
殺人を犯した兄のせいで、人生を狂わされる弟の苦悩を描く東野圭吾のロングセラー小説を映画化した社会派ドラマ。『電車男』の山田孝之が、兄の罪に翻弄される弟としての重みある演技をみせる。直貴(山田孝之)の兄(玉山鉄二)は、... 続き
「最後の場所」を静かに暖かく、東野圭吾は保存している。
ある女性から打ち明けられたことがある。
実兄が人を殺めてしまった、と。
妹である彼女と両親は、その十字架を背負って生き続けるしかないということを。
一瞬、絶句した。
なんの慰めの言葉を、僕は言えるだろうか。
つまらない同情など、必要としない凛とした素敵な女性であった。
自分が刑に服しているその兄に変われるわけではない。
もちろん、それは家族のひそやかな秘密であり、たまたまこちらにある瞬間心を許してくれたから、吐露してくれただけのことである。
あのときほど、言葉の無力を、僕自身が感じたことはなかった。
もちろん、その後、誰ともその話をしたことはないし、彼女との会話の中でも、互いに二度と持ち出されることはなかった。
もう、20年以上前のことである。けれど、いまでも、だらしなく沈黙するしかなかった自分を、僕は恥じている。

「手紙」という東野圭吾の小説を読んだとき、もちろん、シチュエーションは違うのだが、僕は、殺人犯の弟である武島直貴(山田孝之)の心情に、彼女を重ね合わせることを避けることは出来なかった。
貧しかった武島剛志(玉山鉄二)と直貴の兄弟。
剛志は弟の学費を稼ぐために仕事で無理をして腰を痛めて、解雇される。
追い詰められた剛志は、裕福そうな家に忍び込んで、盗みを働く。家人が戻る。
慌てて、盗んだものを返そうとするが、パニックに陥った家人が騒ぎ、止めようとして、はずみで命を奪ってしまうことになる。
直貴は大学進学を諦め、働きに出るが、勤め先で、「殺人者の弟」という十字架を背負うことになる。
そして、ひっそりと、目立たぬように、誰にも心を開かずに、毎日をやり過ごす。
兄は獄中から弟に手紙を出す。丁寧に返事を書く弟。兄の生き甲斐も、弟だけだ。けれど、弟は、兄につきあっていくことに次第に疲れを覚えるようになる。
弟と漫才コンビを組む寺尾祐輔(尾上寛之)と恋心を抱く白石由美子(沢尻エリカ)は、直貴を気遣いながら、励まし続ける。
しかし、「兄貴元気ですか。これが最後の手紙です」という文面を最後に、直貴は兄と連絡を絶つ・・・。

罪を犯すとは。刑罰とは。更正とは。
重いテーマである。
東野圭吾は、簡単なヒューマン・ドラマを描こうとはしていない。
けれども、切れることのない兄弟の絆と、その絆を自分のことのように護ろうとする、薄幸のしかし強靭な魂を持つ由美子という稀有な資質の少女を通して、かろうじて運命に対抗すべき「最後の場所」を保存している。
「最後の場所」とはなにか?
運命を変えることは出来ないし、起こってしまったことは、引き受けるしかしょうがない。
諦めも、慟哭も、苦悩も、躊躇も、他人に転嫁することは出来ないし、忘却することもできない。
弟のために犯罪を犯してしまった剛志も、本当は兄思いの直貴も。
けれど、そこから生きていく。
それを知っていてくれる人がいる。祐輔や由美子のように。
たったひとりに伝わるだけでいい。ちゃんと、感じていると。
それが「最後の場所」だ。

人目を避けて生きる直貴が、人前に立ってお笑い芸をする漫才師になるという、ミスマッチング。
どうしてこういう不自然とも思える設定にしたのかと、たぶん読者(観客)は誰しも疑問をいだく(原作はお笑いではなくミュージシャンであるが)。
けれど、これは、制作スタッフが周到に用意した布石である。
刑務所の慰問で久しく手紙を断絶していた弟は、受刑者に対し、一生懸命笑いを誘い出す。
相方がふと「おまえの兄貴は」と悪げなく突っ込む。言ってしまって、凍りつく二人。直貴は一瞬言葉に詰まりながら、「兄貴はどうしようもないけど兄貴やから」としのぐ。
受刑者はわからず笑っている。
受刑者の中で剛志だけは、顔の前で手を合わせながら、口に出さず、嗚咽している・・・。
このシーンを思い出すだけで、僕は目頭が熱くなる。

山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ。
人気の若手俳優3人が、きわめて真面目に演技している。とても好感が持てる。
「3年B組金八先生」や「男女7人夏物語」「ビューティフル・ライフ」などを演出したベテランの生野慈朗も流さずに、きわめて真面目に制作に当たっている。
「手紙」は娯楽映画とはいえないし、感傷を誘う映画でもない。
けれども、人生は、テレビのバラエティショーに戯画化されるためにあるわけではない。
不可避の運命というのは、多かれ少なかれ、誰にもふりかかる。
まったく理不尽に、ある意味不平等に!
そのことはよっぽどの鈍感でなければ、誰しもうすうす感づいているのだ。
そこに静かに、東野圭吾は、言葉を届かせようとしている。
その緊張感に、役者も監督も観客も、真面目につきあっている。
つきあっている自分自身を、いつもだったらバランスをとるために突き放すだろうに!
なぜか、「手紙」という映画を前にしては、そういう気にはならないのだ。
「最後の場所」を静かに暖かく、東野圭吾は保存している。
ある女性から打ち明けられたことがある。
実兄が人を殺めてしまった、と。
妹である彼女と両親は、その十字架を背負って生き続けるしかないということを。
一瞬、絶句した。
なんの慰めの言葉を、僕は言えるだろうか。
つまらない同情など、必要としない凛とした素敵な女性であった。
自分が刑に服しているその兄に変われるわけではない。
もちろん、それは家族のひそやかな秘密であり、たまたまこちらにある瞬間心を許してくれたから、吐露してくれただけのことである。
あのときほど、言葉の無力を、僕自身が感じたことはなかった。
もちろん、その後、誰ともその話をしたことはないし、彼女との会話の中でも、互いに二度と持ち出されることはなかった。
もう、20年以上前のことである。けれど、いまでも、だらしなく沈黙するしかなかった自分を、僕は恥じている。

「手紙」という東野圭吾の小説を読んだとき、もちろん、シチュエーションは違うのだが、僕は、殺人犯の弟である武島直貴(山田孝之)の心情に、彼女を重ね合わせることを避けることは出来なかった。
貧しかった武島剛志(玉山鉄二)と直貴の兄弟。
剛志は弟の学費を稼ぐために仕事で無理をして腰を痛めて、解雇される。
追い詰められた剛志は、裕福そうな家に忍び込んで、盗みを働く。家人が戻る。
慌てて、盗んだものを返そうとするが、パニックに陥った家人が騒ぎ、止めようとして、はずみで命を奪ってしまうことになる。
直貴は大学進学を諦め、働きに出るが、勤め先で、「殺人者の弟」という十字架を背負うことになる。
そして、ひっそりと、目立たぬように、誰にも心を開かずに、毎日をやり過ごす。
兄は獄中から弟に手紙を出す。丁寧に返事を書く弟。兄の生き甲斐も、弟だけだ。けれど、弟は、兄につきあっていくことに次第に疲れを覚えるようになる。
弟と漫才コンビを組む寺尾祐輔(尾上寛之)と恋心を抱く白石由美子(沢尻エリカ)は、直貴を気遣いながら、励まし続ける。
しかし、「兄貴元気ですか。これが最後の手紙です」という文面を最後に、直貴は兄と連絡を絶つ・・・。

罪を犯すとは。刑罰とは。更正とは。
重いテーマである。
東野圭吾は、簡単なヒューマン・ドラマを描こうとはしていない。
けれども、切れることのない兄弟の絆と、その絆を自分のことのように護ろうとする、薄幸のしかし強靭な魂を持つ由美子という稀有な資質の少女を通して、かろうじて運命に対抗すべき「最後の場所」を保存している。
「最後の場所」とはなにか?
運命を変えることは出来ないし、起こってしまったことは、引き受けるしかしょうがない。
諦めも、慟哭も、苦悩も、躊躇も、他人に転嫁することは出来ないし、忘却することもできない。
弟のために犯罪を犯してしまった剛志も、本当は兄思いの直貴も。
けれど、そこから生きていく。
それを知っていてくれる人がいる。祐輔や由美子のように。
たったひとりに伝わるだけでいい。ちゃんと、感じていると。
それが「最後の場所」だ。

人目を避けて生きる直貴が、人前に立ってお笑い芸をする漫才師になるという、ミスマッチング。
どうしてこういう不自然とも思える設定にしたのかと、たぶん読者(観客)は誰しも疑問をいだく(原作はお笑いではなくミュージシャンであるが)。
けれど、これは、制作スタッフが周到に用意した布石である。
刑務所の慰問で久しく手紙を断絶していた弟は、受刑者に対し、一生懸命笑いを誘い出す。
相方がふと「おまえの兄貴は」と悪げなく突っ込む。言ってしまって、凍りつく二人。直貴は一瞬言葉に詰まりながら、「兄貴はどうしようもないけど兄貴やから」としのぐ。
受刑者はわからず笑っている。
受刑者の中で剛志だけは、顔の前で手を合わせながら、口に出さず、嗚咽している・・・。
このシーンを思い出すだけで、僕は目頭が熱くなる。

山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ。
人気の若手俳優3人が、きわめて真面目に演技している。とても好感が持てる。
「3年B組金八先生」や「男女7人夏物語」「ビューティフル・ライフ」などを演出したベテランの生野慈朗も流さずに、きわめて真面目に制作に当たっている。
「手紙」は娯楽映画とはいえないし、感傷を誘う映画でもない。
けれども、人生は、テレビのバラエティショーに戯画化されるためにあるわけではない。
不可避の運命というのは、多かれ少なかれ、誰にもふりかかる。
まったく理不尽に、ある意味不平等に!
そのことはよっぽどの鈍感でなければ、誰しもうすうす感づいているのだ。
そこに静かに、東野圭吾は、言葉を届かせようとしている。
その緊張感に、役者も監督も観客も、真面目につきあっている。
つきあっている自分自身を、いつもだったらバランスをとるために突き放すだろうに!
なぜか、「手紙」という映画を前にしては、そういう気にはならないのだ。













こちらからもTBさせていただきました。
原作では、直貴の進む道はお笑いではなかったんですよ。
なので、映画のその設定に「ん?」となる方も
少なからずいるように思います。
(私もです^^;;)
それでも、あの涙のラストシーンには
そういった疑問も吹き飛んでしまいましたけど^^;;
kimion20002000さんも、主人公の周囲の人と同じ立場に
立たれたことがあったんですね。
急な状況に言葉に詰まる状態、すごくわかる気がします。
原作は、ミュージシャンでしたね。
劇中も、違和感ばかりがあったんですけど、まあ、慰問のシーンはうまく創作されていましたね。
トラックバックありがとうです。(*^-^*
弟(直貴)が慰問の漫才を通じて
兄(剛志)の存在を受け入れた意志を伝えるクライマックスが印象深く、
今でも余韻が残っています。
不器用な兄をもった直貴が直貴自身なんですよね。
山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカは真摯に演じていましたね。
これからの日本映画を支えていく存在になりそうですね。(*^-^*
山田孝之は「電車男」よりずっとよかったです。
玉山鉄二はいい「やつし方」をしていました。
沢尻エリカの関西弁はずいぶん非難されているようだけど、僕は気になりませんでしたね(笑)
私は映画しか観ておりませんが感銘を受けました。毎年観た映画のランク付けをして楽しんでいますが、昨年観た日本映画の中ではナンバー・ワンです。
ご自分のランクづけで1位ですか。それはすごいですね。
この映画は、やはりテーマの設定だrと思うんですね。
真面目に撮ってありますけど、映画そのものは一流ではありません。
けれども、突き動かされるという意味では、僕も衝撃でした。
東野作品苦手ですが、この映画に関しては泣いてしまいました。
原作も読んでみようかな?
そうですね。これは、原作も十分に、感情移入できる作品だと思いますよ。
TB、コメントありがとうございました!
「手紙」の感想から派生した独り言のようなものだったので、驚きました。(笑)
映画は芸人になっている設定がうまいなぁと思いました。
他がわりとシリアスなので、直貴の苦しい状況と対比されてる感じで…。
映画も原作も、クライマックスに涙すると同時に色々考えさせられて、良い作品だと思います。
良心的な作品ですね。
映画も、小説も。
原作は読んでいませんが,お笑いを一方の軸に持ってきたことは成功だったのではないかと思っています.
もっとも関西系の人からは,お笑いそのものが寒いという厳しい評価もあるようですが.
いずれにしろ良い映画だったと思います.
いくつか脚本的にはきついところもありましたが、役者たちは頑張ったと思いますね。
kimon20002000さんのような経験はないのですが、
ど〜しても強く感情が入りすぎてしまいます。
ラストの歌は、「感情」にさらに追い討ちをかけますねぇ(笑)
お笑いにして正解でしたね。
俳優に下手くそな歌を歌わせたり
歌手に下手くそな演技をさせずに済みましたから(笑)
松竹新喜劇とかでも、笑いと涙は近いものがあるので
笑わせて感動にもっていけたのも良かった。
でも原作ファンが多いですからね、設定の変更には、スタッフも結構、勇気がいったかもしれないですね。
星は6つであるのに、「感情移入した作品である」と仰られる。これはなかなかできることではありませんから。勿論個人的な経験がなされる部分もあるのでしょうが。
僕の6点も実はそう低くないのと同様に、kimionさんにとっても決して低い点ではないのでしょう。「映画としては一流ではない」が、心を打つものがあるので6点ということなんですね。
>関西弁
その地方に住む方にとって非常に気になるものでしょうが、そんなものはどうでも良いんですよね。
結局彼らが生活している場所が関東ではないということを示すのが重要。
映画のリアリティとは【現実らしさ】であって、現実そのものではない・・・というのが僕の主張です。
★1から★3というのは、なぜ、個人的には駄目だと言いたいのかを、あえて力説します。
★7から★9というのは映画としての力量もそうですが、個人の勝手blogですから、自分のツボということを、偉そうにおしゃべりしたくなる対象作品です。
★4から★6というのが、実はいちばん微妙なんです。オカピーさんと異なり、僕がレヴューする作品は
結果として7、8本に1本です。
このあたりは、自分では実は一番冷静に、作品やテーマを客観視したいなあ、と思っている作品群のような気がします。
★10は、今後の人生の楽しみのために、席を空けています(笑)
平凡な人間がふと犯してしまった罪が、これほどの波紋を呼ぶとは誰も思ってもいません。深く考えさせられた作品でした。
重いテーマですけどね。
じっくりと、心にしみる原作です。