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血糖値に応じてインスリンを放出する新素材開発

2018-01-16 10:44:24 | 化学
名古屋大学と東京医科歯科大学の研究チームは、血糖値に応じて自動的にインスリンを出せる新素材を開発しました。

実用化すれば、患者の皮膚に貼るだけで糖尿病の治療ができるようになり、5年後にヒトでの臨床研究を目指しています。

糖尿病では血糖値を下げるインスリンを膵臓で作り出せなかったり、インスリンの効きが悪くなったりします。治療で患者が自分でインスリンを注射する場合、指先で血糖値を測り、1日4回程度の注射が必要になる等患者の負担は大きいものでした。

研究チームは、フェニルボロン酸という有機化合物を高分子ゲルに組み込んだ新素材を開発しました。このゲルは、周囲のブドウ糖濃度が低い時には薄い膜のような構造になっていますが、濃度が高くなると、1秒以内に分子構造が変化し、膜のような構造が無くなります。その後ブドウ糖濃度が低くなればまた元に戻るという性質を示しました。

このフェニルボロン酸というのは炭素とホウ素が結合した面白い構造を持ち、色々特徴ある性質を示します。最も注目されていたことは、糖やアミノ酸などと可逆的な共有結合錯体を形成することです。これを利用して糖と結合したボロン酸は、蛍光の検出などで使用されていました。

有機化学的にも興味ある物質で、遷移金属のトランスメタル化などに使用されています。またボロン酸の誘導体であるボルテゾミブという化合物は、化学療法の薬として使用されています。

今回の新素材はおそらくこの糖(ブドウ糖)と可逆的な共有結合錯体を作る性質を利用し、膜の形成や消失に利用しているものと思われます。ゲルの中にインスリンを入れておけば、血糖値が高い時にはインスリンを放出し、血糖値が低くなれば膜のような構造に覆われてインスリンの放出が止まる仕組みとなるわけです。

実験では、カテーテルの先端に開発したゲルを塗り、糖尿病のマウスの皮下に埋め込みました。ブドウ糖を与える試験では、正常マウスとほとんど同じように血糖値の上昇が抑えられました。また低血糖も起こらず、効果は3週間持続することも確認できました。

名古屋大学の研究チームは、「皮膚に貼るだけで、インスリンを注入できる機器が安価に作れる可能性がある」としています。

マウスの実験では皮膚に埋め込みましたので、皮膚に貼るだけでインスリンが体内に入るようにするためには、まだいろいろな工夫が必要な気がしますが、血糖値に応じてインスリンが放出される基本システムができましたので、便利な治療法開発につながりそうな気もします。


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