サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

mini review 05111「人生は、時々晴れ」★★★★★★★★☆☆

2005年11月14日 | 座布団シネマ:さ行

タクシー運転手のフィルは、スーパーで働く妻ペニー、老人ホームに勤める娘レイチェル、そして無職の息子ローリーの一家4人で、ロンドンの集合住宅に住み、質素な生活を送っている。娘は決して心を開こうとはせず、息子は反抗的な態度を崩さない。結婚生活の長い妻とも深い溝を感じてしまう今日この頃。すっかり、家族らしい会話もなくなっていた。それはフィルの家族だけではない。同じ集合住宅に住むフィルの同僚やペニーの同僚もやはり家庭内に問題を抱えていた。そんなある日、予想もしない悲劇がフィルの一家を襲う…。

退屈な日常ゆえの退屈なドラマを描いた傑作。

格好のいい、美男美女は誰も登場しない。
とりたてた事件がおこるわけではない。
サウス・ロンドンの陰気な団地。下層労働者の住むこの団地の暗鬱な日常である。

主人公フィル(ティモシー・スポール)は、くたびれて、不潔で、自分の仕事に誇りも持てず、客の勝手なおしゃべりにうんざりしながらつきあっている、太っちょのタクシー運転手。
その妻ベニーはスーパーで働いているが、家族にうんざりしており、とげとげしく当り散らす。
娘レイチェルは老人ホームに清掃員としてつとめているが、職場でも自宅でも無口で、これまた巨体を持て余しているようだ。
息子のローリーは生意気な口をほざくが、無職のひきこもり。



この太っちょ一家以外にも、この団地にいるアル中の母親とストーカーに言い寄られる娘や、暴力的な若者の子供をみごもってしまい悲嘆にくれる母子も登場する。
ひたすら夢のない、貧しい、しかし、どこにもありそうな、家族たち。

ある日、フィルはふっとタクシーを海に向ける。
外部との連絡を切って、プチ家出をする。
たまたまその日、ローリーは呼吸困難で病院に運び込まれ、かけつけたベニーはやきもきし、帰ってきたフィリに当り散らしてなじる。
黙って聞くフィルだが、とうとう、ベニーに泣きながら本音をぶつける。
「おまえに俺の気持ちがわかるのか?」
孤独な胸のうちを語るフィル。
ベニーも自分の孤独を嘆くだけで、他人の気持ちに入っていかなかったことを悔いる。
そして、初老の夫婦は、ひさかたぶりに、抱擁しあう。



美しい抱擁ではない。
鼻水がたれ落ちるようなぎごちないしかし長年おさえていた感情が発露した抱擁だ。
それでも、ほとんど解体していたこの家族に、本当に少しだけ、温かい風が吹き抜ける。

1996年のこの巨匠の作品「
秘密と嘘」には、とても感心した。
若い時の過ちで黒人の血が入った子供を生んでしまった女性。
その黒人以外にも、認知していない子供がほかにも。
女性は家族のパーティに、その子供を呼んで、周囲に告白する。
その女性をかばう弟役で、今回のフィル役のティモシー・スポールが出ていた。

小津安二郎を信奉するマイク・リー監督。
しかし、小津とは対極に、この監督は徹底したディスカッションを経て、俳優自身が演技のリアリティをつかむことを方法論としている。
極論すれば、脚本ではないのだ。
俳優がその性格になりきることで、所作が生まれるということだ。




娘役を演じた女優さん。
100kgはありそうな巨躯でもっさりと清掃を続け、話しかけられても沈黙している。
老人患者に誘われたりもする。興味なさげだ。
だけど、彼女は、いちばんちゃんと家族の解体を観察してきている。
その哀しみが、息子の入院事件以来、少し、絆が戻ることを確認することで、薄らいでいく。
なにかセリフを発するわけではない。
しかし、自分の役柄をきちんと見据えた見事な彼女に象徴される演技が、退屈なドラマゆえの「リアル」に僕たちを導いていくのだ。

『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント (10)   トラックバック (10)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« mini review 05110「甘い人... | トップ | ウーマンリブの日 »
最近の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつもありがとうございます (ゴブリン)
2005-11-14 13:52:05
 TBありがとうございます。

 この映画地味ですが滋味がありますね。なんて、いきなりおやじギャグですいません。僕としてはケン・ローチとマイク・リーは現代イギリス映画界の2大巨匠だと思っています。いずれも暗くて重たいのですが、庶民生活に対する温かい目が感じられて共感できますね。

 いつもTBやコメントを頂きありがとうございます。遅ればせながら、お気に入りブログに加えさせていただきました。

 これからもよろしくお願いいたします。

ゴブリンさん (kimion20002000)
2005-11-14 14:40:53
いやあ、いつもゴブリンさんの映画評感心しています。

この映画もほとんどblogなしで、結局、ゴブリンさんだけでしたね。きちんと、blog批評されているのは。これからも、お勉強させてくだされ。
秘密と嘘 (やのすけ)
2005-11-14 14:44:31
あ~懐かしいと思って、目にとまりました。いい映画でしたね。人間愛ってこういうものだなと思った記憶があります。



「人生は時々晴れ」も新聞で見てそのうち見ようと思って忘れてしまっていました。



探してみます。
やのすけさん (kimion20002000)
2005-11-14 14:50:59
こんにちは。「秘密と嘘」はずいぶん前なので、ブログしてませんが、とても感心した映画でした。
マイク・リー (マダムS)
2005-11-14 22:30:08
こんばんわ

拙い文章で恥ずかしげもなく感想書いてます。

「復讐者に憐れみを」も鑑賞しました・・ボソッ

マダムSさん (kimion20002000)
2005-11-14 22:57:51
こんにちは。

なんかいつもマダムSさんのブログみていると、勇気起きてくるんですよ。本当に。なぜだろう。・・ボソッ
人生は、時々晴れ (takayuki)
2005-11-15 03:10:41
TBありがとうございます。

「人生は、時々晴れ」は、初めて触れたマイク・リーの作品です。この人は家族というテーマを容赦なく掘り下げますが、そうできるのは常に優しい視点を持ってるからこそだと思います。ここまでまっとうに取り組んで描ける人って少ないですよね。

実はまだ「秘密と嘘」は見たことないので、早く見てみたいです。
takayukiさん (kimion20002000)
2005-11-15 08:06:06
こんにちは。

中流から下層階級の本当の生活ですね。

政治色が強いといわれたこともありますが、単純なものではないでしょう。

サッチャー政権による下層のしわ寄せを、淡々と描いています。しかも、家族のドラマとして。

こんにちは (satty)
2006-05-27 12:53:04
TBありがとうございました。

「秘密と嘘」は気になっていたのですが、

良さそうですね。観てみようと思います。



この映画、観ていてあまりハッピーになれる映画では無かったけど、母親以外が全員巨漢というのが何象徴しているようで面白かったし、淡々とした生活がどこかリアルでした。実は奥が深そうですね。。
sattyさん (kimion20002000)
2006-05-27 13:04:44
コメントありがとう。

この監督らしい、微妙にひいたカメラで、一定の距離をとって、しかし、温かく対象に、対峙しています。

コメントを投稿

座布団シネマ:さ行」カテゴリの最新記事

10 トラックバック

マイク・リー2本 『秘密と嘘』、『人生は、時々晴れ』 (Brilliant Days)
久々に映画の感想を・・ 最新作「ヴェラ・ドレイク」が現在公開中のイギリスの監督=マイク・リー 主演のイメルダ・スタウントンが、今年のアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、「誰だろう?」「その演技を引き出す監督とは?」状態で注目しました。 そういえば、度
【イギリス】 労働者階級の若者 【映画】 (毎日の糧としてのシネマ)
デヴィッド・シューリスのデビュー作「ブルーム」を観ていて、各年代のワーキングクラスな若者映画の代表的な役者を思い浮かべてみた。あんまり無名なところまで挙げるときりがないので、「ぴあシネマクラブ」に載ってる俳優に限定。 1960\'s アルバート・フィニー
「人生は、時々晴れ」 (花太郎♀の日常)
2002年 イギリス/フランス あのね、この映画ね、出演者全員がブサイクでしたっ(笑)。 なのでラストのキスシーンはね、見たくなかったデス。 やっぱりキスシーンはきれいなもの見たい。。 あ、ストーリーはね、よくある話が淡々と進むだけなんですけどね。 まあ、飽
人生は、時々晴れ (映画君の毎日)
アミューズソフトエンタテインメント 人生は、時々晴れ 題名がずっと気になっていた。 3組の家族の日常を淡々と描いた映画。 主になる家族は実はすでに家庭内崩壊しているが、 それに触れずにそれぞれ生きている。 とある事件後にそれが浮き彫りになりぶつ
『人生は、時々晴れ』 (愛すべき映画たち)
All or Nothing(2002/イギリス・フランス) 【監督】マイク・リー 【出演】ティモシー・スポール/レスリー・マンヴィル/アリソン・ガーランド 今回は『秘密と嘘』に続いて2本目のマイク・
映画@人生は、時々晴れ (sattyの癒しのトビラ)
夢も希望も、しかし絶望も無いイギリスの低所得層の リアルな日常生活、どこか近所にいそうな、3つの家族 大事件や劇的なドラマは起こらない ひたすら淡々と追ったホーム・ドラマ タクシー運転手として日々坦々と過ごすフィル 妻ペニーは、スーパーで働き苦しい ...
「人生は、時々晴れ」 (シネマ・ワンダーランド)
「秘密と嘘」で1996年カンヌ映画祭グランプリを受賞した英監督、マイク・リーが2002年に撮ったヒューマン・ドラマ「人生は、時々晴れ」(原題=All or Nothing、英仏、128分)。この映画は、英国ワーキング・クラスの家族を徹底したリアリズムで描き、 ...
我流映画評論 ~人生は、時々晴れ~ (GFL BLOG|ジフルブログ)
人生は、時々晴れのストーリー タクシー運転手のフィル(ティモシー・スポーン)ら、サウスロンドンの集合住宅で暮らす3組の家族は、皆がそれぞれの事情を抱え、孤独な想いを拭えないままでいた。そんな中、フィルは突然海を見に行こうと思い立つが、ちょ ...
人生は、時々晴れ (映画&音楽マニア)
「ロイヤル・セブンティーン」を観たあとに観たからか、イギリスってほんと階級社会で、上と下の差はとてつもないほど離れてるんだなぁということをひしひしと感じてしまった。サウス・ロンドンの団地を舞台に、日々の生活に疲れ、無気力に生きている3家族の様子 ...
人生は、時々晴れ:映画 (映画好きのレビューブログ:ムービーラボ)
今回紹介する映画は、マイク・リー監督、ティモシー・スポーンの熱演が光るイギリス映画の秀作「人生は、時々晴れ」を紹介します。 人生は、時々晴れ:ストーリー タクシー運転手のフィル(ティモシー・スポーン)ら、サウスロンドンの集合住宅で暮らす3組の家族は、皆...