ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トランプの閣僚人事とユダヤ人社会との関係

2016-11-17 09:37:26 | 国際関係
 トランプ米国次期大統領の閣僚人事が注目されている。トランプは政界の異端児であり、独裁者タイプの人物である。政治家経験も軍人経験もない実業家である。彼のような人物が強大な権限を持つ大統領になった場合、側近にどういう人材が集まり、主要閣僚にどういう人材が就くかが非常に重要である。周りをしっかりした人間が固めて、外交・安全保障・経済等について進言したり、実務を執ったりしないと、トランプはあちこちで暴走するだろう。

 トランプは、まず共和党全国委員会のラインス・プリーバス委員長を首席補佐官に任命すると発表した。首席補佐官は、我が国の内閣官房長官に似た官邸のまとめ役であるとともに、大統領の日常の執務予定を組んだり、大統領が日々誰と会うかを決めたりする役割を担う。プリーバスは共和党の中枢にいたので、ホワイトハウスと共和党の間の調整を行い、また分裂含みの党を統括することを期待した起用と見られる。
 また、トランプは、選挙対策本部の最高責任者を務めたスティーブ・バノンを首席戦略官・上級顧問に指名した。戦略官は通常、首席補佐官より下の役職だが、トランプはバノンにプリーバスと同等という高い地位を与えるという。このことは、トランプ政権において、バノンの考え方や戦略が大きな影響力を持つだろうことを意味する。

 バノンとはどういう人物か。バノンについて、昨年8月にニューヨーク在住のジャーナリスト、佐藤則男氏がブログに書いていた。当時、トランプは選挙戦でひどく劣勢で、それまでの選挙部隊を総入れ替えし、バノンを指揮官に迎えた。佐藤氏は「劣勢を一気に挽回しようと焦るトランプが、選挙部隊の刷新を図り、最後のばくちに出たと筆者は見る」と書いている。佐藤氏によると、バノンは元海軍将校で、退役後、ゴールドマン・サックスで投資銀行業務を行った経験があり、クリントン財団の内情をよく知っており、同財団の問題を調べ、それをヒラリー攻撃に用いたとのことである。
http://blog.livedoor.jp/norman123/archives/6158956.html

 バノンは、オンライン・ニュースサイト、「ブライトバート・ニュース」の会長で、同サイトを強硬派のポピュリズム的なニュースサイトに育て、白人至上主義者とオルト右翼(いわゆるネット右翼の総称)に人気の情報源にすることに成功した、といわれている。
 私が注目するのは、彼が反ユダヤ主義者として非難されていることである。米国ではユダヤ・ロビーが大きな力を持ち、政権に強い影響力を振るっている。そうした中で、反ユダヤ主義者との批判のあるバノンが、政権の幹部になるということは、ユダヤ人に対する態度を改めたのか。もし変えていないとすれば、彼を指名したトランプとユダヤ人社会との間で衝突が起こるのではないかと考えられる。トランプがバノンを政権の指導的な役職に指名したことを、ユダヤ名誉毀損防止同盟(ADL)は非難している。ADL幹部のジョナサン・グリーンブラットは、バノンが指名を受けた日を「悲しみの日」と呼んでいる。
 これは推測だが、おそらくバノンは選挙対策本部の仕切り役に就く段階で、親ユダヤに転換しているのではないか。彼の主敵はヒラリーであり、民主党及び共和党主流派だから、反ユダヤ主義は止めるという戦略的判断をしたのだろうと思われる。今の米国ではユダヤ人社会から敵視されると、選挙で勝てない。
 
 ここで考えられるのが、トランプの長女イヴァンカとその夫でユダヤ教徒のジャレッド・クシュナーが、トランプ、バノン、ユダヤ人社会の間の調整役をしているだろうことである。イヴァンカは父と同じペンシルバニア大学を首席で卒業した才色兼備の実業家である。長老派のキリスト教徒として育てられたが、ユダヤ人のジャレッドと結婚するに先立って、異宗婚を避けるために戒律の厳格な正統派のユダヤ教に改宗し、ヤエルというユダヤ名を選んだ。シナゴーグを訪れた際は、ユダヤ教への篤い信仰とイスラエルへの熱烈な支持を発言しているという。
 夫の父チャールズ・クシュナーは、ニューヨークのユダヤ人社会の元締の正統派ユダヤ教徒の実力者。ジャレッドは父から継いだ不動産開発大手クシュナー社の代表で、ドナルド・トランプとは父の代から同業者として知り合いだった。地元週刊紙ニューヨーク・オブザーバーを買収した所有者であることでも知られる。 祖父母はホロコーストの生存者だという。
 ジャレッドは、トランプの大統領選キャンペーンで政策アドバイザーを務めた。ヘンリー・キッシンー元国務長官の人脈につながるとされる。キッシンジャーは、ロスチャイルド家とロックフェラー家の両方と深い関係を持つ。ジャレッドはトランプとイスラエルの要人とのつなぎ役も果たし、本年9月トランプがイスラエルのネタニヤフ首相とトランプタワーで会談した際には傍らにいた。現職の首相が大統領選挙中の候補者と、その本拠地に出向いて会うのだから、イスラエル側がトランプを重視していたことがわかる。
 「G0(ゼロ)」論で知られる政治学者イアン・ブレマーは、ジャレッドを「新政権のキーパーソン」と見ている。閣僚人事に参画しており、自ら参謀役として大統領補佐官に就任する可能性があると伝えられる。次期副大統領のマイク・ペンスを責任者とする政権移行チームでも、ジャレッドは発言力を振るっている模様である。
 
 引き続き、国務長官、国防長官、財務長官の三重要閣僚をはじめ、主要閣僚にどういう人物が就くか注目される。新政権はトランプの一族や忠臣のグループと、共和党主流派の力関係のせめぎ合いとなるだろう。また、共和党・民主党の両党を背後から管理する所有者集団は、大衆が選んだトランプを自分たちの意思に従って動く政治家とし、その意思に沿った政策をさせようとするだろう。しょせんトランプは、ロスチャイルド家やロックフェラー家等に比べれば、成り上がりの中小クラスの富豪にすぎない。ただし、大統領はただの操り人形ではなく、自分の意思を持ち、またそれを実現する合法的な権限を持っているから、トランプのような独裁者型の人物の場合、自分の意思を強く打ち出し、所有者集団と衝突が起こるのではないかと思われる。その時の重要点の一つが、彼及び彼の側近の欧米のユダヤ系巨大国際金融資本家との関係となるだろう。

■追記
 本項を含む拙稿「トランプ時代の始まり~暴走か変革か」は、下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-3.htm

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