校の通常の授業風景は、おそらく欧米のほとんどの一般的な学校がそうなのだろうが、私服でだらしなく席に座り、私語も多く、教師が問いかけても真面目な回答や冷やかしや笑いを取るつっこみが入り乱れる、一見すると緊張感のないような授業風景に見える。
「民主主義的」といえばそうかもしれないが、教師と生徒の間に、緊張感など感じることは出来ない。



ベンガーは体育の代用教員のような位置づけで、「水球」の授業やクラブ指導を受け持っているのであろうが、ごくごく普通の喜怒哀楽を素直に顔に出す教師のように見える。
学校には、ロックをがなりたてた車で登校し、本当はこの体験授業の担当も、どうせなら「無政府主義」を希望していた。
仕方なく決められた題目である「独裁政治」を担当するハメになってしまっただけである。
参加する生徒のほとんども、単なる「友だちが参加するから」「面白そうだから」「単位が必要だから」というなんとなくの動機に過ぎない。
そんななんとなくはじめられた体験授業に、ベンガーは前述の四つのルールを差し出したのだ。
生徒たちはそんな単純なルールでも、まごついたり、うざったがったり、窮屈さを感じたりして、抜け出す者も現われる。
しかし何人かの生徒は、ゲーム感覚なのかもしらないが、とても面白がってこの教室の空気を、自ら率先して作り出していくようになる。
そしてたった五日間で、このクラスは「独裁」あるいは「全体主義」の魔力にとらわれることになるのである。



この物語は、1967年アメリカのロン・ジョーンズという生徒にも人気のある教師が「ナチズム」というテーマで体験学習を行ったことをモデルにしている。
ロン・ジョーンズは「洗脳」のひとつの実験をしたのかもしれないが、たった一日で生徒ははまり込み、五日のプログラムの予定を急遽、強制終了したのだ、という。
その報告を、モートン・ルーというノンフィクション作家が『ザ・ウェーブ』というタイトルで出版した。
そのテキストは、現在でもドイツの学校で、教材として利用されているらしい。
デニス・ガンゼン監督たちは、その原作の映画化権を苦労して取得し、現在のドイツにそのシチュエーションをあてはめて映画化したのである。
08年のドイツ映画としては240万人を動員し、興行成績NO.1となった。
ドイツの学校では、繰り返し繰り返し、「ナチズム」の歴史を学習している。だから今回の映画化では、「ナチズム」という前提を排除するような設定に工夫したようだ。



いったい、この教室になにが現出したのだろうか?
一見すると、全員が同じ白いTシャツを着て(無個性)、WAVEを表象したデザインや身振りを取り入れ(シンボル化)、クラスの結束が固くなり(一体化)、からかうような他の生徒に対抗し(排除)、周辺の関心を持つ生徒を勧誘し(オルグ化)といった行動に、たしかに周辺から浮き上がった特異な「熱狂」を感じ取ることになる。
しかし、それが「独裁政治」の本質かといわれれば、少し戸惑うことになる。
なぜなら、そんな光景は日常茶飯事にみているからだ。
それが右であれ左であれ中道であれ、またスポーツであれ文化活動であれボランティア運動であれ、だ。
なんでもいい。
たとえば「愛は地球を救う」を標榜した24時間テレビのチャリティ・イベントでもいい。
全員が黄色いTシャツを着て、地球・エコを表象したデザインを散りばめ、無償の善意に参加する全国のサークルはこのイベントのために団結し、無関心な外部に熱心に働きかけていくことになる。
ここではリーダーは、「感動」の集約点をなす「欽ちゃん」ということにしてもいい。
「善意の民主主義」がくるっと反転して、この映画のクラスの熱狂の沸騰点に相似するといったら、言い過ぎか。
このクラスに現出したものは、「平等主義」であり、ある意味では「民主主義」である。
そこからこぼれ落ちていく者は、従来の優等生(エリート)であり、ボスである。
僕たちは、いままでなら落ちこぼれのような、あるいは苛められっこのような、無個性に沈んでいた生徒たちが、みるみる自分の「得意」を発見し、「場」を自主的・主体的に構成していくのをみることになる。
クラスは「活性化」したのである。そして成員はある意味で「人間性を回復」したのである。
そのことに、「独裁政治」あるいは「ファシズム」といわれるものの、怖さがある。



いままでいじめられっ子だったマルコのような少年が、もっともベンガーを崇拝し、この神聖な「場」を壊すもの、汚すものに対して「暴力」を発現することになる。
彼にとってはようやく仮構できた、「生」の舞台なのだから。
ベンガーもそうだ。彼も同棲する正規教員のパートナーに対して、どこかでコンプレックスを持っている。
「体験授業」を通じて、自分のなかに「自信」に似たものが生まれてくる。
もちろん、この授業はたった五日間の「非日常」であり、あくまでも「体験授業」であることは、理性ではよく理解してはいる。
しかしどこかで、歩く姿勢でさえも、人に話しかける声のハリさえも変わってきているではないか。



クラスの中で、この「授業」が暴走することを感知し、反対のビラをせっせとつくるカロという少女がいる。
では、彼女は、冷静に理知的に事態を見つめた生徒であったか。
家庭のこと、恋人のこと、クラスのこと、自分が中心に世界をうまく構築できない疎外感や焦りや嫉妬に似た感情が、彼女をアンチに向かわせているだけだ。
それまでの彼女は、少なくともクラスでは一目置かれる美人で頭のいい優等生であったのに、このクラスに自分のポジションがみつけられないだけかもしれない。
ベンガーに愛想がつきたように家を出て行く女性教師もそうだ。



どこかの閉ざされた場所で、カルトな「洗脳」が行われているわけではない。
普通の学校で、小さい頃から「ナチズム」の歴史をいやになるほど脅迫的に学ばされている少年・少女たちが、しかもいつでも脱落しても許されるたった五日間のプログラムとしての「体験学習」の中で、である。
「場」の共同幻想が、個人の自由を求める幻想と、対立していくこと、しかもその「場」を構成しているのはひとりひとりの個人の幻想の総和であるという矛盾から、そうそう簡単には、僕たちは脱することはできない。
それでも集団性を抜きにしては生きていけない僕たちは、もしそういう矛盾に一定の歯止めをかけるとすれば、ふたつのことしかないように思える。
ひとつは、「場=組織」というものの出入りの自由を保証すること。
もうひとつは、「場=組織」のリーダーあるいは委託者を、持ち回りないし半数以上の意思で交代させる制度をもつことだ(リコール権)。
それぐらいしか、いまの僕には発言することはできない。




ジャンル:
ウェブログ
コメント (3)   トラックバック (15)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« mini review 10481「人生に乾... | トップ | 186日目「欣求浄土・ピュアラン... »
最近の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
kimion20002000さんへ♪ (mezzotint)
2010-08-26 23:21:44
今晩は☆彡
TBありがとうございました。
実はこれ以上に衝撃的な作品、es「エス」
があります。もし機会があればぜひ鑑賞
してみて下さい。2001年にドイツで
製作されたものです。

http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/83f8649182c9344bdcd5b40ebfee7c85/76
すみません! (mezzotint)
2010-08-26 23:26:50
esの記事のURL貼ったつもりでしたが、
間違えましたので、もう一度貼らせて頂き
きます。

es レビュー

http://blog.goo.ne.jp/mezzotint_1955/e/83f8649182c9344bdcd5b40ebfee7c85#trackback-list
mezzontintさん (kimion20002000)
2010-08-27 00:01:21
こんにちは。
「エス」は02年ぐらいだったかな。
まだこのブログを始める前だったのでレヴューしていませんが、見ています。
看守と囚人の役割ゲームの暴走ですね。
こうしたシミュレーション心理の先駆けとなる問題作であったと思います。
僕は学生時代に、ふたつのカルト的とも言える宗教集団に潜入したことがあります。
怖いものです。よく帰ってこれました(笑)

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

15 トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
THE WAVE ウェイヴ (☆彡映画鑑賞日記☆彡)
 『高校生たちが熱狂した、恐るべき心理実験』  コチラの「THE WAVE ウェイヴ」は、「es[エス]」のモデルとなった1971年スタンフォード大学で行われた実験よりも先に、1967年カリフォルニア州パル・アルトの高校で実際に行われた実験をモトに映画化したPG-12指定のサス...
THE WAVE ウェイヴ (シネマ日記)
1967年のアメリカで実際にあった出来事を現代のドイツに舞台を変更して映画化。実験の内容的には「es」という映画に似ていると思ったが、「es」の基になった実験は1971年のものだから、実際にはこちらの実験が先ということになる。ちなみにこの二つとよく似たアイヒマン実...
THE WAVE/ウェイヴ (LOVE Cinemas 調布)
実際にアメリカの高校で起こった事件をベースにした作品。主演は『エーミールと探偵たち』のユルゲン・フォーゲル、監督は『エリート養成機関 ナポラ』のデニス・ガンゼル。独裁制の授業の実習を通じて、いつの間にかクラスが狂気の集団に変化していく様子を描いた問題作...
THE WAVE/ウェイヴ (映画鑑賞★日記・・・)
【DIE WELLE/THE WAVE】 2008年公開 ドイツ 107分監督:デニス・ガンセル出演:ユルゲン・フォーゲル、フレデリック・ラウ、マックス・リーメルト、ジェニファー・ウルリッヒ、ヤコブ・マッチェンツStory:ドイツのごく普通の高校。教師のライナー・ベンガーは、独裁制に...
THEWAVEウェイブ DIEWELLE (まてぃの徒然映画+雑記)
エス[es]と同じく、実際の心理実験を元にした衝撃的な映画。高校の授業で「独裁」の実習を受け持つことになった体育教師のライナーは、生徒たちに独裁制の特徴を答えさせて、それを...
THE WAVE◆◇ ウェイヴ あるクラスの暴走 (銅版画制作の日々)
揺れる高校生たちの心を支配したものとは? ドイツ全土を席巻! 240万を動員! ドイツ国内映画興行成績第1位! 京都みなみ会館にて鑑賞。3月4日~10日の1週間限定上映ということもあって、多くのお客さんでした。さてこの話は実際に起きた事件を基に、ドイツで...
ウェイヴ (映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP)
ウェイヴ [DVD]ヒトラーは最悪の独裁者。ファシズムなど許されない。頭では分かっていたのに、若者たちは、あっというまに独裁の魔力に取り込まれて狂気に走る。これが実話に基づいているというから背筋が凍った。ドイツのとある高校で、ベンガーという教師が、生徒と共に...
ドイツ映画祭2008...「ウェイヴ あるクラスの暴走」 (ヨーロッパ映画を観よう!)
「Die Welle」...aka「The Wave 」2008 ドイツ 高校教師ライナー・ヴェンガーにユルゲン・フォーゲル。 ティムにフレデリック・ラウ。 マルコにマックス・リーメルト。 カロに「みえない雲/2006」のジェニファー・ウルリッヒ。 監督、脚本はデニス・ガンゼル。 ...
THE WAVE ウェイヴ / 77点 / DIE WELLE (ゆるーく映画好きなんす!)
中心に立っているキャラが誰も居ないのが面白い! 『 THE WAVE ウェイヴ / 77点 / DIE WELLE 』 2008年 ドイツ 108分 監督: デニス・ガンゼル 製作: クリスティアン・ベッカー 原作: モートン・ルー 『ザ・ウェーブ』 ウ
『THE WEVE ウェイヴ』 (千の天使がバスケットボールする)
本作は、1969年、米国のカルフォルニアの高校で実際起こった実話を基にしている。原作は、新樹社から刊行されているノンフィクション小説だが、現在でも多くのドイツの学校では教材として読むように薦められているそうだ。私は未読なのだが、もし映画化される前に本書を知...
ウェイヴ (Die Welle) (Subterranean サブタレイニアン)
監督 デニス・ガンゼル 主演 ユルゲン・フォーゲル 2008年 ドイツ映画 108分 ドラマ 採点★★★★ 高い失業率から来る将来への不安や社会への不満、外国人に対する嫌悪や恐怖、極端な右翼化とと左翼化。そんなのがグチャグチャに混じり合った重たい空気漂う状況に...
ウェイヴ  THE WAVE (映画の話でコーヒーブレイク)
先日テレビの番組で集団真理の一つである「傍観者効果」を検証する実験を見ました。 人は自分以外に目撃者(傍観者)がいる時には行動を起こさないという心理です。 誰かが荷物を沢山持って落としたとき、自分一人が目撃者の場合82%の人が助けるのに、 2人、3人と目撃者が....
ウェイヴ (だらだら無気力ブログ)
独裁政治を学ぶ体験授業をきっかけに洗脳されていく高校生たちの姿を描き、 ドイツで大ヒットを記録した心理スリラー。アメリカで起こった実話を ドイツの高校に置き換え、『エリート養成機関 ナポラ』のデニス・ガンゼル がメガホンを取った。主演には『エーミールと探...
THE WAVE ウェイヴ (銀幕大帝α)
DIE WELLE/08年/独/107分/サスペンス/PG12/劇場公開 監督:デニス・ガンゼル 原作:モートン・ルー『ザ・ウェーブ』 脚本:デニス・ガンゼル 出演:ユルゲン・フォーゲル、フレデリック・ラウ、マックス・リーメルト <ストーリー> やる気のない生徒たちに...
THE WAVE ウェイヴ (いやいやえん)
いかに人間を洗脳するのが簡単なのか、よくわかった。そして恐ろしい。 生徒たちは実習の授業から教師が作ったルールに従っていきます。それは簡単な事だった。先生には「様」をつけること、席を立って意見すること、白いシャツを着て授業に出ること。しかしそれに生徒...