ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

緊急事態条項から改憲の発議を~百地章氏

2015-06-05 09:48:51 | 憲法
 現行憲法には、わが国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、どのように対応するかが、定められていない。多くの国の憲法には、緊急事態条項が設けられている。わが国でも、明治憲法にはその規定があった。それをもとに、2・26事件では戒厳令を発令した。しかし、現行憲法は、それがなくされてしまった。
 緊急事態規定のないことと、第9条で国防を規制していることは、同じ事情による。占領下にアメリカによって作られた憲法だから、何か起これば、GHQが出動することになっていたからである。
 私は、9年ほど前に新憲法私案をネットに掲載し、今も公開している。その中に、緊急事態条項を設けている。また憲法に緊急事態規定のない重大欠陥を指摘し、憲法を改正し、条項を新設するよう訴えてきた。当時はごく少数意見だった。
 平成23年東日本大震災が発生した。原発の事故が起こり、爆発すれば東日本の大部分が危機的状態になり、国家全体もマヒする恐れがあった。だが、憲法にそうした非常事態への対応が定められておらず、また不幸にして当時は民主党政権のため、まともな対応が出来ず、いたずらに被害を拡大し、犠牲者を増やした。
 その反省により、ようやく憲法に緊急事態規定を設けるべきという意見が多くなってきた。現在は共産党を除くすべての政党が必要性を認めている。大震災の影響で首都圏や南海トラフ等で巨大地震が起こる可能性が高まり、日本は天変地異の時代に入っている。改正の際、緊急事態規定を設け、国防と防災を一体のものとして強化する必要性がある。
 日本大学教授の百地章氏は、憲法改正の早期実現を求める有識者の一人である。百地氏は、産経新聞26年12月18日の記事で、衆参両院で3分の2の改憲勢力を結集するためには、改憲のテーマを絞ることが必要だと主張し、テーマの絞り込みの仕方については、「第1に国家的に重要な課題であること、第2に国家、国民にとって緊急の必要性があること、第3が国民にとって分かりやすく、多数の支持が得られそうなものであること」を挙げた。そして、「真っ先に考えられるのがいつ発生するか分からない首都直下型地震などの非常時に備えて、憲法に緊急事態条項を定めることであろう」と述べた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/46f1e0749767c0ad1f30d00c30571346
 本年5月4日の記事では、緊急急事態条項で改憲の発議をすることを提案している。百地氏は、次のように言う。
 「首都直下型地震などの大規模自然災害への備えに加え、新たに浮上してきたのが大規模テロ対策の必要性である。今回、首相官邸の屋上で小型無人飛行機『ドローン』が発見された。容疑者はブログの中で原発の再稼働阻止のためテロも辞さないとの意思を示していたという。『イスラム国』によるテロの脅威などもあり緊急権導入のために憲法改正が急がれる」と。
 「昨年11月6日の衆議院憲法審査会において、共産党を除く与野党7党(当時)が『憲法に緊急事態条項を』という点でほぼ一致したのは画期的であった。このテーマなら衆議院だけでなく参議院でも憲法改正の発議に必要な3分の2の賛成が得られる可能性が出てきたからである」。
 緊急事態条項については、憲法を改正しなくとも、緊急時の対応はすでに災害対策基本法や国民保護法などに定められているとの理由の反対がある。これに対し、百地氏は、「いざという時に法律だけで対処できないことは先の東日本大震災の折に実証済みである。被災直後、現地ではガソリン、水、食料品などの生活必需物資が不足していたにもかかわらず、災害対策基本法で認められた『物資の統制』を行うための『緊急政令』は出されなかった」と指摘する。また、その理由の一つとして「たとえ法律で『権利・自由の制限』が認められていても憲法に根拠規定がなければ違憲とされる恐れがあり、緊急権を発動するのは困難」ということがあり、「憲法に緊急事態条項を定めておかなければ、いざという時に役に立たない」と主張している。全く同感である。
 以下は、百地氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成27年5月4日

http://www.sankei.com/column/news/150504/clm1505040001-n1.html
2015.5.4 05:01更新
【正論】
緊急事態条項で改憲の発議を 日本大学教授・百地章

 首都直下型地震などの大規模自然災害への備えに加え、新たに浮上してきたのが大規模テロ対策の必要性である。今回、首相官邸の屋上で小型無人飛行機「ドローン」が発見された。容疑者はブログの中で原発の再稼働阻止のためテロも辞さないとの意思を示していたという。「イスラム国」によるテロの脅威などもあり緊急権導入のために憲法改正が急がれる。

≪画期的な与野党7党の合意≫
 「政府」ではなく「国民共同体としての国家」や憲法秩序が危機に陥った時に、国民と国家を守るために発動されるのが緊急権である。制度化は緊急事態でも「立憲主義」を維持するために不可欠である。その意味で、昨年11月6日の衆議院憲法審査会において、共産党を除く与野党7党(当時)が「憲法に緊急事態条項を」という点でほぼ一致したのは画期的であった。このテーマなら衆議院だけでなく参議院でも憲法改正の発議に必要な3分の2の賛成が得られる可能性が出てきたからである。
 自民党は「緊急事態」において法律に代わる「緊急政令」や一定の私権制限を認めるよう主張、公明党も「加憲項目の一つ」として、緊急事態規定の容認が党内の大勢であるとした。
 また野党では、維新の党が「自然による大災害や感染症のパンデミック、また有事の際など、国民の生命や国土を守るべく国として最善の対処をするため」、次世代の党は「有事にあっても憲法秩序を維持し、民主主義を尊重し、権力の濫用(らんよう)や簒奪(さんだつ)を防ぐため」と主張、民主党も「非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが侵されることなく、その憲法秩序が維持されるよう」緊急事態条項を、と主張している。
 これに対して唯一反対したのが共産党であった。ただ、緊急事態条項の具体的な内容について十分な論議がなされたとはいえず、今後更に検討が必要である。それゆえ一日も早く憲法改正原案をまとめ、国会による憲法改正の発議が可能となるよう、憲法審査会ではぜひとも審議のスピードアップをはかっていただきたいと思う。

≪法律だけでは対処が困難≫
 共産党は、必要な法律を整備すれば対処可能として、緊急権に反対している。同様に朝日新聞も「憲法を改正しなくとも、緊急時の対応はすでに災害対策基本法や国民保護法などに定められている」との理由で反対している(4月3日、社説)。しかし、いざという時に法律だけで対処できないことは先の東日本大震災の折に実証済みである。被災直後、現地ではガソリン、水、食料品などの生活必需物資が不足していたにもかかわらず、災害対策基本法で認められた「物資の統制」を行うための「緊急政令」は出されなかった。国会が「閉会中」でなかったからというが、もう一つの理由として内閣府の参事官は次のような趣旨の答弁をしていた。「憲法で保障された国民の権利や自由〔経済取引の自由や財産権〕を安易に制限するわけにはいかない」と。
つまり、たとえ法律で「権利・自由の制限」が認められていても憲法に根拠規定がなければ違憲とされる恐れがあり、緊急権を発動するのは困難という訳である。それゆえ憲法に緊急事態条項を定めておかなければ、いざという時に役に立たないのだから、共産党や朝日新聞の主張には無理がある。

≪ドイツの失敗が反対理由?≫
 朝日新聞の社説は、次のようにもいう。「戦前のドイツでワイマール憲法のもと大統領緊急令が乱発され、ヒトラー独裁に道を開いた苦い歴史もある」「ほとんどの国の憲法に盛り込まれているのに日本にはないのは不備であるという。歴史的な経緯を無視した、あまりに単純な主張だ」
 反対派が決まって引き合いに出すのがこの大統領の緊急措置権だ。同憲法48条は「ドイツ国内において公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはそのおそれがあるときは、大統領は公共の安全および秩序を維持するために必要な措置をとることができ〔る〕」と定めていた(2項)。
 大統領の緊急措置権が乱用されたのは主に次の理由による。
すなわち大統領に与えられたのは公共の安全と秩序を回復するための「行政措置権」にすぎず、「緊急命令権」つまり立法権は含まれなかった。にもかかわらず判例および政府解釈さらに通説までが「緊急命令」も含まれるとの立場をとり、後に小党乱立のため議会が立法機能を果たせなくなると緊急命令が議会の「通常の立法」にとって代わることになった。
 こうして大統領に独裁的権力が与えられ、大統領の権限を利用して政権を掌握したのがヒトラーである。しかしこれは憲法を逸脱し緊急措置権が乱用された結果にすぎず、緊急権制度そのものに原因があるわけではない。だからこそ戦後、西ドイツはその反省に立って、より周到な緊急権を定めた。
 ドイツの失敗例を持ち出しただけで「ほとんどの国の憲法に盛り込まれ」た緊急権制度そのものに反対するのは、「あまりに単純な主張」ではなかろうか。(ももち あきら)
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 百地氏は、ここで具体的な条文案を提示していない。私は、平成18年(2006)1月11日にマイサイトに掲示した新憲法ほそかわ私案で、下記のような条文案を提案している。用語は非常事態を用いているが、緊急事態と同義で使用している。

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(非常事態宣言)
第十九条 我が国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、内閣総理大臣は国会の事前又は事後の承認のもとに、政令により、地域及び期間を決め、非常事態宣言を発し、必要によって緊急命令を発することができる。
2 内閣総理大臣は、非常事態において、国軍の出動を命じ、法律に定めるところにより、非常事態が解消されるまで一定の権利の制限を行うことができる。
3 非常事態における行政事務は、法律の定めるところにより、必要やむを得ない範囲のものに限り、国軍によつて行なわれる。
4 非常事態にかかる地域については、やむを得ない事情のある場合に限り、公共の利益のため、住民の居住、移転、集会、表現等の自由と、財産等の権利に関し、この憲法の規定にかかわらず、政令で、これらの規定と異なる定めをすることができる。
5 緊急を要する租税その他の公課、政府専売品の価格又は通貨に関する措置を必要とするときは、内閣は、国会の事前の承認なくして政令で緊急の措置を行うことができる。
6 前4頃、5項に規定するもののほか、非常事態宣言に関し必要な事項は、法律で定める。

(非常事態宣言の承認と解除)
第二十条 内閣総理大臣は、非常事態宣言並びに緊急命令を発したときは、すみやかに国会に付議して、その承認を得なければならない。
2 非常事態宣言の発令後、国会の承認を得られなかった時、また非常事態が終了したと認められた時は、内閣総理大臣は、すみやかに非常事態解除宣言を発しなければならない。
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 詳しくは、拙稿「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案」をご参照ください。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08h.htm

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2 コメント

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拒絶反応ではなく、堂々と議論をすべき。 (明智 小五郎)
2016-02-15 14:19:46
埼玉県上尾市にある聖学院大学政治経済学部の石川裕一郎教授は、安倍首相が創設を目指す「緊急事態条項」について
●フランスの事例を挙げて、これまで6回の非常事態宣言の発令では自然災害での適用が1回もないのです。・・・と言っています。

そうでしょうか? 考えてみてください。
 非常事態のうち、(テロ等)によるものは(人間社会)で引き起こされたものです。
       しかし、(自然災害)はその名のとおり(自然発生)の現象なのです。
 非常事態宣言を発令した6回の間に、自然災害が無くて幸いであっただけのことである。
 ですから、(テロ等)の回数と比較する意味が全くないのです。

●また 石川裕一郎教授は、憲法54条の(参議院の緊急集会)を根拠に、緊急事態条項の必要性を否定しています。

 参議院議員の半数だけで、緊急事態を乗り切れるのでしょうか? 自然災害のみ発生したのであれば、それでも乗り切れるでしょう。 しかし実際には、あらゆる場合を想定した緊急時の対応が必要となります。
仮に自然災害が発生したとして、それに乗じて(テロや他国による侵略)が引き起こされた場合は憲法54条の(参議院の緊急集会)で乗り切ることは現実的に無理があり、安全保障への対応ができず、国家の危機に陥ります。
GHQ草案に基づく現行憲法は、そこまで想定して作られていません。 ですから、国の存立危機事態に備えるために 「緊急事態条項」 の創設が求められるのです。 日本国の尊厳を大切にする自民党の 「日本国憲法改正草案」 は しっかりと、「緊急事態条項」の創設を提案しています。

安保法制に反対する(自称:憲法学者)に特徴的なことですが、護憲にばかり拘(こだわ)っているために、(現行憲法の不備・問題点)が分かっていないのです。 丸暗記した憲法条文を、念仏のように唱えるだけで憲法の学者と言えるのでしょうか? 丸暗記なら、全ての小学生にも出来ることです。
>明智小五郎さん (ほそかわ)
2016-02-15 16:54:20
御説に基本的に賛成です。付け加えたいのは、自然災害だけであっても、首都直下型の大地震のような大規模広域災害が起きた場合は、参院議員が半数も集合できない事態が考えられます。

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