349)オメガ3不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸の併用のメリット

図。ココナッツオイルやMCTオイル(100%中鎖脂肪酸)の中鎖脂肪酸は糖質制限の条件下でケトン体(βヒドロキシ酪酸やアセト酢酸)を多く産生する。ω3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)はレゾルビンやプロテクチンなどの抗炎症性の脂質メディエーターを産生する。ケトン体やDHA/EPA由来の抗炎症性メディエーターは抗炎症作用や抗がん作用を有する。さらに、ω3系多価不飽和脂肪酸自体に抗酸化作用があり、アラキドン酸と競合することによって抗炎症作用や抗がん作用を発揮する。がんのケトン食療法において、ω3系多価不飽和脂肪酸(αリノレン酸、DHA、EPA)と中鎖脂肪酸を多く摂取するメリットは大きい。

349)オメガ3不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸の併用のメリット

【摂取した脂肪の種類によって体の機能が変わる】
私たちは食物から摂取した栄養素(糖質・脂肪・蛋白質・ビタミン・ミネラルなど)から、細胞や組織を作る材料や体を動かすエネルギーを産生しています。
食事中の糖質単糖(ブドウ糖や果糖など)に分解されて吸収され、細胞内で分解されてエネルギー源になるか、グリコーゲンに合成されて貯蔵されます。
蛋白質は20種類のアミノ酸に一旦分解されて吸収され、細胞内で新たに蛋白質に合成されます。
したがって、糖質と蛋白質に関しては、食品の種類による生体機能に対する影響に差は基本的にありません。
一方、脂肪はその種類によって生体機能に対する影響が異なります
脂肪は代謝されてエネルギー源となり、また分解されて生成した脂肪酸は細胞膜などに取り込まれて細胞を構成します。
細胞の構成成分として使われる場合、その脂肪酸自体は変化せず、それぞれの構造や性質を保ったまま使われます。つまり、細胞膜をつくるとき脂肪酸の違いを区別せず、手当たり次第にあるものを使用するのです。
その結果、食事中の脂肪酸の種類によって細胞の性質も変わってきます。さらに、その細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類も違ってきて、炎症やアレルギー反応や発がんに影響することが明らかになっています。
例えば、リノール酸のようなω6系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、血栓ができやすくなり、アレルギー反応を増悪させ、がんの発生頻度を高めます。ω6系不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が早く転移をしやすくなります。
一方、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。 
DHAやEPAを多く摂取するとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなることも報告されています。その理由は、食事から摂取されたω3系不飽和脂肪酸ががん細胞の膜の脂質組成を変えることによって、生成される化学伝達物質などの生理活性物質の種類が変わり、細胞増殖のシグナル伝達系にも影響して増殖を抑えるからです。

【脂肪摂取の目的はエネルギー源と必須脂肪酸の補給】
三大栄養素(糖質、脂肪、蛋白質)がヒトにおけるエネルギー源ですが、糖質と蛋白質が生体内でそれぞれ1g当たり4kcalのエネルギーを発生するのに対して、脂肪は1g当たり9kcalであり、糖質や蛋白質の2倍以上のエネルギーを発生します。
さらに糖質と異なり、脂肪はいくら摂取しても血糖を上昇させないため、インスリン分泌を引き起こさないメリットがあります。インスリンが分泌されるとがん細胞の増殖が刺激されますが、脂肪をエネルギー源とした場合は、インスリンによるがん細胞の増殖促進作用を避けることができます。
必須脂肪酸とはリノ−ル酸、α−リノレン酸、アラキドン酸のことをいい、体内で合成することができず、食物から供給されなければならない脂肪酸のことです。アラキドン酸はリノール酸から生成されますが十分な量の生成ができないため,同様に必須脂肪酸とされています。
魚油に含まれ、高脂血症や動脈硬化予防に効果が明らかとされているエイコサペンタエン酸(EPA)ドコサヘキサエン酸(DHA)α-リノレン酸から生成されますが、最近では必須脂肪酸に入れることもあります。EPAとDHAは細胞膜の構成成分や、プロスタグランジンなどの生理活性物質の材料として細胞が正常な機能を果たす上で必要不可欠な脂肪酸であり、生体内で合成できても必要十分な量を合成できないために食物から摂取する必要があるのです。
脂肪を多く摂取すると動脈硬化や脂肪肝になると誤解されることが多いのですが、糖質の摂取が少ない条件であれば動脈硬化や脂肪肝の原因とはなりません。
また、動物性の飽和脂肪酸の摂取を減らし、オレイン酸の豊富なオリーブオイルやω3系不飽和脂肪酸の豊富な亜麻仁油(フラックスシードオイル)紫蘇油(エゴマ油)魚油(ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸を多く含む)を増やせば、心疾患やがんを予防する効果が得られることが明らかになっています。 
また、中鎖脂肪酸は消化管から吸収後速やかに肝臓で分解されてエネルギーを産生し、脂肪組織に沈着しにくいので、中鎖脂肪酸を増やせば高脂肪食でも健康への心配はありません。中鎖脂肪酸はココナッツオイルに多く含まれますが、中鎖脂肪酸が100%のオイルも市販されています。(中鎖脂肪酸については318話参照)

【脂肪(油脂)はグリセリンと脂肪酸が結合している】
私たちは食物から様々な種類の「あぶら」を摂取しています。一般に、常温で液体のあぶらを油(oil)、個体のあぶらを脂(fat)と表記し、両方を総称して油脂と言います。ほとんどの植物性油や魚油は常温で液体の油になります。一方、多くの陸上動物(牛脂、豚脂、人間の脂肪など)と熱帯植物(ヤシ油、パーム油、ココアバターなど)のあぶらは常温で個体の脂です。
油脂は3価のアルコールであるグリセロールグリセリンとも言う)1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしています(下図)。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になります。一般的には脂肪酸が3個ずつ結合してトリグリセリド(中性脂肪)と呼ばれます。脂肪の種類による違いは、グリセロールは全て共通するため、脂肪酸の形態で説明されます。


 

図:脂肪(油脂)は3価のアルコールであるグリセロール(グリセリン)1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしている(図の上)。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になる。 R1,R2,R3と示す脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなる。脂肪酸の鎖(R1,R2,R3)の構造の違い(飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸など)によって油脂の性状が違ってくる。脂肪の種類による違いは、グリセロールは全て共通するため、脂肪酸の形態で説明される。

脂肪酸は1個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。
脂肪酸には、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(CH=CH)が含まれます。不飽和脂肪酸中で二重結合の数が2個以上のものを多価不飽和脂肪酸と云い、5 個以上の二重結合を持つ脂肪酸を高度不飽和脂肪酸と呼びます。 
脂肪は、それを構成している脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。

【ω3 系とω6 系の不飽和脂肪酸はその働きに大きな違いがある】
リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合は、CH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸に分類します。
α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸に分類します。最近ではω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、そしてω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(下図)。

 

図:ω3系不飽和脂肪酸とω6系不飽和脂肪酸の化学構造。
構造式では連結部の炭素(C)と炭素と結合する水素(H)は省略されている。メチル基(CH3)側から数えた炭素の番号はω1(あるいはn-1)、ω2(あるいはn-2)と表示する。最初の二重結合がω3の位置にある不飽和脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と言い、ω6の位置にある不飽和脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸あるいはn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶ。

ω6 系不飽和脂肪酸はリノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの重要な生理活性物質が合成されます。
プロスタグランジンなどのアラキドン酸代謝産物は炎症や細胞のがん化を促進したり、がん細胞の増殖を速める作用があるのですが、体のいろんな生理作用に必要であるため、動物は食物(植物および肉類)からリノール酸を摂取しなければ生存できません。
ω3系不飽和脂肪酸はα-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。ω3 系不飽和脂肪酸は炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。したがって、食物中のα-リノレン酸/リノール酸の比を上げると、血栓性疾患、脳梗塞および心筋梗塞、炎症、アレルギー、発がん、がんの転移、高血圧などの発症率が低下すると考えられています。
EPAやDHAを前駆体として生成されるレゾルビン(Resolvin)プロテクチン(Protectin)という物質が、炎症の収束に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。つまり、DHAやEPAを多く摂取すると体内の炎症を抑制し、これががん予防効果の一つのメカニズムになっているようです。

【DHAとEPAは抗炎症性メディエーターの前駆体】
DHAやEPAには抗炎症作用鎮痛作用があります。実際に関節炎などの痛みを緩和し、CRPなどの炎症マーカーを低下させる作用もあります。
そのメカニズムとしては、プロスタグランジンE2などの炎症を引き起こす物質を生み出すω6系のアラキドン酸がω3系のDHAやEPAに置き換えられ、したがって炎症物質ができにくくなるから、といわれていました。すなわち、ω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜中のω3系不飽和脂肪酸が増加して、アラキドン酸濃度が低下するので、その結果アラキドン酸由来の炎症促進性物質の産生が抑制されるという機序です。
しかし、最近の研究では、ω3系不飽和脂肪酸のDHAとEPAが炎症を抑える物質を生成することによって能動的に炎症を抑制することが明らかになっています。
外傷や感染などに反応して急性炎症反応が起こりますが、異物の排除が完了すると炎症反応は速やかに消散し、組織の修復過程に移行します。炎症反応が終了することを「炎症の収束(resolution of inflammation)」と言います。
炎症の収束は、これまで起炎反応の減弱化によると考えられてきましたが、最近の研究で、受動的なものではなく、能動的な機構であることが明らかになっています。
急性炎症の特徴(症状)は白血球の組織への浸潤に伴う浮腫、発赤、発熱、痛みなどで、これらの反応にはアラキドン酸から生成されるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターが関与します。これらの物質によって好中球の浸潤や活性化、血管透過性の亢進などの炎症反応が起こります。
炎症の収束過程においては炎症性サイトカインの産生が抑制され、血管透過性が正常に戻り、好中球の遊走阻止や浸出液中のリンパ球の除去や、マクロファージによる死滅した細胞の除去などが起こります。この炎症の収束過程には、EPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸から体内で生成されるレゾルビンプロテクチンという抗炎症性メディエーターが関与します。

つまり、DHAやEPAはアラキドン酸と競合することで炎症性ケミカル・メディエーターの産生を阻害するだけでなく、抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーターを生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があるということです。
EPAやDHAの抗炎症作用やがん予防効果や心血管保護作用や脳神経系保護作用など多くの作用に、EPAやDHAから代謝されて生成される抗炎症性の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)が関与しているようです。

【がんのケトン食療法ではω3系不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸の摂取を増やす】
糖尿病の治療や減量も目的での糖質制限やケトン食では、動物性脂肪やω6系不飽和脂肪酸の摂取に関しては問題にしていないようです。たしかに、糖質摂取を減らした条件では動物性の飽和脂肪酸も食用油に含まれるω6系不飽和脂肪酸も、あまり問題にはならないかもしれません。
しかし、がん治療においては、少しでも抗腫瘍効果を高めることが必要です。その目的では、ω3系不飽和脂肪酸(αリノレン酸、EPA、DHA)の摂取を増やし、ω6系不飽和脂肪酸(リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸)や動物性飽和脂肪酸の摂取を減らすことが大切です。
ケトン体の産生を増やす目的では中鎖脂肪酸中性脂肪の摂取を増やすことが重要です。
したがって、「ω3系不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸中性脂肪(中鎖脂肪)を増やしたケトン食』ががん治療に有効という結論になります。
以下のような動物実験の報告があります。人間の胃がんをヌードマウスに移植した実験モデルで、ω3不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸を使ったケトン食で飼育すると、がんの増殖が遅くなったという報告です。

Growth of human gastric cancer cells in nude mice is delayed by a ketogenic diet supplemented with omega-3 fatty acids and medium-chain triglycerides.(ヌードマウスにおけるヒト胃がん細胞の増殖はオメガ3系脂肪酸と中鎖脂肪酸中性脂肪を加えたケトン食によって遅くなる)BMC Cancer 8:122. 2008年
【要旨】
研究の背景:がん細胞の代謝において最も特徴的な点は、グルコースの消費が多く、酸素の存在下でもグルコースをピルビン酸から乳酸に変換する経路が亢進していることである。好気性解糖系(aerobic glycolysis)あるいはワールブルグ効果(Warburg effect)として知られているこの現象は、タンパク質が普通で糖質を減らし、オメガ3系不飽和脂肪酸と中鎖脂肪中性脂肪の多い高脂肪食によるケトン食を、がんの治療に利用する際の根拠になっている。
方法:24匹のメスNMRIヌードマウスにヒト胃腺がん細胞株23132/87のがん細胞を皮下に移植した。移植後マウスは2つの群にランダムに分け、1群(n=12)にはケトン食を与え、もう一群(n=12)には通常のエサを与えた。食餌は自由摂取とした。
腫瘍の体積が600~700 mm3に達した時点で、実験は終了(屠殺)した。両群において、腫瘍の増大速度や生存期間(がん細胞の移植から終了の腫瘍体積に達した時点までの期間)を比較した。
結果:ケトン食の食餌にマウスはよく受容した。ケトン食を与えた群の腫瘍の増殖は通常のエサを与えた群の腫瘍の増大速度よりも著明に遅くなっていた。
実験終了の腫瘍体積(600~700 mm3)に達するまでの期間は、ケトン食群が34.2±8.5日であったのに対して、通常の食餌の群では23.3±3.9日であった。
移植後20日の段階で、平均腫瘍体積は通常食群との差を維持しながらも、ケトン食群の腫瘍も早く増大した。しかしながら、ケトン食の群では、腫瘍組織に壊死部分が大きく広がり、生きたがん細胞がある領域でも、腫瘍血管が乏しい組織所見を呈していた。
両群のマウスの腫瘍組織において、壊死組織の周囲の生存したがん細胞では、グルコース・トランスポーター-1とトランスケトラーゼ様1酵素(transketolase-like 1 enzyme)の発現を示して解糖形質(glycolytic phenotype:解糖系主体でエネルギーを産生している状態)を示した。
結論:オメガ3系不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸中性脂肪を多く加えたカロリーを制限しないケトン食は、マウスの移植腫瘍の実験モデルで腫瘍の増大速度を遅くした。がん細胞の浸潤や転移などのがん細胞の性質に対するケトン食の効果をさらに検討する必要がある。

ω3系不飽和脂肪酸自体に様々な抗がん作用や、抗がん剤の副作用軽減作用があります。
DHAががん細胞の増殖速度を遅くしたり転移を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くのがん細胞で示されています。PGE2は血管新生を促進するので、PGE2産生を阻害するDHAには腫瘍血管の新生を阻害するようです。
その他にも、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果や、がん性悪液質を改善する効果なども報告されています。がん性悪液質とは、がん細胞や炎症細胞から産生される炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)によって体重減少や食欲不振などの症状が出る状態です。DHAやEPAには、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの産生を抑える抗炎症作用があります。
免疫状態を改善し、感染症の予防効果も指摘されています。手術前や手術後にEPAやDHAを1日2~3グラム補充した食事は、手術後の炎症を軽減し、体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ効果があるという臨床試験の結果が多数報告されています。
手術侵襲によって挫滅した組織で炎症反応がおこり、炎症性サイトカインの産生などが原因となって筋肉や体重の減少が起こりますが、EPAやDHAは炎症性サイトカインの産生を抑えるなどの作用によって筋肉の異化を抑制し、体重減少を予防し術後の経過を良くします。
このようにDHAやEPAやαリノレン酸のようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、摂取するω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の比が腫瘍の発育に影響することになります。

【ω3系不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸中性脂肪を多く摂取する場合の安全性】
ω3系不飽和脂肪酸の健康作用は確立されています。中鎖脂肪酸中性脂肪も未熟児や外科手術後の患者さんや腎臓疾患の患者さんの栄養補充やアルツハイマー病の治療目的で使用されています。スポーツ選手のウェイトコントロールにも利用されています。
この2種類の脂肪酸を適量摂取する場合の健康作用と安全性については問題ないと言えますが、この2つの脂肪を大量に摂取しても問題ないかどうかは不明です。そのような研究がまだ少ないからです。
適量を摂取した場合の臨床報告を幾つか紹介します。
中鎖脂肪酸中性脂肪(medium-chain triglyceride)とオメガ-3系多価不飽和脂肪酸(ω-3-polyunsaturated fatty acid)の併用投与は未熟児の栄養補助に利用されメリットがあるという報告があります。以下のような論文があります。

Cholestasis, bronchopulmonary dysplasia, and lipid profile in preterm infants receiving MCT/ω-3-PUFA-containing or soybean-based lipid emulsions.(中鎖脂肪酸中性脂肪とオメガ-3系多価不飽和脂肪酸、あるいは大豆をベースにした脂肪乳剤の投与を受けた未熟児における胆汁うっ滞と気管支肺異形成症と脂質組成)Nutr Clin Pract. 27(6):817-24. 2012年

Lipid emulsionというのは脂肪乳剤で、栄養補充の目的で経口的あるいは非経口的(静脈注射など)に投与されます。
この研究では、出産時の体重が少ない未熟児282人(超低出生体重129例と低出生体重153例)を対象に、脂肪乳剤の非経口投与(静脈注射)を行っています。脂肪乳剤として、中鎖脂肪酸中性脂肪(medium-chain triglyceride:MCT)とオメガ-3系多価不飽和脂肪酸(ω-3-polyunsaturated fatty acid:PUFA)を混ぜた脂肪乳剤(MCT/PUFA)か、大豆油をベースにした脂肪乳剤(soybean-based lipid emulsion)を7日間以上使用し、その栄養学的な効果を比較しています。
その結果、超低出生体重(very low body weight)のグループにおいては、大豆油をベースにした脂肪乳剤を投与されたグループに比較して、MCTとPUFAを混ぜた脂肪乳剤を投与したグループの方が、胆汁うっ滞や気管支肺異形成症(未熟児における慢性肺損傷で、酸素補給や長期間の機械的 人工換気によって引き起こされる)の頻度が低く、善玉コレステロールのHDLは高く、コレステロールとHDLの比は低くなっていました。低出生体重(low body weight)のグループでは差はみとめられませんでした。

この研究では脂肪乳剤の投与量は1.6~3.6g/kg/日です。一般に小さいほど体重1kg当たりの栄養摂取量は増えます(体重より体表面積の方に比例するため)。例えば、基礎代謝基準値は男性の1~2歳で61.0 kcal/kg/日で、18~29歳の男性で24.0 kcal/kg/日です。
つまり、新生児と比較して成人の摂取量の目安としては体重換算で2分の1から3分の1程度が推奨されます。したがって、新生児で1.6~3.6g/kg/日の投与量は成人では0.6~1.5g/kg/日程度になります。
体重60kgの成人がケトン食を実践するとき、中鎖脂肪酸中性脂肪やオメガ-3系不飽和脂肪酸などの脂肪を90グラム程度摂取するのは、安全性上特に問題は無いと言えます。
中鎖脂肪酸中性脂肪やオメガ-3系不飽和脂肪酸やオリーブオイルは腸の炎症性疾患を改善するという報告もあります。

Impact of environmental and dietary factors on the course of inflammatory bowel disease.(炎症性腸疾患の経過における環境的要因と食事要因の影響)World J Gastroenterol. 2012 Aug 7;18(29):3814-22.

この論文は、潰瘍性大腸炎やクローン病のような炎症性腸疾患の臨床的経過に及ぼす喫煙と食事の影響に関してまとめた総説です。
食事に関しては、炎症性腸疾患の患者はできるだけ多様な食事(いろんな食品をバランス良く)が推奨されると記載されています。食品成分による炎症性腸疾患の治療効果という観点からは、低脂肪の食事が推奨されるのですが、オリーブオイルと中鎖脂肪酸中性脂肪とオメガ3系不飽和脂肪酸は治療効果があると記述されています。
オリーブオイルは多く含まれる抗酸化物質が有用で、中鎖脂肪酸中性脂肪は容易にエネルギーになる点と免疫調節作用があるので炎症性疾患に治療効果を発揮すると解説されています。

ラットを使った炎症性腸疾患の動物モデルでの検討では、中鎖脂肪酸中性脂肪やオメガ3系不飽和脂肪酸やオリーブオイルに治療効果があることが示されています。例えば次のような研究があります。

Enteral diets enriched with medium-chain triglycerides and N-3 fatty acids prevent chemically induced experimental colitis in rats.(中鎖脂肪酸中性脂肪とN-3脂肪酸の豊富な食餌はラットの薬剤誘発性の実験的大腸炎を予防する)Transl Res. 156(5):282-91.2010年

ラットにトリニトロベンゼンスルホン酸を投与して実験的に大腸に炎症を起こす実験モデルで、中鎖脂肪酸中性脂肪とN-3脂肪酸(オメガ3系不飽和脂肪酸)が炎症を軽減するという報告です。

以上のような報告から、ω3系不飽和脂肪酸とオリーブオイルと中鎖脂肪酸中性脂肪などでカロリーの60~70%程度を脂肪から摂取しても問題ないと推測されます。
私自身における人体実験では、魚油(脂ののった魚の刺身か煮付けを200g程度)や亜麻仁油(10g/日)DHA/EPAのサプリメント(2~3g/日)やオリーブオイル(20g/日程度)や中鎖脂肪酸中性脂肪(MCTオイルを1日60~80g程度)やナッツ類(クルミやピスタチオやピーナッツなどを1日50~100g程度)をほぼ毎日摂取して約1年が経過しましたが、特に問題は出ていません。糖質からのカロリーは10%程度、タンパク質からのカロリーは20~30%です。
脂ののった魚の刺身か煮付け、豆腐、納豆、豆乳、枝豆、ナッツ類(クルミ、ピスタチオ)、アボカド、葉っぱものの野菜、肉は内臓(レバー、ハツなど) 、卵が主な食材で、これにMCTオイル(マクトンオイル)、亜麻仁油、オリーブオイルを振り掛けたり、混ぜたりして食事を作ると、飽きはこないと思います。甘味や糖質は中毒になるので(348話参照)、摂らないと欲しくはならないようです。
がん患者さんを対象にしたケトン食は工夫次第で苦痛なく食事の楽しみも犠牲にせずに実行できると思います。 

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