166)代替医療と「がん難民」の接点:(その1)

図:がん患者は様々な原因で「がん難民」になることがある

166)代替医療と「がん難民」の接点:(その1)がん難民とは


【がん難民とは】
難民(なんみん)」とは、宗教・民族の対立や戦争・天災などの理由で住む場所を追われた人々を指す言葉です。転じて、何かから溢れてしまった人々を現す用語にも使われます(就職難民、ネットカフェ難民、医療難民など)。
医療難民」というのは、医師不足や病院のベット数不足によって、病人が入院や十分な治療を受けられない状況を現す言葉です。医療難民の中には、療養病床数の削減によって介護が必要な病人が病院を追われる「介護難民」や、産科不足によって出産を控えた妊婦が病院に入院できない「お産難民(出産難民)」、がん患者が適切な医療を求めて医療機関を転々とする「がん難民」などがあり、医療における問題点を刺激的あるいは扇情的に表現する用語としてマスコミなどで盛んに使用されています。
介護難民やお産難民は、医療制度の改善や、医師や病院の不足を解消する行政的な対応によってかなり改善できる可能性があります。しかし、がん難民の場合は、がん専門医やがん専門病院を増やすだけでは、根本的な解決策にはならない点が問題です。治らないがん患者が難民化するわけですから、ほとんど全てのがん患者が治癒するような状況になるまでは、がん難民の問題は存在しつづけるはずです。
昔は「不治の病」と言われたがんも、最近はがん患者さんの半分くらいは治癒するようになりました。しかし、がんと診断された人の半分くらいはがんによって数年以内に亡くなっているのも事実です。
進行がんと診断されても、ほとんどのがん患者が治癒する、あるいは治癒しなくてもがんと共存しながら天命を全うできるような画期的な治療法が確立すれば、誰もがんという病気を恐れることは無くなり、最新の治療法や納得できる治療法を求めて彷徨う必要もなく、「がん難民」という言葉自体が消滅するはずです。
しかし、がんと診断された人の半分くらいが数年で亡くなる状況はまだ当分続きそうです。高齢化社会の進展によって、がん患者の数は今後も増加の一途をたどるのは明らかであるため、「がん難民」の問題は今後もますますクローズアップされるはずです。

【どのようにしてがん難民になるのか】
がん難民の概念としては、「
最新の標準治療が受けられない」、「標準治療が効かなくなって医師から匙を投げられた」、「担当医との信頼関係が崩れた」、「治療方針に迷っている」などの理由によって、自分が納得できる治療をしてくれる医師や医療機関を求めて彷徨(さまよ)っているがん患者さんと言えます。
彷徨(さまよ)う」の意味を大辞林で引くと、1)当てもなく、あるいは目指す所が見つからずにあちこちを歩き回る。2)一定の場所にとどまらず、行きつ戻りつする。3)心や考えが決まらず迷う。とあります。
がん難民が置かれた状況や心理状態も、この「彷徨う」の意味のどれかに当てはまります。すなわち、
1)「もう治療法が無い」と言われた場合や、抗がん剤の副作用に苦しんで標準治療を断念すると、代替医療や実験的・先端的医療など代わりの治療法を当ても無く探し求めようとします。
2)治療がうまくいかない場合や主治医との信頼関係が崩れた場合、不満を持ちながら医師を代え病院を転々とすることになります。
3)主治医から治療方針を提示されても、手術や抗がん剤に対する拒否感や恐怖感などから標準治療を受ける決心ができず、治療法に悩んだり迷ったりします。
がん難民という言葉は、一昔前までは、がん治療の地域格差によってがんの標準治療を受けられない人達を意味していました。地方ではがんの専門医がいないため、標準的な抗がん剤治療が受けられなかったり、古い術式で手術が行われたり、放射線治療の設備が無いなどの理由で、最新の標準治療が受けられない状況がありました。そのようながん患者さんが、最新の標準治療を受けるために自分で医療機関を探し求めていました。
また、欧米で認可されている抗がん剤が日本ではまだ未認可の場合、個人輸入で自費で治療を行っている患者さんも多くいました。
そこで厚生労働省は「
がん医療水準均てん化推進に関する検討会」や「未承認薬使用問題検討会議」を設置し、これらの問題を解決すべく検討しています。その結果、現在では、治療ガイドラインの作成や、がん拠点病院の設立などによって、多少の地域格差は存在するとはいえ、最新の標準治療は日本全国にほぼ均等に広がっています。新薬の認可も比較的早く承認されるような努力がなされています。
そういう意味では、
今の日本では、標準治療が受けられないために「がん難民」になっている患者さんはほとんどいなくなりました
現在の「がん難民」の発生は、がんの標準治療が受けられないために発生するのではなく、標準治療が効かなくなって「もう治療法がない」と言われた場合と、標準治療の副作用で苦しんで患者さんが心身ともに疲れ果てたときが、最も多いようです。
がん難民になる原因やきっかけから細かく分類すると、以下のような幾つかのパターンに分けられます。

1)
「もう治療法が無い」と言われ医師から匙を投げられた。
医療技術や新薬の開発によってがん治療は年々進歩しているのは確かです。かつては不治の病といわれたがんも、最近はがん患者の半分くらいは治癒しています。しかし、わが国では年間30万人以上ががんによって亡くなっています。がんと診断された場合、その半分くらいの患者さんは、数年以内に主治医から「もう治療法が無い」と言われているのが実情です。
治療法が無いといわれた場合、標準治療では残された治療法は緩和医療のみです。つまり苦痛を軽減しながら、安らかに死を迎えることを目的としたホスピスに行くことを勧められます。死の宣告と同じであり、患者さんやそのご家族からいっきに希望を奪いとってしまいます。
しかし多く患者さんは、何の治療も行わずただ死を待つだけということに不満を持ち、わらをもすがる思いで書籍やインターネットなどで情報を集め、生きるために必死に治療法を探し求めています。どんな進行がんでも手術ができる名医がいるかもしれないと探し求める患者さんもいます。未認可医薬品を探し求めて個人輸入して使用する患者さんもいます。
医師から匙を投げられたがん患者さんは、希望の持てる治療や、少しでも延命できる可能性のある治療を求めてがん難民になります。
このようながん難民は、現在のがん治療において、標準治療と末期医療の間にぽっかりと隙間ができていることが原因になっています。もう何をやっても効果が無いと医者が思っても、可能性に賭けたいと多くのがん患者さんが望んでいます。
2)
抗がん剤治療の副作用に耐えられなくなった。
抗がん剤はがん細胞だけでなく、骨髄や免疫組織やその他多くの臓器・組織にダメージを与えます。その副作用として、食欲や体力や抵抗力の低下、吐き気や倦怠感や脱毛など様々な不快な症状を引き起こします。
はじめのうちは副作用に耐えることができても、次第にダメージが蓄積してくます。抗がん剤治療によってがんが完全に消滅すれば、治療を終了することができますが、再発がんや転移がんの場合は、抗がん剤治療でがんが消滅することは少ないのが実情です。
抗がん剤が効かなくなれば、抗がん剤の種類を変えて治療が行われます。効く抗がん剤が無くなれば、「もう治療法が無い」ということで治療は中止になりますが、ある程度効果が出ていれば、延々と抗がん剤治療が続くことになります。最近は有効な抗がん剤の種類も増えたので、抗がん剤治療をくり返すことによって何年も延命している患者も多く経験しています。しかし、このような治療が数年間も続くと、抗がん剤治療に心身ともに疲れ、次第に「これ以上抗がん剤治療を続けられる自信が無い」という弱気な気持ちになる場合が多いようです。
初めから副作用が強く出る場合は、数回の治療だけで「もう抗がん剤治療は受けたくない」と完全に拒否する場合もあります。
抗がん剤治療を拒否すれば、他に代わりうる治療法を探さなければなりません。抗がん剤の副作用で苦しんだので、苦痛の無い体に優しい治療法を求めようとします。免疫療法や漢方治療や民間療法やサプリメントを使った治療など、多くの代替医療がその受け皿になっており、そのような治療法の情報を集め、効果のありそうな治療法を探し求めてがん難民となっていきます。
3)
治療法の選択を迷っている。
がんの標準治療といっても、どの医療機関でも完全に同じ訳ではありません。がん治療自体がまだ発展途上であり、完璧にはまだほど遠いと言わざるを得ません。
医療機関や医師の方針の違いによって、同じ腫瘍に対して手術と放射線治療のどちらにするかで意見が分かれることもあり、手術の切除範囲や術後の補助療法に関して異なる場合もあります。医師によって手術の技術も異なり、術後管理も病院によって差があるため、医療機関によって生存率や再発率に差があります。
複数の抗がん剤治療を提示され、どれを選ぶか自分で判断するように説明されることもあります。「Aの治療法は副作用は強いが、奏功率(腫瘍が縮小する率)は30%、Bの治療法は副作用は軽いが、奏功率は15%。腫瘍が縮小しても一時的であり、いずれ再増殖する。どちらが生存期間が長いかデータはまだ無い」という説明を受けても、どちらを選ぶべきか医学の素人の患者さんに判るはずがありません。実際は、医師の方も正解を持ってないので、副作用や効果を説明して、後は、生活への影響や人生観を考慮して自分で決めてくれと患者に丸投げするしか無いのが実情なのです。
主治医から抗がん剤治療が最善だと説明されても、「抗がん剤で殺される」とか「抗がん剤は百害あって一利なし」と書いた本が多数出版されており、それらの本を読んで抗がん剤治療を頑なに拒否し、抗がん剤以外の治療法を探す人も多いのです。手術をしたくないという人も多く、手術以外で治す治療法を探し求め、様々な治療を試行錯誤している人も多くいます。
がん治療に関する異なる意見や相反する情報、健康食品の誇大広告など、玉石混淆の情報が溢れている状況では、医学の知識の無いがん患者さんや家族がそれらの情報を正しく活用することは至難であり、治療法を決められずに何ヶ月も迷う場合もあります。
自分の納得できる情報を選んだつもりでも、それが根拠の乏しいいかさま的な治療法であることもあります。がん患者さんの弱みにつけ込んで巧みに宣伝したがんビジネスの情報が溢れています。がん患者が利用している健康食品やサプリメントでは、誇大広告を行っている商品が最も売れている状況です。
このように、いろんな理由によって治療法の選択に迷い悩んで、彷徨っているがん患者は極めて多いのです。
4)
主治医に対する不満や信頼関係の崩れ
いろんな理由で、患者と主治医の間の信頼関係が崩れることがあります。医師側の配慮の欠けた言葉使いが患者の心を傷つける場合もあり、検査結果や治療方針の説明が不十分であることに患者が不満に思う場合もあります。逆に、患者が主治医に相談せずに他の治療を受けたり、患者側の勝手な要望が多すぎると、医者側が不快に思ったり煩わしくなることもあります。お互いの信頼関係が悪化すると、患者は自分の納得する医師や病院を求めてがん難民となります。

末期がんの代替医療や、標準治療の副作用を軽減する補完医療という観点から、がん難民の問題の解決には、漢方治療や代替医療の活用がもって議論されても良いように思います。しかし現実は、がん難民の解決に漢方治療や代替医療の有用性を認めている人は極めて少ないようです。特に西洋医学専門の医者(がん専門医)はむしろ否定していることが多いようです。
しかし、がんの漢方治療や代替医療を10年以上実践している経験からは、
がん難民の問題の解決には漢方治療や代替医療の利用は有用だと思います。
(文責:福田一典)


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