竹内貴久雄の部屋

文化史家、書籍編集者、盤歴60年のレコードCD収集家・音楽評論家の著作アーカイヴ。ときおり日々の雑感・収集余話を掲載

ジョン・オグドンの弾くリスト「ピアノ協奏曲」「ピアノ・ソナタ」

2010年03月01日 15時04分43秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の8枚目です。



【日本盤規格番号】CRCB-6018
【曲目】リスト:ピアノ協奏曲第1番
    リスト:ピアノ協奏曲第2番
    リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
【演奏】ジョン・オグドン(ピアノ)
    ジョージ・ハースト指揮BBCスコティッシュ交響楽団
    コリン・デーヴィス指揮BBC交響楽団
【録音日】1983年9月7日、1971年9月18日、1987年10月1日    

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、戦後のイギリスが生んだロマン派ピアノ曲の名手、ジョン・オグドンによるリストの代表作の演奏が収められている。
 オグドンは1937年にイギリスのマンチェスターに生まれた。モーツァルト、ベートーヴェンの権威として知られるデニス・マシューズと、無類のヴィルトーゾ的ピアニストのひとりエゴン・ペトリに学んでいる。1962年のチャイコフスキー・コンクールで、ウラジーミル・アシュケナージと二人同時優勝という、コンクール史上でもめずらしい経歴を持っている。チャイコフスキー、リスト、ラフマニノフなどを得意としており、力強い、芯のしっかりしたロマンティシズムに特徴のあるピアニストだったが、89年に52歳という、まだこれからという時期に惜しくも世を去った。
 2つの協奏曲は、録音時期も、指揮者、オーケストラも異なるが、「第2番」のコーリン・デイヴィスは、現在ではいわゆる巨匠のひとりとして広く知られている。1927年にイギリスのウェイブリッジに生まれ、この録音が行われた頃は、ここで演奏しているBBC響の首席指揮者だったが、後にはドイツの代表的なオーケストラ、バイエルン放送交響楽団の音楽監督に就任している。
 「第1番」で伴奏指揮を担当しているジョージ・ハーストは、1926年にイギリスのエジンバラに生まれた。指揮を、今世紀を代表する指揮者のひとりピエール・モントゥに学んだ。BBCノーザン交響楽団の首席指揮者を58年から68年まで務め、その後はボーンマス・シンフォニエッタの音楽顧問兼指揮者を78年まで続けたが、現在はフリー。(1995.7.22執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 上記の文章があまりにも素っ気ないので、ひとこと。(このシリーズの解説のあり方についても、この時期はまだ試行錯誤をしていた記憶があります。)
 文中でも触れているように、オグドンは早逝の演奏家の部類に入る人だと思います。昨年だったか、英EMIから、未発売のままだった音源も含めた5、6枚組の「オグドン名演集」が発売され、彼の自作の協奏曲や独奏曲まで入っているのに驚いて、あわてて買いました。久しぶりにオグドンの演奏を聴きましたが、チャイコフスキーの協奏曲第1番など、感情の大きな抑揚に、しっかりとした芯の通った演奏で、やはり、惜しい人を早くに失ったと改めて思いました。今回の付記を書くにあたって、このBBC盤は改めて聴き直していませんが、演奏会記録の放送録音ならではの自然な音楽の運びが、この人のピアノのタッチと曲想にマッチしていて、生き生きとした切れのよい音楽を堪能した記憶があります。