サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。
サーカスな日々
mini review 07236「あなたになら言える秘密のこと」★★★★★★★☆☆☆

あらゆる感情を封印したかのように誰にも打ち解けず、黙々と工場で働くハンナ。その真面目過ぎる働きぶりを上司にとがめられ強制的に取らされた休暇中、思いがけないことから油田掘削所の事故で大怪我をした男・ジョゼフの看護を買っ... 続き
世界に「蛮行」がある限り、ハンナは再生産されていく。
「死ぬまでにしたい10のこと」でイサベル・コイシュ監督と主演のサラ・ポーリーをはじめて知った。
いきなり自分の死を悟った主人公が、遣り残したことを書き出すことによって、「自分とは何か」「自分は他者の何者になりうるのか」という基本的な問いを突き詰めていく。
「生は死によって輝きを放つ」とはよく言われることだが、このコンビは、無駄な修飾を剥いで、あまりにもそっけなく、その課題をゴロンと投げかけたのだ。
観客は、とまどいながら、自分だったら・・・というように考えざるを得ない、そういう場所に追い込まれることになる。
そのことがクチコミで伝わったのだろう。日本でも女性たちを中心に、この地味な作品は支持された。
そのあと、ヴェンダースの「アメリカ、家族のいる風景」で、サラ・ポーリーにはお目にかかった。まだ見ぬ父を捜す少しミステリアスな娘の役割。印象に残った。

そしてコイシュ監督とサラ・ポーリーは、「あなたになら言える秘密のこと」という作品で再びコンビを組んだのである。サラ・ポーリーを意識して、脚本を書き上げたと、コイシュはコメントしている。
女の名はハンナ(サラ・ポーリー)。
友達・家族・趣味・将来の夢などすべてない。
どこで生まれ、何をしていたのか?過去は誰にもしゃべらない。
男の名はジョゼフ(ティム・ロビンス)。
読書・食べること・ジョークはすべて好きだ。
どうして命に関わる重傷を負ったのか?その理由は話したくない。
海上に敷設された油田掘削所を舞台に、大火傷を負って一時的に失明しているジョセフと、ひょんなことで介護をすることになったハンナは、互いに秘密を抱えている。
世界の果てのようなその油田掘削所には、たぶん地上の世界ではなんらか窒息感を感じ不器用な生き方しかできないのではないかと思わせられるキャラクターが集まっている。
責任者でメンバーの過去を詮索せず孤独が好きなディミトリ。
世界各国の料理をその国の音楽をかけながら作る腕のいいスペイン人シェフのサイモン。
毎日、打ち寄せる波の数と強さを計測しながらも、海を汚染から救いたいという夢を持っている海洋学者のマーティン。
それぞれ、子どももいながら同性愛的な関係になった機関士のスコットとリアムたち。
誰とも打ち解けなかったハンナは、この奇妙な空間の中で、食べること、他人と少しづつ言葉を交わすことを通じて、徐々に周囲に関心を寄せるようになる。
そしてジョゼフとハンナは、契約ごとのように、お互いの秘密をひとつずつ話し始めるのだが・・・・。

相手の秘密を知りたいと思ったら、まず自分の秘密を明かすことだ。
このことは、経験的にとてもよくわかる。
信頼というのは、そのひとつひとつのキャッチボールの積み重ねのようなものである。
相手にばかり重ねて問い詰めても、本当のことは聞き出せない。自分のことばかりしゃべっても、相手は聞き流しているかもしれない。
とくに凍りついた心は、なかなか溶け始める契機を持つことがない。
最初のちょっとした一言、その一言の相手への気遣い、遠慮がちな好奇心、ジョークにまぶせた真実、あるいは沈黙に対する寛大さ、そうした機微こそが、凍りついた心に、小さな裂け目をつくることになるのだろう。

ハンナは介護士という設定であり、ジョゼフは一時的失明からハンナの容姿をみることができない、という設定であるから、このふたりに奇跡のようなコミュニケーションが成立したのかもしれない。
ジョゼフの秘密は、親友の妻を愛してしまい、そのことを当の親友に打ち明けてしまったことだ。
その親友は、油田掘削所の火災事故に乗じて飛び降り自殺し、彼を助けようとしたジョゼフは火傷を負ったのであった。
一方、ハンナの秘密はクロアチア紛争の民族浄化の内戦の中で、自国の兵士に陵辱され、監禁され、拷問され、仲間を殺害されていることであった。
この民族浄化のすさまじさは、たとえば「生きている孫の肝臓を取り出して生レバーとして食べるよう祖父が強制されたり」「収容所に入れられたもの同士が、睾丸を噛み切って殺すよう強制されたり」するものであったという。
そういうなかで、ハンナたち行きずりの女性に対しても、残虐な行為が長期間にわたって、執行されたのであろう。
ハンナはジョゼフに告白し、ナイフで切り刻まれ傷だらけの自分の裸身に、失明しているジョゼフの手を導く。
ジョゼフは激しく慟哭する。

この作品では、手術により失明を回復したジョゼフが、ハンナを捜し出し、一緒に生きていこうと説得するラストになっている。
一見すると、心温まるストーリーの帰結のようにも思えるが、ジョゼフにもハンナにも、悪夢がなくなることは、永久にないであろうことが暗示されている。
世界は苦渋に満ちている。
まともな神経であれば、なにもなかったかのように、幸福を謳歌する、あるいはそんなフリをすることなどできない。
けれども、世界の残酷な成り立ちによって、傷ついているのは、自分ひとりではない。
だから近くに誰かがいて、ひっそりと痛みに気持ちを寄り添わせてくれること、悪夢に魘されたときは震える自分を抱きしめてくれること、涙で周囲が溢れそうになったときでもちゃんと泳ぎきってくれること、そんなことぐらいは、人に恃んでもいい。
それでも悪夢は消え去ることはないだろう。
そんな諦めにも似た、監督の眼差しを感じてしまう。
僕たちの歴史に「民族浄化」に似た蛮行がある限り、ハンナは再生産されているのだから。
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映画のレビューがたくさんあって、すごいですねぇ。
足元にも及びませんが、私も映画好きなので
また、遊びに来させてもらいます。
宜しくお願いしまーす。
いつでも気軽にコメントくださいな。
サラ・ポーリーは好きな女優さんです。「スウィート ヒアアフター」のヒロイン役はこの映画のハンナと、どことなく近いものを感じますね。これもやっぱり好きな映画です。
パリジュテームは、いろんな監督さんたちの群作でしたね。それぞれのパリ。
「スウィート ヒアアフター」は僕は見ていないんですよ。今度、注文してみましょう。
沢山映画を観られているようで、脱帽致します
この映画は地味でしたけど、わたしには、こみあげるものがありました。
わたしもTBさせて頂いたんですけど、ミスで!?4つも入ってしまいました。。。
これからもよろしくお願い致します☆
ハリウッド娯楽作品もたまにはいいんですが、こういうミニシアター作品の方が、心に残るケースが多いですね。
(留守にしていて、伺うのがおそくなってすみません。)
素敵なブログですね。
ゆっくり読ませていただきます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
TBありがとうございました(^0^)!
こちらからもTBさせていただきました☆
これから少しずつでも仲良くさせていただけましたら
とっても嬉しいです♪
どうぞよろしくお願い致します!
☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆☆.・゜∵☆
ラササヤン
元 北陸朝日放送アナウンサー (新潟県 出身)
E-Mail rasasayan15@yahoo.co.jp
URL http://homepage2.nifty.com/sunflower15/
☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆☆.・゜∵☆
私は「死ぬまでにしたい10のこと」を観てからサラ・ポーリーが気になってこれを観ました。
この作品は長く心に残るものになりそうです。
またお邪魔させてください。
サイトを見させて、いただきました。
いろいろ、資格取られていますね。
「ひまわり」のような感じの人なんだろうな、と想像いたしました(笑)
月見草のような僕ですが(あ、これは野村監督だ)、いつでも遊びにいらしてください。
印象深い映画でしたね。
孤独な人間たちの寂しさが、画面から、伝わってきました。
でも、お互いに消えないけど癒し、癒されることはきっとできますよね。
出会いって大切だなぁ、ってつくづく思いました。
TBさせていただきましたm(_ _)m
そうですね。
少しずつ、癒されていけば、いいですけどね。
私も「アメリカ、家族のいる風景」を見ました。
サラ・ポーリーは、かわいいだけじゃない!という女優さんですね。
この作品はとても難しい役だっただろうと思いますが、的確に表現していました。
辛い内容でしたが、ラストがなんとかハッピーエンドで助かりました。
TBさせていただきます。
あまり、大衆受けしそうにないテーマですけどね。
口コミで拡がる映画だと思いますね。
そうなの これを言いたかったのよ!という感じで。
映画は好きですが、映画館が町にないのでもっぱらDVDです。映画のことはこちらで参考にしたほうがいいみたいですね♪
わたしのほうからもTBを送らせてもらいます♪
僕もほとんどDVDです。
参考になるかどうかわかりませんが、気軽に足跡を残してくださいね。
ほかのかたのレビューも併せて拝見し、自分とは違った視点を楽しませていただきました。
どうもありがとうございます!
まあ、レヴューはいろんな観点があるのが面白いと思う。いつでも気軽に!
おっしゃるように決して癒されない傷をそれでも
抱えていかなくてはいけないラストがとても印象的でしたよね。
ふたりの再会にほっとしつつ、これからの眠れない長い夜を思ってしまいます。
TBありがとうございました!
遅ればせながらこちらからも
TBさせて頂きます!
これからもお願い致します。
こちらこそ、今後ともヨロシク。
最近、私も
kimion20002000さんに続けと
過去レビューをアップし始めました。
もともと、公開時より、半年遅れの名画座やDVDで見ることが多いんです。
で、書くもののほとんどは、見てから1,2ヶ月経った頃が多いですね。
半分、忘れかけて、強烈なテーマや場面だけが残っているというときの方が、レヴューも書きやすいです。
レビュー、じっくり読みました。
私もこんな風に書けたら!!
何気なく手に取った作品だったんですが、
いろいろ考えさせられました。
サラ・ポーリーの出演作、もっと観たいです。
サラはヴェンダースの「アメリカ家族のいる風景」では、脇役なんですがいい味を出しています。
DVDがレンタルされていますから、ぜひ、ごらんになってください。
コメントとトラバありがとうございました。
この作品は非常に良くできていましたよね^^
ラストがとても印象的な作品でしたね。
サラ・ポーリーの演技も素晴らしかったです^^
今後もよろしくお願いします
そうですね、とても良心的です。
ミニシアター系ですが、DVDなどで多くの人に、見てもらいたい映画です。
TB有り難うございました.
この映画,ティム・ロビンス,サラ・ポーリーが好きなので見ました.
思いがけず深い内容の作品でしたね.
エピローグのナレーションが印象深いものでした.
いい組み合わせでしたね。
こういう作品を真摯につくれる女性監督って、凄いなあ、と感心しますね。
昨年はお世話になり、ありがとうございました。
今年もよろしければどうぞ映画話でお付き合い頂ければ幸いです。
よろしくお願い致します。
さて、語り飽きたかも知れませんが今回初めて観たので、お邪魔しました。
あまりに恐ろしくてハンナの体験には耳をふさぎたくなりましたが、こんなに静かなささやきのように訴える力を持つ映画を創った監督や俳優たちに感謝です。
でも人間って愚かですね。
20世紀は、特に戦争に明け暮れた世紀ですね。
でも、21世紀に入っても、まだ本質的にはなにも変わっていませんね。
映画というのは、ささやかでも、きちんとしたメッセージ性を持つと思います。
この小さな作品が、確実に見た人の心に大切なことを届けているものと信じています。
今年もヨロシク。
トラックバック、ありがとうございました。
この映画を観て、映画の持つ力のようなものも感じました。
映画に込められたメッセージをしっかり受け止めたいと思います。
良い映画をたくさん観ていらっしゃいますね。
これからもブログを拝見させていただきますね。
映画にしか出来ないような、メッセージの伝達力は、やはりあるのだと思います。
いくら、そういう映画が少ないとしても。
とても重くつらい映画でしたが、いろいろと考えさせられるいい映画でした。
「死ぬまでにしたい・・・」はまだ見ていなかったのですが、この監督・主演コンビですから期待できますね。是非観たいと思います。
週末にゆっくり他の記事も見させていただきますね。
寡作な監督さんだけど、しっかりとした方法論を持っていますね。
コメントをいただき嬉しかったです。
自分が一生抱えていく傷ごとひっくるめて、
大きく包んでもらえる人と出会えたら素敵ですね。
お互いに持っている傷を、お互いに包みあうこと。
これは単なる、慰撫とは異なるような気がします。
年に何本か出会えるかそうかの良作でした。
そうですね。
寂しげで暗鬱な表情ですね。
サラの主演を意識して、つくられた脚本だそうですね。
TBとコメント、ありがとうございます。
二人が程度は違えども、似たような過去の苦しみを持つがゆえに、お互いを理解でき、お互いを助けたいと考えたんでしょうね。
それじゃ、また。
苦悩する同士の、遠慮がちな愛だと思います。
ヴェンダースの「アメリカ、家族のいる風景」に、そういえば、サラ・ポーリー、出演していましたよね!
幸薄い女の子の役のイメージがシッカリついてしまったので、いつか、逆のはじけてる明るいキャラなんかも見てみたい気もします。
サラは監督もこなす才能人ですが、役者としても、異なったキャラの演技もみてみたいですね。
あの少女は消えましたが、その通りでしょうね。少女は悪夢の顕在化ではないですから。
素晴らしい作品ですが、個人の再生ドラマの形で語るには彼女の体験が大きすぎてバランスが悪いようにも感じました。
このところ、ヨーロッパの民族間紛争を題材にした作品が、いくつも相次いで作品化されています。
相当な傷をいまも、残しているんだと思いますね。
ふだんは関係を閉じているハンナでしたが、ああいう異次元の空間で、しかもジョセフが盲目であり、ということで、はじめて、異なるポジションに立てたんでしょうね。