
2001年9月11日。ニューアークの空港から、離陸準備を整えたユナイテッド航空93便は、40名の乗客を乗せ、サンフランシスコへ飛び立った。その直後、ワールド・トレード・センターに2機の民間機が激突。その頃、ユナイテッド93便の機内... 続き
そのとき僕は、事件も知らず、香港からの帰国便に搭乗していた。
9.11から5年である。この歳月が、映画として、きわめてノンフィクション風に再現されるということに対して、あまりに短かすぎるかどうかはなんともいえない。
9.11の真相に関して、いくつもの委員会が開かれ、関係者の証言が集められ、また、多くの疑念も出されるようになった。
今後まだ解明されていない新事実が明らかになるかもしれない。現在までの推論(たとえば、ユナイテッド93便でなにがおこったのか)も、根本から見直さざるを得なくなるかもしれない。
一方で、残された遺族にとっては、まだ、客観的に見直したり、ドキュメント風に再現されたりすることに、とても耐えられないという思いがある人も存在する。
また、9.11を契機として、アメリカは「対テロ封じ込め」という「大義名分」のなかで、メディアを統制し、法律を次々と非常時対応のように修正し、アフガニスタン、イラクなどに対して、「世界の警察官」を自認することで、先制攻撃をしかけた。「9.11を忘れるな!」が合言葉である。そのような歴史の中では「9.11」を作品化するときも、きわめて政治的なメッセージを含まざるをえないことになる。
こうした要素を並べあげていけば、この「ユナイテッド93」という映画の製作にあたっては、関係者には相当な覚悟が、必要であったはずだ。

ポール・グリーングラス監督は、もともとドキュメントを学んできた英国出身の映像作家であるが、1972年の北アイルランドの13人の死者を出した公民権デモ(「血の日曜日事件」)をドキュメンタリ・タッチで描いた「ブラディ・サンデー」(92年)で、ベルリン国際映画祭金熊賞を授賞し、世界に注目された。そこから、あのハリウッド大作でありながらも社会派的なテーマ設定とクールな演出で絶賛された「ボーン・スプレマシー」シリーズにいたることになる。
ポール・グリーングラス監督以下のスタッフが、この映画を、膨大な関係者への取材によって構成したであろうことは、よく伝わってくる。なによりも「遺族」がはたしてこの映画を受け入れてくれるのだろうか?その自問から製作はスタートしたはずである。

あの日、ハイジャックされた4機の航空機。そのうち、3機は、ワールドトレードセンターの北棟と南棟そしてペンタゴンに「目的を持って」突入した。残る1機がユナイテッド93便だ。乗客・乗務員は44人。ニューアークを出発してサンフランシスコへ。ハイジャック後、操縦室を乗っ取られた機体は旋回し、突入地点を目指した。
乗客たちは混乱の中で、ワールドトレードセンターやペンタゴンに「自爆」したという非常事態を知ることになる。そして、この機もどこかに突入するであろうことも覚悟する。地上の家族に「愛しているよ」と最後の連絡を取りながら、一部の乗客と乗務員はハイジャック犯と対決し、操縦桿を奪還しようとするが・・・・。
この機内の(現在の証言で構成された)再現と、史上最悪の日を迎えたハーンドン連邦航空管制センターのたったふたつの地点にのみ限定して、この映画のセットは組み立てられている。
冒頭のハイジャック犯たちのアパートで最後の祈りを捧げるシーンや、乗務員の機体に乗り込むシーンを除いては、ほかに挿入されるシーンはなにもない。
ブッシュもビン・ラディンも迎撃のための戦闘機もエアフォースワンの出動もパニックに陥っているマスコミや国民ももちろん乗客の家族も、徹底してなにも映し出されないし、編集もされない。
徹底して93便と管制センターだけである。ワールドトレードセンターへの突入のあの何百回とみた映像も、管制センターのモニターに映し出されたニュース映像によってのみ、簡単に提示されるだけである。
この徹底した再現対象の絞込みと、時間を忠実に追っていくこと(回想はない)により、意図的なドラマ性(ヒーロー物語や犠牲者物語)を排除しようというスタッフの考え抜いた「誠実さ」が伝わってくる。

数人のハイジャック犯に対しても、きわめて冷静に、怯え、興奮し、神に祈る犯人像を感情抜きに等身大で描いているように見える。
9.11の解明されない謎に関しては、ようやくさまざまな書物や報告書が出始めている。出版妨害も多かったため、当初はインターネット上で疑問点が論議された。
いくつもあるが、この作品でも、結果的に「何故?」というような事象を挿入している。(もちろん、この映画ではそれが背後にある権力の陰謀であるといった告発にとられないように配慮しているが)。
この作品に即して言えば、疑問は次のことに尽きる。
「4機が、ハイジャックされているにもかかわらず、規定に反して、米空軍戦闘機は緊急発進していない。これは、米国政府と米軍の最高レベルでの決定なしではありえない」。
ワールドトレードセンターへの突入の4分後、軍の上層部は事態を知ったという。こんなことはありえない。そして、そのとき、戦闘機は160kmも離れた遠方にいた。これも、ありえないことだ。
陰謀を追求するものたち(多くはアメリカ国内の科学者や専門家である)は、さらに議論を進める。
ワールドトレードセンターの2棟への衝突ができうるパイロットなど存在しない。地上からの誘導だ。
ビルは粉々になったが、これはあらかじめ大量の爆薬をしかけておいたものとしか考えられない。
ユナイテッド93便の墜落は、2機の戦闘機によって撃墜されたものである。
高速飛行する飛行機から地上への携帯電話による会話はありえない・・・などなど。

僕はあの日、香港から最終便で成田に着いた。直後に、すべての空港は閉鎖された。
たぶん、僕がまだ飛行機に乗っていた頃、ユナイテッド93便の乗員・乗客たちは、この映画で再現された「あの時間」に遭遇していたのである。













その最後、飛行機の中でケータイが繋がらないと言うの、ほんとうですか??
すぐに実験出来ることですよね。
以前、遺族に残されたメッセージを元にしたドキュメンタリー風の番組を見たのですが、
けれど証拠物を積み上げていっても、決してわかることのないものは、その場にいた人々の気持ちなのでしょうね。
映画で描かれたものはフィクションが混じっているのでしょうが、「ある見方」として頷けるものでした。
ところで、こちらからTBが送れないようなので(実は遅れているだけかもしれないです)、また時間を置いてトライしまーす。
弊ブログへのトラックバック、ありがとうございました。
こちらからもコメントとトラックバックのお返しを失礼致します。
現実的に描いたこの作品は、心に強く迫る仕上りであり、9.11事件を起こすに至った歴史や背景をもっと考えるきっかけとなる、一本であったと思います。
また遊びに来させて頂きます。
ではまた。
携帯に関しては条件によりますね。
国家安全保障局のある電子工学の専門家は離陸時や着陸時は別として、非都市部においては時速500マイルでは、地上のトランスポンダー(送受信機)とつながることはありえないと、証言しています。その他、疑問点は、数多くあり、これは、インターネットなどで指摘されています。
>ちかさん
この作品は、とにかく遺族の立場に立って、いま考えられる再現をとても良心的にやっているなと感心しました。
>たろさん
歴史と背景が必ずあります。
9.11によって、この数年間で誰が一番得をしたのか、そのことを冷静に考えてみるべきだと思います。
記事を読ませていただき、とても参考になりました。
ワタシは、あの時、いつものようにNHKのニュースを見ていて、二回目はリマルタイムで見てしまいました。
いまだに記憶に焼きついてます。
どこかで、本当の真実は、遺族、関係者の悲しさだけなのかもしれない、と思ったりすることがあります。
いったい何が真実なのか。
結局は明かされないままに終わるのでしょうか?
こうした国家レベルの戦いが、いつか終わることを夢見る事さえも、まだまだ先に延ばさなくてはならない現状が悲しいです。
最近私のブログタイトルを少しだけ変えましたが、これからもよろしくお願いいたします。
この映画、9・11の陰謀説を何も知らなければ、
素直に感動&感心したのですが、陰謀説を知って
しまうと、何か距離を置いて見てしまう、そんな感じに
なります。
ただ、映画としては、ドキュメント風に描いているし、
見応えがあるので、何とも複雑な心境です。
というわけど、「ワールドトレード・センター」は
まだ見ていないんです。
20世紀は戦争の世紀でしたが、21世紀も、でしょうかねぇ。
でも、この映画は、「国家」の問題を慎重に避けて、遺族のために制作するという視点を貫いていて、好感が持てました。
凄い映画でしたぁ。
ただただ見入って、終わった時には完全に放心状態でした(^^ゞ
余計な描写、不確定過ぎる憶測を排除してこの事件に真正面から向き合ったのが正解でしたね。
でも、もう一度は観たくない・・・
てか、観れないです(^^ゞ
ではでは〜、これからもよろしくお願いします♪
有名な俳優を使わずに、ひたすら乗員・乗客のプロフィールから役者を探し、現役のパイロットや管制官にも出演を仰いだというキャスティングに、映画作りの姿勢が現れていました。
まるでホラーでした…
TBありがとうございました。
さて、この映画は観た後に考えさせられる映画でしたね。
私もこの映画は特別なヒーローが作られたわけでもなく、
起った事実を誠実に表現された映画だと感じました。
またテロリストについても、決して「悪者」という観点だけではなく、
ひとりの人間として描かれている点にもこの作品は好感が持てました。
(いろいろ疑問点はあると思いますが。)
また遊びに来させてくださいね。宜しくお願いします!
(こちらからもTBつけさせて頂きました。)
あくまでも、推測のもみあいシーンですけどね。
でも、あのとおりだとしたら、操縦桿をもちあげる可能性もあったんでしょうかねぇ。
ここで、有名な俳優が出てくると、やっぱり活劇になっちゃいますからね。
キャスティングには、とても気を使ったようですね。
TBありがとうございました。
>意図的なドラマ性(ヒーロー物語や犠牲者物語)を排除しようというスタッフの考え抜いた「誠実さ」
この点がこの映画の美点であり、映画を奥深いもの
していると、私も感じました。
この作品には想像による虚構の部分が数多くありますが、
今、世界に起こっている、戦争やテロについて、
深く考える機会とヒントを与えてくれる作品で
あることには変わりがないと思います。
真摯な態度ですね。
ドキュメントの映画祭などで、この作品が特別招待されたのも、わかりますね。
僕とはまた違ったアプローチをしているので興味深く読ませていただきました。93便については様々な説があるようですが、真相は依然はっきりしないので詳しくは調べませんでした。ですから、地上からの誘導説にはびっくり。携帯が通じないというもの初めて知りました。この先何が出てくるか分かりませんね。
でも、映画そのものの迫真性はかなりのものでした。ただ、ご指摘のように現場に焦点を絞ったために大状況が見えてこないというのが僕の不満です。
僕は極端かもしれませんが、9.11に関しては、アメリカ指導部は、テロを誘導し、実行を予知しており、支援ないし主導したというように推測しています。
その後の戦争で、600兆円が費やされています。
そこで、益を得たものが、仕組んだことであり、もしかしたらブッシュもアメリカの産業も、利用されていたのではないか、という妄想ももっています(笑)
大状況というのは、どう描くかということで、すべて変わってきます。本当の歴史的真実というのは、数十年から百年を経過しないと、表面化してこないと思っています。
数々の陰謀説や自作自演説が飛び交うようになった今、あらためてこういう視線で事件と向き合うことができたのは私自身にとってよかったような気がしています
9.11で、ナショナリズムをかきたてられた当のアメリカでさえ、現在、政府発表に不審を抱いている人が、半数近くを占めるといいます。
私は自宅でTVでみました。
2機目が突っ込んだのをTVから少し離れていた私以外の家族は直接見ていました。 にわかには信じられませんでした。
そうですね。20世紀の最大の衝撃映像かもしれませんね。
情報公開法ではありませんが、実際のところその真相がみえるには、半世紀はかかるでしょうね。
終戦直後に起きた日本の鉄道事件もアメリカ絡みという説があり、とにかく米国が恐ろしい国であることは間違いないです。
欧米では既に全米同時テロから始まった「テロとの戦い」という表現は使っていないそうですね。というのも彼らの行動自体が彼ら自身の定義したテロに当てはまってしまうから。
「テロとの戦い」という表現を使っているのは日本だけだそうで。日本政府は勉強不足です。
僕も「トンデモ陰謀論」を振りかざすわけじゃないんです。いろいろ、情報を比較するのは、好きですけどね。でも、マスコミ論調で、簡単に誘導されちゃうのだけは、腹が立ちます。
遺族にとっては,肉親を失った哀しみは同じなのでは,とも思います。
しかし,これがテロでなく陰謀なら許し難いことではありますね。
それにしても,kimionさん,あの日飛行機に乗ってたんですか!
陰謀かどうかはわかりません。
でも、発表を、鵜呑みにだけするのも、疑問なんですね。