535)ビタミンD3とレチノイドとラパマイシンとメトホルミンの相乗効果

図:①インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)などの増殖刺激はPI3K/Akt/mTORC1シグナル伝達系を活性化する。②活性化したmTORC1はたんぱく質や脂肪酸の合成を亢進し、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進し、抗がん剤抵抗性を亢進し、オートファジーを抑制する。③ラパマイシンはmTORC1の活性を直接阻害する。④ビタミンD3はビタミンD受容体を介する遺伝子転写活性によってDDIT4(DNA-damage-inducible transcript 4)タンパク質の発現を亢進し、mTORC1の活性を抑制する。⑤ビタミンD3はBeclin 1の発現を亢進する。Beclin 1はPI3キナーゼ(PI3K)と相互作用してmTORの働きを阻害し、オートファジーを亢進する。⑥ビタミンD3は細胞内のフリーのカルシウム濃度を高めてカルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)を活性化しAMP活性化プロテイン・キナーゼ(AMPK)活性を亢進し、メトホルミンもAMPKを活性化してmTORC1の活性を抑制する。⑦ビタミンD3は発がん過程やがん細胞の増殖に関与するヘッジホッグ経路やWnt/βカテニン経路を阻害する作用も報告されている。このようなメカニズムでビタミンD3とレチノイドとラパマイシンとメトホルミンの組合せは相乗的な抗腫瘍効果が期待できる。

535)ビタミンD3とレチノイドとラパマイシンとメトホルミンの相乗効果

【ビタミンD3は寿命を延ばす】
ビタミンD3は全死因死亡率を低下させることが報告されています。「ビタミンDの血清濃度が高い人は循環器疾患やがんの死亡率が低く、全死因死亡率も減少する」ことを示すメタ解析の結果が複数の研究グループから報告されています。(394話参照)
ビタミンDに関する多くの研究で、ほぼコンセンサスが得られている点は以下のようにまとめることができます。
1)ビタミンD3には全死因死亡率、心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率を減らす。(呼吸器疾患による死亡率も減らすことが報告されています。)
2)植物由来のビタミンD2(ergocalciferol)と活性型ビタミンD3のアルファカルシドール(1-ヒドロキシビタミンD3)とカルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)には死亡率を低下させる効果は認めない。
3)ビタミンD3にはがんの発生を予防する効果はない(予防効果があるという結果も多く発表されている)。しかし、がんの既往のある人のがん死亡率は低下させる
がんサバイバー(がんと診断されてから死亡するまでの全てのがん患者)においては、ビタミンDが低いほど死亡率が高くなることが多くの研究で明らかになっています。つまり、がんサバイバーにとってはビタミンD3のサプリメントは有益である可能性が高いと言えます。
ビタミンD3ががんを予防する効果を示す報告もありますが、最近のメタ解析ではがん予防効果はあっても弱いようです。
「全死因死亡率を低下させる」ということは寿命を延ばすことになります。
人間の死亡率は100%です(他の生き物も同じです)。いずれ何らかの原因(病気や老衰や事故など)で必ず死にます。
ビタミンD3が死亡率(mortality)を減らす」というのは、「ある一定期間の死亡確率が低下する」ということです。
血清中のビタミンD濃度が低い下位5分の1のグループの人は、ビタミンD濃度が高い上位5分の1に比べて、死亡確率が1.5倍くらいになるというコホート試験の結果が得られています。これは、50歳の人が、ビタミンDが不足している場合は余命が20年に対して、ビタミンDの濃度が高ければ余命が30年になるというレベルの差になります。
寿命を延ばす最も確実な方法はカロリー制限ですが、このカロリー制限と同じ効果(抗老化や寿命延長効果)を示す薬をCalorie restriction mimetics (CRM:カロリー制限模倣化合物)と言います。
CRMには2-デオキシ-D-グルコース(381話)、D-グルコサミン(387話)、糖尿病治療薬のメトホルミン(384話)、mTORC1阻害剤のラパマイシン(383話)、赤ワインに含まれるレスベラトロール、ポリアミンの一種のスペルミジン、生薬成分のベルベリンなどが知られています。
そして、最近はビタミンD3も寿命を延ばす物質のリストに入っています。
したがって、これらを組み合せれば、相乗的な抗老化作用と寿命延長作用が期待できるかもしれません。また、これらの組合せががん治療において相乗的な抗腫瘍効果を発揮する可能性が報告されています。つまり、寿命を延ばすがん治療になります。
抗老化(老化抑制)作用と抗がん作用には共通のメカニズムが存在します。この共通のメカニズムを理解すると、抗老化とがん予防を実践できます。

【ビタミンDは1000種類以上の遺伝子発現を誘導する】
皮膚で生成されたビタミンD3や食事やサプリメントで摂取したビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD3になり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25-ジヒドロキシビタミンD3 [1,25(OH)2ビタミンD3]になります。
この1,25(OH)2ビタミンD3が活性型で核内のビタミンD受容体に結合して遺伝子発現などに作用します。25-ヒドロキシビタミンD3[25(OH)ビタミンD3]はビタミンD3の体内貯蔵型として血中濃度を測定して体内のビタミンD3の貯蔵量の指標に使われます。
ビタミンDは複数のメカニズムでがん細胞の増殖を抑制し、細胞の分化や死(アポトーシス)を誘導しますが、抗腫瘍効果の主なメカニズムは、核内のビタミンD受容体に結合して遺伝子発現に作用することです。
すなわち、活性型のビタミンDは核内のビタミンD受容体(VDR)に結合し、9-シス-レチノイン酸が結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成して標的遺伝子のビタミンD応答配列に結合して遺伝子発現を亢進します。
ビタミンDの標的遺伝子には、細胞周期を停止させるタンパク質や分化やアポトーシスを誘導する遺伝子が含まれています。活性型ビタミンD3は1000種類以上の遺伝子発現の調節にかかわっていると報告されています。

図:皮膚への紫外線(HV-B)照射でプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)から生成されるビタミンD3(Cholecalciferol)ならびに食事やサプリメントで摂取されるビタミンD3は、肝臓で25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase)によって25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)に変換され、さらに腎臓で、1α-ヒドロキシラーゼ(1-alpha hydroxylase)によって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる。活性型ビタミンD3は、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化と、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節のメカニズムによって、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、分化、アポトーシスなど様々な生理機能の調節に関与する。

【ビタミンD3はmTORC1の活性を阻害する】
ビタミンDは、血清カルシウム濃度の恒常性や骨代謝における作用が主な働きだと考えられていますが、最近の研究によって、細胞の増殖や分化や細胞死(アポトーシス)や免疫機能など多彩な生理活性の制御に重要な役割を担っていることが明らかになっています。
ビタミンDがmTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1:哺乳類ラパマイシン標的蛋白質複合体1)の活性を抑制する作用も報告されています。
これは、活性型ビタミンD3(1,25(OH)2ビタミンD3)がビタミンD受容体を介するメカニズムでDDIT4(DNA-damage-inducible transcript 4)という遺伝子の発現を亢進し、このDDIT4がTuberous Sclerosis Complex 1/2(TSC1/2)を活性化し、これがRheb(Ras homolog enriched in the brain)を阻害してmTORC1の活性を抑制するという作用機序です。(下図)
ラパマイシンはmTORC1を直接阻害するのですが、ビタミンD3はDDIT4とTSC1/2とRhebを介して間接的にmTORC1の活性を抑制する作用があるという報告です。全ての細胞に当てはまるわけではありませんが、一部のがん細胞(前立腺がん細胞など)では活性型ビタミンD3がmTORC1の抑制に関与している可能性が報告されています。

図:インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)などの増殖刺激はPI3K/Akt/mTORC1シグナル伝達系を活性化して、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進し、抗がん剤抵抗性を亢進する。ラパマイシンはmTORC1の活性を直接阻害する。ビタミンDはビタミンD受容体を介する遺伝子転写活性によってDDIT4(DNA-damage-inducible transcript 4)タンパク質の発現を亢進し、このDDIT4はTuberous Sclerosis Complex 1/2(TSC1/2)を活性化し、これがRheb(Ras homolog enriched in the brain)を阻害してmTORC1の活性を抑制するというメカニズムが報告されている。

【ビタミンD3はオートファジーを促進する】
オートファジーは変性したタンパク質や障害をうけた細胞内小器官を除去して細胞における恒常性を維持する役割を担っていいます。
細胞内大規模分解システムであるオートファジーは、細胞成分のリサイクルや飢餓時の栄養源確保に加え、炎症反応、心不全、糖尿病、アルツハイマー病の防止や寿命延長、病原菌の排除、免疫システムの維持など多岐に亘る役割を持つことが最近明らかになってきています。
カロリー制限するとオートファジーが亢進します。mTORC1はオートファジーを抑制するので、mTORC1の阻害剤のラパマイシンはオートファジーを亢進します
オートファジーの亢進は抗老化作用や寿命延長や抗がん作用の重要なメカニズムと考えられています。
前述のように、ビタミンD3は間接的にmTORC1の活性を抑制します。
さらに、ビタミンD3はbeclin 1というたんぱく質の発現を亢進します。Beclin 1はPI3キナーゼ(PI3K)と相互作用してmTORの働きを阻害し、オートファジーを亢進します。
Beclin 1 は元来 bcl-2 結合タンパク質として同定された因子で,PI3K 複合体を形成してオートファジーに関与しています。また,抗がん作用や抗ウイルス作用を有することも報告されています。
オートファジーは多くのたんぱく質が関与する複雑なプロセスです。オートファジーの様々な段階で、ビタミンD3のシグナル伝達系が関与していることが明らかになっています。炎症や感染症やがん細胞の増殖などに対するビタミンD3の効果にオートファジーの制御が重要な関与をしているようです。
オートファジーの制御におけるビタミンD3の作用として以下のようなメカニズムが報告されています。

1) mTORたんぱく質の発現を抑制してオートファジーを誘導する
2) 細胞内のフリーのカルシウム濃度を高めてmTOR活性を阻害してオートファジーを誘導する
3) Beclin 1に対するBcl-2の阻害作用を抑制することによってオートファジーを誘導する。小胞体のBcl-2を減少させ、カルシウム濃度を高めてオートファジーを誘導する
4) Beclin 1の発現を亢進してオートファジーを誘導する
5) PI3KC3の発現を亢進してオートファジーを誘導する
6) Cathelicidin を増やしてBeclin 1の発現量を増やし、オートファゴゾームとリソソームの融合を促進して、オートファジーを亢進する
7) サイクリン依存性キナーゼ阻害剤のp19INK4Dの発現を抑制してオートファジーを誘導する

(参考:Vitamin D, Vitamin D Receptor, and Macroautophagy in Inflammation and Infection. Discov Med. 2011 Apr; 11(59): 325–335.)

オートファジーのメカニズム自体が複雑でまだ不明な点も多いので、オートファジーに対するビタミンD3の作用もまだ不明な点が多く残っています。しかし、mTORC1活性を抑制し、オートファジーを亢進して抗老化や寿命延長を期待する目的ではビタミンD3のサプリメントは有用かもしれません

【mTORC1阻害剤とビタミンDの相乗効果】
mTORC1阻害剤とビタミンD3は抗がん作用において相乗効果を示します。次のような論文があります。

Inhibition of mTORC1 by RAD001 (everolimus) potentiates the effects of 1,25-dihydroxyvitamin D(3) to induce growth arrest and differentiation of AML cells in vitro and in vivo.(RDA001(エベロリムス)によるmTORC1の阻害は、培養細胞と動物実験の実験系において急性骨髄性白血病の増殖抑制と細胞分化を誘導する1,25ジヒドロキシ・ビタミンD3の効果を増強する)Exp Hematol. 38(8):666-76. 2010年

【要旨の抜粋】
活性型ビタミンDである1,25-ジヒドロキシ・ビタミンD3(1,25(OH)2D3)による分化誘導療法は急性骨髄性白血病の治療に有用である。この研究では、急性骨髄性白血病における1,25(OH)2D3とラパマイシン誘導体のRAD001(エベロリムス)の相互作用を検討した。
実験の結果、急性白血病細胞の増殖停止と細胞分化誘導を引き起こす1,25(OH)2D3の効果は、ラパマイシン誘導体のRAD001によって増強され、その増強作用はmTORC1の基質であるS6Kタンパク質と4E-BP1タンパク質の発現抑制と関連していた。
さらに、1,25(OH)2D3によって誘導されるp21(waf1)遺伝子の転写活性はRAD001によって顕著に増強された。この作用は、U937細胞において、ヒストンH3のアセチル化のレベルとp21(waf1)遺伝子のプロモーター領域に結合したビタミンD受容体の量の増加と関連していた。
さらに、ヌードマウスにU937細胞を移植した実験モデルで、1,25(OH)2D3は移植腫瘍の増殖を抑制したが、この増殖抑制作用をRAD001(1日おきに3mg/kgを投与)は顕著に増強した。
以上の実験結果から、活性型ビタミンD3の1,25(OH)2D3とmTORC1阻害剤の同時投与は急性骨髄性白血病の治療法として有効である可能性がある。

p21(waf1)は細胞周期の進行を阻害するタンパク質で、このタンパク質が誘導されることは細胞増殖の阻害を意味します。p21(waf1)はp21Cip1とも呼ばれます。
活性型ビタミンD3の1,25(OH)2D3がビタミンD受容体と結合すると、9-cisレチノイン酸が結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマー(ヘテロ二量体)を形成し、ビタミンD標的遺伝子のプロモーター上流に存在する特異的エンハンサー配列であるビタミンD応答配列(vitamin D response element: VDRE)に結合し、ビタミンDの標的遺伝子の発現を誘導します。(レチノイドX受容体とビタミンD受容体の関係については370話371話を参照)
p21Cip1 遺伝子のプロモーター上流にビタミンD応答配列が存在し、ビタミンD受容体による直接的な遺伝子制御でp21Cip1遺伝子が発現誘導されることが明らかになっています。ビタミンD応答配列はp27Kip1にもあります。p21waf1(あるいはp21Cip1)とp27Kip1の2つのタンパク質は細胞周期のG0/G1停止を引き起こすサイクリン依存性キナーゼ阻害因子です。
つまり、ビタミンD3は受容体を介した遺伝子転写活性を制御することによって、細胞の増殖や分化や細胞死(アポトーシス)を調節しています。このビタミンDの抗腫瘍効果をmTORC1阻害剤が増強するという研究結果です。
ビタミンD3とラパマイシン(あるいはラパマイシン誘導体)を併用すると抗腫瘍効果を高めることができるという結論です。
ビタミンD3およびその活性型の1,25(OH)2ビタミンD3はビタミンD受容体を介するメカニズムの他に、mTORC1の活性やヘッジホッグ・シグナル伝達系を阻害することによってがん細胞の増殖を阻害します。
Wnt/βカテニン・シグナル伝達系を阻害する作用も報告されています。(371話参照)
mTORC1は細胞周期の進行を促進する作用やタンパク質の合成を亢進する作用があり、がん細胞の増殖を促進する方向で働きます。したがって、mTORC1の直接的阻害剤のラパマイシンおよびラパマイシン誘導体はビタミンD3の抗腫瘍効果を増強することができます。これが、ビタミンD3とラパマイシンの併用によるがん治療の根拠になります。

図:活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2ビタミンD3:Calcitriol)と結合したビタミンD受容体(VDR)は9-シス-レチノイン酸に結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成してビタミンD標的遺伝子の上流にあるビタミンD応答配列に結合し、標的遺伝子の転写が亢進する。ビタミンD標的遺伝子の発現はがん細胞の増殖を抑制し、細胞分化を誘導し、細胞死(アポトーシス)を亢進する。一方、ラパマイシンはmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)の活性を阻害することによって、がん細胞の増殖を抑制し、抗がん剤抵抗性を抑制する。したがって、ビタミンD3とラパマイシン(あるいはラパマイシン誘導体)の併用は相乗的な抗腫瘍効果が期待できる。

【がん幹細胞ではmTORとヘッジホッグ経路が活性化している】
がん幹細胞はがん組織中に少数(数%程度)存在しています。そして、がん幹細胞は正常な組織幹細胞と同様、特別な微小環境中に存在し、周りの細胞から分泌される液性因子などによって、多分化能の維持や分裂増殖が制御されていると考えられています。
がん幹細胞の自己複製や増殖を制御しているシグナル伝達系としてヘッジホッグ(Hedgehog)、mTOR、Notch、Wnt/β-Cateninなどがあります。
膵臓がんのがん幹細胞ではmTORの活性とヘッジホッグシグナル伝達系の活性が非常に亢進しており、これらの経路を阻害すると抗がん剤治療の効果が高まるという報告があります。

Combined targeted treatment to eliminate tumorigenic cancer stem cells in human pancreatic cancer.(ヒト膵臓がんの腫瘍形成性がん幹細胞を消滅させる標的治療の組合せ)Gastroenterology. 137(3):1102-13. 2009年

膵臓がんは、腫瘍形成性のがん幹細胞の存在により、抗がん剤治療に対して非常に強い抵抗性を示します。ソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系と哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)は、いずれもがん幹細胞の自己複製に必須であるため、膵臓がん治療の新たなターゲットとして注目されています。
この論文では、膵臓がんの培養細胞を使った実験系と動物移植腫瘍を使った実験系を用いて、腫瘍形成性がん幹細胞に対するソニック・ヘッジホッグ阻害剤(cyclopamine/CUR199691)とmTOR阻害剤(ラパマイシン)の効果を検討しています。
その結果、ソニック・ヘッジホッグ阻害剤のシクロパミン(cyclopamine)もラパマイシン(rapamycin)もそれぞれ単独ではがん幹細胞の数を減らすことはできませんでした。また、それぞれを単独で抗がん剤治療と併用した場合もがん幹細胞の数を減らすことはできませんでした。
しかし、ソニック・ヘッジホッグ阻害とmTOR阻害と抗がん剤の3つを同時に併用した場合にのみ、がん幹細胞の数が検出できないレベルまで減少することが、培養細胞を使ったin vitroの実験と移植腫瘍を用いた動物実験(in vivo)の両方で認められました。これら3種類を組み合わせた治療によって、ヒト由来の膵臓がん細胞を移植されたマウスは生存期間が顕著に延長しました。

論文の結論で「ソニック・ヘッジホッグとmTORの両方のシグナル伝達系の阻害を通常の抗がん剤治療と併用することによって膵臓がんのがん幹細胞を消滅させることが可能になる」と言っています。
膵臓がんに対するジェムザールの効果は極めて低いのですが、mTOR阻害とソニック・ヘッジホッグ阻害の2つを併用すると奏功率を高めることができるかもしれません。
つまり、mTOR阻害剤のラパマイシンあるいはラパマイシン誘導体とソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系阻害剤のビタミンD3や半枝連・白花蛇舌草・ベツリン酸などの併用は膵臓がんの抗がん剤治療に併用する価値はあるかもしれません。(363話522話参照)

 

図:ビタミンD3(コレカルシフェロール)は肝臓と腎臓で活性型の1,25ジヒドロキシビタミンD3(1,25(OH)2D)に変換され、ビタミンD受容体に結合してビタミンD標的遺伝子の発現を亢進して、がん細胞に対して増殖抑制・分化誘導・アポトーシス誘導などの抗腫瘍作用を示す。ソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系とPI3K/Akt/mTORC1シグナル伝達系はがん細胞の増殖や浸潤を促進し、抗がん剤抵抗性を引き起こすなどの腫瘍促進作用を示す。ビタミンD3はSmoothened(SMO)を阻害することによってソニック・ヘッジホッグシグナル伝達系を阻害し、ラパマイシンはmTORC1を直接阻害する。したがって、ビタミンD3(コレカルシフェロール)とラパマイシンはそれぞれの抗腫瘍効果を相乗的に増強する。

さらに、ビタミンD3自体にソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系を阻害する作用が明らかになっています。そのメカニズムはSmoothened(SMO)の働きを阻害するためと言われています。
ビタミンD3の活性型であるカルシトリオール(1,25(OH)2D3)もSMOに作用してソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系を阻害する作用が報告されています。
つまり、紫外線で皮膚で作成されたビタミンD3や食品やサプリメントで摂取されたビタミンD3は、それ自体でソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系を阻害して抗腫瘍作用を示し、さらにビタミンD3が活性化された1,25(OH)2ビタミンD3(カルシトリオール)はビタミンD3受容体を介した転写活性によってがん細胞の増殖抑制や分化誘導を引き起こします。(395話参照)

 

図:ビタミンD3(コレカルシフェロール)は肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンD3となり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25(OH)2ビタミンD3となって活性型となる。1,25(OH)2ビタミンD3はビタミンD受容体(VDR)と結合し、9-シス-レチノイン酸(9-シス-RA)と結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマーを形成して遺伝子のプロモーター領域のビタミンD応答配列に結合してビタミンDの標的の遺伝子の転写を促進する。ビタミンDの標的遺伝子の発現を誘導することによって、ビタミンDはカルシウム代謝の制御や細胞増殖抑制、分化誘導、アポトーシス誘導などの生理活性を示す。一方、ビタミンD3と1,25(OH)2ビタミンD3はSmoothened(SMO)の活性を阻害する作用によってソニック・ヘッジホッグ・シグナル伝達系を阻害する。(レチノイドX受容体とビタミンD受容体の関係については370話371話を参照) 

【メトホルミンとビタミンD3はAMP活性化プロテインキナーゼを活性化する】

AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞のエネルギー代謝を調節する因子として重要な役割を担っています。
AMPKは低グルコースや低酸素や虚血など細胞のATP供給が枯渇させるようなストレスに応答して活性化されます。AMPKはmTORC1の活性を抑制することによってがん細胞の増殖を抑制する作用があります。
LKB1はセリン・スレオニンキナーゼで、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)をリン酸化して活性化します。

つまり、LKB1はAMPKを活性化してmTORC1活性を阻害してがん細胞の増殖を抑制する作用があります。

AMPKは触媒作用を持つαサブユニットと、調節作用を持つβサブユットとγサブユニットから構成されるヘテロ三量体として存在します。

γサブユニットにはATPが結合していますが、ATPが枯渇してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わります。その結果、アロステリック効果(酵素の立体構造が変化すること)によってこの複合体は中等度(2~10倍程度)に活性化され、上流に位置する主要なAMPKキナーゼであるLKB1に対して親和性が高くなり、LKB1によってαサブユニットのスレオニン-172(Thr-172)がリン酸化されると、酵素活性は最大に活性化されます。
リン酸化されたAMPKはmTORC1を抑制し、タンパク質や脂肪酸の合成を抑制して、がん細胞の増殖を抑制します。
つまり、LKB1はAMPKを活性化する作用によってがん細胞の増殖を抑制する作用があるがん抑制遺伝子になります。
AMP/ATP比を上昇させてAMPKを活性化するメトホルミンががん予防効果や抗がん作用を示す主要なメカニズムがAMPKの活性化です。
しかし、肺がんや子宮内膜がんなど多くのがんでLKB1遺伝子の変異が認められ、機能が失活しています。つまり、LKB1遺伝子に変異がある場合は、メトホルミンの抗腫瘍効果は期待できないことになります。

そこで、LKB1以外のルートでのAMPKの活性化ががん治療において重要になってきます。LKB1以外では、カルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)もAMPKの活性化にとって重要であることが示されています。ビタミンD3は細胞内のフリーのカルシウム濃度を上昇させてCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ・キナーゼ(CaMKKβ)を活性化します。
すなわち、AMPKを活性化するシグナル伝達の上流に位置する2つのキナーゼ(リン酸化酵素)、すなわちLKB1とCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ・キナーゼ(CaMKKβ)によって制御されています。したがって、メトホルミンとビタミンD3の併用はAMPKの活性を相乗的に高めることが示唆されます

図:①AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はα, β, γの3つのサブユニットからなるヘテロ三量体として存在する。②ATPが減少してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置換する。③これによってAMPKの構造変化が起こると、LKB1というリン酸化酵素の親和性が高まり、αサブユニットのスレオニン172がリン酸化されると、さらにAMPKの活性が高まる。④活性化したAMPKはmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)を阻害する。⑤メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖を阻害してATP産生を低下させる機序とLKB1を活性化する両方の機序でAMPKを活性化する。⑥運動やカロリー制限はATP産生を低下させAMP/ATPを上昇させることによってAMPKを活性化する。⑦ビタミンD3は細胞内のフリーのカルシウムを増加させ、カルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)を活性化させてAMPK活性を亢進する。ビタミンD3を使うとLKB1遺伝子に変異のあるがん細胞にもAMPKを効率的に活性化して抗がん作用を増強できる。

ビタミンD3とメトホルミンの相乗効果に関しては多くの研究があります。
以下のような論文があります。

Synergistic antitumor activity of vitamin D3 combined with metformin in human breast carcinoma MDA-MB-231 cells involves m-TOR related signaling pathways. (ヒト乳がん細胞MDA-MB-231細胞におけるビタミンD3とメトホルミンの併用による相乗的な抗腫瘍効果はmTOR関連のシグナル伝達系が関与する)Pharmazie. 2015 Feb;70(2):117-22.

この研究では、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231を用いて、ビタミンD3とメトホルミンの併用はアポトーシス誘導において相乗効果があることを報告しています。
その抗腫瘍効果の発現にはmTOR関連のシグナル伝達系が関与することを報告しています。
つまり、ビタミンD3とメトホルミンはmTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質)の活性を阻害することによってアポトーシスを誘導することを示しています。 
前立腺がんや大腸がんでも同様の効果が報告されています。

Vitamin D3 potentiates the growth inhibitory effects of metformin in DU145 human prostate cancer cells mediated by AMPK/mTOR signalling pathway.(ビタミンD3はAMPK/mTORシグナル伝達系を介して、DU145ヒト前立腺がん細胞に対するメトホルミンの増殖阻害作用を増強する)Clin Exp Pharmacol Physiol. 2015 Jun;42(6):711-7.

ヒト前立腺がん細胞を含めた多くの種類のがん細胞株に対して、メトホルミンとビタミンD3はともに強力な増殖抑制作用を示します。この論文では、DU145ヒト前立腺がん細胞の増殖を、メトホルミンとビタミンD3を単独で投与した場合に比べて、この2つの薬の併用はより強力な増殖抑制効果を示すことを示しています。
培養したDU145細胞において、ビタミンD3とメトホルミンは細胞増殖阻害とアポトーシス誘導において相乗効果を示しました。
この抗腫瘍効果のメカニズムとして細胞周期でのG1/S期での停止、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化とそれによるmTORシグナル伝達系の阻害、がん遺伝子のc-Mycの発現抑制、アポトーシス抵抗性のBcl-2たんぱく質の発現低下の関与が示唆されました。
この2つの薬の併用がホルモン非依存性の前立腺がんの治療に使える可能性を示唆しています。
前述のようにメトホルミンはAMPKを活性化してAkt/mTORシグナル伝達系を抑制し、抗腫瘍効果を発揮します。
ビタミンD3はメトホルミンのAkt/mTORシグナル伝達系の抑制効果を増強して、アポトーシス誘導を亢進するという作用機序です。

Combined use of vitamin D3 and metformin exhibits synergistic chemopreventive effects on colorectal neoplasia in rats and mice. (ビタミンD3とメトホルミンの併用はラットとマウスの結腸直腸がんの発生に対して相乗的な化学予防効果を示す)Cancer Prev Res (Phila). 2015 Feb;8(2):139-48.

この研究はラットとマウスを用いた大腸発がん実験での検討です。
メトホルミンは化学発がんモデルで大腸がんの発生を抑制する作用があります。ビタミンD3はメトホルミンの発がん抑制作用を増強するという結果です。 
そのメカニズムとして、mTOR活性の抑制を認めています。 
さらに、ビタミンD3にはビタミンD受容体/β-カテニンのシグナル伝達系に作用してβ-カテニンの働きを抑制することによってc-MycやサイクリンD1の発現を抑制する作用も指摘しています。ビタミンD3とメトホルミンの併用は、相乗効果によって発がん抑制や抗腫瘍効果を高めることができるという結論です。

【ビタミンD3+イソトレチノイン+ラパマイシン+メトホルミンの相乗効果】
健常人では1日1000~2000 IUのビタミンD3の摂取は病気を予防し寿命を延ばす効果が期待できると言えます。
がん治療中のがん患者さんは1日2,000~4,000 IUのビタミンD3のサプリメントを摂取するメリットがあるというエビデンスは十分にあります。
進行がんの患者さんは、1日4,000~10,000 IUのビタミンDとレチノイド(イソトレチノイン)とラパマイシン(1日5mg程度)を併用すると、ビタミンD受容体を介した転写活性化のメカニズムと、ヘッジホッグ・シグナル伝達系とWnt/βカテニンシグナル伝達系とmTORC1活性の阻害を介したメカニズムで、抗腫瘍効果が期待できる可能性があります。さらにメトホルミン(1日500mg〜1500mg)の併用も有効です。
この組合せは抗がん剤治療との併用も可能です。抗がん剤治療の奏功率を高めます。
米国では1カプセルが10,000 IU以上のビタミンD3のサプリメントが安価に販売されています(1ヶ月分で数千円)。イソトレチノインはニキビの治療薬として有名ですが、ニキビ以外の多くの疾患に適応外使用されており、がん治療でも使用されています。これも比較的安価で1ヶ月分が1~2万円程度です。
ラパマイシンもジェネリックなどを使うと1ヶ月で2万円程度です。
メトホルミンも極めて安価です。
ビタミンD3+イソトレチノイン+ラパマイシン+メトホルミンの組合せは進行がんの代替医療として効果が期待でき、しかも比較的安価(1ヶ月分が3万円前後)です。
これらは抗老化作用や寿命延長作用も知られているので、寿命を延ばすがん治療になるかもしれません。 

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