
富士山麓に広がる青木が原樹海を舞台に4つのエピソードが繰り広げられる群像劇。メガフォンをとるのは、本作で念願の監督デビューを果たす瀧本智行。出演は萩原聖人、井川遥、池内博之、津田寛治、そして塩見三省らの実力派。重いテーマを扱いながら、デビュー作とは思えない完成度の高さに仕上がっている。[もっと詳しく]
樹海に眠る想いから、新人監督も僕たちも自由ではない。
富士山北西麓。「青木ヶ原樹海」とよばれる暗鬱とした溶岩流と原生林におおわれた一帯が、この映画の主人公のようなものだ。
年間自殺者3万数千人に達する日本において、「自殺」の名所として、一番にあげられるのが、この地だ。
若手の瀧本監督は、4つの「死」をめぐる群像劇として、この映画を成立させた。
映画は独立したオムニバスのようでありながら、連関するシーンをいくつか具体的にあるいは暗示的に入れ込んである。
脚本が、成功しているとは、とても思えない。
また、「死」をめぐるエピソードに、群を抜いた表現があるわけではない。
しかしながら、なんとか最後まで、つきあおうという気にさせる。
それは、この重苦しいテーマを、誰も避けることが出来ないと同時に、僕たちは、あんまり思い出したくない、身内や友人や関係者の「死」を、ある程度の年になれば、誰もが抱えているからだろう。
だから、やり過ごすことが、できないようなポジションで、ひとつの「娯楽」(真面目につくってあるが)に、付き合うことになる。
瀧本監督
1話。
5億円の公金横領の口封じのために、雇われた暴力団に生き埋めにされた男。
土を掘り起こし、命を保つが、もう、樹海を離れる気力はない。
途中、自殺志願の中年男を、邪魔するなとの懇願のもと、その死と腐敗をみとることになる。
2話。
悪徳金融の使い走り青年は、行方をくらました借り手の女を追って、樹海に辿り着く。
携帯電話を追いかけて、ようやく、薬を飲んで、瀕死状態の女のもとに。
たかが「金」なのに。青年は、嗚咽する。
3話。
有楽町あたりの飲み屋街。
樹海に人探し(女性)に出かけた探偵は、遺体の近くにあった写真で女性と一緒のサラリーマンを探し当て、ふたりは、酒を飲むことになる。
サッカーのワールドカップの日本チーム応援で、たまたま酒場で隣り合わせただけの関係。
しかし、探偵と青年は、自殺の根拠が気になってしょうがない。
4話。
キャリアウーマンであった女性は、ストーカーになってしまった過去を持つ。
キャリアを捨て、郊外のキオスクで、別人のように、地味に生きている。
ある日、昔の男が偶然、客としてキオスクにくるが、彼女にきづかない。
ショックを受けた彼女は、樹海に死にに行く。
1年の遺体発見数が、100体を超えるという樹海。
身元が判明するのは10%足らずだという。
無念の想いが、鎮魂されぬまま、浮遊しているような樹海。
そこで、死のうとするもの、また、死にきれなかったもの、招き寄せられたように迷い込んでしまったもの、あるいは、そういう状況にだれかを追い込んでしまったもの。
物語にもならない「未明」のドラマが、毎年、毎年、積み重なっていく。
そして、この若い監督が描けるものは、ほんの表層のエピソードらしき虚構にしかすぎない。
けれど、そのことに、心を向けることは、本当は、大切なことだ。
少し救われるエピソードがあった。
大杉漣演じる中年のサラリーマンは、居合わせた電車で、痴漢にあった気配の女生徒を追いかける。
キオスクに近いゴミ箱のそばで、座り込み泣きじゃくる女生徒。セーラー服にべったりと、精液が付着している。
サラリーマンは、ハンカチを静かに渡す。それでも、拭い取れないので、自分のネクタイをはずして渡す。
そして、キオスクでネクタイの替わりを買い、鏡の前で、新しいネクタイを締める。
第4話のキオスクの女性(井川遥)は、自殺を図る際に、ネクタイで首を吊るが、重みに耐えられず失敗する。
憑き物がおちたように、そのネクタイをみやる女性。
キオスクの女性と満員電車のネクタイの男性は、電車の内と外で、目をあわす。
そして、互いに、頭を下げ、会釈をする。
ほっとした、善意の風が、観客に流れ込む。
人はまだ信じられる。いいシーンだ。
1969年にヒットした「遠い世界に」。
僕たちには、西岡たかし率いる「五つの赤い風船」のなつかしい曲だが、この映画では、AMADORIがカバーしている。
いい、選曲だ。そして、そっと、僕も、くちづさんでみた。
遠い世界に 旅に出ようか
それとも赤い 風船に乗って
雲の上を 歩いてみようか
太陽の光で 虹を作ったお空の風を もらって帰って
暗い霧を 吹き飛ばしたい
ボクらの住んでる この町にも
明るい太陽 顔を見せても心の中は
いつも悲しい力を合わせて
生きることさえ今ではみんな 忘れてしまった
だけどボク達 若者がいる
雲にかくれた 小さな星は
これが日本(にほん)だ 私の国だ
若い力を 体に感じて
みんなで歩こう 長い道だが
一つの道を 力のかぎり
明日の世界を さがしに行こう
30数年前の曲だ。
もう、僕たちは若くはない。
けれど、やっぱり、そこに忘れてきたものを、探しに行かなければならない。













こんな歌詞でしたっけね。
思わず私も歌ってしまいました。
自殺という思いテーマでしたが、ラストは私も同感です。
ちなみに、「遠い世界に」のAMADORIさんの生の歌声を聴きました。
自殺という思いテーマでしたが、ラストのシーンは、ホントに救われました。
ちなみにAMADORIさんの生の歌も良かったです。
自殺をテーマにしながら、少しながらも希望を抱かせるような終わり方にしてるところが良かったと思いました。
僕の高校生のときです。よく、唄いましたね。
>いのちゃん
僕はAMADORIは知らなかったんです。けだるそうな歌い方だけど、いいですね。
>SHOさん
第4話があって、ほっとしました。井川遥は、賞にふさわしい演技でしたね。
しかし、死にたがる人が多いのは
たんに現代人の弱さか?
はたまた社会(他者)から疎外感か・・・
結局人と人の結びつけが希薄になってることか?
そのへんを答えと提示してんでしょうね、この映画は。
出来過ぎた話ばかりだったけど、
共感できる映画でした。
井川遥は、他のおじさんたちと同様、僕もはまっています(笑)
僕も、だいぶん、年をとってきたので、ここ数年、1年に1回は、知人の「自死」の連絡をうけるようになってしまいました。
TBありがとうございます。
邦画にも良いものありますよね〜!
こちらからもTBさせてください☆
邦画は、あたりはずれが多いですけどね。期待しなくて、低予算で、いい作品に出会うと、嬉しくなりますね。
幾つかTBをありがとうございます。
こちらからも、と先ほどからTBをしているのですが、
拙ブログのレンタル元、ライブドアさんの調子が悪いのか、うまく送れません。申し訳ないです。
「ミリオンダラー」のTBは反映したのですが……。
(もし、幾つも出現したら消してくださいね)
また日をおいて試してみます。
さてこの映画、重いテーマを持ちながらも、底流に流れているのが他者との触れあいだったからなのか、爽やかな印象を持って映画館を出ました。
TBとか、うまく出来ないということは、何人かから指摘されますが、僕もわからないのね(笑)
こちらの問題か、ブログサービス会社の問題か、送信側の問題か、あるいは、フォントの相性の問題か。
まあ、僕も、そういうこと多いですから、めげずに、コンタクトお願いしますね。
死は、生と表裏一体なのだと考えます。
”生”に満ちあふれた場所である樹海に気づき、描いてくれた監督に、よくぞ作ってくれました!と言いたい作品です。 多くの人に観てもらって何かをつかむきっかけになるといいと思います。
「生」というのは、「死」から計られるものですからね。
樹海の死というのは、単に、発見されにくいから、という理由では、ないと思いますね。
僕は、「精霊」が満ち溢れ、迎えてくれるから、といいたいですね。
私も第4話に救われた一人です。
この話だけは何度も見直しました。
月並みな表現ですが、彼女はある意味、あの場所で一度死んだのかもしれませんね。
こちらからもTBさせて頂きます。
そうですね、なかなか、いい章でしたね。彼女はとてもストーカーにはみえないんですけどね。自分を罰する気持ちが強かったんでしょうね。
「境界に生きた心子」のイナモトと申します。
(こちらからもTBさせていただきましたが、エラーが出てしまいました。)
僕の彼女・心子も、自死で亡くなったので、この映画はとても思い入れがあります。
心子は「境界性人格障害」という心の障害を持っていました。
彼女と過ごした日々の実体験を、「境界に生きた心子」(新風舎)というノンフィクションとし上梓しました。
当方のブログでは拙著の紹介をしています。
なお、僕は現在ココログと同じ内容を、ヤフーブログをメインにしてやっています。
こちらのほうへもお越しください。http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
だいたい、関連blogは拝見いたしました。
(ご著書はまだですが)
僕は専門家では在りませんが、昔の作家の島尾敏男とミホさんの「死の棘」なんかを、想起してしまいます。
第3者的なコメントは無責任となりますが、イナモトさんには、この病理の存在と新しい知見を啓蒙していくことは必須となりますね。
それとまた、心子さんという存在を、対象化することは、病理論以外の総体としての存在論になりますから、異なる方法も必要になるんでしょうね。
今後とも、関心を持っていきたいと思います。
目からウロコのような感覚で楽しませていただきました。
映画の作品ひとつに
たくさんの観客の方の視線があるんだなぁと
あらためて感動してしまいました。
お礼が遅くなって申し訳ないのですが、、
TBをいただきまして有難うございました。
そんなに、つくりが上手な映画だとは思いませんが、やはり、記憶に残る作品でした。テーマが侮れないからでしょうね。
「樹の海」は自殺という重いテーマですが
ネガティブでない質の高い作品ですよね。
もっとたくさんの方に観て欲しいです。
そうですね。興行成績はどうだったんでしょうね。
こういう映画が、どんどんつくれる環境になって欲しいと思います。
重いテーマながら、偏った見方を押し付けず
最後まで見せ切る静かな力強さは記憶に残ります。
瀧本監督には実りあるキャリアを積んで行って欲しいです。
瀧本監督は、もともとはジャーナリスト志望のようですね。
ユニークな監督たちの、助監督経験が、結構ありますね。
これからが、楽しみです。
僕が特に気に入ったのは第4話ですが、ヒロインが「ネクタイが買われるのを待っている」という表現に大いに頷きました。僕も普段からそういう考えがあって、人に使われないものを積極的に使おうと意識しているんです。
それから「遠い世界へ」と「翼をください」から選ぶ挿話も、音楽界の為に陽水の「夢の中へ」と拓郎の「夏休み」から二者択一で合唱する曲を選んだ学生時代を思い出させ、共感しましたね。
この二つのディテールだけでも、忘れられない作品になりましたよ。
4話の、大杉漣さんと井川遥さん。とってもしみじみした演技でしたね。
TB感謝します.
この映画,テーマは深刻ですが,後味としては希望の持てる形で終わっていました.
個人的には何故樹海が自殺の名所なのか理解できません.美しい自然と言うよりは,殺伐さを先に感じてしまいます.
どうなんでしょう。発見されにくいということがあるんだと思います。あと、「富士の樹海」という日本人にとっての神秘的なブランドもあるんでしょうね。