サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 08336「ポストマン」★★★☆☆☆☆☆☆☆

2008年11月23日 | 座布団シネマ:は行

“手紙”が運ぶ人と人の温かい交流を描いた心温まる感動作。実直な郵便局員が起こす小さな奇跡を、風光明美な港町の自然の美しさとともに描写する。本作で製作総指揮も兼ねる長嶋一茂が『ミスター・ルーキー』以来久々に主演を果たし、不器用な父親役を熱演。共演者には『幸福な食卓』の北乃きいをはじめ大塚寧々、竹中直人ら豪華キャストが集結し、ドラマを盛り上げる。味気ない現代の暮らしにもたらされる“郵便”の温もりが心に火をともす。[もっと詳しく]

一茂、走る、走る。それだけしか残らない、つまらぬ御用映画。

一茂、走る、走る。
郵便配達員(ポストマン)の特注の赤いペイントが塗られた「パタンコ」と呼ばれる自転車で、走る、走る。
「もう、パタンコの時代じゃないっすよ」と若い局員にブータレられても無視して、走る、走る。
房総半島のとある小さな港町で、坂道や路地を駆け抜けて、住民に明るく声をかけながら、走る、走る。
最終集荷車を追いかけて、どうしても間に合わせると約束した郵便物を手渡すために、走る、走る。
自宅で倒れた老人の定期便のような手紙を、200km以上離れた相手に自分で届ければ奇跡が起きると思い込んで、雨にも負けず、走る、走る。
感情の齟齬で縁遠くなった娘との関係の修復を図るため、娘が乗る電車を追いかけて、走る、走る。
一茂、走る、走る。
そのことしか、特段、印象に残らない稀有の映画である。



「ポストマン」は、民営化郵便局のチケット販売第1号商品として、その前売り券が販売された。
かなりのノルマが郵便局員に課せられたのかもしれないな、お気の毒にと、想像したりもする。
製作委員会にも、なんだか怪しげな名前がチラホラしているが、スーパーバイザーとして、西川善文の名前が記されている。
日本銀行協会会長、最後のバンカーと呼ばれ、権力闘争を繰り返し、盟友竹中平蔵のひきたてもあったのだろう、郵政公社の二代目総裁となり、そのまま日本郵政株式会社移行時に、初代の代表取締役に就任している。
紛れもなく、日本郵政のスポンサー映画である。
そのことが悪いわけではない。映画は予算がないと作れない。
いやになるほど、民営化以降の特定郵便局が、映像の舞台となっている。
それもまあ、うっとおしいが、悪いわけではない。
製作総指揮をとりながら、主演をしているのは長嶋一茂である。
製作委員会には、ちゃっかりナガシマ企画の名前が・・・。
別に、ケチをつけるわけではないし、一茂は嫌いではない。



若いときに属していた会社の関連に映像製作会社があった。
産業映画や、企業PR映画が中心であるが、劇場用映画のプロデュースも機会があれば、狙っていた何人かがいた。
ほとんどは企画倒れに終わったのであるが、幻のシナリオ台本を何本も見せてもらったことがある。
もちろん、すべては、スポンサーありき、予算ありきであり、その範疇の中でロケシーン、カット数、特撮の有無、キャスティングが決まることになる。
しかし、そのことよりもっと大切なことがある。
スポンサーの意向を、どのように物語りに繰み込むかである。
明確なPR映画であれば、その目的を明確に果たせばいい。
けれども、劇場用映画の場合には、そのさじ加減が、製作者と監督などスタッフ陣との緊張の発生ポイントでもあるし、共通の了解事項ともなる。
けれど「ポストマン」という作品は、もうそのさじ加減どころか、民営化郵便局の推進メンバーが、製作委員会のヘゲモニーをとって企画段階であるいはシナリオ段階で、徹頭徹尾ブリーフィングしたようにも思うしかないような作品なのである。
もちろん、それは僕の邪推であるのかもしれない。
しかし、この脚本家である鴨義信なのか監督である今井和久であるのかしらないが、若いテレビ演出あがりのスタッフたちは、スポンサー意向を過剰に先取りしている、あるいはそういうことが自然と身についているのではないかと、嫌味のひとつもいいたくもなるような、ていたらくなのである。



物語の最初から最後まで、なんの捻りもない感動、教訓、道徳観のおしきせのオンパレードとなっている。
単細胞の一茂のレベルに合わせてあるのだ、という言訳も聞こえてきそうだが、僕などは一茂というのはもっと複雑で、ある意味では知的な人物なのだ、と「買い被って」いるところもある。
スタッフの「こころざし」の低さにあわせて、役者たちも、ただ既存のイメージ(低いトーン)で撮影に付き合っているだけのように見える。
北乃きいは不貞腐れた難しい年頃の娘を、指示通りにやっているだけのように見えた。
新米教師役の原沙知絵も、学芸会のような演技だ。
文通相手にキャスティングされたクレージーキャッツの犬塚弘と谷啓は、パーツをそれなりにこなしているだけのように見える。
竹中直人と野際陽子の出番では、暑苦しい演技が増すだけだ。
すべてのエピソードが、テレビでもくさるほどある「ちょっといい話」の加算だけになっている。
それらしい房総の風景の押さえ方も、それらしい職場の対立劇も、それらしい父子家族の葛藤も、手紙のやりとりをめぐる心温まる逸話も、こういうように押さえておけば、スポンサーからも文句がつかないでしょ、というレベルのものなのだ。



同じく郵政省がスポンサーとなった映画に、「ニライカナイからの手紙」がある。
八重垣諸島のひとつ竹富島の特定郵便局の祖父に預けられたひとりの少女が、病気療養ということだが本当はもう亡くなっている母親からの手紙を、毎年誕生日に母親の名前で受け取ることになる。
熊澤尚人率いるスタッフも、蒼井優以下のキャストも、下手をしたらお涙頂戴の「ちょっといい話」になりそうなところを、ぎりぎりのところで文芸作品として、定立させている。
たいして予算もついていないような小品ではあるが、「涙そうそう」以下、南島の自然や風習に寄り添っただけの「癒し」系の枠組みを、はるかに超えているように僕には思えた。
「ニライカナイからの手紙」は、郵政省のスポンサードが、ある種の制約を強いるようなことが、あったかもしれない。
しかしたとえなんらかの制約があったとしても、ちゃんとその映画を通じて、表現したいことがしっかりとあったのだと思う。
「ポストマン」の製作委員会やスタッフに「描きたいものがあったのかどうか」、僕にはそのことがもっとも不満であった。
本来ならば、★1個といいたいところだが、全速で走る一茂の一生懸命さに免じて、★三つだ。

kimion20002000の関連レヴュー

ニライカナイからの手紙





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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ニライカナイからの手紙・・ (メル)
2008-11-25 08:15:57
あれも、郵政省!バーン!って感じでしたよね~。
いたるところに看板やのぼり旗があったし(^^;;)
でも、これよりはやっぱり映画的にはちょっと
優れていたなぁって思いました。
それに比べてこれは、なんといいますか、あまりにも
微妙~(^^;;)
いい話だ~・・と感動しかけると、がく~っとする
エピソードが盛り込まれ、そこで一旦冷めて、また
ちょっといいな、と思うところがあると、またしても・・というその繰り返しだったような感じ。
結局いいお話なんだろうけど、なんかね~・・いまひとつかな~・・という感想になりますよね(^^;;)
巷の評価が高かったので期待したんですが、どうもそこまで評価はできませんでした~(^^ゞ
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メルさん (kimion20002000)
2008-11-25 08:42:34
こんにちは。

ちまたの評判がいいんですか?(笑)
みんな、ちょっといい話に、飢えているのかなあ?
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TB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2009-04-14 03:07:14
若きリドリー・スコットの作った映画に「デュエリスト」というのがあり、とにかく決闘ばかりしている映画でした。
徹底してやるという意味では「走るだけの映画」も良いかもしれませんが、間の挿話が余りうまくなく、走る部分が完全に生かされていない印象を生んでいるのが残念。

「携帯は一生持たぬ」と決めた僕ですから主人公に対し解る部分も多かったのですが・・・
一つ大いに違うのは、僕の考えは、ある程度の年齢に達した子供には一時的で良いから一人暮らしを経験させよ、ということですかね。
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オカピーさん (kimion20002000)
2009-04-14 10:35:09
こんにちは。
泣かせどころもあり、風景撮影も上手なんですけどね、なんか「そつのなさ」みたいなところが、僕にはカチンときたわけですな(笑)
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