
米アカデミー賞のウルグアイ代表に選ばれた、さびれた街で生きる人々の哀しみをユーモアをまじえつつ描いた作品。フアン・パブロ・レベージャとパブロ・ストールの監督コンビにとって、この映画が初の35mm作品。東京国際映画祭でグランプリを受賞した名作。[もっと詳しく]
どこか懐かしい「不器用で退屈な」登場人物たち。
ブラジルとアルゼンチンに接した人口330万人強のウルグアイから日本初上陸の作品が送り込まれた。
「ウィスキー」。カンヌ映画祭でオリジナル視点賞と国際批評家連盟賞、そして東京国際映画祭でもグランプリと主演女優賞に輝いた作品である。
監督は、弱冠30歳の二人組み、ウルグアイ本国では映画はいままでに全部合わせても60本の製作本数しかないという。
父から残されたうらぶれた靴下工場を経営するのはハコボ(アンドレス・パソス)。
喜怒哀楽をあまり出さず、スターターがたどたどしいオンボロの車に乗って、毎朝出勤する。
ハコブを手伝う唯一の社員がマルタ(ミレージャ・パスクアル)。
ハコボにいいつけられた用事を淡々とこなし、帰り際には二人の女性パートのカバンの中味を検査する。
退屈そうな毎日。
ハコブの1年前に亡くなった母親の墓石の建立式があるということで、ブラジルで同じく靴下工場を経営する弟エルマン(ホルヘ・ボラーニ)が訪ねてくることになる。
そこから、単調な毎日に、風穴があくことになる。
ハコボは弟に体裁をとりつくろうためか、マルタに滞在中、夫婦であるように偽装してくれと頼む。
仕事以外は会話もなさそうなふたりの関係だが、マルタは軽く引き受ける。
「偽装」のため、部屋の飾り付けをしたり、指輪をつけたり、夫婦の写真をとったり・・・マルタはテキパキと指示を出す。
エルマンはハコボと違って、ブラジルに住む陽気な弟。
3人で旅行をしようと持ちかける。
旅行先では、エルマンの開放性もあり、マルタはお化粧もしてすっかり女性に変身する。
不器用なハコボも「偽装」であるのに、マルタと一室で寝泊りすることに躊躇し、エルマンの要領のよさに、嫉妬心をいだいてしまったりする。
エルマンは、仕事も器用に拡大しているのであろう。
ただし、兄ハコボに、母親の介護をまかせっきりにしたことに罪悪感を持っている。
奇妙な映画である。
シャッターをあげ、電気のスイッチを入れ、機械が動き出し、2階の事務所でたいして重要でもなさそうな仕事をこなすハコボ。
マルタとも必要以上の会話は一切無い。
このハコボを演じる男優、のそっと背が高く、どこを見ているかわからない無表情。
しかし、そのゆっくりの動きがどこかおかしい。
ちょっと、アンソニー・クインを髣髴とさせる。
マルタはてんで、お化粧とも無縁に見え、なにが楽しくて生きているのかわからない。
笑顔もみせない。だから、人間くさいエルマンが闖入すると観客はほっとする。
旅行先のホテルの情景もどこかおかしい。
日常に裂け目ができて、ハコボもマルタも普段はださない表情をするのだが、相変わらず、二人になると、会話は続かない。
事件といえば、エルマンがハコボに「工場の改築資金にでも」とお金を渡し、ハコボはホテルのカジノルームでルーレットに一点バリ。
「黒の24」。それが偶然、あたってしまい、大金を手にする。
このあたりから、解釈は観客に委ねられる。
ハコボはなぜ、せっかくの弟の資金提供を、カジノで消費しようとしたのか?
マルタは、エルマンに一人になったら見て、といってメモを渡すが何が書かれていたのか?
ハコボはその大金をマルタに渡す。遅ればせのプロポーズなのか?
別れた翌日、工場にマルタは姿をあらわさない。なぜか?
監督コンビは、カメラのパンも移動もしない。
固定カメラだけで、この3人を構図に収めている。
退屈な退屈な時間とぎくしゃくとした関係をじっと映し出す固定カメラ。
ボソっとした会話。かもし出されるペーソス。
突然、小津安二郎の一群の作品を思い出した。
すっかり、自分の中で、映画的物語のスピードの時間ができあがってしまっていた。
だけど、小津作品をみていたときの退屈のなかに、ちょっとした間の取り方、目線のやり方に、懐かしい母や父や親戚や自分の幼いときの時間の流れが、呼び起こされた、そういう時間を思い出したのだ。
サッカーの第1回ワールドカップの開催国で、チャンプになったウルグアイ。
国土の90%が牧場で、国民は、マテ茶をのみながら、のんびりした時間に生きているのだろう。
そういえば、僕の隣町の小さいメッキ工場のオヤジもハコボみたいに無口だった。
隣のカーショップのおばさんも、冴えない格好で何が楽しくて働いているのかわからないような人だった。
次々と、無名の人たちの、記憶が浮ぶ。
しっかりと、覚えている。
いまは、たくさんの人と出会い、交流するが、すぐに、存在を忘れてしまう。その個人ファイルという名の情報とともに。
「ウィスキー」。写真に写る時の「ハイ・チーズ」。
ハコボはそういえば、ホテルのUFOキャッチャーで一生懸命、カメラを吊り上げていたっけ。
カメラがあれば、不器用な自分にも、笑顔の空間、「ウィスキー」と呼びかけることだったら、できると思ったんだろうな・・・・。













トラックバックありがとうございます。
ペーソス溢れるこの映画の監督が30歳とは驚きです。
南米には行ったことがないので、明るいような(この映画のように)暗いような、複雑なイメージがあります。
個人的に知っている南米出身者は軒並み明るいキャラですけど。
ときどき映画ネタもあげようと思っているので、また読みにきてください。
映画的伝統のない世界で30歳の監督たちはいい仕事をしましたね。尊敬します。
毎日、毎日繰り返される同じ動作、妙に暗〜い靴下工場の退屈な光景・・・地味〜な映画でしたが、好きでした、この手の作品!!
「いまは、たくさんの人と出会い、交流するが、すぐに、存在を忘れてしまう。その個人ファイルという名の情報とともに。」って仰るとおりだと思いました。
小津作品ってみてみたいなあと思いました。
他にも沢山の記事があるようなのでゆっくり拝見させていただきます☆こちらからもTBさせてください。
トラックバックありがとうございました。
偶然同じタイミングで同じ映画を観ていたんですね!
あたりまえですが、ひとつの映画でも色んな見方があってkimionさんの記事、すごく参考になりました。
またお邪魔させていただきますね。
小津作品はたくさんDVDでありますからね。楽しみに見てください。
>igrecさん
この映画はDVDでみたその日にレヴューしましたが、ずっと、書かないままのものが、たまっていく一方(笑
ちゃんと、ゴブリンさんのレヴュー読んでますからね(笑)
まあ、60作目ですから。味付けは、これからで。
退屈さがうまく表現されていたのは、固定カメラによるものだったんですね。
淡々とした日常というのは、その中にいる人にとっては退屈でつまらないものでも、客観するとなんだか滑稽でおもしろいなぁと思いました。
またお邪魔させていただきますっ♪
で,以下は私の勝手な解釈なんですが・・。
マルタはそのまま夫人におさまりたいと思っていた。でもツレないハコボに業を煮やして,夜エルマンの部屋へ。そしてそこで一夜を明かし,その翌朝,エルマンに手紙を渡したのでした。これは「兄の妻」と関係したと罪悪感を持っているエルマンに,真実を明かす手紙ではないかと・・。
ハコボは難しいです。ただ,エルマンの資金提供を頑なに断っていたハコボが,マルタの方をチラッと見てから,金を手に取ったのが思わせぶり。ギャンブルの1点バリでもし勝ったら,プロポーズしようとか思っていたかも。
ギャンブルで稼いだ金をマルタに渡すハコボ。しかし,マルタが欲しいのは金ではなく別のものだったから,もう冷めてしまって工場も辞めようとしている。
ちょっと勝手すぎたかもしれません。失礼しました。(^^
僕も、ほぼそういう解釈を好みますね。
ハコボもこの「事件」でめざめて、サッカーだけじゃなくて、通いのパートの女性たちに興味をもったりして・・・・(笑)
不思議だけどなんだかほんわかする
感じの映画でしたねー。
解釈が分かれる映画ってあまり好きではない
私ですが、この作品はよかったです。
私は何となくマルタ、遅れてやって
くるのかなーと思っちゃいました。
それではまた遊びにきます。
マルタおばさんね。どういう人生をこれから描くんだろう。
ハコボだって、大きく、変わるかもしれないからね。
味のある作品ですね。
多くを語りすぎないところが好きです。
こういう独特の「間」がたまりません。
言われてみれば、小津作品に通じるところがあるような気も・・。
なんだか急に小津作品が見たくなってきました。
この「間」は、天然のものかもしれませんね。だとしたら、すごい。
小津作品の中の時間の流れ・・というお話に 全く同感です。
それはカウリスマキの作品を観た時にも感じたものですが 私はそこが痛くお気に入りです。
クスっとした笑いから生まれる懐かしさやセンチな気分は 爆笑の時とは違って過去の豊かな感性を蘇らせてくれるような気がします。
それに加えて この作品には想像する楽しさがあって 今でもあれこれと考えてしまいます。(笑)
UFOキャッチャーで一生懸命カメラを取ろうとするハコボの姿に、なんだかじんわりと涙が出て競うになった私です。
こちらからもTBさせていただきましたm(_ _)m
だけど、日本だっ 、ちょっとまえまで、アメリカの払い下げ品で、なんて思ってしまった。
上のみなさんのコメントも拝見しましたけど、いろいろな見方があるんですね。私はこの監督を、自分の好きな映画を研究し尽くしたある意味オシャレなセンスの人じゃないかなぁと思いましたよ。
プライドが高すぎて自分の首を絞めている感じのハコボの孤独を容赦なく描いている気がして、少し切なかったです。
お話が変わってきそうですね。
男性と女性でも
感じ方が違ってくるようですね。
ウィスキーって声かけ、やってみたいですね。
「はい、ウイスキー」とやったら、相手が、キョトンとしていました(笑)
映画マニアとして、いい映画との出会いにとても幸せを感じています。
だけど、どんどん引き込まれていく。なんなんだ!という感じにとらわれましたね。
こちらの記事の方にもコメント&トラックバック、失礼いたします。
この作品は、物語としては、仕事を中心とした日常からほんの少し違う休日を過ごすといった普通の生活を描きながら、情感を溢れさせた見事な一本であり、三人の味わい深い役者さんの動きをさりげなくも効果的に作品に取り込む優れた技量に、作り手のセンスの良さを強く感じさせる映画でもあると思います。
フアン・パブロ・レベージャ氏とパブロ・ストール氏の次回作を早く観てみたいと思わせる、優れた作品でした。
また遊びに来させて頂きます。
ではまた。
まだ、若い監督なのにねぇ。
堂々と撮っていますね。
世界は、広いです。
この作品いいですよね!昨年は映画館までおっかなびっくり、観に行きましたが、行ってよかった〜。
今回BS2での放送が嬉しかったですね。
写真撮るときは「ウィスキー」あるいは「サントリー」と言いましょう。
「ニッカ」だと、笑いすぎ、あるいはビックリ顔になります
w(゜○゜)w
「チーズ」も「ズ」まで言っちゃうと、アホみたいになることがあるので、注意!
(・ε・)
この映画、なんていい味わいなんでしょう。
去年映画を観てからずいぶん経って、こちらの記事を今日読ませていただいて、写真を撮るときの掛け声だった「ウィスキー」のことを思い出しました(キーワードなのに忘れてました、笑)
なるほどな〜〜と思いました。
噛めば噛むほど味が出るスルメのような映画ですね!
またよろしくお願いします。
なぜばかり残ってしまって。。
思うに、マルタがお役目を終えて帰るタクシーの中での涙が
何か物語っていた気がします。
マルタは、同じ事の繰り返しの毎日も、ハコボの事も、
もう全部嫌になってしまったんじゃないかなー?
「私いったい何やってるんだろー」みたいな
旅にでも出ちゃったのかもしれないですね
こんにちは。日本語英語で、丁寧に、「ウ・イ・ス・キ」なんて、やっちゃうと、逆に、顔がこわばってしまうよね。「ウィ」って、感じかな(笑)
>bettyさん
そうですね。映画のフェスティバルでも、「スルメ賞」なんてあるといいね。ミニシアター系では、いくつかありそう。あと、「脱力癒し賞」でも、確実にエントリーされる映画だな。
>sattyさん
マルタはね、生まれ変わったのかも。まず、弟を手なずけて、もう一度ハコボのところに戻り、工場のオーナーになります(笑)
最近難しくみせようとしたり
感性でみせる映画が多いように思うだけに
この映画が際立った気がします。
TBありがとうございました。
こういう、脚本は難しいと思いますよ。
「笑い」の映画でもないし、単純に、ユーモアとかウィットと言うのとも違う。天然ボケではなく、とても計算しているが、その計算からはみでるところもあって、そこがまた可笑しい。
TB有り難うございました.
エンドロールが始まったときには無駄と思いつつ「ここで終わるのかっ」と叫びたい気がした映画です.
でも不思議と後に残りますね.コメントにスルメみたいなという表現がありましたが,その通りだと思います.
後,マルタって意外と若いのではないでしょうか?
南米の女性って顔は彫りも深いしすごく老けて見えるけど,実際は思ったより若いってことありますよね.
見終わって、まだ、なんかトリックがありそうな、なさそうな、つかみどころのない、奇妙な映画ですが、意外と好きな自分にびっくりしました(笑)
対称的な構図の固定ショットが繰り返されるうちに、そこはかとないユーモアが出てくるんですね。
監督の一人は一昨年亡くなりましたね。
ああ、若い監督さんだったのに、おひとりが亡くなられたんですか。残念ですね。みなさん、おっしゃいますが、この作品はポスターのつくりも洒落ていて、ミニシアターに似合った良品だと思いました。
既にコメントは書いていますので、事情説明まで。
僕のほうこそ、失礼しました。
TBでチェックをしている癖がありますので・・・。
気をつけますね。