433)「麻の実」:植物界で人間の健康に最も有用な食品

図:大麻草(Cannabis sativa)の種子である「麻の実(hemp seed)」は、タンパク質が種実類の中では最も多く、消化のよい良質のタンパク質が約30%含まれる。脂質は飽和脂肪酸が少なく、多価不飽和脂肪酸が多く含まれ、多価不飽和脂肪酸のω-6:ω-3の比率は、健康に最も理想的と言われている約3である。食物繊維(主に不溶性食物繊維)が多く、ミネラルも豊富に含まれている。麻の実は人類にとって最高の栄養源と言われている。

433)「麻の実」:植物界で人間の健康に最も有用な食品

 【麻の実は漢方では麻子仁(ましにん)と呼ばれる】
麻の実は大麻(Cannabis sativa)の種子です。大麻は大麻取締法で栽培や所持や使用が禁止されているため、国内で流通している麻の実は発芽しないように処理されています。
薬味として七味唐辛子に用いられたり、小鳥の飼料、麻油の原料などに利用されています。
漢方では麻子仁(ましにん)という生薬名で使用され、その主な効能は「潤腸通便」です。
麻子仁には脂肪分が多く含まれ、この油性成分によって便を軟らかくして排便を促進する作用があります。
下剤作用は穏やかで、高齢者や虚弱体質者の常習性便秘に大黄、枳実、当帰、地黄などと配合されます。処方としては麻子仁丸(ましにんがん)潤腸湯(じゅんちょうとう)があります。
麻子仁丸は大黄、枳実、杏仁、厚朴、芍薬、麻子仁の組合せで、潤腸湯は地黄、当帰、黄芩、枳実、杏仁、厚朴、大黄、桃仁、甘草、麻子仁の組合せです。
また麻子仁には滋養作用があり、体力低下や疲れからくる動悸や息切れや不整脈にも使用されます。処方としては炙甘草湯(しゃかんぞうとう)があり、これは地黄、麦門冬、桂皮、大棗、人参、生姜、麻子仁、炙甘草、阿膠の組合せです。

【麻の実は不老長寿の効能がある】
漢の時代(紀元2世紀ころ)に成立した薬物書に「神農本草経」があります。これには365種類の動・植・鉱物薬の薬効が記載されています。
神農は伝説上の皇帝で、多くの薬草を自ら服用してその効能と毒性を確かめ、薬の知識を人々に教えたと伝えられています。これは古代中国からの数限りない中国人の経験の集積を、一人物の業績になぞらえて神話化したものです。

「神農本草経」では、人体に作用する薬効の強さによって、下薬(125種類)・中薬(120種類)・上薬(120種類)という具合に薬物が3つに分類されています。下薬・中薬・上薬は下品・中品・上品とも呼ばれます。
上薬(上品)は養命薬(生命を養う目的の薬)で、無毒で長期服用が可能で、 体調を良くし、元気を増し、不老長寿の作用があるものです。中薬(中品)は使い方次第では毒にもなるので注意が必要で、下薬(下品)は毒性が強いものが多いので長期にわたる服用は避けたほうがよいものです。
大麻草は神農本草経では「上薬(上品)」に分類されています。麻(大麻草)の花の部分を麻蕡(まふん)と言い、その薬効は「主五労七傷、利五蔵、下血寒気。多食令人見鬼狂走。久服通神明軽身。」と記載されています。この記述は「諸臓器の慢性病や傷害を治し、内臓機能の働きを良くし、血液循環を良くし体を温める。多く摂取すると鬼を見て狂ったように走り出す。長期に服用すると脳の働きは良くなり体は軽くなる。」という意味です。
大麻を多く摂取すると精神変容作用(幻覚など)があることを指摘した上で、適量であれば体の働きを良くすると記載されています。大麻草の花の部分の麻蕡(まふん)はマリファナとして使用されている部分です。古代中国医学では、長い歴史の中での使用経験から、この部分を「適量であれば、長期服用しても毒性のない命を養う薬」として扱っていたということです。
麻の種子(麻子)は「主補中益気。久服肥健、不老神仙。」と書かれています。これは、「体力や気力を高める。長期に服用すると健康状態を高め、不老長寿の効果がある」という意味です。
麻の種子(麻の実)が栄養価の高い食品であり、健康増進作用があることは良く知られています。麻の実を日頃から摂取すると寿命を延ばすことができることが古代中国の時代に知られていたのです。

【麻の実は種実類の中でタンパク質が最も多い】
「地球に生息する植物300万種のうち、単体の植物で、栄養学的に大麻草の種子(hemp seed)に匹敵するものはない(大麻草と文明:p88)」と言われています。
「人類にとって最高の栄養源」、「植物界で人間の健康に最も有用な食品」などとも表現されています。
1937年に、米国で当時、大麻課税法(=大麻取締法)を検討中だった下院議会の委員会に対し、米国鳥飼料業界(the American bird food industry)の代表は「麻の実を食べさせないとインコは歌を唱わなくなる」と証言し、鳩の繁殖業者は「麻の実に代わりうるエサは無い」と証言しています。
全米脂肪種子学会の議長のラルフ・ロジェは「東洋では多くの人々が麻の実を食べており、とりわけ飢饉のときは麻の実を食して飢えをしのいでいた。」と証言しました。
その結果、大麻(マリファナ)は規制されていますが、麻の実は食品やエサとしての利用が許可されています。
下の表に主な種実類と大豆(豆類)のタンパク質と脂質と炭水化物(糖質+食物繊維)の可食部100グラム当たりの量(グラム)を示しています。
種実類の中では麻の実(hemp seed)は最もタンパク質の含量が多いのが特徴です。可食部分100g当たり、約30gのタンパク質を含みます。
植物の中では豆類の大豆のみが麻の実よりも多くのタンパク質を含みますが、麻の実のタンパク質は大豆のタンパク質より消化吸収が良いと言われています。
大豆は「畑の肉」と言われるくらいに良質のタンパク質の供給源として重視されていますが、麻の実も大豆と匹敵するほぼ完璧なタンパク源と言えます。

図:麻の実は蛋白質が種実類の中では最も多い。豆類の大豆は麻の実より蛋白質含量が多いが、麻の実の方が消化吸収に優れている。種実類の中では脂肪の含量が少ないが、多価不飽和脂肪酸の割合が大きく、ω6/ω3比が健康に最も理想的と言われている約3である点が優れている。食物繊維(主に不溶性食物繊維)が多いのも特徴の一つと言える。

【麻の実は多価不飽和脂肪酸や食物繊維が豊富】
上記の表に示すように、種実類の多くは脂肪含量が可食部分の50~80%程度と多いのが特徴です。そのため、種実類の多くは食用油の原料になります。
麻の実は脂肪総量が可食部分の28%程度と種実類の中では少ない部類に入りますが、飽和脂肪酸が少なく、多価不飽和脂肪酸が多いのが特徴です。多価不飽和脂肪酸の中でω6系多価不飽和脂肪酸とω3系多価不飽和脂肪酸の比が約3で、この比率は人間の健康に理想的であると考えられています。
がんや循環器疾患の予防や治療の目的では、ω3系(αリノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など)の摂取量を増やすことが推奨されていますが、ω6系のリノール酸(必須脂肪酸)やγリノレン酸なども生体機能の調節には必要です。
一般に、ω6系脂肪酸とω3脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から4:1であると言われています。必須脂肪酸が不足すると免疫細胞の活性が低下します。
必須脂肪酸の多い油を多く摂取すると感染症に対する抵抗力が高まることが知られています。強い免疫系を作るために必要な脂肪酸を理想の組成で持っていると言えます。
種実類の中では、えごまの実や亜麻の実(亜麻仁)がω3系のαリノレン酸が多く、えごま油(紫蘇油)や亜麻仁油はω3系多価不飽和脂肪酸を多く摂取できます。
麻の実は食物繊維が多いのも特徴です。食物繊維は「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に大別されますが、麻の実の食物繊維は95%が不溶性です。
不溶性食物繊維は消化管内で分解されないので、便の量を増やし、大腸運動を促進して、便通を良くする効果があります。 

【麻の実はビタミンやミネラルが豊富】
種子は発芽して幼根や子葉となるため、脂肪・タンパク質・各種のミネラル・ビタミンなどの栄養成分が豊富に含まれています。
発芽するために必要な、エネルギー産生や物質合成や細胞分裂やストレス応答など様々な生理活性に必要な成分を完璧に含んでいます。麻の実に豊富に含まれるビタミンやミネラルは人間の生命活動に必要なものばかりです。
例えば亜鉛(Zn)は300種類以上の酵素の活性に必要です。亜鉛を必要とする酵素は、DNAの複製(細胞の分裂・増殖)や遺伝子の発現(DNAの遺伝情報から蛋白質を作りだす)など、生命活動の基本として働くものが多く、さらにDNAの修復や活性酸素の除去などに働く酵素にも関与しているので、老化やがんの予防に重要なミネラルです。
亜鉛が欠乏すると、成長の遅延、食欲不振、感覚機能の異常(とくに味覚異常)、皮膚障害や脱毛、性力減退、免疫力低下、妊娠や胎児への影響、インスリンの合成や膵臓機能低下、脂質やアミノ酸代謝の障害、神経精神症状、行動異常、活動性の低下など様々な異常が現れます。
マグネシウム(Mg)はビタミンB群と一緒に、糖質や脂質の代謝や、蛋白質やDNAの合成に重要な役割を担っています。多くの酵素の活性化に必要で、エネルギー産生、体温や血圧の調節、神経の興奮、筋肉の収縮など、多くの生理機能に関係しています。
マグネシウムが欠乏すると神経や精神障害(神経過敏症、震え、抑鬱症、妄想、不安感、興奮など)と循環器障害(不整脈、頻脈など)が現れます。慢性的に欠乏すると、糖尿病や高脂血症、高血圧、動脈硬化を促進する原因となります。
このようにビタミンやミネラルの供給源としても麻の実は有用です。

麻の実は鳥類の一番の好物ですが、これは麻の実の栄養価が高いからです
長時間の飛行に必要なエネルギー(カロリー)や栄養素の供給源として理想的な組成であることを意味しています。
近年、野生の鳥が減少していますが、その原因として、殺虫剤や除草剤の散布と、大麻草の種子の不足が挙げられています。
麻の実は鳥だけでなく魚にも好まれるエサです。
麻の実を発芽させることによって、その栄養価を高めることができ、他の発芽した種子と同様にサラダや料理に使えるのですが、大麻取締法があるため(国内で流通している麻の実は発芽しないようにする処置を行われているので)、発芽させての利用は不可能です。
大麻取締法によって大麻の栽培が規制されていますが、大麻草は植物界で人類に最も有益な植物であり、麻の実が「植物界で人間の健康に最も有用な食品」という表現も誇張ではありません。
がんを含めて、多くの病気の患者の栄養補助食品として理想だと思います。

参考図書
大麻草と文明(ジャック・ヘラー著、J・エリック・イングリング訳、築地書館2014年)
Cannabis in Medical Practice(Edited by Mary Lynn Mathre, McFarland & Company, Inc, 1997) 


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