サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 10449「キャデラック・レコード」★★★★★★☆☆☆☆

2010年04月03日 | 座布団シネマ:か行

1950年代のシカゴを中心に、伝説的なレコード・レーベル、チェス・レコードと所属アーティストたちの盛衰を描く実話ドラマ。監督は『彼らの目は神を見ていた』のダーネル・マーティン。チェス・レコードを立ち上げたレナード・チェスをエイドリアン・ブロディ、グラミー賞受賞シンガー、エタ・ジェイムズをビヨンセが演じている。偉大なミュージシャンたちの波乱に満ちた半生と、彼らを熱演した出演陣から目が離せない。[もっと詳しく]

シカゴ・ブルースから発せられる音楽樹の系統を思う。

シカゴ・ブルースに関しては、僕の場合どちらかといえば、好きだったロックミュージシャンそれはたとえばローリングストーンズであり、エリック・クラプトンであり、ザ・バンドであり、ロリー・ギャラガーでありといった面々なのだが、彼らのライナー・ノーツなどを眺めていると、尊敬するあるいは影響を受けたミュージシャンとして何度もマディ・ウォーターズの名前が出てきて興味を持ち、そこからシカゴ・ブルースに入り込んだという流れがあった。
大学時代であったのだが、その頃はもちろんiPodなどというおしゃれなツールはなく、当たり前だがCDも発売されておらず、初代ウォークマンもまだベールに包まれていた頃であったから、ぶきっちょなカセットテープレコーダーを持ち歩いたりしながら、友人の家からシカゴブルースのLPレコードを数枚借りて、録音していつも聞いていたものだった。
そしてブルースの起源などの本も読みながら、シカゴブルースの原点を少なからず理解していったのだった。



ブルース自体は、1930年代あたりから、それこそ黒人たちのプランテーション農場などでひそかに歌われてきた。そのあたりは、デルタブルースなどと呼ばれるようになるが、アコースティック・ギター中心の素朴な弾き語りである、差別に満ちた農場で働く黒人たちの哀愁と諦念に満ちた労働歌のようなものであった。
第二次世界大戦に伴って、アフリカ系黒人たちの大移動が始まり、戦後は徐々にシカゴあたりの都会に黒人たちが居つくようになった。
そこで『キャデラック・レコード』のマディ・ウォーターズ(ジェフリー・ライト)もそうなのだが、農場を飛び出て、自己流に磨いたボトルネック・ギターの技術を持って、シカゴのストリートで歌いだすようになるのである。
しかし、農場の宿舎などで仲間に語って聞かせるのではなく、ストリートともなると音響が必要になる。そこで、エレキギターにアンプというスタイルが必然になってきて、シカゴブルースの形を決めていく。
この作品で天才的なハーモニカ少年として登場しているリトル・ウォルター(コロンバス・ショート)が典型なのだが、当時はブルース・ハーモニカが演奏の中心を占めるようなスタイルでもあったのだ。



白人であるレナード・チェス(エイドリアン・ブロディ)がライブハウスを経営しながら野心的に音楽プロデュースの道を探っていたが、チェスレコードという名前で、レコードレーベルをスタートさせたのは1950年のことである。史実は兄弟で、経営していたらしいのだが。
そして当時で言えば、ラジオに取り上げてもらうことで市民権を獲得しながら、まだそれほど明確ではなかったであろう、ミュージシャとレコード会社との契約を整備することで、ビジネスを成立させていくのである。
そういう意味では、この作品はレコード業界の黎明期の歴史を描いている側面もある。
レナード・チェスには大衆が求める次の音楽を嗅ぎ分ける才覚はあったのだろう。
マディ・ウォーターを核にしたバンド形式を定立しながら、R&Bやロックンロールにもウィングを拡げる中で、強烈なヒール風のキャラを持ったシャウト型のハウリン・ウルフや白人との棲み分けの壁を取っ払うようなチャック・ベリーなどの才能を世に送り出していくのだった。
そしてバラードやポップスの流れが出てくる中で、今回の作品では製作総指揮も務めるビヨンセ扮するエタ・ジェームズなどの女性シンガーも登場させるのである。
まさに、副題である「音楽でアメリカを変えた人々の物語」なのである。



しかし、ショー・ビジネス界はすべてそうかもしれないが、ミュージシャンたちの夢は、貧困や疎外からの脱却である。そこでは時代の寵児になっていくにしたがって、金や女や酒や麻薬や暴力やといったものがつきものになっていく。そして金を巡るトラブルや仲間たち同士の嫉妬、裏切り、主導権争いといったものが露呈せざるを得ない。それも含めたミュージック・シーンなのである。
いつかキャデラックに乗ること、それがミュージシャンたちの一つの夢になり、レナード・チェスもそんな自尊心の補填に喜んで付き合いながら、結局ヒットを飛ばして大儲けをしたのか、借金漬けでいつも手元はピーピーしていたのか、わからないような経営となっていく。
レコード業界も成り上がりの時代から、次第にエンタテイメントビジネスの資本の時代に入っていく。そのことを予感させながら、映画はレナード・チェスをあっけなく心臓麻痺のような形で死なせている。
彼が死んだのは1969年、まさに「キャデラック」に乗りながら、20年間を疾走してきたのであろう。



2000年以降のPOP音楽に至る胎動期を描いた映画として、記憶に残るのは『ウォーク・ザ・ライン』(05年)と『ドリーム・ガールズ』(06年)だ。
前者はボブ・ディランなどにも影響を与えたカントリー・ミュージックの伝説であるジョニー・キャッシュの波乱万丈の半生を描いたものであり、後者はビヨンセが元祖歌姫ダイアナ・ロスを演じているが、デトロイトに舞台を置いて黒人音楽が白人文化の中に浸透していった60年代から70年代のモータウンの活動を描いている。
どちらにせよ、現在はJ-POPSにがんじがらめになっているような僕たちの音楽生理ともいうべき感性の中に、やはり50年代から70年代の音楽シーンは切り離せないものとしてあるのだな、と改めてこういう映画を観ると感じるのだ。
その懐かしさのようなものは、口を開けばアメリカの大国主義への嫌悪感を繰り返し毒づいている僕のようなへそ曲がりにも、疑いようもなくあるものなのだ。



ところで、ビーチボーイズなどのパクリ事件はともあれとして、ブルースの流れがヨーロッパに飛び火してバンド少年たちが無数に新しい音楽を求めて出現したというエピソードのひとつとして、マディ・ウォーターズを尊敬する少年たちがおずおずと挨拶に来て、「ローリング・ストーンズ」と名乗るところがなかなかいい。
レナード・チェスも死に、シカゴ・ブルースも60年代半ばからは退潮になり、年老いたマディ・ウォーターズは初めて飛行機に乗り、ロンドン・ツアーに心細げに出発するシーンが映画の終わり頃に差し挟まれている。
空港のタラップを降りると、多くのカメラマンが殺到し、VIPのように赤い絨毯が敷かれて、マディ・ウォーターズは面食らってしまう。もしかしたら、ローリング・ストーンズも迎えに来ていたのかもしれない。
こういうシーンには無条件に笑みがこぼれる。
一人ひとりのミュージシャンの人生には、栄光も没落もあり、光と闇が交錯しているが、本物の音楽の力というものは、時代を超えて、国をまたがって、世代をつなげて、バトンされたり影響しあったりする。
そのことは何にもまして信じることが出来る。

kimion20002000の関連レヴュー

『ウォーク・ザ・ライン』




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4 コメント

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TBありがとうございました! (sakurai)
2010-04-05 20:54:06
こういう映画を見るたびに、アメリカの役者さんたちのスキルの高さと、エンターティナーぶりに、感服します。
ミュージック・シーンの詳しい歴史はこういう映画で勉強です。
ほとんど例外なく、薬に溺れてしまうのが残念ですが、遺憾なく才能が発揮できる世界に出会えた彼らは幸せだったのでしょうかね。
sakuraiさん (kimion20002000)
2010-04-06 01:14:14
こんにちは。
こういう作品で、先達を演じること自体の栄光と緊張をアーティスト(ミュージシャン)が自覚していますね。
ジャニーズ事務所に頼ろうとするどこかの国とは深さが異なりますね。
弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2010-09-22 01:32:01
僕にとって一番重要な音楽は1960~70年代英米のロックなのですが、そのベースとなった50年代のロックンロールやR&Bも大好きです。

となると当然チャック・ベリーはよく知っていますが、ブルースマンのマディ・ウォーターズとなると名前はよく知っていても音楽は殆ど聞いたことがない。同じ大物でもB・B・キングなんかに比べると、本腰をあげないとなかなか聴けないアーティストですよね。

ブルースも本格的に取り組んだら、戦前のベッシー・スミスとかサン・ハウスとか色々いらっしゃいまして、かなり大変なことになりそうです。
オカピーさん (kimion20002000)
2010-09-22 02:03:57
こんにちは。
大学が大阪だったんですが、大阪や京都のブルース喫茶に入り浸っていた頃があったんですね。
一生懸命、ノーツを見ながら、アルバムを聞いていました。
そのうち、ジャズやロックに流れるんですけどね。

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