514)肥満と腸内細菌叢と中鎖脂肪酸

図:中鎖脂肪酸中性脂肪(MCTオイル)やココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸(カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸)はケトン体を産生し、ケトン体のβヒドロキシ酪酸は様々な機序でダイエット(減量)効果を発揮する。さらに、中鎖脂肪酸は腸内細菌叢に作用してダイエット効果を発揮する機序も報告されている。

514)肥満と腸内細菌叢と中鎖脂肪酸

【内臓脂肪を減らすヨーグルト】
「内臓脂肪を減らすガゼリ菌SP株ヨーグルト」とラベルに表示された機能性表示食品が販売されています。
ガゼリ菌SP株を含まないプラセボのヨーグルトとガゼリ菌SP株(1日10億個)を含むヨーグルトを、それぞれ12週間摂取すると、ガゼリ菌SP株の入ったヨーグルト摂取群では、内臓脂肪の量が有意に減少したという臨床試験の結果を出して、「本品にはガセリ菌SP株が含まれるので、内臓脂肪を減らす機能があります。」という機能性表示や広告が許可されています。
体脂肪も内臓脂肪もそれを減らす基本原則は、摂取カロリーと消費カロリーの差をマイナスにすることです。運動したり食事摂取量を減らして、消費カロリーが摂取カロリーより多ければ、不足したエネルギーを作り出すために体脂肪が燃焼するので、体脂肪が減少します。これがダイエットの基本原則です。
したがって、腸内細菌(乳酸菌)の一種のガゼリ菌が内臓脂肪を減らすという効果はにわかには信じられません。しかし、肥満の研究分野では、腸内細菌が肥満の発生に重要な関与をしていることが証明されており、腸内細菌叢をターゲットにした肥満治療法の研究が進んでいます。

【腸内細菌叢が肥満の発症に関係している】
肥満は心血管疾患や2型糖尿病のリスク要因であり、近年、全世界的に増えています。
WHO(世界保健機関)の2014年の試算では、全世界で18歳以上の成人のうち、過体重(BMIが25.0〜29.9)が39%(19億人)、肥満(BMIが30.0以上)が13%(6億人)となっています。(BMI: Body Mass Index)
1980年から2014年の間に肥満の率は2倍以上に増加しており、欧米では成人の半数以上が過体重か肥満です。
したがって、肥満を減らすことが、人類における健康増進と医療費抑制の重要な課題になっています。
肥満の発症には遺伝的素因(太りやすい体質)、食事(カロリーや糖質の過剰摂取)や生活習慣(運動不足など)が関与しています。
さらに最近の研究で、腸内細菌叢が、肥満や2型糖尿病や心血管疾患などの多くの代謝性疾患の発症に関与していることが明らかになっています。
腸内には1000兆個に及ぶ細菌が棲息しています。成人では腸内細菌の全体量は1kgにもなります。この腸内細菌叢の変化が宿主の代謝性疾患(肥満や2型糖尿病や心血管疾患など)の発症に関与していることが明らかになっています。
腸内細菌叢が肥満に関連していることを最初に発見したのは、米国のワシントン大学のジェフリー・ゴードン(Jeffrey I. Gordon)博士らの研究チームで、2006年にNatureに発表しています。

An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest(エネルギー収穫の能力の亢進した肥満に関連する腸内細菌叢)Nature 444, 1027–131 (21 December 2006)

腸内の微生物の99%は細菌で、そのうちの90%以上を占めるのがファーミキューテス門(Firmicutes)バクテロイデス門(Bacteroidetes)です。その他にプロテアバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門( Actinobacteria)などがあります。
ファーミキューテス門(Firmicutes)はグラム陽性の真正細菌の一種です。
バクテロイデス門(Bacteroidetes)はグラム陰性の真正細菌の一種で、多くは桿菌またはらせん菌の形をとり、嫌気性で、多くの動物の消化器官に分布し、ヒトの腸内細菌の中でも最も大きなグループを占めています。
ゴードン博士の研究グループは、太っているマウスと痩せているマウスの腸内細菌叢を調べ、肥満のマウスにはファーミキューテス門の細菌が、痩せているマウスにはバクテロイデス門の細菌が多いことを明らかにしています。人間でも同様の結果でした。
つまり、同じ食事をしても、ファーミキューテスが増えると食物からのエネルギー摂取が増えて肥満を誘導します。逆にバクテロイデスは肥満を抑制する作用があります。
腸内細菌叢は、食事の内容、衛生状況、医療行為などによって変動します。
このような腸内細菌叢の変化が、肥満、糖尿病、炎症性疾患、自己免疫性疾患、がんなど多くの疾患の発症に関連していることが明らかになっています。
太った人の腸内細菌を移植すると肥満が移り、痩せた人の腸内細菌を移植すると肥満が治ることが動物実験や人間の研究で明らかになっています。
つまり、腸内細菌が宿主の代謝に影響して、肥満や2型糖尿病やメタボリック症候群などの代謝性疾患の発症に関与するので、これらの疾患の治療に腸内細菌移植が研究されています。

【食物繊維もカロリーになる】
人間の消化酵素は食物繊維を消化できません。したがって、食物繊維は基本的にはカロリー源にはなりません。
しかし、腸内細菌は食物繊維を発酵して乳酸酪酸プロピオン酸に分解し、宿主はこれらの短鎖脂肪酸をエネルギー源として利用しています。
食物繊維とは、人間の消化酵素によって消化されない食物中の難消化性成分の総称です。多くは植物の細胞壁を構成する成分で、化学的には多糖類(糖が多数つながったもの)です。
同じ多糖でもデンプンやグリコーゲンは消化管内で酵素によってグルコース(ブドウ糖)に分解されて体内に吸収されてエネルギー源となりますが、食物繊維は人間の消化酵素で分解されないため、エネルギー源とはなりにくいと一般には考えられています。
しかし、水溶性食物繊維(イヌリン、ペクチン、βグルカン、グルコマンナンなど)は腸内細菌による発酵によって乳酸や短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)のような有機酸が生成され、これらはエネルギー源として体内で利用されています。
つまり、乳酸や酢酸やプロピオン酸は糖新生の材料になり肝臓でグルコースの生成に使われます。また、これらはTCA回路に入って分解されてATP産生に使われます。酪酸は大腸粘膜上皮細胞のエネルギー源として使われます。
これらの短鎖脂肪酸は肝臓でアミノ酸や脂肪の合成にも使われます。
食物繊維は腸内細菌の発酵によって短鎖脂肪酸が生成されれば、1g当たり1.5 kcalのエネルギーに変換されると報告されています。(392話参照)
栄養素1g当たりのエネルギーは糖質とタンパク質が4kcalで脂肪が9kcal(中鎖脂肪酸中性脂肪は8 kcal)です。
従来、食物繊維は人間の消化酵素で分解できないので、吸収されないからカロリーにはならないと考えられていますが(あるいは量が少ないので無視されている)、水溶性食物繊維はカロリーになります。この食物繊維の発酵は腸内細菌によって行われるので、腸内細菌叢の状態によって、エネルギー収穫量が変わると言えます。
ただし、食物からのエネルギー収穫を増やす腸内細菌が悪いというわけではありません。少ない食事で栄養を最大限に利用してくれるので、むしろ有用な細菌とも言えます。
ただ、食物摂取が過剰な状態では、エネルギー収穫を増やす腸内細菌は肥満を促進するので、悪者になっているだけです。食物事情の悪い地域に行けば、エネルギー収穫を増やす腸内細菌は良い細菌となります。

【腸内細菌が体内の炎症状態を誘導する場合もある】
私たちの体内には1kgくらいの細菌が棲んでいます。つまり、細菌と共存しています。
腸内細菌は体に有用は働きをしていますが、健康に悪い影響も与えてもいます。
グラム陰性菌に含まれるLPS(リポポリサッカライド)は体内に吸収されて慢性炎症状態を引き起こし、インスリン抵抗性を引き起こして肥満の原因になっていることも報告されています。
肥満した人では、LPSを産生する腸内細菌が増えているという報告があります。
高脂肪食がLPS産生性の腸内細菌を増やし、体内の炎症状態を高め、インスリン抵抗性を高めて肥満を促進しているという報告もあります。
したがって、広範囲作用型の抗生物質で腸内細菌を死滅させてLPSの産生を減らすと、インスリン感受性が良くなって肥満が解消するという報告もあります。 
無菌のマウスでは食事性の肥満は起こらないことが報告されています。
このように、腸内細菌が食物からの栄養収穫に影響したり、体内の炎症状態に影響したりして、体重に影響する可能性が指摘されています。
肥満と腸内細菌叢の関連は極めて複雑で、まだ十分に解明されていませんが、いずれにしても、肥満や2型糖尿病や動脈硬化性疾患やがんや自己免疫疾患など多くの疾患に腸内細菌叢の状態が重要だと言えます

【中鎖脂肪酸は代謝速度が早く脂肪組織に沈着しにくい】
脂肪はグリセロール(グリセリンともいう)1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしており、これを中性脂肪(トリグリセリド)と言います。
食事から摂取した脂肪は十二指腸や小腸内で膵液中のリパーゼによって加水分解され、トリグリセリド(中性脂肪)から脂肪酸とグリセロールが分離されます。
グリセロールは水溶性なのでそのまま小腸から毛細血管に吸収され、解糖系で代謝されたり、糖新生によってブドウ糖に変換されます。
 
脂肪酸は水に不溶性ですが、胆嚢から十二指腸に分泌される胆汁中に含まれる胆汁酸やホスファチジルコリンやコレステロールによって乳化されたミセルを形成します。ミセルというのは、水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(親油基)をもつ物質が、水の中で親水基を外に親油基を内に向けて球状に会合した粒子です。ミセルは水溶性で受動拡散によって消化管粘膜の吸収上皮細胞内に吸収されます。

脂肪酸が腸管から吸収されるとき、脂肪酸の大きさ(炭素鎖の長さ)の違いによって代謝のされかたが異なります。炭素数が14以上の長鎖脂肪酸の場合は、腸壁を通り抜けると、腸管粘膜上皮細胞内で再びグリセロールと結合して中性脂肪(トリグリセリド)になり蛋白質などと一緒になってカイロミクロンというリポ蛋白質粒子になります。
カイロミクロンはリンパ管から胸管に入り、鎖骨下静脈から大循環系に入って全身に運ばれます。主に脂肪組織や筋肉組織に取込まれ、一旦貯蔵されてからグリコーゲンが枯渇したときに分解されて、ゆっくりと消費されます。つまり、長鎖脂肪酸はエネルギーとして代謝されにくく、体脂肪として蓄積されやすい脂肪酸です。

炭素数が6~12の中鎖脂肪酸は比較的水に溶けやすく、胆汁酸によるミセル化は不要で、小腸吸収細胞に容易に吸収され、分子が小さいことから腸管で毛細血管に吸収され、長鎖脂肪酸のように中性脂肪に再合成されず、カイロミクロンを作らずに遊離脂肪酸のまま門脈に入って肝臓へ運ばれ、速やかにエネルギー源となって代謝されます。

 

図:中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)の吸収経路の違い。中鎖脂肪酸は、小腸粘膜から容易に吸収され、遊離脂肪酸のまま門脈に入って肝臓へ運ばれ、速やかにエネルギー源となって代謝される。

中鎖脂肪酸は肝細胞内のミトコンドリアに入り、炭素分子が1つおきに酸化されるβ酸化という過程に入ってアセチルCoA を生じてTCA 回路に入って代謝されますが、グルコース(ブドウ糖)の補給が少ない状況ではアセチルCoAはケトン体産生に利用されます。  

脂肪酸がβ酸化のためにミトコンドリアに取込まれるとき、長鎖脂肪酸はL-カルニチンが必要ですが、中鎖脂肪酸はL-カルニチンの助けなしにミトコンドリア内に入って速やかに代謝されます。中鎖脂肪酸はエネルギーとして燃焼される効率が高く、体脂肪として蓄積しにくい脂肪酸です。


図:脂肪酸はミトコンドリアでβ酸化によって分解される。中鎖脂肪酸(炭素数が6~12個)はそのままミトコンドリアに入ることができるが、長鎖脂肪酸(炭素数が14以上)の場合は、L-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができない。

中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸より約4倍も吸収が速く、代謝も5~10 倍も速いと言われています。このように中鎖脂肪酸のエネルギー利用速度は速いので、激しい運動の持続時間を延長する効果も報告されています。
また、長鎖脂肪酸は感染防御や免疫系に負荷がかかりますが中鎖脂肪は影響が少なく、また組織への蓄積傾向や臓器障害のもととなる脂質過酸化反応も少ないためより安全に摂取できると言われています。 

長鎖脂肪酸は糖類が存在するとケトン体産生が抑えられますが、中鎖脂肪酸からケトン体を作る経路は糖質の影響をほとんど受けずにケトン体が多量に産生されます。
ケトン体を増やす目的とケトン食では、肝臓ですぐに分解される中鎖脂肪酸を利用するとケトン体を大量に産生することができます。
ケトン体を増やすケトン食では中鎖脂肪酸中性脂肪(MCTオイル)を多く摂取するとケトン体の産生を増やせます。(下の表)

【ココナッツオイルには炭素数12のラウリン酸が多い】
中鎖脂肪酸は狭い定義では炭素数が6から10の飽和脂肪酸ですが、炭素数12のラウリン酸も中鎖脂肪酸に含めています。。
C6(カプロン酸、caproic acid)、C8(カプリル酸、caprylic acid))、C10(カプリン酸、capric acid)、C12(ラウリン酸、lauric acid))が中鎖脂肪酸になります。
炭素数の少ないC6、C8、C10は液体で、加熱すると発煙するので、加熱料理には使えません。ドレッシングやスープなどに添加して使用します。
カプリル酸やカプリン酸は、油ですが水に溶けやすく、ミセルやカイロミクロンを形成することなく、直接門脈に入って肝臓に行き、肝細胞で直ぐに分解(酸化)されてアセチルCoAが産生されます。このとき、肝臓のグリコーゲンが枯渇し、インスリン濃度が低下していると、肝臓でケトン体産生に使われます。グルコースが利用できれば、TCA回路で代謝されて、酸化的リン酸化でATP産生に使われます。
ココナッツオイルパーム核油にはC12のラウリン酸が50%近くと多く、加熱調理にも使えます。ココナッツオイルはカプリル酸(C8)が7.5%、カプリン酸(C10)が6.0%、ラウリン酸(C12)45%で、中鎖脂肪酸が約60%含まれます。
カプリル酸(C8)やカプリン酸(C10)が主体のMCTオイルが液体であるのに対して、ココナッツオイルは、20度以下だと固まり、20度~25度ではクリーム状に、25度以上で液体状態となります。
また、炭素数の少ない短い脂肪酸は吸や代謝が早く、ケトン体の産生も早いのですが、腹痛や下痢などの消化器症状を起こしやすい欠点があります。一方、ラウリン酸の多いココナッツオイルは消化器症状が出にくいメリットはありますが、代謝が緩やかであるため、ケトン体の産生速度も緩やかです。以下のような報告があります。

Lauric acid-rich medium-chain triglycerides can substitute for other oils in cooking applications and may have limited pathogenicity.(ラウリン酸が豊富な中鎖脂肪酸中性脂肪は料理をする際に他の油脂の代わりに使え、健康への悪影響は少ない)Open Heart. 2016; 3(2): e000467.

【要旨】
近年、炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸(lauric acid)を多く(約30%程度)含む中鎖脂肪酸中性脂肪が市販され、サラダオイルや料理に使う油として利用されている。
他の調理油に含まれる長鎖脂肪酸と比べて、中鎖脂肪酸中性脂肪に含まれる中鎖脂肪酸は、脂肪組織へ沈着しにくく、インスリン抵抗性や炎症を促進する異所性脂肪(ectopic fat)を増やすことがなく、マクロファージを活性化しにくいという特徴を持つ。
消化管から吸収されると中鎖脂肪酸は肝臓のミトコンドリアで急速に酸化され、その結果産生された大量のアセチルCoAはケトン体の合成を促進し、さらに発熱反応を引き起こす。
したがって、動物や人間での実験結果から、長鎖脂肪酸を含む脂肪に比べて、中鎖脂肪酸中性脂肪は、肥満を引き起こしにくいことが示されている。
ラウリン酸は血清中のコレステロールを高める傾向があるが、低密度リポたんぱく質(LDL)に比べて高密度リポたんぱく質(HDL)をより増やすので、結果的に、HDLコレステロールに対する全コレステロールの比率は低下する。
ラウリン酸は、ココナッツオイルに含まれる脂肪酸の約50%を占める。ココナッツオイルを多く消費する南アジアやオセアニア地域の人々は心血管系の疾病の発生率が低い。
ケトン体は神経保護作用があるので、定期的に中鎖脂肪酸中性脂肪(MCTオイル)を摂取して中等度のケトン症(ケトーシス)を誘導することは、神経細胞を保護する可能性を持っている。
炭素数が6個(C6)から10個(C10)の通常のMCTオイルに比べて、炭素数12のラウリン酸が豊富なMCTオイルは、中等度の温度のフライの調理にも使用でき、吸収されたラウリン酸の肝臓での酸化の速度は比較的緩やかなので、血中のケトン体濃度は低めだけど持続的なパターンを示す。 

市販されているMCTオイルはココナッツオイルから製造されます。ココナッツオイルはラウリン酸(炭素数12)が多いのですが、ココナッツオイルからラウリン酸を除去してカプリル酸(C8)やカプリン酸(C10)が主体のMCTオイルが作られます。
ラウリン酸はは抗菌作用があり、様々な用途に利用されていて、そのラウリン酸を取った残りからMCTオイルが作られています。したがって、ラウリン酸の多いMCTオイルは価格が高くなるというデメリットはあります。
カプリル酸(C8)やカプリン酸(C10)が主体のMCTオイルは加熱調理には使えません。また、炭素数が少ないほど腹痛や下痢などの消化器症状が起こりやすいようです。
MCTオイルの摂取で腹痛や下痢などの消化器症状が起こりやすい人は、ココナッツオイルの量を増やすと良いと言えます。
オレイン酸の多いオリーブオイルやアボカド、ω3系多価不飽和脂肪酸の多い亜麻仁油や紫蘇油や魚油(DHA, EPA)に、中鎖脂肪酸(MCTオイルやココナッツオイル)を増やした食事はがんや心血管疾患の予防や治療に有効です。

【中鎖脂肪酸は腸内細菌叢への作用を介して肥満を改善する】
MCTオイルが腸内細菌叢に作用して肥満を改善することが報告されています。以下のような報告があります。

Gut Microbiota and Metabolic Health: The Potential Beneficial Effects of a Medium Chain Triglyceride Diet in Obese Individuals(腸内細菌叢と代謝性健康:肥満者に対する中鎖脂肪酸中性脂肪の潜在的有用性)Nutrients. 2016 May; 8(5): 281. 

【要旨】
肥満とそれに関連する合併症(非アルコール性脂肪性肝炎や2型糖尿病など)は全世界的に増加している。
ほとんどの肥満患者は、いくつかの代謝異常や検査数値の異常や合併症を有しているが、肥満者の3〜57%に報告されている一部の肥満者は代謝的に正常を示している。
肥満に関連する多くの要因の中で、代謝的に不健康な肥満(metabolically unhealthy obese: MUHO)の発症および肥満関連疾患(敗血症、腸管および全身性の炎症、インスリン抵抗性など)において、腸内細菌叢の状態が重要な決定因子であることを明らかになっている。
興味深いことに、近年の研究によって、代謝的に健康な肥満(metabolically healthy obese:MHO)において、健康的な腸内細菌叢が寄与している可能性が示唆されている。
この論文では、食事から摂取する中鎖脂肪酸中性脂肪(MCT)が、脂肪の分解やエネルギー消費や体重減少を促進し、さらに消化管の機能や透過性を改善することによって代謝的健康を促進できることを解説する。
MCTの豊富な食事は腸内細菌叢の状態を良くすることによって代謝性疾患を良くするために利用できる。

この論文は、総説論文です。肥満にもいろいろあり、不健康な肥満健康的な肥満があります。
不健康な肥満とは、血液検査で高脂血症や高血糖を示し、糖尿病や動脈硬化などを合併しているような肥満です。一方、体重は増えて肥満の診断基準(BMIが30以上)には達しているが、血液検査もインスリン抵抗性も他の合併症も認めない、一見健康的な肥満者もいます。
前者を「代謝的に不健康な肥満(metabolically unhealthy obese: MUHO)」、後者を「代謝的に健康な肥満(metabolically healthy obese:MHO)」と呼んでいます。
肥満者が全て病的ではなく、代謝的に健康な肥満(MHO)の存在が知られており、代謝的に不健康な肥満(MUHO)とMHOの違い原因の研究が肥満研究で注目されています。
この総説論文は、食事からの中鎖脂肪酸中性脂肪(MCT)の摂取を増やすと、肥満でも代謝的に健康な状態に維持できるということを記述しています。
中鎖脂肪酸(Medium Chain Fatty Acid:MCFA)と中鎖脂肪酸中性脂肪(Medium Chain Triglyceride: MCT)は母乳に多く含まれますが、その理由の一つはMCTとMCFAは抗菌作用があるからです。母乳中のMCTとMCFAは授乳期の新生児を病原菌から守る働きがあります。
MCTとMCFAは病原性真菌の増殖を抑える作用や、LPSによる敗血症を予防する効果も報告されています。
ラットを使った実験で、コーンオイル(長鎖脂肪酸中性脂肪)を1週間摂取した群とMCTを1週間摂取した群のラットに、同量のLPSを注射して敗血症を引き起こす実験が報告されています。
コーンオイルを摂取したラットの多くは敗血症性ショックで死亡しましたが、MCTを投与されたラットでは肝傷害や炎症や死亡が抑制されました。
MCTは腸管の粘膜のターンオーバーを亢進し、腸管内で抗菌作用を示して炎症を軽減し、腸内の健康状態を良くすることが報告されています。
代謝的に不健康は肥満患者を代謝的に良好にする目的で食事中のMCTやMCFAを増やすことは有効だという結論です
中鎖脂肪酸はココナッツオイルやパーム核油(palm kernel oil)の総脂肪の50%以上を占め、牛乳の脂肪分の14〜15%を占めています。

【中鎖脂肪酸は様々な機序で肥満を抑制する】
中鎖脂肪酸中性脂肪(MCT)を多く使った食事は肥満を予防することが、動物実験や臨床試験で明らかになっています。
その機序は前述の腸内細菌叢を介したものだけではないようです。
肝臓の培養細胞を使った実験で、インスリンや甲状腺ホルモン(T3)で誘導される脂肪酸合成酵素(fatty acid synthase)の発現と活性を中鎖脂肪酸が抑制することが報告されています。
中鎖脂肪酸は、脂肪酸合成に関与する転写因子の活性を低下させて、脂肪代謝を合成(anabolism)から分解(catabolism)へシフトさせる働きが報告されています。
脂肪の分解を促進するので、中鎖脂肪酸は脂肪肝を改善する効果が示されています。
中鎖脂肪酸は毒性学的に安全性が高く、米国食品医薬品局(FDA)は20年以上前に使用を承認しています。
長鎖脂肪酸に比べて、中鎖脂肪酸は食後の酸素消費と熱産生を高め、脂質酸化を亢進し、エネルギー消費を高め、脂肪へのエネルギー貯蔵を減らす作用が認められています。
長鎖脂肪酸(LCT)を10%含む食事に比べて、MCTを10%含む食事は、熱産生を高め、皮下脂肪と内臓脂肪を減らす効果がありました。
さらに、MCTはLCTに比べて、満腹感を高め、カロリー摂取を減らす作用が報告されています。
その作用機序としてはグレリンやレプチンなど消化管ホルモンへの作用が指摘されていますが、まだ十分には解明されていません。
いずれにしろ、MCTの多い食事は摂取カロリーが過剰にならない条件で、皮下脂肪や内臓脂肪の燃焼を促進し、体重減少を促進し、心血管疾患の予防に有効と言えます。
したがって、代謝的に不健康な肥満(MUHO)の患者にMCTを添加した食事は、健康状態を良くする上で役立ちます。

【中鎖脂肪酸は食物摂取量を減らす】
中鎖脂肪酸は食物摂取を低下させることが報告されています。以下のような報告があります。

Impact of medium and long chain triglycerides consumption on appetite and food intake in overweight men.(過体重の男性における食欲と食物摂取に対する中鎖脂肪酸中性脂肪と長鎖脂肪酸中性脂肪の影響)Eur J Clin Nutr. 2014 Oct; 68(10): 1134–1140 

【要旨】
背景:中鎖脂肪酸中性脂肪(Medium chain triglycerides:MCT)は長鎖脂肪酸中性脂肪(long chain triglycerides:LCT)に比べて熱発生を亢進し食物摂取を減らす傾向がある。この研究の目的は食欲や食物摂取に対するMCTの影響を明らかにし、LCTとの作用の違いがホルモン作用によるものかどうかを検討した。
方法:過体重の男性が朝食に20gのMCTかコーンオイル(LCT)を摂取する2つのランダム化クロスオーバー試験を実施した。血液サンプルは3時間以上にわたって採取した。
研究1(n=10)では、3時間後に昼食を自由に摂取した。
研究2(n=7)では、3時間後に10gの試験油を摂取し(pre-load)、その1時間後に昼食が提供された。
絶食時からのホルモン濃度と代謝産物の変化を、体重補正し、線形混合モデル解析(Linear mixed model analyses)で解析した。
結果:試験2における昼食の食物摂取量(mean ± SEM)は、MCT群が532 ± 389 kcalに対してLCT群では804 ± 486 kcalであった(P < 0.05)。
MCT摂取群ではLCT摂取群に比較して中性脂肪とグルコースの上昇は少なく、ペプチドYYとレプチンの上昇はより高かった。ホルモンレベル(GLP-1とPYY)の差と、食物摂取量の差の相関は、予想の反対であった。
結果:MCT摂取は食物摂取量を急速に減少させたが、この影響はGLP-1とPYYとインスリンのホルモンレベルの変化によって起こっているとは考えられなかった。

 GLP-1は、グルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-like peptide-1) の略で、消化管に入った炭水化物を認識して消化管粘膜上皮から分泌され、インスリン分泌を刺激します。
ペプチドYY(PYY)は視床下部の受容体に作用して食欲を抑えて食べる量を減らします。ともに食後に血中濃度が上昇します。
MCT摂取は食物摂取量を減らしましたが、これらの消化管ホルモンの変動では説明できなかったので、他の機序が作用しているのだろうという結論です。以下のような報告もあります。 

Medium-chain triglycerides are advantageous in promoting weight loss although not beneficial to exercise performance.(中鎖脂肪酸中性脂肪は運動能力を高める効果は無いが、体重減少を促進する際には有用である)Int J Food Sci Nutr. 2010 Nov;61(7):653-79.

【要旨】
中鎖脂肪酸中性脂肪(Medium-chain triglycerides:MCT)は、炭素数が6から10の脂肪酸からなる中性脂肪である。MCTは長鎖脂肪酸中性脂肪と異なり、水に比較的溶けやすく、その結果、急速に分解されて吸収される。
MCTは門脈系から血中に入り、脂肪組織に沈着しにくい。このような特徴を持つため、MCTの運動能力や健康に及ぼす有用性が検討されている。
このレヴュー(総説)では、運動能力や健康に対して有用性があるかどうかを評価した。
MCTは競技者のグリコーゲンを維持する能力を最大限に高め、競技能力をより高めると考えられている。
しかしながら、運動能力を高めるMCTの効果を認めたのは、現時点では2つの試験しかない。
健康増進の観点からは、MCTは脂肪酸化とエネルギー消費を亢進し、同時に食糧摂取量を減らし、体型を良好に保つ効果が認められている。
研究結果は、MCTの摂取は運動能力を高める目的では有効では無い。MCTの今後の研究は、健康作用における有効性とその応用に焦点を絞る必要がある。

MCTオイルは運動能力を高める効果は認めないが減量効果はあるという結論です。MCTオイルのダイエット効果はその他多くの臨床試験で確かめられています。中鎖脂肪酸が心血管疾患のリスクを減らすという報告もあります。
中鎖脂肪酸はケトン体の産生を増やします。ケトン体のβヒドロキシ酪酸は食欲を低下させたり、様々な機序でダイエット効果を発揮します(388話参照)。 
糖質摂取を減らし、MCTオイルやココナッツオイルを増やすだけで、減量は簡単にできます。(トップの図参照) 

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