ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

『古事記』編纂から1300年

2012-02-21 10:29:49 | 文明
 世界の主要な文明のうち、文明の担い手である民族が固有の神話と宗教を持ち続けている文明は、日本文明とインド文明のみである。日本民族は、固有の神話に先祖が登場する天皇が現在も国家の象徴として存続し、また固有の宗教の祭祀を宮中で執り行っている。これは、インド文明にない特徴である。
 ユダヤ民族は、固有の神話と宗教を保っているが、ユダヤ社会は主要文明には数えられない。また民族の中心家系による王朝が、古代に滅んでいる。西洋文明の担い手は、固有の神話と宗教を失い、ユダヤ民族の神話とユダヤ民族から生まれた宗教に改宗している。
 これらの点から見て、日本文明は、世界の主要文明のうち、唯一無二の特徴を持った文明である。

 日本文明は、古代から固有の神話と宗教と、中心家系としての皇室を保つ。『古事記』は、この世界に比類ない日本文明の特徴を裏付ける書物である。『古事記』は固有の神話と宗教と皇室について伝える民族の古典である。
 今年は『古事記』が編纂されてから、1300年に当たる。これを記念して、『古事記』にゆかりのある県や町では、さまざまな記念行事が行われている。
 『古事記』には『日本書紀』とともに、民族と国家の形成が神話の形で表現されている。それによると、日本には、須佐之男之命の子孫である「国つ神」の民族が先住していた。そこに天照大神の子孫、「天つ神」の民族が渡来した。「天つ神」の民族は「国つ神」の民族と争いつつ、これを恭順させて日本を統治するようになった。両者は前者が姉、後者が弟にたとえられる関係であり、後者が前者に統治を譲渡し、前者は後者を敬意をもって待遇している。須佐之男命の子が大国主命とされ、後者は、この系統である。
 天孫降臨の神話において、天照大神は、孫のニニギノミコトを日本に派遣した。その際、次のように命じた。「吾が高天原きこしめす斎庭(ゆには)の稲を以てまた吾が児(みこ)に御(まか)せまつる」。すなわち、天照大神は、自ら高天原で作った稲をニニギに与え、日本へ行って米を作るように命じたという。また、天照大神は、ニニギに「鏡」を与えた。「鏡」は、現在も皇位を象徴している「三種の神器」の中心となっている。その後、「天つ神」の子孫が、九州から大和地方に進出し、初代・神武天皇となった。天照大神―ニニギノミコトー神武天皇の系統が、今日の皇室の祖先とされる。一方、須佐之男命―大国主命の系統は、出雲系となる。
 私の見るところ、日本文明は4~5世紀に誕生し、その後、成長を続ける形成期に入った。7世紀末に、神道の中心となる伊勢神宮で、第1回の遷宮が行われた。建築様式は、シナ文明の様式とはまったく異なり、日本文明の独自性を示している。社殿の建立後、20年に1度、式年遷宮が行われ、正殿・神宝など全てが新造されてきた。戦国時代には中断した時期もあるが、今日まで1300年にわたって続いており、世界に比類ない持続力を持っている。主要文明たりうるには、千年以上の持続性が必要だという見方があるが、伊勢神宮は、まさに日本文明の自立性を体現する、生きたモニュメントである。
 8世紀には『古事記』『日本書紀』、9世紀は『万葉集』という日本文明を代表する文献が編纂された。最初は漢文で表記されたが、やがて漢字から表音文字を取り出して音を表わす道具にした。さらに9世紀には片仮名・平仮名が発明・使用された。アルファベットはフェニキア文字を改良したものであり、フェニキア文字はオリエント諸族の文字を改良したものだから、日本の仮名文字も見事な文化創造といえる。
 今日、私たちは、『古事記』をはじめとする民族の古典を、日本独自の文字である仮名文字を交えた形で読んでいる。この独創的な文字文化は、世界に誇り得る日本文明の特徴である。『古事記』編纂1300年のこの年に、改めて『古事記』を紐解き、我々の先祖の描いた豊かな世界を味わってみることをお勧めしたい。

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●読売新聞 平成24年1月30日

古事記1300年、ゆかりの地でイベント多彩
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20120130-OYT8T00684.htm?from=os4

 日本最古の歴史書「古事記」が編さんされてから、今年で1300年になる。
 神話の舞台となった宮崎、島根、兵庫県や編さんの地、奈良県などの古事記にゆかりのある各県は、観光客誘致につなげようと多彩なイベントを計画。関係者は「国のあり方が問われる今こそ、国を築いた先人の思いに触れ、元気を取り戻して」と話している。
 古事記でニニギノミコトが降り立った天孫降臨の地とされる宮崎県は、1月から宮崎市の青島神社や西都市の都萬(つま)神社などをガイド付きのバスで巡る「神話巡りワンコインツアー」(定員約40人)を開始。参加費500円で、週末を中心に3月まで計20回を予定している。
 22日までの7回のうち、5回がほぼ満員で、2月も大半が予約で満杯。県観光推進課は「予想以上の人気で、4月以降も神話を生かしたイベントを考えたい」とし、口蹄疫(こうていえき)や新燃岳噴火で落ち込んだ観光業立て直しの起爆剤の一つに位置付けている。
 一方、宮崎に関連があるもう一つの歴史書「日本書紀」も2020年に編さん1300年を迎える。県は同年まで記念事業を続ける方針で、2月に市町村や民間団体などと協議会を設け、内容を検討する。
 ヤマタノオロチ退治やオオクニヌシノミコトの国譲りで知られる島根県は7~11月、「神話博しまね」を県内各地で開催。神話の世界を表した映像の上映や石見神楽(いわみかぐら)を披露する。国譲りの後、オオクニヌシは幽界(黄泉国(よみのくに))に籠もり、人々の縁を結んでいると考えられるようになったといい、県の担当者は「東日本大震災後に見直された人と人のつながりを感じてほしい」と話す。
 「国生み」神話の舞台・淡路島(兵庫県)の伊弉諾(いざなぎ)神宮では2月19日、記念大祭を予定。神話をテーマにした兵庫県主催のシンポジウムも開かれる。
 編さんの地・奈良県は今月29日、東京で宮崎、鳥取、島根3県と「ゆかりの地サミット」を開催。講演を予定しているマンガ家、里中満智子さんは「危機を乗り越え、国をつくった祖先たちを知れば、内から湧き上がるような誇りを持てる」と話す。
 旅行業界も注目。クラブツーリズム(東京)は島根県や奈良県を訪ねる企画商品を順次、発売し、宮崎県内を巡る3月のツアーは定員の25人がすでに満員で、2回分を追加した。日本旅行(同)の時永幸雄さんは「古事記ゆかりの地はパワースポットぞろいで、元気になりたい人向け」という。
(2012年1月30日 読売新聞)
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