サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 09391「悪夢探偵2 」★★★★★★★☆☆☆

2009年09月18日 | 座布団シネマ:あ行

塚本晋也監督が松田龍平を主演に迎え、他人の夢に入ることができる青年の活躍を描くサイコ・スリラー『悪夢探偵』シリーズ第2弾。依頼人の悪夢に登場する怖がりな少女に、極端に怖がりだった亡き母の面影を見た悪夢探偵が、彼女たちを救うために奮闘する。ヒロインは、300人を超える応募者の中から選ばれた期待の新星・三浦由衣。共演には『誰も知らない』の韓英恵、『イン・ザ・プール』の市川実和子、ベテラン光石研ら実力派が名を連ねる。[もっと詳しく]

「恐怖」とはある意味で、実存の本質である。

『悪夢探偵』が、塚本監督自身の小説から映像化されたのは2007年のこと。
独特のテーマ設定、映像表現で、内外にカルト的なファンも多い塚本監督だが、この『悪夢探偵』には深く揺り動かされるものがあった。
(たぶんそんな観客がたくさんいると思うのだが)この作品は、まるで自分のために創られたのではないか、と大袈裟に言ってみれば、そう思ったのである。
「悪夢」とはなにか?
定義するのは優しいことではないが、以前このレヴューでなにかの作品にかこつけて書いたことがあるが、小学生の半ばから10年近くの間、僕はほぼ毎日のように、「金縛り」を経験している。
「金縛り」という心身現象は、医学的には睡眠麻痺と呼ばれている。
一般的にはレム睡眠時に、全身は脱力しているが、脳(意識)は覚醒しているという状態であり、全身の随意運動が一瞬にして不可能となる。



WIKでは「金縛りが恐怖を引き起こす理由」として以下のように書かれている。

金縛りを初めて経験する者、経験が少ない者は、経験した事の無い前駆症状や、全身が動かなくなる独特の感覚から、金縛り現象を底知れぬ恐怖に感じる。特に、閉眼型の金縛りに掛かっている時には、僅かに思い浮かんだ事が過剰に増幅されるという特性がある。しかし、この特性を逆に利用し、たとえば、意図した人物との性的な事などを考えると、その人物が実際に現れたように感じたり、覚醒時には味わえないような驚くほどの強い快楽を得る事も可能であり、金縛りを楽しみにしている者も少数ではあるが存在する。ただし、実際に行ってみるとわかるが、金縛りの経験が少ない者は、容易に恐怖が上回ってしまい難しい。金縛り経験が豊富な者向けの高度な遊びといえよう。 対して、開眼型の金縛りでは、幻覚が出る事が無く、基本的に恐怖感は持たないものの、独特の違和感や、随意運動ができないことから不快感を抱く例が多い。

僕の記憶では閉眼型の場合、多くの体験談などで記録されているように、圧迫感を感じ、もちろん、人が上からかぶさってきたり、髪の毛が首に巻きついたり、といった「幻覚」を見ることがよくあった。
よく、部屋に怨霊がとりついているといわれるが、「金縛り」が因する「幻覚」も、そのひとつの現象であるのかもしれない。
そして、開眼型といわれるものも、何度も経験した。
これは、夜に寝床で、ということには限らない。
授業中であろうが、図書館で本を読んでいるときであろうが、テレビを見ながら周囲に家族がいるときであろうが、発現するのだ。
「白昼夢」といわれる現象も、これに近いのかもしれない。
周囲の状況はよくわかっている。けれど、体はいっさい動かすことはできないし、「助けて」と声を出すことも出来ない。
これはまた、違った意味の恐怖を引き起こすこともある。



僕の場合は、「金縛り」という現象に合わせて、「墜落夢」という現象が共存して起動する。
これは底なしのブロックホールに吸い込まれるというような体感であり、底が見えない果てしない落下(実際は30秒ほどのものなのだろうが)は、眩暈をもよおし、また不安感からの底知れぬ恐怖に包み込まれることになる。
逆に「金縛り経験が豊富な者向けの高度な遊び」ということもよくわかる。
何年もすると、ある程度は「金縛り」をコントロールすることができる。
ということは、「夢」を操作することも出来る場合があるということだ。
たとえばそれが「性夢」に近いものだとすれば、その快楽を連続的に繰り返し体感することができる。
もちろん、いまそういう現象を引き寄せているということは、とても明確に意識している。
あるいは、「夢」の文法というものは、現実の時空の制限を歪めたり無化したりすることが出来る。
このことは、ある意味で、とてつもなく文学的な体験でもある。



「金縛り」ということとは少しまた異なるのだが、僕は「夢の続き」を見ることが得意である。
入眠の直前に、いままで見ていた夢を脳裏に画像化する。そして、半ば無意識に思いを込める。
そうすると、夢の続きが、10回も20回も一晩で見ることが出来る。
逆の意味合いもある。
夢から醒めて、「ああ、夢だったのか」と残念がったり、あるいは「夢でよかった」と安堵したり・・・すると、すぐ夢の続きに入り、実はほんとうは夢から醒めていなかった、ということに気づく。
つまり、いま見ているのは夢なのか、夢から醒めた現実なのか、その境目が限りなく曖昧になるのである。
よく、犯罪者が「なにか夢を見ているようでした」「気がついたら血だらけのナイフを握っていました」というような、ある意味で統合失調症を疑わせるような証言をすることがあるが、僕などはそういう記述に突き当たるたびに、自分の体験を重ね併せて、ゾクっと震えることがあるのだ。



「他人の夢に入り込める」という特異な能力を持った影江京一(松田龍平)。
シリーズ1作目の『悪夢探偵』では、自殺志願者に入り込みその夢を操る犯罪者がいる。
担当刑事である霧島慶子(hitomi)に依頼され、自分と同じような能力を持った犯人と京一はそれぞれの「悪夢」のなかで対峙することになる。
この京一というキャラクターは颯爽とした探偵ではなく、ある意味でダークヒーローの性格を負わされている。
「いやだ、いやだ、いやだ」というのが京一の口癖。自ら望んで依頼を受けるのではなく、巻き込まれるように不可避的に人の「悪夢」に入り込む羽目に陥ってしまい、そこで、絶望し、傷つき、苦しむのは京一なのだ。
2作目の『悪夢探偵2』では、京一の幼児期の原点に遡ることになる。
続編というよりは「悪夢探偵ビギンズ」の位置づけである。



事件解決の依頼(悪夢祓い)ということより、京一自体が繰り返し見る悪夢から物語は始まっている。
それは、京一の幼児時代の母逸子(市川実和子)をめぐる悪夢である。
逸子は「人の考えていることがわかってしまう」という体質を持っており、そのことで苦しめられている。
つまりは、周囲の人間たちの「悪意」や「邪心」や「憎悪」などもわかってしまうということであり、生者だけでなく、空間に偏在する亡霊や、自然の精霊や怨霊の存在も、感知することになる。
要するに「見えてしまう」というやつである。
そして「怖い、怖い、怖い」と怯え続けることになる。
その体質は、実は京一にも受け継がれており、京一は夜が怖くて眠れず、緊張してトイレに行くことも出来ず、夜尿症からも抜け出すことが出来ない。
逸子は、京一に受け継がれた体質にも絶望し、恐怖のあまり、人を傷つけ、京一をつきはなし、そして最後は父滝夫(光石研)の心配も虚しく自殺することになる。
このことが京一のトラウマになっている。そして悪夢から抜け出せず、絶望し、誰にも言えず孤独になっている。
自分は、母親に、憎まれていたのか?



ある日、女子高生の間城雪絵(三浦由衣)から、夢の中で菊川夕子(韓英恵)が出てきて眠れないので追い払って欲しいという依頼を受ける。
どうやら、雪絵は同級生である睦美、アキ子とつるんで「怖がり」の菊川を誘い出して体育倉庫に押し込め、それ以来、菊川は自宅に引籠もり、苛めた3人は悪夢に魘されるようになったらしい。
「自分の悪夢」で精一杯の京一は、「いやだ、いやだ、関わりたくない」といい、ちゃんと謝ればいいんだ、と雪絵を追い払う。
雪絵の悪夢は収まらず、睦美、アキ子は不審な死を遂げる。
「怖がる女」ということに、母逸子と菊川に共通点を感じた京一は、雪絵の悪夢に入り込むことになるのだが・・・。



「恐怖」とはある意味で、実存の本質である。
「悪夢」はそれが夢の文法を伴って、表出したものに過ぎない。
けれども、「実存の本質」を覗き込むことは、自らの「闇」を覗き込むことだ。
そのことを普通は人間は、やり過して生きていく。
けれど、「見えてしまう」「聞こえてしまう」資質を持った人間たちは、無限ループのような悪夢に苛まれることになる。
その「闇」は、自分の無意識の深い深い底にとぐろを巻いている。
絶望や孤独に身を震わせることになる。
しかし、逆に言えば、その「闇」に入り込まなければ、その先は見えない。
菊川はスケッチノートに暗黒絵のような「見えた世界」を書き殴る。
そのノートをめくりながら、京一は母を思い、自分を思う。
なんという孤独な少女、そして可哀想なかあさん。



しかし、少女のスケッチノートの終盤には、優しい光が現われる。
「闇」の先に、救済の光が見える。
京一は、「悪夢」のなかで、恐怖に泣きじゃくる菊川を抱きしめる。
そして、母逸子と再会する。
母と父は、あんなに愉しそうに寝入ろうとする京一を見て、笑い転げている。
そして、暝いなにもない古ぼけた自分のアパートで、母を見る。
「なにが欲しい?」
「ハンバーグ」
母は、嬉しそうに、ひき肉とみじん切りにしたタマネギをこね合わせ、フライパンでおいしそうに焼いて、付け合せの野菜を綺麗に盛り付けて、ふたり分を用意する。
京一は、「夢なら醒めないで欲しい」というように、何回も何回も母の姿を、振り返って確認する。
母は自分を愛してくれている!
そして・・・夢から醒める。殺風景な台所がそこにある。
しかし、母の姿は、目に浮かんでくる。
京一は、顔を歪めて、嗚咽する。
これからも京一は「悪夢」から解放されることはないかもしれないが、もしかしたら、「悪夢」の先から、溢れるような光が満ちてくれるかもしれない。

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「ヴィタール」




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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2010-08-16 20:58:36
実に神秘的な体験をなさっているんですねえ。
僕はそういうことには全く縁がなくて、理解の程度には差があると思いますが、終盤の幻想(夢)にはジーンとさせられました。
塚本晋也の映画で泣かされるとは(笑)。

僕の母親は若い頃は幽霊を見たり(その翌日叔父さんの死の報告を受けたとか)、予感が働いたり、面白い人でしたが、最近は凡人化し全くそういうことがないようです。
オカピーさん (kimion20002000)
2010-08-16 22:47:08
こんにちは。

神秘的か、霊感か、それとも単なる説明可能な心身現象なのか、少し病理の世界に入り込んでいるのかわかりませんけどね。

今でこそ、平気なフリして書いたりしていますが、当時は気が狂いそうであったこともありましたね(笑)

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