ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

ユダヤ139~コミュニタリアニズムとコスモポリタニズム

2017-12-17 08:48:26 | ユダヤ的価値観
集団的自由主義としてのコミュニタリアニズム
 
 自由主義には、個人主義的な形態と集団主義的な形態がある。個人主義的形態とは、個人を単位とし、個人の自由と権利の確保・実現を目的とするものである。集団主義的形態とは個人の自由を尊重しつつ家族・地域・民族・国民等の共同性を重視し、集団の維持・発展を目的とするものである。ロールズの正義論は個人主義的な自由主義に基づいているが、これに対し、集団主義的自由主義の立場から共同体を重視するコミュニタリアニズム(共同体主義)による批判が出された。また、ロールズが国内社会における正義と国際社会における正義を区別したのに対し、世界市民的な思想を持つコスモポリタリアニズム(世界市民主義)からの批判が出された。これらの主張について、次に述べたい。
 コミュニタリアニズムは、1980年代に、ロールズ、ノージック、ドゥオーキンらを批判する思想として出現した。コニュニタリアニズムは、コミュニティ(共同体)を重視する思想である。コミュニタリアン(共同体主義者)は、近代西洋文明で主流となった自由主義に、根本的な疑問を呈する。私的な善を公的な善より優先し、政府に価値中立であることを求める思想の問題点を抉り出し、共同体の復権と自律的・自覚的な主体による共同社会の建設を説く。
 コミュニタリアニズムは、現代のさまざまな社会的病理現象が、彼らのとらえるところの自由主義に起因するとする。社会的病理現象とは、共同体の崩壊であり、それに伴って人間関係が希薄となり、人間の主体性が失われていることである。自由主義は、個人単位の考え方によって、家庭や社会に深刻な事態を招いている。例えば、個人の幸福追求の結果として離婚が増加し、社会福祉への依存によって家族ヘの責任感が弱まっている。それによって、夫婦・親子の関係が不安定になり、家庭の崩壊が進んでいる。また個人の自由や福祉が重視されるあまり、社会のさまざまな集団で人々の結びつきが弱くなり、道徳意識の低下や政治的な無力感が社会全体に広がっている。
 コミュニタリアンは、自由主義がこうした社会病理を生み出したのは、個人主義的な自己観念にあると指摘する。自由主義は、個人は社会関係から離れて、それ自身として自分自身の所有者であり、自分自身の意志にしたがって善を選択し生きていくものと考える。それゆえ、個人は他者との関係や相互の承認とは無関係に、社会になんら責任や義務を負うことなく、権利を持つものとした。彼らによれば、近代的自己は、社会関係から切り離され、自己の意思決定だけを拠り所とする「内容を欠いた空虚な自己」である。これに対し、コミュニタリアンは、「共同体の中にある自己」という別の自己認識を対置する。
 コミュニタリアンによれば、近代西洋哲学は感情主義か主観主義に陥っている。価値の選択を個人の感情や主観に委ねている。価値相対主義が支配的な現代社会では、道徳も政治も個人の選好の問題へと矮小化されてしまう。コミュニタリアンは、個人の主体性の確立が重要だと主張する。自分が生まれ、育ち、あるいは参加する共同体の中で自己のアイデンティティは形成され、個人は真に道徳的・政治的主体性を確立することができる、と説く。
 コミュニタリアンの論者の一人、マイケル・サンデルは、ユダヤ人との説がある。サンデルは、リベラリズムの自己観を「負荷なき自己(unencumbered self)」と呼んで斥け、人間の本質を「位置づけられた自己」ととらえる。サンデルは、「連帯の義務」を説き、家族や民族における連帯を義務として肯定する。彼は親イスラエルの姿勢を表しており、アメリカ・ヨーロッパ等のユダヤ人に強い影響を与えている。
 サンデルは、1980年代前半、エチオピアで飢饉が起こった時、イスラエルがエチオピアのユダヤ人を救出してイスラエルに搬送した行動は適切だったか、と問う。「連帯と帰属の責務を受け入れるならば答えは明らかだ」とサンデルは言う。「イスラエルはエチオピアのユダヤ人の救出に特別の責任を負っており、その責任は難民全般を助ける義務(それはほかのすべての国家の義務でもある)よりも大きい。あらゆる国家には人権を尊重する義務があり、どこであろうと飢餓や迫害や強制退去に苦しむ人がいれば、それぞれの力量に応じた援助が求められる。これはカント流の論拠によって正当化され得る普遍的義務であり、われわれが人として、同じ人類として他者に対して負う義務である。いま答えを出そうとしている問いは、国家には国民の面倒を見る特別な責任がさらにあるかどうかである」と述べる。そして、国家には、無差別的に人権を尊重する普遍的な義務とは別に、自国の国民の面倒を見る特別な責任がある、と主張している。そのうえで、「愛国心に道徳的根拠があると考え、同胞の福祉に特別の責任があると考えるなら、第三のカテゴリーの責務を受け入れなければならない。すなわち、合意という行為に帰することのできない連帯あるいは成員の責務である」と説いている。
 私見を述べると、コミュニタリアニズムの自由主義批判は、自由主義の個人主義的形態を批判するものであって、コミュニタリアニズムは近代西洋文明の自由の価値を否定しているのではなく、それ自体は自由主義の一種である。コミュニタリアン(共同体主義的)な自由主義である。集団主義的自由主義の立場から、個人主義的自由主義を批判するものである。コミュニタリアニズムは、ネイションを共同体とすればナショナリズムに、エスニック・グループを共同体とすればエスニシズムに通じる。ナショナリズムとエスニシズムは、全体主義的な形態があり得る。これに対し、コミュニタリアニズムは、共同体に所属する個人の自由を尊重するから、自由主義的なナショナリズムやエスニシズムの基礎的な理論となり得るものである。

●非ユダヤ民族の脱ナショナリズムを推進するコスモポリタニズム

 次に、ユダヤ人には、少数ながらコスモポリタニズムを信奉する者もいる。コスモポリタニズムとは、古代ギリシャ、ローマに現れた世界市民主義である。近代政治学ではこの用語はほとんど使われていなかったが、1990年代にグローバリゼイションの進行の中で、新たなコスモポリタニズムが登場した。ナショナリズム、エスニシズム、コミュニタリアニズムは、歴史的・宗教的・文化的な共同体に価値を置く思想だが、コスモポリタニズムは、これらと対極にある思想である。
 代表的なコスモポリタンの一人、トマス・ポッゲは、現代のコスモポリタニズムは、三つの要素を共有しているという。個人主義、普遍性、一般性である。ポッゲは、個人主義については、「私たちが関心を向ける究極の単位は人間や人格であって、家族的、部族的、民族的、文化的あるいは宗教的共同体や国民国家ではない。これらの共同体は間接的に、つまり個々人がその構成員または市民であるという点でのみ関心の対象となるだろう」と言う。普遍性については、「個々人が関心の究極の単位であるという地位は全ての生存する人間に平等に与えられる」と言う。一般性については、「この特別な地位はグローバルな力を持っている。個々の人格は、自らの同胞や同じ信徒にとってだけでなく、全員にとっての関心の究極の単位なのである」と言う。(『なぜ遠くの貧しい人への義務があるのか』)
 個人主義、普遍性、一般性という三つの要素を共有する現代のコスモポリタニズムは、個々の人間を価値単位とし、すべて人間は平等な価値を持ち、それは国家・地域等を越えて普遍的であるとする。
 コスモポリタニズムの代表的な論者の一人に、マーサ・ヌスバウムがいる。ヌスバウムはアメリカ人の倫理学者だが、ヌスバウムという姓は、ユダヤ人である夫の姓を名乗るものである。
ヌスバウムは、ロールズの正義論をグローバルに拡張する。著書『正義のフロンティア』で、ヌスバウムは、社会正義の「三つの未解決の問題」を取り上げる。第一に「身体的精神的障害をもった人々に正義を行うという問題」、第二に「正義をすべての世界市民に拡大するという緊急の問題」、第三に「動物をわれわれ以下に取り扱うかということに含まれる正義の問題」である。ヌスバウムは、これらの問題はロールズによって解決されていないものであり、これらへの取り組みは正義論のフロンティアを開拓する試みだとしている。
 コスモポリタニズムは、近代西欧的な個人主義的自由主義を徹底し、ネイションの本質的な価値を否定し、国民国家を単位とする国際社会を認めないことを特徴とする。コスモポリタニズムは、人類は皆同じという普遍主義の思想である。普遍主義は、人類の中にある特殊性を否定するか、軽視する。個人間・民族間・文化間の差異性より、相同性を強調する。これは一面において啓蒙主義的なユダヤ思想に似ている。だが、ユダヤ思想の主流は、諸民族のナショナリズムを否定しながら、ユダヤ民族のナショナリズムのみは肯定するという自己民族中心主義である。コスモポリタニズムは、シオニズムを含むすべてのナショナリズムを否定する点が、これと異なる。それゆえ、ユダヤ民族の中にコスモポリタニズムが浸透することは、ユダヤ人のナショナリズムを弱めるものとなる。しかし、ユダヤ人以外の民族にコスモポリタニズムを広げれば、それら民族のナショナリズムを弱めることができる。そのことは、ユダヤ民族のナショナリズムを強化し、他民族の脱ナショナリズムを推進するためには、有益である。

 以上、今日のユダヤ人が抱く諸思想のうち、ナショナリズム、リベラリズム、コミュニタリアニズム、コスモポリタニズムについて概述した。再度強調しておきたいのは、思想の多様性を超えて、今日のユダヤ人の多数が抱いているのは、ユダヤ人のエスニックで宗教的なナショナリズムであるということである。次に、21世紀の現在、これらの思想に分類できない個性的な主張をして世界的に注目を集めているユダヤ人の論者について記したい。

 次回に続く。
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ユダヤ138~多様性を増すリベラリズム

2017-12-15 10:59:25 | ユダヤ的価値観
●多様性を増すリベラリズム

 ナショナリズムに次いで、今日のユダヤ人が多く信奉しているのは、リベラリズム(自由主義)である。ユダヤ人は、古代において他民族の奴隷となり、隷従からの解放を切望した。ヨーロッパでは、長く差別と迫害の対象となり、圧迫からの自由を希求した。それゆえ、自由を求めるユダヤ人の思いは強い。
 リベラリズムは、自由を中心価値とする思想・運動である。17~18世紀のイギリスでロック、アダム=スミスらが自由主義の原理を説いた。この自由を一元的な価値とする古典的な自由主義に対し、19世紀にJ・S・ミルらが自由だけでなく平等に配慮する修正的な自由主義を説いた。今日、自由主義という時は、古典的自由主義と修正的自由主義の両方を含む。
 自由主義は、20世紀に厳しい試練を受けた。共産主義及びナチズムとの対決である。ユダヤ人はそれら二つの全体主義の体制のもとで迫害を受け、自由を渇望した。第2次世界大戦後、ナチズムは敗退した。自由主義は、残る共産主義との対決を続けた。それが米ソ冷戦である。
 冷戦下で最大級の地域紛争となったベトナム戦争は、自由主義と共産主義が激突した戦争だった。同時に、この戦争は、米ソや巨大国際金融資本の複雑な利害が絡み合っていた。長期化するに従い、米国民の間で、自由を理念として、遠隔の地で多大な犠牲を払って、泥沼の戦争を続けることに疑問が強まった。同じころ、黒人を中心に公民権運動が高揚し、人種差別に対する反対運動が広がった。また性別や文化的な違いによる差別に反対する運動も広がった。これらベトナム反戦運動、人種差別や性的・文化的な差別への反対運動等によって、建国以来の米国の自由の理念が根本的に問われるようになった。自由を中心価値とする旧来の自由主義への信頼が揺らぎ出した。
 そうした危機的な状況にあった1970年代の米国で、自由の理念を再度確立するとともに、自由と平等の均衡を図ろうとする試みが現れた。その先鞭をつけたのが、政治哲学者ジョン・ロールズである。ロールズは「公正としての正義」という正義論を提唱した。
 ロールズは、正義の原理を打ち出した。その最終形は、『公正としての正義 再説』に書かれたものである。それによると、第一原理は、「各人は、平等な基本的諸自由からなる十分適切な枠組みへの同一の侵すことのできない請求権を持っており、しかも、その枠組みは、諸自由からなる全員にとって同一の枠組と両立するものである」。第二原理は、「社会的・経済的不平等は、次の2つの条件を充たさねばならない。①社会的・経済的不平等が、機会の公正な平等という条件のもとで全員に開かれた職務と地位に伴うものであるということ。②社会的・経済的不平等が、社会のなかで最も不利な状況にある構成員にとって最大の利益となるということ」である。
 この正義の原理において、第一原理は第二原理に優先する。自由は自由のためにのみ制約されるとする付帯ルールもあり、基本的諸自由への平等な権利に優先的地位が与えられている。また、第二原理の中でも、①の公正な機会均等原理が②の格差是正原理に優先する。すなわち、“平等な自由原理>公正な機会均等原理>格差是正原理”という関係が成り立つ、とロールズは主張する。
 ロールズに対して、その理論を批判する思想家たちが現れた。彼よりも自由を重視する自由至上主義的な立場や、彼よりも平等を重視する平等主義的な立場からの批判である。前者の代表的存在がロバート・ノージック、後者の代表的存在がロナルド・ドゥオーキンである。ノージックはリバータリアンであり、今日のアメリカでは共和党のティーパーティに近い。ドゥオーキンは社会民主主義に接近しており、米国では極少数派である。
 ノージックについては、先に書いたが再度概要を書くと、ロシア系ユダヤ移民の子で、ロールズを古典的自由主義の立場から批判した。今日米国で「リベラル」と言えば、主に修正的自由主義を意味する。そこで、古典的自由主義者は、自らの自由主義が修正的自由主義と異なることを主張するため、リバータリアニズムを標榜する。リバータリアニズムは、個人の自由を至上の価値とする思想である。自由至上主義または絶対的自由主義と訳される。ノージックは、この思想を理論化した。
 著書『アナーキー・国家・ユートピア』で、ノージックは、すべての個人は、生命、自由及び財産の権利を侵害されることなく、侵害されれば処罰や賠償を求めることができる絶対的な基本的権利を持つとした。ノージックによると、道徳的に正当化できる国家(政府)は、暴力・盗み・詐欺からの保護、契約の履行の強制に限定される「最小国家」のみである。所得の再分配等の機能を果たそうとする「拡張国家」は、人々の権利を侵害するゆえに正当化されない。ノージックは、国家に必要なのは市場の中立性と矯正的・手続き的正義の確保であると説く。また取得と交換の正義が満たされている限り、どのようなものであっても、結果としての配分は正しいとした。ベンサム流の功利主義(最大幸福主義)やロールズの格差是正原理については、分配の結果を何らかの範型に当てはめようとするものであり、政府によるそうした押し付けは、個人の自由を侵害し、専制的な再分配を正当化するものであると批判した。

●消極的自由とリベラル・ナショナリズム

 リベラリズムは、多様化を続けている。それがユダヤ人にも広がっている。多様化の事例として、積極的自由と消極的自由及びリベラル・ナショナリズムを挙げたい。
 20世紀イギリスの政治哲学者アイザイア・バーリンは、バーリンは「消極的自由」の重要性を主張した。バーリンは、ラトビア生まれのユダヤ人である。イスラエルには帰化せず、主にイギリスで活動した。
 1969年に公刊した著書『自由論』で、バーリンは自らの見解を述べた。バーリンによると、「消極的自由」とは「~からの自由(freedom from ~)」であり、干渉・束縛からの自由を確保しようとするものである。一方、「積極的自由」とは「~への自由(freedom to ~)」であり、理想・目標に向かって権利を拡大していこうとするものである。バーリンは、積極的自由は理想や正義の実現を目指すが、それによって全体主義に転化しかねないとし、その弊害を恐れて、私的領域の不可侵性を守ろうとする消極的自由主義を唱えた。これは、ユダヤ人を迫害したナチズムとスターリニズムのような全体主義の再来を警戒したものである。バーリンはまた、ナショナル・アイデンティティのもとになる文化的ナショナリズムを提唱し、排他的・攻撃的なナショナリズムを批判した。その一方で、コスモポリタニズムをも批判した。それは、自らの拠り所であるユダヤ文化を保持・防衛するとともに、西方キリスト教的・近代合理主義的な普遍主義への異議を表したものだろう。
 バーリンはイスラエルを支持するシオニストである。だが、バーリンは、排他的・攻撃的なシオニストではなく、パレスチナとの平和共存を目指す運動を行うイスラエルのNGO「ピースナウ」に関わってきた。「ピースナウ」は、イスラエルというシオニスト国家を肯定してはいるが、イスラエル政府による入植政策には反対している団体である。バーリンがそのような団体に関わりつつ、パレスチナ人との平和共存を説く点は評価できよう。
 バーリンの弟子にリベラル・ナショナリズムを説くユダヤ人政治哲学者ヤエル・タミールがいる。タミールは、バーリンの思想を継承し、独自の政治理論を展開している。タミールは、次のように主張する。リベラリストは、所属・成員性・文化的な帰属の重要性とそれらに由来する道徳的義務の重要性を認めつつ、リベラリストであり続けることができる。また、ナショナリストは、個人の自立・自由・権利の尊さを認めつつ、ナショナリストであり、また国民内部と諸国民間における社会正義に関与し続けることができる、と。この主張は、ネイションの価値を再評価し、リベラリズムとナショナリズムの融合を説くものである。
 タミールはまた、ナショナリズムを踏まえた広域的な機構をつくる提案をしている。その提案におけるタミールの主張は、リベラル・ナショナリズムの枠組みを越え、ネイションの文化的・政治的な自治能力を保持し得るようなトランスナショナルな広域共同体を志向するものである。中東における共存共栄を模索するものだろう。こうした思想を説くタミールも、バーリンとともに、「ピースナウ」に関わっている。
 バーリン、タミールらの思想の賛同者は、イスラエルでは少数派である。バーリン、タミールは、穏健なシオニストだが、シオニストの主流は戦闘的かつ攻撃的な行動を取っている。しかし、中東において、諸民族の共存共栄を実現しようとするならば、ユダヤ人及びイスラエル国民は、バーリン、タミールの試みを評価し、批判的に継承する必要があるだろう。

 次回に続く。
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いよいよレーザー兵器の時代に

2017-12-14 09:32:59 | 国際関係
 いよいよレーザー兵器の時代になります。多弾頭のICBMをレーザー砲で確実に迎撃できる段階になれば、戦争のあり方が大きく変わるでしょう。産経新聞平成29年8月26日の記事は、次のように伝えています。
 「レーザーは目に見えず、音らしい音もない」「大量の陽子が光速で照射され、その速さは大陸間弾道ミサイル(ICBM)の5万倍になるという。射程5500キロ以上のICBMは再突入時の速度がマッハ24とされている」「風、射程などを気にする必要はない。オートフォーカスなので、目標を定めるだけでターゲットを無力化できる」「経済性も驚きだ。システム全体は4000万ドル(約44億4000万円)だが、1発当たりの費用はわずか1ドル。必要なのは小さな発電機で供給される電気と、わずか3人の乗員だけだという」「レーザー兵器は繰り返し何度も撃てる。基本的には無限に尽きない弾倉のようなものだ」
 わが国は、これを究極の防衛兵器として開発・装備すべきだと思います。

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●産経新聞 平成29年8月26日

【米海軍の新兵器】
見えず音もなし…正確無比で無限に撃てるレーザー 1発わずか1ドル驚異の経済性

 「スター・ウォーズ」などSFではおなじみのレーザー兵器。それがもう夢ではなくなっている。音もなく、目にも見えないが、ドローンを正確に打ち落とす。そしてコストも低い。米海軍の新兵器は、これまでの兵器の概念を大きく変える「革命」を予感させるものだ。

まるでテレビゲーム
 「LaWS」(レーザー兵器システム)と呼ばれる新兵器は、ペルシャ湾に展開する輸送揚陸艦ポンスに配備されている。見た目は望遠鏡のようで“武器らしい”威圧感はない。
 米海軍が行った試射の様子を独占取材した米CNNテレビ(電子版、7月18日)の映像では、海上に飛ばしたドローンにレーザーが照射されると、翼から突如炎が上がって打ち落とされた。レーザーは目に見えず、音らしい音もない。担当者がモニターを見ながらコントローラーを操作する様子は、まるでテレビゲームのようだ。
 大量の陽子が光速で照射され、その速さは大陸間弾道ミサイル(ICBM)の5万倍になるという。射程5500キロ以上のICBMは再突入時の速度がマッハ24とされている。

低コストで低リスク
 LaWSを担当するカール・ヒューズ大尉はCNNに、「風、射程などを気にする必要はない。オートフォーカスなので、目標を定めるだけでターゲットを無力化できる。ビームも見えないし、音もしない」などと説明。悪条件下でも極めて正確な攻撃が可能で、米海軍は、二次的な被害を抑えることができるとしている。
 経済性も驚きだ。システム全体は4000万ドル(約44億4000万円)だが、1発当たりの費用はわずか1ドル。必要なのは小さな発電機で供給される電気と、わずか3人の乗員だけだという。ちなみに、4月に米軍が実験したICBM「ミニットマン」は1発当たり約700万ドルとされている。

2020年代初めまでに配備拡大
 現時点では、過激派組織など対テロリスト戦で、車や船で近づく敵をピンポイント攻撃することを想定しているとみられるが、その用途は拡大しそうだ。
 CNNの報道を元に同兵器について報じた米国政府系放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」(7月19日、電子版)によると、米海軍は2020年代初めまでに他の艦艇にも追加配備する計画で、さらにミサイルなどを標的とする技術を開発しているとしている。
 米防衛大手ロッキード・マーチン社は、複数のレーザーを組み合わせて強力なビームを照射できる出力60キロワットのシステムを開発中で、複数のドローンやミサイルを同時に迎撃することも可能になるという。
 同社のホームページは、「レーザー兵器は繰り返し何度も撃てる。基本的には無限に尽きない弾倉のようなものだ」としており、砲弾やミサイルを使わない攻撃の有効性をアピールする。
 米国以外でも開発が進んでいる。英国は1月、英軍が欧州の防衛企業とレーザー兵器の試作品を造る3900万ドルの契約を結んだと発表した。
 各国で着々と開発、配備が進むレーザー兵器。米海軍専門紙「ネイビー・タイムス」(電子版、7月19日)が表現したように、「もはや単なるスター・ウォーズのファンタジーではない」のだ。(外信部 住井亨介)
http://www.sankei.com/world/news/170826/wor1708260005-n1.html
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ユダヤ137~ユダヤ人のナショナリズム

2017-12-12 13:07:21 | ユダヤ的価値観
ユダヤ人のナショナリズム

 ナショナリズムは、近代国民国家の形成とともに、17世紀のイギリスで発生し、18世紀のフランスで発達して、19世紀にヨーロッパ及び諸大陸に広がった。
 ユダヤ人のナショナリズムは、ほかの民族が近代的な国家・国民を形成したり、維持・拡大しようと図るナショナリズムとは、もともと異なっていた。
 イスラエル建国以前のユダヤ民族は、西欧のみならずロシア、東欧からイベリア半島等にまで分布するディアスポラであり、複数の国家にまたがって居住するが、政治的な統治権力を持たないエスニック・グループだった。
 ユダヤ人は、ユダヤ教を信仰することによって、キリスト教文化の中で迫害を受けてきた。イギリス、ドイツ等では、18世紀の啓蒙主義の時代に、ユダヤ人の知識人を中心にキリスト教社会への同化がかなり進んだが、ユダヤ教徒エスニック・グループの独自性を保とうとする動きも根強かった。
 フランス革命を通じて、ヨーロッパで初めてユダヤ人の解放が行われた。しかし、19世紀末にそのフランスでドレフュス事件が起こり、反ユダヤ主義が高揚した。これに対し、ユダヤ人は、パレスチナの地に国家を再建しようとする運動を起こした。その運動は、目指すべき場所の名を取ってシオニズムと呼ばれることになった。シオニズムは、ユダヤ人というエスニック・グループが自前の国家を持とする思想・運動だった。ユダヤ人によるナショナリズムである。
 ユダヤ人のナショナリズムは、エスニックであるとともに宗教的なナショナリズムである。単に国民的・民族的・文化的でなく、宗教的である。異民族から摂取した宗教ではなく、自民族に固有の宗教に基づく。しかもユダヤ民族のみが神に選ばれた民族だとする選民思想を信奉する。ユダヤ教は集団救済の宗教である。その救済は現世におけるものであり、救済を実現する手段は政治的である。
 祖国を失い、各地を流浪してきたユダヤ人は、国家を持たない民族として、祖国の回復、国家の建設を目的とするナショナリズムを発達させた。政治的な集団救済を目指すナショナリズムである。また、ディアスポラによる本国獲得型のナショナリズムである。
 第2次世界大戦後、イスラエルの建国によって、国家・領土を持つ民族となったユダヤ人のナショナリズムは、対外拡張型のナショナリズムに変化した。建国にあたり、多数のパレスチナ人を排除したため、ユダヤ人のナショナリズムとパレスチナ人のナショナリズムが対立・抗争することになった。
 また、ユダヤ人のナショナリズムは、本国獲得型から、本国の維持・発展とともに本国とのつながりを維持・強化する本国連携型のナショナリズムに変化した。本国獲得型の主体はネイションを目指すエスニック・グループだったが、本国連携型となって以降、主体は本国のネイションと国外各地のエスニック・グル―プとなっている。
 本来、シオンへの帰郷建国運動だったシオニズムは、ユダヤ人のエスニックなナショナリズムである。イスラエルの建国後は、イスラエルという国家におけるナショナリズムと、イスラエル以外に居住するユダヤ人のナショナリズムが連携している。イスラエル以外では、ユダヤ人は、各国におけるエスニック・グループでありながら、そこでの独立を目指すのではなく、本国と連携しながら、世界におけるユダヤ人の生存と繁栄を目指す活動をしている。イスラエル本国のナショナリズムは、こうした在外ユダヤ人のナショナリズムを利用して、国家の安全、民族の繁栄を図っている。これが本国連携型のナショナリズムである。現代のユダヤ人の多くが信奉しているのは、こうしたシオニズム的なナショナリズムである。
 イスラエル以外で最大のユダヤ人人口を持つアメリカは、イスラエルと連合を組み、その最大の擁護者・支持者となっている。アメリカのユダヤ人には、リベラルで民主党を支持する者や、保守的で共和党を支持する者等がいる。また様々な思想を持つ者がいる。だが、彼らの多くに共通しているのは、イスラエルの擁護・支持である。そして、大多数の在米ユダヤ人は、エスニックで宗教的なユダヤ人のナショナリズムを信奉している。そのナショナリズムが、政治的な主義・思想の違いを超えて、彼らの基盤にあるものである。
 ユダヤ人のナショナリズムには、世界戦略的な思考が貫かれている。ユダヤ思想の主流は、諸民族のナショナリズムを否定しながら、ユダヤ民族のナショナリズムのみは肯定するという自己民族中心主義である。そこから生まれてくる行為が、ユダヤ人におけるナショナリズムの強化と、他民族における脱ナショナリズムの促進である。この点については、個人が抱く思想の範囲を超え、ユダヤ人の世界戦略に関わるものなので、後に項目をあらためて書く。

 次回に続く。
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「北朝鮮の核がアジアと世界を危機に陥れる」をアップ

2017-12-11 10:09:04 | 国際関係
 ブログに連載した北朝鮮の最新動向に関する拙稿を編集して、マイサイトに掲載しました。通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■北朝鮮の核がアジアと世界を危機に陥れる
http://khosokawa.sakura.ne.jp/
 右上の「NEW」の題目をクリック
または
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12.htm
 目次からB43へ
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北朝鮮の核がアジアと世界を危機に陥らせる3

2017-12-10 09:50:46 | 国際関係
 11月29日の北朝鮮のICBM発射実験について、わが国の新聞各紙は、社説にどう書いたか。主なものを抜粋する。

◆産経新聞
 「北朝鮮に核・弾道ミサイル戦力を放棄する考えなどない。それが改めて明確になった」
 「日本は、同盟国である米国や国際社会とともに、北朝鮮の核戦力完成を全力で阻止すべきだ。必要な手立てはすべて講じなければならない。連携、結束という言葉にとどまらず、日本自らのさらなる具体的行動が求められる。残された時間は多くはない」
 「新たな暴挙には新たなペナルティーが科されるべきだ。日本は、石油の全面禁輸を含む制裁強化を呼びかけたらどうか。ティラーソン米国務長官は声明で、『北朝鮮に物資を運搬する海上交通を禁止』する追加制裁を呼びかけた。経済制裁の一環としての海上封鎖である。その際、北朝鮮の隣国である日本は大きな役割を期待されよう。ところが、現行の船舶検査活動法に欠陥がある。海上自衛隊や海上保安庁は不審船の船長が拒否すれば、乗船して調査することはできない。安保理が海上封鎖を決めたとしても、日本は国連加盟国としての責任を十分に果たせない。政府と与野党は、今の国会で諸外国並みの海上封鎖に当たれるよう法改正に取り組むべきだ。国民を北朝鮮の核の脅威から守るため、迅速な行動が必要である」

◆読売新聞
 「国際社会の包囲網にもかかわらず、核ミサイルを喧伝けんでんし、独裁体制の生き残りを図る。そんな思惑が、一段と明白になったと言えよう。北朝鮮の危険かつ身勝手な振る舞いを改めさせるには、関係国が緊密に連携し、圧力を強化しなければならない」
 「日本は、不測の事態に備えて、迎撃能力を拡充すべきだ。来年度の予算編成では、陸上配備型イージスシステムの関連経費や、新型ミサイルの取得費などの適切な計上が欠かせない。
気がかりなのは、自衛隊、米軍、韓国軍が揃そろって参加する演習や訓練が行われていないことだ。今月中旬にロナルド・レーガンなど米空母3隻が日本海に入った際も、演習は日米、米韓での実施にとどまった。韓国側に、自衛隊との連携への反発があるためだとされる。中国が日米韓3か国の安保協力の緊密化を警戒し、韓国に慎重な対応を迫っているという事情もある。韓国は、ICBM発射直後に、対処能力を示すため、日本海でミサイル訓練を実施した。北朝鮮に融和的な文在寅大統領も、事態の深刻化を受けて、軍事面での対抗措置に出ざるを得なかったのだろう。日米韓の安保面での連携強化を躊躇ちゅうちょしている場合ではないはずだ」

◆日本経済新聞
 「今回の発射により、北朝鮮が核・ミサイル開発を自制する意思が全くないことが改めて明らかになった。軍事攻撃をちらつかせる米政権の我慢の限界を探りつつ、今後も核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す恐れが大きい。国際社会は北朝鮮への封じ込めを一段と強めていく必要がある。
 安倍晋三首相とトランプ米大統領は電話協議で『北朝鮮の政策を変えさせる』ため、圧力をさらに高める必要性で合意した。日米韓が主導してこれまでの国連安全保障理事会の制裁決議や独自制裁の順守を各国に求めるとともに、石油の全面禁輸を含めた追加制裁策を検討していくべきだ。
 北朝鮮への包囲網を強化するには、経済的なつながりが大きい中国の役割がとくに重要だ。中国は先に北朝鮮に特使を派遣したが、説得工作は不調に終わった。中国も今度こそ圧力重視に軸足を移すべきだ。石油供給の削減を盛り込んだ安保理制裁決議を着実に履行するとともに、さらなる制裁強化にも踏み込んでもらいたい」

 毎日・朝日の当該社説は、内容が薄すぎ、読むに堪えないものだった。

 わが国は、米国と北朝鮮の激突が起こりうることを想定して、防衛体制を整えねばならない。しかし、現在のわが国は、北朝鮮から日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるという最大級の威嚇を受けても、これに軍事的に対抗することはできない。専守防衛政策に縛られ、敵基地攻撃能力を持っておらず、非核三原則によって、防衛のための抑止力としての核兵器を持つことも、自ら禁じている。北朝鮮の暴発を防ぐためには、国連で非軍事的・経済的な制裁を強化するよう、国際社会に協力を呼びかけるしかない。
 では、本当に効果のある制裁は可能なのでしょうか。その答えが、一連の核実験であり、弾道ミサイルの発射実験である。今後、制裁のレベルを上げても、中国・ロシアは全面的には賛同しないだろうから、平和的な手段で北朝鮮の核ミサイル開発を止めることは、極めて困難である。
 わが国は、中国に続いて北朝鮮からも国家・民族の存立そのものを揺るがされる脅威を受ける状態になってしまった。国防を完備することなく平和を求める者は、アヘン患者のように滅亡するばかりである。戦勝国から押し付けられた憲法に呪縛され、これ以上、宙に浮いた理想論にとらわれていたら、日本は亡国に至る。日本の生存と安全を確保するため、専守防衛政策、非核三原則を見直すべきである。私の意見は、10年ほど前から下記に掲示している。あらためて、ご参考に供したい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12a.htm
 第3章 日本併合を防ぐ方策
 (5)自衛の手段としての核抑止力の検討
 (6)総合的な国家安全保障の研究を

 このたび政府は、戦闘機用の長距離巡航ミサイル導入に向けた関連予算を平成30年度予算案に計上する方針を決めた。菅義偉官房長官は平成29年12月6日、本件に関して「安全保障環境は極めて厳しい。国民の命と平和な暮らしを守るために何をなすべきか、常に現実を踏まえてさまざまな検討を行う責任が政府にはある」と説明した。続いて、8日小野寺五典防衛相は、この決定を発表し、「相手の探知範囲や射程の圏外から日本に侵攻する部隊に対処することで、より効果的かつ安全に作戦を行えるようになる」と導入理由を語り、弾道サイル防衛にあたっているイージス艦の防護にも「必要不可欠だ」と強調した。ただし、「敵基地攻撃能力は米国に依存しており、今後も日米の基本的な役割分担の変更は考えていない」と敵基地攻撃能力との関連を否定し、長距離ミサイル導入は「専守防衛」に反しないと強調した。
 導入するミサイルは3種類ある。ノルウェー製のJSMは射程500キロで、F35A最新鋭ステルス戦闘機への搭載を予定している。米国製のJASSM、LRASMは射程900キロ程度で、F15戦闘機を改修して搭載する。いずれも対地攻撃能力があり、JSMとLRASMは対艦攻撃もできるという。現在、空自の戦闘機が運用している93式空対艦誘導弾(ASM)の射程は約170キロだが、JSMなら約3倍に伸びることになる。
 政府が巡航ミサイルの初導入を決めたのは、中国の海洋進出をにらんだ「島嶼防衛」が主目的だが、北朝鮮の弾道ミサイル基地などをたたく「敵基地攻撃能力」の保有を視野に入れた動きと見られる。日本の防衛政策上、画期的なことである。小さな一歩だが、この歩みをしっかりと踏み出してもらいたい。
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ユダヤ136~現代ユダヤ人の様々な思想

2017-12-09 09:27:18 | ユダヤ的価値観
現代ユダヤ人の様々な思想

 ユダヤ人とは、狭義ではユダヤ教徒のことであり、ユダヤ教徒には宗派による違いがある。また、広義ではユダヤ民族のことであり、キリスト教等の他宗教に改宗した者や無神論者・唯物論者等がいる。またユダヤ人には、様々な政治的・社会的な思想を持つ者がいる。また、それぞれの思想において、ユダヤ人は有力な唱道者や論者となっている。自由主義、共産主義、グローバリズム、ナショナリズム、コミュニタリアニズム、コスモポリタニズム等である。それゆえ、ユダヤ人は一枚岩ではなく、ユダヤ人全体が世界征服という陰謀を行っているということは、ありえない。一部と全体を混同してはいけない。
 様々な思想のうち、共産主義、グローバリズムについては既に本稿の各所に書いてきた。そこでそれら以外に今日ユダヤ人において特徴的な思想として、ナショナリズム、リベラリズム、コミュニタリアニズム、コスモポリタニズムについて概述する。

●ナショナリズムとは何か

 ナショナリズムは、今日のユダヤ人が最も多く信奉する思想である。イスラエルのユダヤ人、アメリカのユダヤ人、そのほかの国々に住むユダヤ人も共通して、ユダヤ人のナショナリズムを保持している。最初にナショナリズムとは何かについて書き、その上でユダヤ人のナショナリズムについて述べる。
 ナショナリズムは「国家主義」「国民主義」「民族主義」と訳される。ナショナリズムはネイションにかかる主義であり、ネイションは「国家」「国民」「民族」「共同体」等と訳される。だが、国家と国民は異なり、国民と民族は異なる。私は、基本的にネイションを政治社会としての「国家」または政治的集団としての「国民」、エスニック・グループ(ethnic group)を「民族」とし、ナショナリズムを「国家主義」「国民主義」、エスニシズムを「民族主義」と区別する。これによって、用語や訳語による混乱を少なくできる。
 詳しくは、拙稿「人権――その起源と目標」第2部のナショナリズムの項目に書いたが、第1次世界大戦後にナショナリズムの先駆的な研究が現れ、1980年以後、様々な論者が活発に議論を行うようになった。アーネスト・ゲルナー、ベネディクト・アンダーソン、アンソニー・スミス、エリック・ホブズボームらである。
 彼らナショナリズムの研究者には、ユダヤ人ないしユダヤ系が多い。左記のうち左翼のホブズボーム以外はそうである。彼らがナショナリズムを積極的に研究する背景には、ディアスポラとしての出自、ナチスによる迫害の記憶と新たな迫害への警戒、シオニズムの正当化または内在的批判等があると思われる。
 社会人類学者ゲルナーは、著書『民族とナショナリズム』で、ナショナリズムを「第一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければいけないと主張する一つの政治的原理」と定義した。この定義における「民族的」はナショナルの訳である。政治学者アンダーソンは、著書『想像の共同体』で、ネイションを「イメージとして心に描かれた想像の共同体」であると定義し、「それは、本来的に限定され、かつ主権的なものとして想像される」と述べた。
 ゲルナーとアンダーソンは、ともに国民が形成された要因を、近代化に見たが、政治学者スミスは、ネイションの形成における伝統文化の役割を強調した。スミスは、著書『ネイションとエスニシティ』で、近代のネイションの背景となっているエスニック・グループをエスニーと名づけて、ネイションと区別した。エスニーは、ネイションが形成される過程で、そのネイションのもとになった集団である。ネイションは、一つのエスニーが周辺のエスニーを包摂することによって成立したものであり、近代以前からのエスニーの伝統を引き継いでいる、とスミスは主張する。そしてスミスは、ネイションを「歴史的領土、共通の神話や歴史的記憶、大衆、公的文化、共通する経済、構成員に対する共通する法的権利義務を共有する特定の人々」と定義する。スミスは、ネイションを「文化的かつ政治的共同体」とする。そして、ナショナリズムとは「ある人間集団のために、自治、統一、アイデンティティを獲得し維持しようとして、現に『ネイション』を構成しているか、将来構成する可能性のある集団の成員の一部によるイデオロギー運動」である、と定義する。
 スミスがエスニーと呼ぶ集団を、私はエスニック・グループと呼ぶ。また、私は、ゲルナー、アンダーソン、スミス等の所論を検討し、ナショナリズムを次のように定義している。ナショナリズムとは、エスニック・グループをはじめとする集団が、一定の領域における主権を獲得して、またその主権を行使するネイションとその国家を発展させようとする思想・運動である。また、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムの特殊な形態であり、近代西欧的な主権国家の形成・発展にかかるエスニシズムである。
 ナショナリズムの主な目的には、革命、独立、統一がある。またナショナリズムには、国家形成段階と国家発展段階があり、前者は、ある集団がネイションを形成しようとするナショナリズムであり、後者は、出来上がったネイションをさらに発展させようとするナショナリズムである。
 国家形成段階のナショナリズムには、目的別に、国内において市民革命によって権力を奪取または権力に参加しようとする市民革命型、一つのネイションにおいて植民地人民が本国の政府から独立しようとするか、または人々が異民族支配から独立しようとする独立建国型、自民族の統一を目指し、民族統一的な国家を作ろうとする民族統一型がある。
 国家発展段階のナショナリズムには、自らの国家や国民の国内的発展を目指したり、文化的同化や思想の共有による国民の実質化を図ったりする内部充実型と、他の国家や民族を支配またはそれらを併合して発展しようとする対外拡張型がある。
 ナショナリズムは、個人を主体として見れば、個人の忠誠心を近代的なネイションに向けることによって成立する政治的な意識と行動である。そのナショナリズムの主体は、多くの場合、特定の国家に所属するか、または一定の地域に集住する集団である。しかし、ここに特殊な集団として、ディアスポラ(離散民)がある。
 ディアスポラは、複数の国家に分散居住するエスニック・グループである。どの居住地でも少数派であるディアスポラには、本国を獲得する本国獲得型のナショナリズムと、本国とのつながりを維持・強化する本国連携型のナショナリズムがある。本国獲得型の主体はエスニック・グループ、本国連携型は本国のネイションと国外のエスニック・グル―プとなる。近代最大のディアスポラであるユダヤ人の場合は、イスラエル建国までが本国獲得型であり、イスラエル建国後は本国連携型である。

 次回に続く。
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トランプがエルサレムを首都と認め、米大使館を移転へ

2017-12-08 10:23:42 | 国際関係
 12月6日トランプ米大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある米大使館の移転手続きを開始するよう国務省に指示したと正式発表しました。昨年の大統領選挙で公約していたことを実行に移すものです。
http://www.sankei.com/wor…/news/171207/wor1712070014-n1.html

 いよいよという感じですが、本年1月元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、本件について強い懸念を表明しています。
 「仮に米国が大使館をエルサレムに移転すれば、東エルサレムがイスラエル領であると承認する効果を持つ。これに反発してパレスチナの過激派がイスラエルに対して武装攻撃を行うことは必至だ。また、国内にパレスチナ人を多く抱えるヨルダンの政情が不安定になる。ヨルダンの王制が崩壊して、その空白を「イスラム国」(IS)のような過激派が埋める危険がある。さらに、アラブ諸国の対米関係、対イスラエル関係が急速に悪化する。米国大使館のエルサレムへの移転をきっかけに第5次中東戦争が勃発するかもしれない」と。
 詳しくは、当時ブログに書きました。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/dec1d7ee374ad0009a23a9c486f6f92f

 産経新聞12月6日付の黒瀬悦成記者の記事は、次のように書いています。
 「トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、大使館をテルアビブから移転することを決めたのは、昨年の大統領選での公約でもあった一連の措置を順守することで、自身の支持基盤である親イスラエル系の保守勢力やキリスト教福音派をつなぎ留めるという国内向けの政治判断の側面が強い。
 在イスラエル大使館の移転はクリントン政権下の1995年に制定された米国内法で義務付けられているものの、歴代大統領はこれまで、中東の安全保障への影響に配慮して半年ごとに移転の判断を先延ばしする大統領令に署名してきた。
 トランプ氏も今年6月、同氏の娘婿、クシュナー大統領上級顧問が取り組んでいる中東和平交渉を軌道に乗せるため、『移転の先延ばし』を一度は表明。しかし、これに対して福音派の支持層などの間で失望が広がり、その後は移転実施に急速に傾斜していた」
http://www.sankei.com/world/news/171206/wor1712060038-n1.html

 私は、アメリカとイスラエルの関係をアメリカ=イスラエル連合と呼んでいます。1960年代以降、ユダヤ・ロビーの働きかけにより、アメリカ=イスラエル連合は強化されてきました。トランプ政権は、歴代政権の中で最もこの連合が強力になっていると思います。米国内では、ユダヤ系米国人によってだけでなく、キリスト教徒の中でイスラエルは守るべき特別の国という考えが強くなっており、政治・外交に強い影響を与えています。
 黒瀬記者が記事中で触れている米国の福音派はエヴァンジェリカルの訳で、もともとはプロテスタントの主流派(メインライン)に対抗する新興の反主流派でした。だが、近年、主流派を信徒数で上回り、2014年の米国の民間の調査機関であるピュー・リサーチ・センター(PRC)の調査では、回答者の25.4%を占めました。福音派には、南部バプテスト、アッセンブリーズ・オブ・ガッド、チャーチズ・オブ・クライスト、ルター派ミズーリ教会会議、アメリカ長老派等の新しい教派などが含まれます。主流派はリベラルの傾向が強いのに対し、福音派は保守の傾向が強く、その信徒の間では、政党は「共和党か共和党寄り」が56%、政治思想は「保守」が55%を占めます。進化論を否定する人が多いなど、原理主義的な傾向も見られます。
 ユダヤ系米国人は、特に保守的な福音派プロテスタントとの連携を深めて、共和党を中心に米国政界に働き掛け、アメリカ=イスラエル連合を強固なものにしてきました。連合の強化は、イスラエルにとっては安全保障の強化になります。
 トランプは、キリスト教右派の支持を得て大統領になっており、長女イヴァンカの夫クシュナーを通じて、国際的なユダヤ社会の巨大な後ろ盾を支えにしていると見られます。今回のエルサレムの首都認定と、米国大使館の同市への移転の決定は、彼らへの期待に応えることで、政権への支持を固めたいという狙いがあるのでしょう。トランプ政権は、米国民の支持率40%前後という戦後歴代政権で最低の状態にあり、政権中枢の高官の辞任・更迭が相次ぎ、さらに選挙期間中のロシアとの関係が疑われるなど、危機的な状況にあります。そうした中で、最もコアな支持者集団の支持を固めるため、歴代政権が保留にしてきたエルサレムの首都認定と同市への大使館移転を実行するという手段に出たと考えられます。これは非常に危険な選択です。中東及び世界への影響は甚大なものとなるでしょう。

 以下、今回のトランプ大統領の発表に関して報道された各国、各勢力の反応をまとめておきます。

●中東の反応

 中東各国で反米感情が高まることは不可避。米国の中東政策が「公正でない」との印象が広まれば米国の影響力が低下し、イスラーム過激派の跋扈やイランとサウジアラビアの対立関係などで流動化している中東情勢はいっそう不安定化すると見られます。
 トルコのエルドアン大統領は「エルサレムはレッドライン(越えてはならない一線)だ」としてイスラエルとの断交を示唆しました。
 中東での米国の最重要同盟国サウジアラビアは、トランプに自制を求めており、今後の対米関係に影響が及ぶのは確実と見られます。
 パレスチナ側は12月6日から8日までを「怒りの3日間」と銘打って抗議行動を展開。大規模衝突に発展する可能性もあると見られます。
 国際テロ組織アルカーイダ系の「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)は、トランプを批判する声明を出しました。

●欧州の反応

 欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は、「紛争の唯一の現実的な解決策はイスラエルとパレスチナの2国家共存であり、エルサレムを双方の首都とすることだ」と強調。エルサレムの最終的な地位は交渉を通じて解決されるべきだとし、EUとしてそのための支援をしていく考えを強調。地域の当事者には状況の悪化を避けるため、「冷静で抑制的」な対応を求めました。 
 メイ英首相は、「和平に取り組もうとするトランプ氏の思いに対しては賛同する」が、今回の決定は「地域平和という観点からは役立たない」と述べ、「エルサレムはイスラエルとパレスチナの交渉によって決められるべきだ」と指摘しました。在イスラエル英大使館について、「テルアビブから(エルサレムに)移す予定はない」と語ったと伝えられます。
 マクロン仏大統領は、「残念な決定だ。フランスは認めない」と批判し、トランプの決定は「国際法や国連安全保障理事会決議に反する」と指摘しました。エルサレムの地位はイスラエル、パレスチナ間の交渉で決めるべきだという立場を改めて示し、「なんとしても暴力は避けるべきだ。対話が大事だ」と述べ、パレスチナ、イスラエルの双方に衝突回避を呼びかけました。
 メルケル独首相は、「独政府はこの振る舞いを支持しない」と報道官のツイッターを通じ強調しました。

●我が国政府の立場

 菅義偉官房長官は、トランプの発表について、「発表内容や米国の今後の対応について精査・分析をしている。大きな関心を持って注視しており、米国を含む関係国と緊密に連携を取りながら対応したい」「わが国は(イスラエル、パレスチナ間の紛争の)2国家解決を支持している。エルサレムの最終的地位の問題も含め、当事者間の交渉で解決されるべきだという立場はかわらない」と述べました。
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ユダヤ135~アメリカ及びそれ以外のユダヤ教徒

2017-12-07 09:25:41 | ユダヤ的価値観
●アメリカ及びそれ以外のユダヤ教徒

 ここでアメリカのユダヤ人社会の信仰ついて捕捉する。アメリカでは、ユダヤ教の正統派・超正統派が合わせて約1割、改革派が約3割、保守派が約3割いるといわれる。うち最も政治的・経済的に活躍しているのは、改革派である。ユダヤ教徒の信仰は、キリスト教徒に比べて、しっかり世代間の継承がされているように見える。しかし、アメリカのユダヤ教徒全体では、シナゴーグの礼拝に参加するユダヤ人は人口の約4分の1にとどまるという報告がある。このことは、ユダヤ人社会でも世俗化が進んでいること、またアメリカ社会への同化が進んでいることを意味する。
 アメリカのユダヤ人社会で、超正統派は、正統派よりやや少ない。超正統派は、多産を神の御心にかなうことと考え、避妊を一切行わない。そのため、年間約5%の人口増加率という猛烈な勢いで、その数を増やしている。一方、改革派や保守派は、異宗教間結婚が多く、また出生率が低下しており、今後大幅にその数を減らしていくと見られる。
 1990年に実施された全米ユダヤ人口調査によると、既婚ユダヤ人の52%が非ユダヤ人を配偶者としていた。非ユダヤ人の配偶者が結婚を機にユダヤ教徒に改宗するケースはせいぜい5%に満たない。その多くはユダヤ人男性と結婚したキリスト教徒の女性である。また、ユダヤ教徒同士ではない結婚によって生まれた子供のうち、ユダヤ教徒として育てられるケースは28%に過ぎない。約7割の子供は、伝統的なユダヤ教徒として育てられていない。この調査以後、この傾向は一層進んでいると見られる。こうした趨勢が続くと、将来、アメリカのユダヤ人口は激減するだろう。その懸念が、アメリカのユダヤ人にとってホロコーストに代わる最大の脅威になっているという。

●その他の地域のユダヤ人

 世界の81.1%(2010年現在)のユダヤ人は、イスラエルとアメリカに居住する。アメリカ=イスラエル連合の動向は、これら2国以外の国家・地域にいるユダヤ人に強く影響を与える。今後もその構造は続くだろう。
 世界のユダヤ人口の残り約19%のうち、居住者が多い国は、順にフランス、カナダ、イギリス、ロシアである。また、他の欧州諸国、インド、中国、東南アジア、南米など、世界各地にユダヤ人は居住している。そして、彼らはその集団の特徴であるネットワークを広げ、経済的・政治的・科学的・芸術的等に優れた能力を発揮して活躍している。
 ユダヤ教の各宗派の傾向は、先に書いたイスラエルとアメリカにおける長期的な傾向と、それ以外の国家・地域における傾向は共通していると見られる。すなわち、正統派は人口を増やし、次世代に厳格な信仰を継承する一方、改革派や保守派の多くは結婚や世代交代を通じて脱ユダヤ教化していくと見られる。
 イスラエルとアメリカ以外の国で、ユダヤ人の状況が最も注目されるのは、ロシアである。
ソ連解体後、1990年代のロシアで、エリツィン政権は、国家財政立て直しのため、国際通貨基金(IMF)の支援を受けた。国営企業の民営化を進めるために、バウチャー方式が採られた。これは一種の民営化証券のようなもので、一部の者がバウチャーを買い集めて企業を立ち上げた。そこから民間銀行家が育っていった。彼らは財政赤字に悩む政府に融資を申し出た。政府は天然資源の国営企業を融資の担保として取られた。こうして国営企業を手に入れた銀行家たちは、新興財閥「オルガリヒ」として、経済社会の様々な分野を支配するようになった。オルガリヒの多くは、ユダヤ人である。IMFの支援を受けるということは、欧米の巨大国制金融資本のロシア市場への大規模な参入を認めるということである。その動きの中で、欧米のユダヤ人資本家とロシアのユダヤ人資本家が連携してきたと見られる。
 2000年にボリス・エリツィンの後を継いで大統領になったウラディミール・プーチンは、オルガリヒに政治的圧力を加えた。これは、プーチンの欧米・ロシアのユダヤ人コネクションへの反攻と見られる。
 当時オルガリヒには7財閥あり、そのうち6つがユダヤ系だった。ユダヤ系オルガリヒの中で、石油大手シブネフチのボリス・ベゾレフスキーは、イギリスに亡命した後、自宅で自殺体として発見された。メディア王ウラディミール・グシンスキーは、横領詐欺等の容疑で逮捕・釈放された後、スペインに亡命した。他のオルガリヒも、プーチンの反攻を受けた。
 最後までプーチンに抵抗した石油大手ユーコスのミハイル・ホドルスキーは、大統領選に出馬を表明した。ホドルスキーは、欧米のユダヤ系の指導者たちと親しい関係にある。ジェイコブ・ロスチャイルド卿と組んでロンドンに「オープン・ロシア財団」を設立し、キッシンジャーを理事に招聘した。プーチンはホドルスキーを逮捕・投獄し、ユーコスを解体した。
 ロシア国家とユダヤ人資本家の国際ネットワークの攻防は、19世紀前半のアレクサンドル1世の時代から続いている。ユダヤ系の巨大国際金融資本にとって、ロシアの徹底的な市場開放と金融的従属化は、世界単一市場、世界統一政府の実現という目標に向けた重要な課題の一つだろう。それゆえ、今後の世界において、ユダヤ系の巨大国際資本とロシア政府との関係がどのように展開するかは、国際社会の変動の重要な要素となっていると見られる。プーチンと首領とするロシア政府のユダヤ系巨大国際金融資本への挑戦は、プーチンがユダヤ的価値観の問題点を理解し、それを超克しようとしているが故のものではない。ユダヤのエスニシズムに対するロシアのエスニシズムの反発とそれによる主導権争いである。この点で、ロシアに過度の期待を抱くことは危険である。

 次回に続く。
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北朝鮮の核がアジアと世界を危機に陥らせる2

2017-12-06 09:58:52 | 国際関係
 平成28年(2016年)3月29日に施行されたわが国の安全保障関連法は、朝鮮半島有事はかつての周辺事態法ではなく、重要影響事態法によって対処するものとなっている。放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれがある事態において、わが国は米軍等を後方支援する。また、米軍が北朝鮮軍から攻撃を受けた場合、わが国が集団的自衛権を行使すべき状況も生じ得る。韓国にいる日本人を救出する活動が必要な状況も生まれ得る。同法のもと、こうした実際に起こり得る事態に対して、わが国がどう対応するかを集中的かつ徹底的に議論し、いざという時に備えることが必要である。
 本年に入って、北朝鮮は、核・ミサイルの実験を猛烈な速度で進めてきた。1月20日にアメリカはトランプ政権に替り、オバマ政権の弱腰姿勢から強硬姿勢に変わった。前政権の「戦略的忍耐」は間違いだったとし、軍事的攻撃も辞さない構えを示した。すると金正恩は挑発的な姿勢強め、「在日米軍基地を標的とする」と明言した。在日米軍基地への攻撃は、安全保障関連法が想定する日本への直接の武力攻撃であり、また米軍が北朝鮮軍から攻撃を受けた場合に当たる。横須賀・岩国・三沢等の米軍基地を核攻撃されたならば、基地周辺の住民・施設への被害は甚大なものになる。わが国は、広島・長崎に原爆を投下されて以来の、現実的な核攻撃の危機にさらされている。
 北朝鮮は、7月4日、28日相次いで大陸間弾道弾(ICBM)の発射実験を行った。その結果から、北朝鮮のICBMは米国西海岸を射程圏内に収めたと見られた。日米等専門家の多くは、これほど急ピッチで北朝鮮が開発を進めることを予測できていなかった。
8月8日の米紙ワシントン・ポストは、米国の国防情報局(DIA)が、北朝鮮は既にICBMに搭載できる小型核弾頭の製造に成功しており、北朝鮮が保有する核兵器は最大60発と見ていることを報道した。
 この報道があった日、トランプ大統領は、「北朝鮮はこれ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。(さもなければ)世界が見たこともないような炎と怒りに見舞われることになる」と述べ、武力行使の構えを示して強く警告した。これに対し、翌9日、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官は、中長距離弾道ミサイル「火星12」で「グアム島周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と発表した。
 8月29日朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射し、北海道上空を通過して襟裳岬より東1180kmの太平洋上に落下した。グアム周辺に届く能力を実験したものとみられる。多弾頭ミサイルの実験だったという見方が有力である。
 9月3日、北朝鮮は6回目の核実験を行い、水爆実験に完全に成功したと発表した。広島に投下された原爆の10倍もしくはそれ以上の破壊力だったと推定された。これに対し、11日、国連安全保障理事会は新たな制裁強化決議案を全会一致で採択した。制裁決議は9回目となった。
北朝鮮はこの決議に激しく反発し、14日国営メディアが国民の間に「取るに足らない日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるべきだ」という声が上がっていると威嚇した。米国、韓国に対しても怒りと敵意を発した。そして15日朝に再び弾道ミサイルを発射した。 ミサイルは、北海道上空を通過し、襟裳岬東約2200キロの太平洋上に落下した。飛行距離は約3700キロ、最高高度800キロと見られた。米国に対して、グアムにまで届くことを実証して見せたものである。
 9月19日、トランプ大統領は国連で演説し、金正恩朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、「北朝鮮が米国と同盟国に脅威を与えたならば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告した。これに対し、21日金正恩は「米国の狂ったおいぼれを必ずや、必ずや火で罰する」と応酬した。
 9月15日以降、しばらく北朝鮮の核・ミサイル実験は行われなかった。再度の実験は、75日後に行われた。11月29日、北朝鮮は新型ICBM「火星15」を発射した。ミサイルは青森県沖、日本の排他的経済水域(EEZ)内の日本海に落下した。約50分間、約1000キロを飛行し、最高高度は約4500キロに達したとみられる。通常軌道で発射された場合の飛距離は1万3000キロ以上に達し、ワシントンを含む米全土を射程に収められると報じられた。北朝鮮のICBMは、いずれワシントンやニューヨークに届くようになると予想されていたが、これほど早くそれが実現すると予想していた専門家は少ない。
 北朝鮮は、9月3日の核実験を成功させたのち、既に核弾頭の量産体制に入っている可能性が高い。早ければ10月、遅くとも来年1月ごろには、量産化が実現すると見られる。

 次回に続く。
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