546) がん検診の不都合な真実(その2):スクリーニングは増殖の遅いがんしか見つけられない

図:スクリーニングで発見可能な段階(●)から臨床症状が出て外来で見つかる段階(×)までの期間を「前臨床段階」と定義すると、この前臨床段階の期間は、増殖速度の速いがんでは短く、増殖速度の遅いがんでは長い。スクリーニングで検出可能となった時期が同じ2例づつのペア(増殖の速いがんと遅いがんの1:1のペア)が6組あったとして、がん検診によって前臨床段階で見つかる(オレンジの線)のは、増殖の速いがんは2例に対して、増殖の遅いがんでは5例になる。このようにがん検診は増殖の遅い(前臨床段階の期間が長い)がんを多く見つける。

546) がん検診の不都合な真実(その2):スクリーニングは増殖の遅いがんしか見つけられない

【検診で見つけても、がんの自然史の4分の3を過ぎている】
健康診断という「病気をスクリーニングする」という行為は、「病気を早い段階で見つけて治療を開始する方が、遅く見つけて治療を開始するよりも、病気の合併症や死を減らすことになる」という概念に基づいており、この概念は医師を含むほとんどの人が直感的に正しいと思っています。
この概念は、特にがん検診で強く認識されています。
例えば、乳がんの場合、ステージI(がんの大きさが2cm以下でリンパ節転移が無い)とステージIII(がんの大きさが5cm以上か多数のリンパ節転移がある)を比較すると、ステージIの方が5年生存率が高く、抗がん剤治療を受ける必要性は低く、温存手術で済む率が高くなります。
したがって、乳がんを早い段階で見つければ、乳がん死を減らせると誰でも直感的に思います。
「がんを早期の段階で見つければ、がん死亡を減らせる」というのは正しいと言えます。しかし問題は、現行のがん検診が「最も早期発見が必要な進行の速いがんを発見していない」という点です。
進行の速いがんの発見においてがん検診には限界があり、がん検診を行っても進行したがんの数を減らせないことが、がん検診が有効でない大きな理由になっています。
放置してもよい増殖速度の遅い悪性度の低いがんは多く見つけていますが、死にいたる悪性度の高いがんを早期発見しなければ、がん検診の有用性はありません。
がんの種類や個体によって様々ですが、1個のがん細胞が発生してからがんという病気(臨床がん)に至るのに10〜30年かかるといわれています。
腫瘍組織の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(doubling time)といいますが、一個の細胞からスタートして1グラムの腫瘍組織になるためには30回分の体積倍加時間が必要となる計算です。つまり30回分裂すると2の30乗で約10億個の細胞になり、これが約1グラムに相当し、1グラムのがん組織がさらにもう10回分の体積倍加時間を経ると約1kgのがん組織になる計算です(図)。
つまり、1グラムで見つかってもがんの自然史(1個のがん細胞が発生して宿主ががんで死ぬまで)のすでに4分の3が経過しているのです。

図:がんの発生初期にはがん細胞の塊は顕微鏡レベルであり、肉眼的に認められない(微小がん、潜在がん)。がんが臨床的に発見しうるレベルの大きさ(1g以上)に達したときには、がん発生過程の長い自然史においてすでに最終段階にあると言える。

がん細胞をフラスコの中で栄養のよい状態で培養するような実験では、がん細胞は数日、早いものでは1日で2倍になります。
このような極めて栄養のよい特殊な条件下では、一個のがん細胞が1グラムにまで増えるのに一ヵ月から数ヵ月で済む計算になります。
しかし、体内でのがん組織の倍加時間は一般に極めて長いことがわかっています。
その原因として、がん組織の中では酸素や栄養の供給が不十分になりやすいこと、細胞分裂する一方で、がん細胞自らがアポトーシスを起こしたり、免疫細胞による攻撃を受けたりして消失することなどが挙げられています。
多くのがんの体積倍加時間は数十日から数百日のレベルにあることが報告されています。体積倍加時間はがんの種類や組織型によって異なり、10日前後で2倍になるような悪性度の高いがんがある一方、何年間もほとんど大きくならないおとなしいがんもあります。
一般的にがんが画像診断などで臨床的に診断ができるのは、がん細胞の塊が1グラム位になってからです。臓器によってはもっと早く見つかる場合もありますが、1グラムでも診断が困難ながんもあります。
したがって、がんの発生から臨床的にがんが見つかるほどの大きさになるのに、通常は数年から十数年の月日を要することになります。
非常におとなしいがんの場合は、20年以上かかっている場合もあります。
そして、臨床的に発見しうるレベルの大きさ(1g以上)に達した時には、がん発生過程の長い自然史において既に最終段階にあるといえます。たとえ1グラムで見つけても、がんの長い自然史の4分の3を既に経過していることになります。
最初のがん細胞が1個発生して、それが1グラムの腫瘍になるのに30回分の体積倍加時間が経過しています。体積倍加時間の平均が100日だと仮定すると、30回分の体積倍加時間は3000日(約8年)かかっています。
がん細胞は発生して時間が経過するのに比例して増殖速度が速くなる傾向にあります。
がん細胞の分裂時のDNA複製エラーや活性酸素による遺伝子変異などによってがん細胞は絶えず遺伝子変異が起こっています。がん組織内でより増殖の速いがん細胞が出現すると、そのがん細胞が増えて、がん組織内での占有率が増えます。このようにして、がん細胞の世代回数が増えるにしたがって体積倍加時間は短くなる傾向にあります
実際に、症状が出現するような進行がんの場合、1〜2ヶ月くらいで体積は2倍になります。この増殖速度だと、3〜6ヶ月で体積は10倍になります。
体積倍加時間が2ヶ月だと1年で64倍、体積倍加時間が1ヶ月だと1年で4000倍になる計算です。
がんが1グラムの段階で見つかって、がんが1kgになると死亡すると仮定すると、がんを1グラムの段階で見つけてもすでにがんの自然史の4分の3を経過しており、がんの自然史全体からみると、それほど早期発見とは言えないのです。
そして、体積倍加時間が1〜2ヶ月の増殖の速いがんを早期発見することは1年に1回の検診ではほとんど不可能なのです。

【増殖の速いがんを早期に発見しなければスクリーニングの有用性は低い】
胸部エックス線検査による肺がん検診の有効性を検討したランダム化試験では、スクリーニング(がん検診)の有効性は認められていません。
米国の最近のランダム化比較試験では「1年に1回の胸部エックス線検査による肺がん検診は肺がん死を減らさない」という結論です。(JAMA. 2011 Nov 2;306(17):1865-73.)
ヘビースモーカーのような肺がん高危険度集団を対象にした複数のランダム化試験の結果は、「胸部エックス線検査および喀痰細胞診による肺がん検診は、非検診群と比較してより多くの肺がんを発見するが、肺がん死亡率の改善という点では有効性は認めない」という結論になっています。
2013年の最新のコクラン・システマティックレビューの結論は、「The current evidence does not support screening for lung cancer with chest radiography or sputum cytology.(現時点のエビデンスは、胸部エックス線検査や喀痰細胞診による肺がんのスクリーニングを支持しない)」となっています。
コクラン・システマティックレビューの結論を無視して、「胸部エックス線検査と喀痰細胞診による肺がんのスクリーニングは肺がん死を減らす」と言っているのは世界中で日本くらいです。
CT検査による肺がんのスクリーニングに関しても、「CT検査によるスクリーニングはステージが早い段階の肺がんを発見するが、肺がん死亡や総死亡を減らす効果はない」「CT検査群で多くの肺がんが診断されているが、その多くが過剰診断を示唆している」と総括されています。(BMJ 2016;352:h6080)
肺がんスクリーニングで肺がん死亡が減らない理由としては、「肺がんのスクリーニングは増殖の遅いがんを多く見つけるが、増殖の速いがんの発見は困難」「増殖速度の速いがんの場合、数ヶ月から1年程度早くも見つけても、現在の肺がん治療法では生存期間に差はでない」などが指摘されています。
放置しても問題ない増殖の遅い肺がんを多く見つけても、死に至る増殖の速い肺がんを早期発見しないとスクリーニングの意味はありません。
例えばオランダで行われたDanish Lung Cancer Screening Trialでは、肺がんリスクの高いヘビースモーカーおよび喫煙経験者(現在は禁煙中)の4104人を対象にCT検査によるスクリーニング群と非スクリーニング群のランダム化比較試験を行っています。
検診群で多くの肺がんが見つかっていますが、検診群で多く見つかったのはステージIからIIBの早いステージの肺がんで、進行した肺がん(ステージIIIAからIV)の発見率は同じでした。
この試験で、死亡数はスクリーニング群で61人、コントロール群では42人でした。肺がんによる死亡は検診群が15人でコントロール群が11人でした。
CT検査によるスクリーニングはステージが早い段階の肺がんを発見するが、その多くは増殖の遅いがんであり、増殖の速いがんを早期発見できないので、肺がん死亡や総死亡を減らす効果はない」というのが現時点での結論です。

【がん検診の有効性を示すトリック(その1):レングス・バイアス】
多くの人は、マンモグラフィーによる乳がん検診、子宮頚部のスメアテスト、PSAによる前立腺がん検診の有益性を過大に評価し、有害性については過少に受け止めていることが示されています。(BMJ 2016;352:h6080)
ある研究では、女性の68%は「マンモグラフィーは乳がんになるリスクを減らす」と考えています。(検診しても発がんリスクが減ることはありえない!)
62%の女性は「乳がんスクリーニングが乳がんの発生率を少なくとも半分にする」と考え、75%の女性は「10年間のスクリーニングで1000人の女性当たりで10人の乳がんによる死亡を減らす」と考えています。
しかし、どのように楽観的に考えても、このような良い数値は得られません。
最も最近のコクランレヴューによると、PSAによるスクリーニングは前立腺がんによる死亡者数を減らすことができず、適切にランダム化された臨床試験に限れば、マンモグラフィーが乳がん死亡を減らす効果は認められていません。肺がん検診が肺がん死を減らさないことは前述しました。
もし検診で、放置すると進行するがんを片っ端から発見して治療すれば、検診群の進行がんの数は減るはずです。しかし、多くの研究はそのような結果を示していません。
死亡につながる増殖速度の速いがんの早期発見は、現在行われている1年に1回のスクリーニングでは困難です。放置しても良いような増殖速度の遅いがんを見つけやすいことが明らかになっています。
この理由は「がん細胞の増殖速度の違い」によって説明されています。
早期にステージIIIやIVに進展する増殖の速いがんは1年に1回のがん検診で引っかかる可能性が低く、ステージIやIIの段階で見つかるような増殖速度が遅いがんほど、がん検診で見つかる率が高いと言えます。
例えば、体積倍加時間が1ヶ月の進行の早いがんは、6〜7ヶ月で1gから100gに増大します。検診時には見つからなかったがんが、1年後には末期がんになっていることもあります。このような進行の速いがんほど早期発見・早期治療が必要ですが、このような進行の速いがんは1年に1回の検診で見つけるのは困難です。(下図)
このようながんを検診で見つけようとすると2〜3ヶ月に1回の検診が必要になってきますが、それは放射線被曝などの有害性が増すことになります。

図:がん検診を1年に1回受けたとして、増殖の速いがん(A)は検診で引っかからずに、臨床症状で見つかることが多い。増殖の遅いがん(BやC)は検診で比較的早期の段階(ステージI〜II)で見つかる。放置しておくといずれ転移するようなBの場合は、検診のメリットがある。放置してもリンパ節転移や遠隔転移しないようながん(C)の場合は、治療のメリットは少ない。がん検診の検出能を高めると、微小がんのままで一生終わるがん(D)も治療の対象になる可能性がある。つまり、がん検診の検出能が高まると、過剰診断と過剰治療が増えて、メリットは少なくなる。

このように「がんの成長速度に関するバイアス」をレングス・バイアス(length bias)と言います。
個々のがんの進行速度は一定ではありません。増殖の遅いものや早いもがありますが、がん検診で見つかるものは、悪性度が比較的低く、進行がゆるやかであることが多い傾向にあります。つまり、予後の良いがんだけが発見されやすいということです。
例えば、増殖速度の遅いがんと速いがんが同数発生したと仮定します。発生数が同数でも、有病率は増殖の遅いがんの方が高くなります。有病率は発生数と罹病期間に比例するからです。
したがって、増殖速度の遅いがんは各症例の有病期間が長いため、前臨床段階(検診では見つかるが症状は出ていない段階)の患者数は増殖の遅いがんの方が多くなります。
そのため、スクリーニング(がん検診)で発見される患者数は増殖速度の遅いがんの方が増殖速度の速いがんより多くなります。(トップの図参照)
このような理由は肺がんや乳がんや前立腺がんなど全てのがんで当てはまります。進行の遅いがんほどスクリーニングで検出されやすいのです。
したがって、早期発見と早期治療の効果が無い場合でも、このレングス・バイアスのおかげで、がん検診で発見されたがんは、全患者の平均と比較して予後が良好になるのです。
がん検診を受けたことで、がんが早期発見でき、死亡せずに済んだというケースは多いのですが、これは「がん検診が有効」という証拠にはなりません。検診で見つかるがんは助かりやすいがんが多いからです。
一方、何らかの異常や症状が出てがんが見つかる場合、進行がんであったり、かなり病期の進んだがんである事が多く、がん検診で見つかった場合と比べ、その後の生存率は低くなります。
検診発見のがんと外来発見のがんの予後や生存率が異なったとしても、それが検診の有効性を示すことにはならないのです。

図:ある地域で1年間にある種のがんによる死亡が11例あったと仮定する。それぞれの棒は、診断可能になってから死亡するまでの期間を示す。検診での検出が可能になってから死亡するまでの期間が短いがん(増殖が速いがん)は検診で見つかる率が低く、検診での検出が可能になってから死亡するまでの期間が長いがん(増殖が遅いがん)は検診で見つかりやすい。したがって、検診で見つかったがんは生存率や生存期間が良好になるが、これは早期発見・早期治療とは関係がない。

【がん検診の有効性を示すトリック(その2):リードタイム・バイアス】
スクリーニングを行った場合と行わなかった場合の診断日時の時間差を「リードタイム(lead time)」と呼びます。
がん細胞の発生から、検査で診断できるレベル(1cmくらい)の大きさになり、さらに症状を引き起こすレベルに増大し、最終的に宿主を殺すレベルに大きくなるのががんの自然史です。
このがんの自然史の中で、がんの生存率や生存期間は診断時から測定されます
スクリーニング(検診)による早期診断・早期治療ががん患者の生存率や生存期間を改善する効果が無くても、早い段階で診断された分、生存期間も生存率も延びることになります。
生存期間を測定するスタートががんが診断された時点になるため、早く診断されれば、死亡年齢が同じでも生存期間は延びます。これがリードタイム・バイアス(lead-time bias)です
リードタイム・バイアスは、スクリーニング(がん検診)で発見したがんと、通常の診療(外来)で発見したがんとの間で生存期間や生存率を比較する際に問題となるバイアス(偏り)です。
がんの発生から死亡までの時間が検診発見群と外来発見群の両群で等しい(すなわち検診の効果がない)場合でも、検診で早期診断された時間の分(リードタイム)だけ、検診発見がん患者の生存時間は見かけ上長いことになり、したがって見かけ上の生存率もあがることになるという偏りです。
このリードタイム・バイアスがあるので、がんと診断された患者さんの5年生存率はがん検診群で上がることになります。

図:1個のがん細胞が発生して検査で見つかる大きさに成長するまでに通常は数年から10数年かかる。仮に、40歳の時に体内でがん細胞が発生し、52歳のときに1cmくらいの大きさに成長してがん検診で見つかり、がん検診を受けなかった場合は3年後(55歳)に数cm大に増大した段階で外来の通常検査で発見されるようになるとする。この場合、スクリーニング(がん検診)でがんが発見された52歳と、外来診察によってがんが発見された55歳の差の3年間がリードタイムになる。早期治療の効果がなく、両方の場合でともに60歳で死亡しても、がん検診でがんが見つかった人の生存期間は8年で、外来で見つかった場合の生存期間は5年になる。つまり、早期治療が無効でも、早く見つければリードタイムの分、生存期間は長くなり、生存率も高くなる。

さて、がん治療後の5年生存率が上がってるのは確かです。その理由として「検診などによる早期発見の取り組みや、抗がん剤や放射線治療などがん医療の進歩が生存率の向上につながっている」と言っています。
白血病や悪性リンパ腫のように検診で見つかることの少ないがんで5年相対生存率が上昇しているので、がん治療の成績が良くなっているのは確かです。
しかし、「検診などによる早期発見の取り組みが生存率を向上させている」というのは十分なエビデンスがありません。
少なくとも、最近のコクランデータ・システマティックレヴューなどで、肺がんや乳がんや前立腺がんのスクリーニングがこれらのがんによる死亡を減らしていないという結論が出ているので、「早期発見が生存率を向上させている」理由においてリードタイム・バイアスの寄与が大きい可能性があります。
がん検診を受けると生存率が上がると錯覚させる書き方は厚労省やがんセンターのサイトに多くあります。
がん検診におけるリードタイム・バイアスを知らない一般の人を騙す重要な手口になっています。

【がん検診の有効性を示すトリック(その3):自己選択バイアス(Self-selection bias)】
「血液中のカロテノイドの濃度が高いと乳がんの発生率が低い」という研究結果があります。カロテノイドは緑黄色野菜や果物に多く含まれていますので、この結果は、野菜や果物が乳がんを予防する可能性を示唆します。
しかし、血中カロテノイドの濃度は、生活習慣の指標にすぎない可能性もあります。
野菜や果物の摂取が多い(つまり、血中カロテノイドが高い)グループは摂取が少ない(血中カロテノイドが低い)グループと比べて、総摂取カロリーが低い、肥満が少ない、運動を良くしている、飲酒や喫煙の率が低いという違いにも差が出ています。
喫煙や飲酒の多い人は野菜や果物の摂取が少ないというはっきりとしたデータがあります。
例えば、米国のデータ(NIH-AARP Diet and Health Study)では、男性で果物の摂取の多い上位20%の集団では喫煙者は4.12%ですが、果物の摂取が最も低い下位20%の集団には喫煙者が21.8%います。
男性で野菜の摂取の多い上位20%の集団には喫煙者は6.2%ですが、野菜の摂取が少ない下位20%の集団には喫煙者が16.9%もいます。女性でも同様です。アルコールの摂取の多い人が野菜や果物の摂取が少ないのも喫煙と同じ程度の差があります。(下の表を参照)

また、野菜や果物の摂取が多いグループは摂取が少ないグループと比べて、総摂取カロリーが低い、肥満が少ない(BIMが25以下の人の割合で評価)、運動を良くしている、学歴が高い(大学や大学院を卒業した割合で評価)という違いにも差が出ています。
つまり、野菜や果物を日頃から多く食べている人々は食事だけでなく、いろんな面で健康的な生活を実践している人が多い傾向にあります。
タバコやアルコールに出費が多い人は、果物まで手がでにくいのかもしれませんし、果物を多く食べている人(多く食べれる人)は、経済的に裕福で、他の環境も良好である可能性もあります。
このように、野菜や果物の摂取が多いグループでがんの発生率が低いという結果が出ても、発がんに関連する交絡因子の影響を除外しておかないと間違った解釈になる可能性があります。
交絡因子とは「調べようとする因子以外の因子で、病気の発生に影響を与えるもの」です。
ケース・コントロール(症例-対照)研究では、「野菜や果物の摂取が多いほどがんが少ない」という結果が得られています。しかし、コホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていません。
その理由は、野菜や果物の摂取量の多いグループは摂取量が少ないグループに比較して、喫煙率や飲酒量や摂取カロリーや肥満の程度が低く、運動量が多いというデータがあるためです。野菜や果物ががんを予防する直接的効果をもつのではなく、がん予防に良い生活習慣(禁煙、禁酒、運動、標準体重維持、カロリー制限など)の指標に過ぎないということです(下図)。

図:野菜・果物の摂取量の多い人はがんが少ないが、喫煙・飲酒・肥満・摂取カロリー・運動などの交絡因子を補正すると、野菜や果物の摂取自体にはがん予防効果は認められない。

自己選択バイアス(Self-selection bias)というのは、健康志向の人ほどがん検診を受ける率が高いというバイアスです。健康検診受診者バイアス(healthy screenee bias)とも言います。
がん検診を自ら受けようと考える人は、自分の健康への関心が高く、健康を増進するための行動により熱心である人が多いと考えられます。あるいは、がん検診を受けるような人は生活水準が高い可能性も十分に考えられます。
スクリーニングによるメリットが無くても、このような考えの人は良好な臨床経過を辿る可能性が高くなると考えられます。

【ケース・コントロール(症例対象)試験は様々なバイアスが入り込む】
がん検診のケース・コントロール試験(Case-control study:症例対照研究)は、ある種のがんで死亡した人たちの群(症例)と、そのがんに罹患して生存している人たちの群(対照)の2群において、がん検診の受診率を比較して、がん検診ががん死亡率を減らせるかどうかを検証するような研究です。
一方、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)というのは、研究参加者を試験の初めに、検診を受ける群と受けないない群にランダム(無作為)に分けて追跡調査を行い、がん検診の効果(がん死亡率や全死亡数の減少など)の有無を検証する試験です。
症例対照研究はエビデンスレベルが低く、たとえ複数の症例対照研究で同じ結果が出ても、大規模なランダム化比較試験の結果には及びません
それは、症例対照研究では、前述のような様々なバイアス(偏り)を完全に排除することが困難なためです。
日本では、対策型検診・任意型検診として非高危険群に対する胸部X線検査、および高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法を推奨しています。
その根拠として、日本で行われた4件の症例対照研究(肺がんで死亡した人と死亡しなかった人の検診受診歴を比較する方法)では、検診による肺がん死亡率減少効果が認められていることを挙げています。
しかし、胸部エックス線検査による肺がん検診の有効性を検討したランダム化試験では、スクリーニング(がん検診)の有効性は認められていません。
日本では1987年以降、肺がん検診が広く行われています。その効果を検証するために岡山県、宮城県、新潟県、神奈川県、群馬県などで症例対照試験が実施されています。
肺がん検診群は1年に1回、胸部X線検査を全ての参加者が受け、ヘビースモーカーなどリスクが高い人たちは喀痰細胞診も併用するという検診が行われています。
肺がんで死亡した人(症例)と、その死亡者と年齢や性や喫煙歴や居住地や診断時期などの条件をマッチさせた生存している肺がん患者(対照)を比較して、12ヶ月前までの胸部エックス線検査の受診率を比較しています。
その結果、死亡した群で胸部エックス線検査の受診率が低いことが示され、「肺がん検診を毎年受診することにより肺がん死亡を 41~60%減少させることが示された」という結果が得られています。(群馬の試験では統計的有意差は認めなかったが、岡山県、宮城県、新潟県、神奈川県の4県の試験では統計的有意に肺がん死を減らした)
本当はランダム化比較試験で検証しなければならないのですが、「わが国のように年1回の胸部X線検査が国民に浸透しているところでは,検診を受けない対照群を設定することは不可能であり,実現可能な手法として 症例対照研究が行われた」と言い訳に近い説明をしています。
複数の地域で近似した成績が得られたので信頼性があると結論づけています。これらの研究は厚生省のがん研究班で行われ、2000年から2002年ころに論文に報告されています。
経験の豊富な読影医による二重読影など高い精度の検診を実施すれば、胸部エックス線検査は有効だと主張しています。
しかし、患者自身の選択によるバイアス(self-selection biasあるいはhealthy-screenee bias)で、がん検診を受ける人は健全な生活を指向する傾向があり、予後的にもよいとのことなどが指摘されています。
発見時期が同じでも、生きている群にがん検診受診者が多くなるのは当然です。レングス・バイアスによって、がん検診では前臨床段階が長いがん(すなわち、増殖速度が遅いがん)が多く見つかるので、生存者の方にがん検診受診者が多くなるのは当然なのです。
少なくとも、現在の医学の常識で、「肺がん検診を毎年受診することにより肺がん死亡を 41~60%減少させる」という結論を信じる専門家はいないと思います。肺がんの場合、1年に1回のがん検診を行っても、増殖速度の速いがんの早期発見は困難だからです。

【がん検診の有害性が軽視されている】
死に至るような増殖の速いがんでは、スクリーニングで見つかる段階(1グラム程度)から数ヶ月で末期がん(数100グラム程度)に進行します。
理論的には、毎月検診を受けて1〜2ヶ月で倍に成長するようながんを見つけて早期治療を行えば、早期発見・早期治療の効果はでるかもしれません。
しかし、検診の回数を増やすことは放射線被爆や費用対効果の観点からデメリットが増えます。
がん検診に過剰の期待を持つこと自体が間違いだと理解する方が正しいと思います。
偶然に進行の速いがんが検診で見つかって助かる場合もありますが、それほど多くはありません。放射線被爆や費用やその他の有害性を理解しておく必要があります。
検診には対策型検診任意型検診の2種類があります。
対策型検診は、ある集団全体の死亡率を下げるために行われるもので、市区町村が老人保健事業で行っている集団検診(例えば住民検診や職域検診)が対策型検診にあたります。公的な補助金が出るので、無料か自己負担が少額ですみます。
任意型検診は、個人が自分の死亡リスクを下げるために受けるものです。人間ドックがその代表例です。健康保険組合から補助金が出ることがありますが、基本的に全額自己負担のため、集団検診に比べて自己負担の金額は多くなります。基本的な検診内容の種類や料金、オプションで選べる検査の種類は、医療機関によって異なります。
わが国の「がん対策基本法」によれば、「国民の責務」として「必要に応じ、がん検診を受けるよう努める」ことになっています(第六条)。また、国及び地方公共団体は「がん検診の受診率の向上に資するよう、がん検診に関する普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする」となっています(第十四条)。
がん検診を受けることが「国民の責務」であり、国および地方自治体は「がん検診を普及させる責任がある」というこの法律は、医学的および科学的に明らかに間違いです。最近の医学的エビデンスに基づけば、不要ながん検診は受けない方が良く、一部の高リスク群にエビデンスに基づいた検診を行うように検診の対象者を限定するべきです。
国立がん研究センターのサイトをみると、「がん検診の有効性」については詳しく解説されていますが、がん検診の有害性についてはほとんど言及されていません。がん検診の有害性については545話で解説しました。
国立がん研究センターのがん情報サービスの「肺がん検診の不利益」については、「不利益としては、胸部X線検査による被曝が問題となり得ますが、人体への影響は極めて小さいと考えられています。ほかには、偽陰性(検査での肺がんの見逃し、中間期がん)によるがん発見の遅れと、偽陽性(本当は病変がないのに精密検査が必要と判定されること)による精神的苦痛、および精密検査に伴う肉体的苦痛・偶発症が挙げられます。」と簡単に述べられていますが、それがどの程度なのかを解説しなければ意味がありません。
最近のランダム化比較試験の結果から、がん検診の有害性はかなり大きく、早期発見の有益性を相殺している可能性が指摘されています。
私は1年に一回、胸部エックス線検査を受けています。結核予防法による職場検診で、結核が無いことを保健所に通知する義務があるためです。
日本の職場検診での胸部エックス線検査による結核の発見率は10万人当たり7人程度と言われています。0.007%になります。ドイツや英国で健康診断を正当化できないと判断する発見率(0.02〜0.04%)を大きく下回っています。
そして問題は、54人の結核患者を見つけるために、放射線被爆によって1人が肺がんになると計算されています。
何ら症状がなくて、胸部エックス線検査を受けることに非常に抵抗を感じていますが、検診を行わないと保健所から催促の通知(手紙)が来るので、仕方なく検診を受けています。
3年前の胸部エックス線検査で「右下肺野に異常の疑い(結節影)があります」という結果が出て、CT検査を受けるように通知を受けました。「がんの疑いがある」という通知です。
しかし、その通知は無視し、翌年は別の病院で胸部エックス線検査を受けました。病院を代えたのは、CT検査を受けるようにと言う指示を無視したことを咎められるのを避けるためです。
その後2回(2年間)の胸部エックス線検査では異常は指摘されていません。「異常の疑い」くらいでCT検査を受けてもCT検査の有害性の方が高いと「医学的」に判断したからです。CT検査は胸部エックス線検査の100倍以上の放射線被爆があるからです。

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