105)漢方治療は肝臓がんの抗がん剤治療の効果を高める

図:肝臓がんの抗がん剤治療に漢方治療を併用すると、抗がん剤のみで治療した場合に比べて、12ヶ月後、24ヶ月後、36ヶ月後の生存率はそれぞれ1.55倍、2.15倍、2.76倍に向上し、抗がん剤治療によって腫瘍が縮小する率(率奏功率)は1.39倍に上昇することが、26件の臨床試験(対象患者総数2079例)のメタアナリシスで示された。。


105)漢方治療は肝臓がんの抗がん剤治療の効果を高める


わが国では、肝臓がんによる死亡者数は1980年代から急激に増え始め、現在では年間3万5千人もの人が肝臓がんで亡くなっています。悪性腫瘍の死亡順位の中で肺がん・胃がん・大腸がんについで第4位です。
肝臓がんはウイルス性肝炎による慢性肝炎や肝硬変をベースに発生し、肝臓全体が前がん状態にあるため、治療後も再発しやすいのが特徴です。
肝臓がんの治療としては、針を刺してエタノールやラジオ波などでがん組織を殺す局所治療や、外科切除、動脈塞栓、抗がん剤治療などがあります。
漢方治療を併用することによって、抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることができることが、多くの基礎実験や臨床試験で示されています。ランダム化対照比較試験で漢方治療の有効性を示す結果も多く報告されていますが、個々の臨床試験では検討症例が少ないので、結果の信頼度が低いと言わざるを得ません。このような場合、複数の臨床試験の結果をまとめるメタ・アナリシス(メタ解析)という統計手法を用いると、より信頼度の高い結論が得られます。
メタ・アナリシスとは、複数の同じテーマの研究結果のデータを統合して統計的に分析する研究手法です。ひとつ一つの臨床研究では症例数が少なくて統計的な精度や検出力が不十分であったり、研究間で結果が異なるなど、明確な結論が得られないことがあります。これを解決するために、過去に行われたランダム化比較試験の中から信頼できるものを全て選び、統計的に総合評価を行うことによって、その治療法の有効性を評価する方法がメタ・アナリシスです。
例えば、黄耆を含む漢方薬を抗がん剤治療に併用した場合、抗がん剤単独の場合と比較して、12ヶ月後の死亡数が30%以上減少し、奏功率やQOL(生活の質)の改善率は30%以上上昇し、高度の骨髄障害の頻度が半分以下になるという結果がメタアナリシスで示されています。(第18話参照
今回紹介する論文では、
肝臓がんの抗がん剤治療に漢方治療を併用すると、患者の生存率や腫瘍の縮小率が高まるという結果が得られています。


Chinese herbal medicine and chemotherapy in the treatment of hepatocellular carcinoma: a meta-analysis of randomized controlled trials.(肝細胞がんの治療における漢方薬と抗がん剤治療:ランダム化対照比較試験のメタ・アナリシス)Integr Cancer Ther. 4(3):219-229, 2005年
【要旨の抜粋】
肝細胞がんの抗がん剤治療における漢方治療併用の有効性を確かめるために、肝細胞がんに対して抗がん剤単独治療と抗がん剤+漢方治療の併用療法における生存率と奏功率を比較したランダム化対照比較試験を集め、メタアナリシスで検討した。
26件のランダム化比較試験が対象となり、対象患者総数は2079例であった。
生存率は,漢方薬+抗がん剤治療併用群の方が抗がん剤治療単独群に比して有意に高かった。
抗がん剤治療単独の場合を1.0とした相対比率(relative risk)では、併用群の12ヶ月後の生存率は1.55(95%信頼区間:1.39~1.72)、24ヶ月後の生存率は2.15(95%信頼区間:1.75~2.64)、36ヶ月後の生存率は2.76(95%信頼区間:1.95~3.91)であった。
腫瘍が縮小する割合(tumor response,奏功率)も,抗がん剤単独群に対して併用群の相対リスクは1.39(95%信頼区間 1.24~1.56)であった。
(上図参照)

メタアナリシスでは、95%信頼区間が1.0を挟んでいなければ、統計的に有意差があると判断されます。
つまり、
抗がん剤と漢方薬を併用した場合の12~36ヶ月間の生存率は、抗がん剤だけの場合の生存率の1.5倍から3倍くらいになることが統計的に示されたということになります。
漢方治療は、体力や免疫力を高め、抗がん剤治療の副作用を軽減する効果が報告されています。さらに、免疫力や抗酸化力を高めることによって、肝臓がんの再発を防ぐ効果も報告されています。今回の論文では、抗がん剤の腫瘍縮小効果を高めることも示されています。このような効果によって、生存率を良くする結果になるようです
しかし、個々の臨床試験で使用されている抗がん剤の内容と投与された漢方薬の内容が多種多様であるため、どのような治療が最善なのかは不明です。
著者らは、対象とした個々の研究の質が低いため、より質が高く厳密な対照比較試験によるさらなる確認が必要であると述べています。

抗がん剤治療中の漢方治療の有効性に関しては、まだ問題点も多いと思いますが、適切な漢方治療は、肝臓がんの抗がん剤治療の効果を高める効果が期待できると思います。
この場合の「適切な漢方治療」がどのようなものかが本質的な問題になるのですが、がんの漢方治療で多く報告されているように、
補気薬(体力や免疫力を高める生薬)、補血薬(栄養状態や造血機能を高める生薬)、駆お血薬(血液循環を改善し、血液浄化に有効な生薬)、清熱解毒薬(抗炎症作用と解毒作用をもつ生薬)、抗がん生薬(がん細胞の増殖を抑える生薬)を、抗がん剤の種類や患者さんの体力や体質や症状に応じて組み合わせた、オーダーメイドに処方された漢方薬がより効果が期待できると思います

(文責:福田一典)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 104)十全大補... 106)抗がん剤... »