143)抗エストロゲン作用をもつ生薬

図:乳がん細胞はエストロゲンの作用で増殖が促進される場合が多く、この場合はエストロゲンの産生や作用を阻害する薬が使われる。抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤の働きを高める生薬や薬草を用いた漢方治療は、乳がんのホルモン療法の効果を高める可能性がある。

143)抗エストロゲン作用をもつ生薬

 

【乳がんはエストロゲンによって増殖が促進される】
乳腺組織(乳汁を産生する外分泌組織)は女性ホルモンのエストロゲンによって増殖し、プロゲステロンの作用によって発達します。女性は思春期以降に卵巣が発達して女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の分泌が増加し、乳腺が発達します。

乳がんは乳腺組織から発生するがんです。

体内のエストロゲン濃度が長期に高い状態(妊娠・出産歴がない、初潮年齢が低い、閉経年齢が高い、ピルなどのエストロゲン製剤を服用している、など)は乳がんの発生率を高めます。
乳がんの多くは、エストロゲンによって増殖が促進されます。乳がん細胞がエストロゲン受容体をもっていてエストロゲンによって増殖が促進される状態を「エストロゲン依存性」と言います。
エストロゲン依存性の乳がんの場合にはホルモン療法が効きます。ホルモン療法に使用する薬として、抗エストロゲン剤とアロマターゼ阻害剤があります。
抗エストロゲン剤は、乳がん細胞のエストロゲン受容体に結合して、エストロゲンの作用を阻害する薬で、タモキシフェン(商品名:ノルバデックス、タスオミン)という薬があります。
アロマターゼは脂肪組織でエストロゲンを作っている酵素です。閉経前の人では卵巣でエストロゲンが作られますが、閉経後も副腎皮質から分泌されたアンドロゲンというホルモンをもとにして脂肪組織でエストロゲンが作られるので、閉経後でも少量ながら体内にエストロゲンが存在します。この閉経後のエストロゲン合成に関わっている酵素がアロマターゼで、アロマターゼ阻害剤は、この酵素の働きをさまたげることにより、体内のエストロゲンの量を一層少なくして、乳がん細胞の発育、増殖を抑えます。アロマターゼ阻害剤は閉経後の人に使用され、商品名には「アフェマ」「フェマーラ」「アリミデックス」「アロマシン」などがあります。臨床試験の結果、タモキシフェンより再発予防効果が高いことが確認されています。

漢方薬やサプリメントの中には、エストロゲン作用を有するものがあり、更年期障害のようにエストロゲンが不足するために起こる症状に利用されています。

しかし、エストロゲン依存性の乳がんの患者さんは、このようなエストロゲン作用のある生薬やサプリメントの使用は、がんを促進するため避ける必要があります。
エストロゲン作用がある植物成分として大豆イソフラボンが代表です。プエラリアの根茎に含まれるミロエステロールやデオキシミロエステロールは、大豆イソフラボンよりエストロゲン作用が強く、豊胸や更年期障害の軽減を目的にしたサプリメントとして販売されています。
マメ科の生薬の葛根(かっこん)にもイソフラボンが多く含まれています。

大豆もプエラリアも葛根もマメ科です。
高麗人参やアメリカ人参などのジンセン(Ginseng)類にはエストロゲン作用が指摘されています。反対の意見もあるのですが、米国では乳がん患者は高麗人参の使用は避けるべきだという意見が一般的です。サプリメント関係の書物にも、高麗人参はエストロゲン作用があるので、乳がん患者は使用に気をつけるべきと記載されています。
その他、プロポリスにエストロゲン作用があるという報告もあります。
以上のようなエストロゲン作用が指摘されている生薬やサプリメントは、エストロゲン依存性の乳がんの患者さんは、使用しないようにすることが大切です。
一方、以下に示すような抗エストロゲン作用のある生薬やサプリメントは、乳がんの治療や再発予防に有効です。

【夏枯草(かごそう)】
夏枯草はウツボグサの花穂です。

ウツボグサは学名をPrunella vulgaris と言い、日本各地や東アジアの温帯に広く分布しているシソ科の多年草です。日当りのよい道ばたや山野の草地に自生し、6~8月ころに長さ3~8cmの円柱状の花穂を立て、紫色で唇形の花が密生します。

初夏に咲いた紫色の花が真夏に褐色に変化することから夏枯草という名前がつけられました。
茶色に枯れた花穂が薬用に使用され、生薬名を夏枯草(かごそう)と言います。

夏枯草は利尿作用や消炎作用があり、腫物、浮腫、腎臓炎、膀胱炎、眼の充血、高血圧などに用いられます。

硬結を散じる効果があり、乳がん、甲状腺腫、リンパ節腫大などにも利用されています。

実際に、抗がん作用のある生薬として、各種のがんの漢方治療に使用されており、基礎研究でも、強い抗酸化作用、抗炎症作用、がん細胞増殖抑制作用などが報告されています。

夏枯草には高濃度のロズマリン酸が含まれており、ロズマリン酸は抗酸化作用が強く抗炎症、抗アレルギー作用などもあります。  

また、夏枯草の抗炎症作用の活性成分として、トリテルペン類のbetulinic acid, ursolic acid, 2 alpha,3 alpha-dihydroxyurs-12-en-28-oic acid, 2 alpha-hydroxyursolic acidなどが報告されています。

最近の論文に、夏枯草には抗エストロゲン作用があることが報告されています。

 

Characterization of Anti-Estrogenic Activity of the Chinese Herb, Prunella vulgaris, Using In Vitro and In Vivo (Mouse Xenograft) Models.(訳)培養細胞とマウス移植腫瘍を用いた実験モデルによる、中国ハーブのPrunella vulgaris(ウツボグサ)の抗エストロゲン活性の研究 Biol Reprod. 80(2):375-83. 2009
論文要旨:
エストロゲン依存性の子宮内膜がんの細胞株ECC-1を用いて、21種類の中国ハーブ(生薬)について抗エストロゲン活性をスクリーニングした結果、ウツボグサ(Prunella vulgaris)に最も強い抗エストロゲン作用が認められた。
エストロゲンの刺激によって発現が誘導されるアルカリフォスファターゼ活性と、エストロゲンによる増殖促進を、うつぼぐさの抽出エキスは用量依存的に抑制した。エストロゲンで誘導される蛋白質CYR61の発現もうつぼぐさの抽出エキスは抑制した。
この抗エストロゲン作用は、エストロゲン受容体の介した直接的な阻害作用ではなく、aryl hydrocarbon receptor(AHR)を刺激して、エストロゲン刺激伝達系を間接的に阻止する可能性が示唆された。
免疫不全マウスの卵巣を摘出し、ヒトの子宮内膜を移植すると、エストロゲンを投与したときのみ、移植したヒト子宮内膜が増殖する。この実験モデルで、うつぼぐさの熱水抽出した煎じ液を飲水に混ぜて投与すると、エストロゲン刺激による子宮内膜の増殖や、エストロゲンで誘導されるCYR61蛋白の発現が抑制された。
以上のことから、うつぼぐさの抽出エキスを服用すると、子宮内膜症や乳がん、子宮内膜がんの治療に役立つ可能性が示唆された。

 

夏枯草は抗炎症作用や抗酸化作用やがん細胞増殖抑制作用があり、さらに抗エストロゲン作用があるため、特に乳がんや子宮体がん、子宮内膜症に効果が期待できそうです。

【黄連(おうれん)】
キンポウゲ科のオウレンのひげ根を除いた根茎です。
アルカロイドのベルベリンが主成分で、中枢抑制作用・鎮痙作用・健胃作用・止瀉作用・血圧降下作用・動脈硬化予防作用・抗炎症作用・抗菌作用などの薬理作用があります。
気分がいらいらして興奮するのを鎮静し、のぼせ・不安・不眠・出血などの症状に用います。下痢・嘔吐などの胃腸炎に対して抗菌・整腸作用を示し、各種炎症性疾患に対して確実な抗炎症作用を示します。
最近の論文で黄連のエキスが抗エストロゲン剤の抗腫瘍効果を高めることが報告されています。

 

Coptis extracts enhance the anticancer effect of estrogen receptor antagonists on human breast cancer cells.(黄連エキスはヒト乳がん細胞におけるエストロゲン受容体拮抗薬の抗がん作用を増強する)Biochem. Biophys. Res. Commun. 378(2):174-178, 2009
論文要旨:
エストロゲン受容体拮抗薬は乳がんの治療に広く用いられているが、その有効性や薬剤耐性の問題が残っている。
この研究は、抗炎症作用のある生薬として利用されている黄連のエキスが抗エストロゲン剤の効果を高めるかどうかを検討する目的で行なった。
エストロゲン受容体陽性のヒト乳がん細胞MCF-7細胞において、黄連の粗抽出エキスおよびその活性成分であるベルベリンは、抗エストロゲン剤の増殖抑制効果を相乗的に増強した。
アロマターゼ阻害剤のfulvestrantと併用した場合も、黄連の粗抽出エキスおよびその活性成分であるベルベリンは抗腫瘍効果を増強した。
遺伝子発現の検討では、ベルベリンは乳がん細胞の増殖を促進する EGFR, HER2, bcl-2, COX-2 の発現を著明に抑制した。一方、増殖を抑制する作用があるインターフェロン-βとp21の発現は著明に抑制された。
以上のことから、黄連のエキスは、複数の遺伝子の発現に影響して、エストロゲン依存性の乳がんのホルモン療法の効果を増強する効果があることが示された。

 


【霊芝(れいし)】
霊芝は中国各地や日本に分布するサルノコシカケ科の担子菌類のマンネンタケ(Ganoderma lucidum)などの子実体(胞子形成のためにつくる傘状の部分)です。

クヌギなどの広葉樹の根部に生え、傘は腎臓形または半円形をしており、紫褐色で漆状の光沢があり、木質状の硬いキノコです。

約2千年前に中国でまとめられた薬物学書「神農本草経」には「命を養う延命の霊薬」として記載され、それ以来、様々な薬効が信じられ、多くの病気の治療に用いられてきました。

かつては入手困難なために非常に高価でしたが、近年は日本や中国や韓国などで人工栽培されるようになって、健康食品や民間薬として利用されています。

薬理作用として血圧降下、利尿、血流改善、抗菌、精神安定、肝保護作用などが報告され、体力低下や胃腸虚弱、呼吸器疾患や肝疾患など多くの病気の治療に使用されています。

がんの治療でも、免疫増強作用などが利用されています。

乳がん細胞のエストロゲン受容体の量を減らして増殖を抑える作用が報告されています。

 

Ganoderma lucidum inhibits proliferation of human breast cancer cells by down-regulation of estrogen receptor and NF-kappaB signaling.(霊芝はエストロゲン受容体の発現量の低下とNF-κBシグナル伝達を介して乳がん細胞の増殖を抑える)Int J Oncol. 29(3): 695-703 200
論文要旨:
霊芝は東洋の伝統医療で使用されるキノコで、がんを含め様々な病気の予防や治療の目的で使用されている。
以前の研究で、エストロゲンに非依存性のヒト乳がん細胞において、霊芝はAkt/NF-kBシグナル伝達を阻害し、細胞周期のG0/G1期で停止させることを報告した。今回の研究では、さらに、霊芝はがん細胞のエストロゲン受容体の発現量とNF-kBシグナル伝達に作用して、乳がん細胞の増殖を抑えることを明らかにした。
霊芝は、エストロゲン依存性のヒト乳がん細胞のMCF-7細胞のエストロゲン受容体-アルファ(ER-α)の発現量を低下させたが、ER-βの発現量は低下させなかった。
霊芝は転写因子のNF-kBの活性を低下させた。
エストロゲン受容体の発現とNF-kBの活性の阻害によってがん遺伝子c-mycの発現が低下し、エストロゲン依存性と非依存性の細胞増殖が抑制された。
これらの結果から、霊芝は乳がんの発生や再発の予防に効果が期待できる。


【マンゴスチン果皮エキス:キサントン】
マンゴスチンとはマレー半島を原産地とするオトギリソウ科樹木で、その果実は、直径が6cmくらいでみかんの大きさです。

その中の果肉は、象牙色の透き通るような白色で、みかんのように4~8個の房に分かれています。

マンゴスチンの皮(果皮)は黒紫色で1cmくらいの厚さがあります。これをかじってみると、渋みが強く、とても食べられるものではありません。しかし、この渋みの成分の中に、様々な健康作用をもった薬効物質があることが明らかになっています。

マンゴスチンの果皮は東南アジア地域では古くから民間薬として、感染症(赤痢やマラリアや寄生虫など)、皮膚疾患(湿疹や傷の化膿など)、消化器疾患(下痢や消化不良など)、炎症性疾患など多くの病気の治療に利用されていました。

それは、マンゴスチンの果皮には、殺菌作用、解熱作用、抗炎症作用、抗酸化作用、滋養強壮作用などの薬効があるからです。
これらの効果は、マンゴスチン果皮に多く含まれるキサントンと言う成分の薬理作用と考えられています。
キサントンはポリフェノールの一種で、マンゴスチンからは20種類以上のキサントンが見つかっています。キサントンは他に類をみないほど強力な抗酸化作用をもっており、さらに、抗菌・殺菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2阻害作用)、がん予防作用、抗腫瘍作用などが報告されています。

米国ではキサントンを多く含むマンゴスチン果皮エキスがサプリメントとして販売され、がん、動脈硬化やアルツハイマー病、アレルギー疾患など多くの疾患の予防や治療に利用されています

■ 培養細胞を使った実験で、マンゴスチンに含まれるキサントンの一種のガルシノンEが肝臓がんや胃がんや肺がんに対して抗腫瘍効果を示しました。この実験では、ガルシノンEは10μM以下の低濃度でほとんどのがん細胞が死ぬことが示されています。(Planta Med. 68: 975-979, 2002)

■ マンゴスチンの果皮の抽出エキスを乳がん細胞SKBR3に添加して抗腫瘍効果を検討した研究では、9.25 μg/mlの濃度でがん細胞の増殖を50%阻止し、作用機序としてアポトーシスの誘導、活性酸素の産生阻害が示唆されました。(Journal of Ethnopharmacology, 90:161-166, 2004)

■ マンゴスチン果皮から抽出した6種類のキサントンは全て、ヒト白血病細胞HL60の増殖を抑え、その中でもアルファ・マンゴスチンは、アポトーシス誘導作用によって10μMの濃度で完全に増殖を阻止しました。(J Nat Prod, 66: 1124-1127, 2003)

■ ラットに発がん物質の1,2-ジメチルヒドラジンを注射して大腸に前がん病変を作らせる実験モデルにおいて、えさの中にアルファ-マンゴスチンを加えたラットでは、大腸の前がん病変が有意に抑制されることが示されました。(Asian Pac J Cancer Prev. 5(4):433-8.2004)

さらに、最近の報告では、キサントンがアロマターゼ阻害活性があることが報告されています。

Xanthones from the Botanical Dietary Supplement Mangosteen (Garcinia mangostana) with Aromatase Inhibitory Activity(植物性サプリメントのマンゴスチン果皮に含まれるキサントンのアロマターゼ阻害作用)J Nat Prod 71(7): 1161-1166, 2008
論文要旨:
植物性の健康補助食品として利用されているマンゴスチン(Garcinia mangostina)の果皮に含まれる12種類のキサントンのアロマターゼ阻害活性を、非細胞性のミクロゾームを使った実験系で検討した。
その結果、ガルシノンD(garcinone D)、ガルシノンE(garcinone E)、アルファ-マンゴスチン(α-mangostin)、ガンマ-マンゴスチン(γ-mangostin)が用量依存的な阻害作用を示した。
ついで、アロマターゼ活性の高い乳がん細胞を使った実験では、γ-マンゴスチンが最も強い阻害作用を示した。
乳がんの予防におけるマンゴスチンの効果を今後検討する必要がある。



以上のように、
ホルモン依存性の乳がんの場合には、夏枯草、黄連、霊芝、マンゴスチン果皮(キサントン)を利用すると抗腫瘍効果が期待できると思います。

 

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