ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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講演「日本の国柄と天皇の役割」の概要2

2016-10-31 09:50:47 | 皇室
●天皇陛下がお気持ちを表明

 今上陛下は、56歳で昭和天皇から皇位を継ぎ、常に国民の安寧と世界の平和を祈って様々なご公務をされてきた。現在82歳というご高齢になっておられる。
 本年7月13日NHKテレビが天皇陛下は「生前退位」のご意向という異例の放送をし、国民に衝撃を与えた。報道の仕方が不適切であり、また「生前退位」という誤った用語が使われた。宮内庁は報道された内容を全面否定した。そのような経緯があって、陛下が直接国民にお気持ちを語られることになった。8月8日NHKテレビで「天皇陛下のお気持ち表明」という番組が放送された。天皇陛下が直接国民にビデオで御言葉を述べられたのは、約5年前の東日本大震災の時以来だった。このたびの御言葉の概要は以下の通りである。

 まず、陛下はかねて高齢社会において「天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか」と考えてきたと語られ、80歳を超えて「次第に進む身体の衰え」を考慮すれば、「これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないか」という懸念を述べられた。
 続いて、ご即位以来「何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ること」とともに、「国民に、天皇という象徴の立場への理解」を求め、天皇も「国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要」を感じてきたと振り返られた。
 しかしながら、「天皇の高齢化」に伴って「国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろう」し、「重病などによりその機能を果たし得なくなった場合」に「天皇の行為を代行する」摂政を置くことも、「天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま」に生涯「天皇であり続けること」に変わりはないと胸中を明かされた。
 そして「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶこと」を心配され、「皇室がどのような時にも国民と共に」あるとともに、「象徴天皇の務め」が「安定的に続いていくこと」を念じて、「国民の理解を得られることを、切に願っています」と結ばれた。

 天皇陛下は、数年のうちに譲位することを強く希望されていると理解される。
 皇室典範には、譲位の規定はなく、天皇は自らのご意思で譲位することはできない。皇室典範に譲位の規定がないのは、明治以降、譲位による争いを避けるためにそうしたものである。皇室の歴史には、皇位を巡る争いが幾度かあり、上皇方と天皇方に分かれて戦った争いもあった。そのような争いを防ぐために、明治時代に皇室典範を作った際、譲位の規定を設けず、天皇には終身お勤めいただくこととした。ただし、不慮の事柄等によって、天皇がお勤めを果たせない事態は考えられる。そこで、摂政を置くことを定め、大正天皇の代には、皇太子(後の昭和天皇)が摂政となって、天皇のお勤めを代行された。
 大東亜戦争の敗戦後、占領下でつくられた現行の皇室典範にも、戦前の皇室典範と同様、摂政の規定がある。下記の条文である。

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第十六条 天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
2 天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
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 そこで、この規定に則って、天皇陛下は御在位のままで、摂政を置くという対応が考えられる。具体的には「精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、」という一節を柔軟に解釈するか、「高齢による心身の著しい衰え」といった文言を加えることが考えられる。皇室の伝統や日本の歴史をよく知る有識者には、摂政を置くのが良いという考えの人が少なくない。
 もっとも今上陛下は摂政を置くことよりも、譲位を強くご希望と理解される。仮にお気持ちに応えて、譲位を可能にする場合は、はるかに重い検討を要する。譲位を可能にするには、典範を大幅に改正する必要がある。このことは、皇室制度の根幹に関わることである。わが国の歴史・伝統・国柄を踏まえた一大研究が必要である。明治維新の時以来の大きな重みをもった取り組みになる。

 最大の課題は、先に書いたように、譲位による争いを避ける工夫である。その他、様々な検討点が挙げられる。譲位がされれば、元号が変わることになる。現行の皇室典範には、譲位した後の天皇の称号を定めていない。歴史的には太上天皇いわゆる上皇が用いられたが、これをどうするか。譲位後の先帝の権能、お住まい、公費の支給額等をどうするか。また、皇太子が天皇に即位した場合、男子のお子様がいないので新たな皇太子を置くことができない。皇太子は「皇嗣たる皇子」と皇室典範に定めているからである。皇位継承順位第1位となる秋篠宮殿下は、皇太子ではなく別の呼称が必要になる。歴史的には皇太弟というが、これも皇室典範に新たに定めねばならない。その他にもいろいろ検討点がある。

 これらを短期間に検討して皇室典範を改正するのは、至難の課題である。そこで政府は、皇室典範の改正ではなく、特例法制定で譲位を可能にする方針と報じられる。憲法は皇位継承について「皇室典範の定めるところによる」と規定しているので、皇室典範の付則に「特別の場合」に限定して特例法で対応できる旨を追加する。9月23日に有識者会議のメンバーが発表された。皇室制度の専門家や日本の歴史に深く通じた人が一人もいない。この点が心配だが、これら有識者を中心に幅広い意見を聴取して、特例法案の内容を詰め、提出は年明け以降になる見通しと伝えられる。早ければ、1~2年ほどで譲位が行われ、元号が変わるということになるかもしれない。わが国は大きな節目に近づいている。
 このたびの天皇陛下の御言葉を受けて、わが国の歴史・伝統・国柄を振り返るとともに、社会の高齢化を踏まえたあり方を考慮し、国民の英知を集めて適切な対応がされることが望まれる。

 次回に続く。

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