ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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日本復活へのケインズ再考17

2011-03-11 08:53:34 | 経済
●新古典派総合によるケインズ経済学の普及

 ケインズは、新古典派経済学の理論を打破し、「ケインズ革命」を起こした。当時、ケインズの理論を認めない経済学者は多くいた。フリードリッヒ・フォン・ハイエクは、自由への規制は自由の否定になるとして、政府の市場への介入に徹底的に反対した。ハイエクは新自由主義の旗手とされ、共産主義やファシズムから自由を守る人々を中心に幅広く影響を与えた。しかし、戦後の新古典派経済学の理論的な中心となったのは、ミルトン・フリードマンだった。フリードマンの理論は、マネタリズムと呼ばれる。通貨管理経済政策である。マネタリズムは、貨幣数量説の現代版で、インフレ抑制のために貨幣供給量を一定率で増やしていく政策を提言した。フリードマンは、ケインズ革命に対する反革命の烽火(のろし)を上げた。
 これに対し、サミュエルソンは、IS-LM分析を用いて、ケインジアンとマネタリストの両方の主張を総合できるとした。中村雅之氏によると、マネタリストは、供給された貨幣がほとんどすべて取引需要に吸収される世界を想定している。これはLM曲線が垂直になった完全雇用に近い領域で妥当する。つまり、LM曲線の右上部分がマネタリストの世界、「古典派の極」である。この極において財政政策は効力が無く、金融政策は景気を刺激する。一方、ケインジアンの考え方が典型的に現れるのは、国民所得の低い状態で「流動性の罠」に陥った「不況の極」である。利子率は下限に達し、金融政策で動かすことはできない。また投資の利子弾力性も低いため、利子率を下げることの効果は薄い。こうした状況では、財政政策こそが国民所得増大のために有効である。(根井雅弘著『市場主義のたそがれ~新自由主義の光と影』)
 サミュエルソンは、IS-LM分析を「ヒックス=ハンセン図」と呼ぶ。そして、次のように述べている。
 「『ヒックス=ハンセン図』は、財政投資と金融政策、所得決定の理論、それに貨幣理論の全部を総合することに成功している。それはさらに、貨幣の流通速度についての明確な一般理論を提供することにより、マネタリストとケインジアンのマクロ経済理論を総合するのにも役立っている。すなわち重要な意味において、マネタリストの反革命は、LM曲線及びIS曲線の形状についての論争に帰してしまうのである』(サミュエルソン『経済学 第11版』1981年)
 サミュエルソンの「新古典派総合」によって、ケインズ経済学は世界的に普及した。1960年代、特にアメリカのケネディ政権の時代に、ケインズ主義は「黄金時代」を迎えた。サミュエルソン、トービン、ソローなどが経済政策に参画した。
 私の見るところ、正統派ケインズ主義を自称する丹羽春喜氏は「新古典派総合」の系統に立つエコノミストである。サミュエルソンは、ケインズの乗数理論を短期だけでなく中長期にも適用できるように発展させた「動態乗数理論」を考案した。丹羽氏は、自身の総需要管理政策は、この動態乗数理論に立脚するものだと明言している。また、丹羽氏は、単にフリードマンやルーカスの理論を論破するのではなく、合理的期待形成仮説を前提した「ルーカス的世界」においてもケインズ的政策は有効であることを論証し、新古典派を再度包摂し得る理論を展開している。ケインズ原理主義者ではなく、また単なるアンチ反ケインズ主義者でもない。

●ケインズ主義の世界への貢献

 ケインズの経済学は、第2次世界大戦後の世界の多くの国における経済学研究の主流となった。同時に、経済政策の策定に重要な役割を果たした。もちろんケインズの理論は完全なものではなく、またケインズの構想がすべて実現したのでもない。1970年代になると、ケインズ経済学は権威を失い、反ケインズ主義の新古典派経済学が主流となり、21世紀初頭には新古典派が圧倒的に優勢となった。しかし、ケインズの理論が20世紀後半以降の世界で、大きな貢献をしたことは疑えない。
 第一に、失業率を下げ、安定的な経済成長を可能にした。イギリスを始め多くの先進国では、失業率が一貫して低水準に留まっていた。失業率以外の他の指標でも、戦後経済は戦前より、はるかに良好である。わが国の実質GDPの成長率は、平均成長率が戦前より遥かに高い。他の多くの先進諸国でも同様である。このことは、ケインズの総需要管理政策が経済の健全な成長に不可欠とする考え方が政策に反映した結果と言えよう。
 第二に、国際経済機構が発達した。IMF=GATT体制は、アメリカ中心・戦勝国主導のものではあるが、IMFは戦前のブロック化、通貨切下げ競争の再発を防ぐ役割をしてきた。また、GATT(関税・貿易に関する一般協定)も、自由貿易に基づく効率的な資源配分の実現に加えて、貿易の拡大により有効需要を拡大し参加各国における完全雇用の実現に資するという理念が掲げられたものだった。ただし、その後、IMF等の国際経済機関は、当初の目的から逸脱するようになった。理論的にケインス主義から新自由主義・新古典派に転換し、巨大国際金融資本の利益に奉仕する機関に変貌した。
 第三に、通貨管理制度が機能した。戦後世界は金本位制から管理通貨制度に段階的に移行した。最初は固定相場制が取られた。経常収支の慢性的な不均衡に対して為替レートの調整が明示的に認められた。過大評価された為替レートが実体経済に与えるデフレ圧力を避けるためである。多くの国が為替レートの調整を行った。その後、変動相場制に移行した。変動相場制では各国が完全雇用・完全操業に努力しないと不利になる。有利を得るにはケインズ的な政策を行う必要がある。
 第四に、これが最大の貢献だが、上記の諸点により、ケインズ理論は、資本主義・自由主義の諸国が自由を守り、ソ連との冷戦に打ち勝つことを可能にした。共産主義の経済活動は非効率であり、無駄が多かった。統制は自発性を奪い、技術やシステムの停滞を招いた。しかし、仮に戦後の世界で、戦前のようなブロック経済化や通貨の切下げ競争、市場・資源の武力争奪が繰り返されていたら、世界全体が共産化していたかもしれない。

 次回に続く。
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