281)発酵小麦胚芽エキス(Avemar)の抗がん作用

図:小麦胚芽を発酵させた抽出エキスは、それに含まれるメトキシ置換ベンゾキノンやその他の成分の相乗効果によって様々な抗がん作用を発揮し、欧米ではがん患者用の栄養補助食品として注目されている。

281)発酵小麦胚芽エキス(Avemar)の抗がん作用

【発酵小麦胚芽エキス : 栄養補助食品か抗がん剤か?】
多くのがん患者さんが様々な健康食品やサプリメントを利用している実態が明らかになっています。インターネット上には、がん患者さん向けの健康食品やサプリメントが多数宣伝されていますが、その多くは誇大広告で、臨床試験で有効性が示されているものはわずかです。
臨床試験で有効性が明らかになっているサプリメントとしては、魚油のω3多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)ドコサヘキサンエン酸(DHA)ビタミンDメラトニンなどが有名です。
(DHA/EPAについては211話、ビタミンDについては263話、メラトニンについては273話参照)
最近の論文に「Fermented wheat germ extract – nutritional supplement or anticancer drug?(発酵小麦胚芽エキス – 栄養補助食品か抗がん剤か?)Nutrition Journal 2011, 10:89 」というのがあります。
小麦胚芽(Wheat germ)は栄養素に富むため、健康食品としても利用されています。小麦胚芽をパン酵母で発酵させて成分を抽出して粉末にしたAvemarという製品があり、がん患者さん向けの栄養補助食品として欧米で使用されています。
このAvemarは栄養補助食品の区分にはなるのですが、動物実験や臨床試験の結果かなり確実な抗腫瘍効果が認められており、抗がん剤に匹敵する抗腫瘍効果があることを意味するためにこのようなタイトル「栄養補助食品か抗がん剤か?」になっています。
Avemar(アヴェマー)発酵小麦胚芽抽出エキス(Fermented Wheat Germ Extract)を主成分としたサプリメントの商品名(登録商標)です。発酵小麦胚芽抽出エキスは小麦胚芽をサッカロマイセス セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)という酵母菌(パン酵母)で発酵し、その発酵物の濾過液をフリーズドライ(Freeze dry)法で乾燥して粉末にしたものです。
がん患者さん向けの栄養補助食品として世界中で販売されていますが、その抗がん作用に関する基礎研究および臨床試験が広範に行われ、レベルの高い学術論文が多数発表されています。カリフォルニア・アナハイム(Anaheim California)で開催された2006年の健康食品博覧会(the annual Natural Products Expo West/SupplyExpo tradeshow)で、約15000種ある自然食品の中から年間最優秀製品(Best New Product of the Year)に選ばれています。
小麦胚芽の抗がん作用の活性成分は、
2-methoxy-p-benzoquinone2,6-dimethoxy-p-benzoquinone(2,6-DMBQ)などのメトキシ置換ベンゾキノン類(methoxy-substituted benzoquinones)といわれる物質です。
メトキシ基は構造式がCH3O-と表される1価の官能基で、ベンゾキノン(benzoquinone)は分子式C6H4O2で表される有機化合物であり、1個のベンゼン環からなるキノンです。生体内には数多くのキノン類が存在し、様々な生物活性に関与しています。
小麦胚芽に含まれるメトキシ置換ベンゾキノン類(methoxy-substituted benzoquinones)には様々な抗がん作用があり、この抗がん作用のあるメトキシ置換ベンゾキノン類を濃縮し、一定の含量に調整して製品化したのがAvemarです。
Avemarには1g当たり0.4mgの2,6-DMBQが含まれています。
小麦胚芽に含まれるメトキシ置換ベンゾキノン類は糖が付いた状態で存在し、パン酵母で発酵させることによって抗がん作用のあるメトキシ置換ベンゾキノンに変化するため、単なる小麦胚芽では抗がん作用は弱く、パン酵母で発酵させている点が重要なようです。
なお、小麦胚芽に含まれるメトキシ置換ベンゾキノンの抗がん作用を最初に発見したのはビタミンCの発見などで1937年にノーベル賞を受賞したセント-ジョルジ博士(Albert Szent-Gyorgyi:1893-1986)で、アメリカで亡くなっていたセント-ジェルジの基礎研究が、彼の祖国ハンガリーの化学者のヒッドヴェギ(Dr. Mate Hidvegi)に見出され、発酵小麦胚芽エキスの抗がん作用の研究が1990年代から再開され、製品化されています。このAvemar開発の経緯については278話で紹介しています。

【発酵小麦胚芽エキスAvemarの抗がん作用のメカニズム】
Avemarの抗がん作用に関しては数多くの研究論文が発表されています。 Avemarは天然の多数の活性成分を持っているため多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮することが報告されています。

1)
Avemarの抗腫瘍効果で最も特徴的な点は、がん細胞内のグルコースの代謝を阻害してエネルギー産生を低下させて増殖を抑えることです。
がん細胞は正常細胞の10~50倍もグルコース(ブドウ糖)を取り込みます。グルコースを多く取り込むがん細胞ほど増殖が早く、転移を起こしやすいがん細胞と言えます。
Avewmarはがん細胞のグルコースの取り込みや嫌気性解糖系を阻害することによってがん細胞の増殖を抑制します。さらに、DNAやRNAの合成に必要なペントースリン酸経路の酵素や
リボヌクレオチド還元酵素(Ribonucleotide reductase)を阻害する作用が報告されています。リボヌクレオチド還元酵素は、リボヌクレオチドのリボース部分を還元してデオキシリボースにして、DNA合成の前駆体のデオキシリボヌクレオチドを合成する酵素です。この酵素を阻害するとDNA合成が阻害されてがん細胞の増殖が抑制されます。

2)AvemarはポリADPリボースポリメラーゼ(poly ADP-ribosepolymerase:略してPARP)の活性を阻害する作用が報告されています
PARPはNADのADP-リボシル基を核タンパク質に転移・重合させる酵素で、損傷を受けたDNAを修復する際に必要な蛋白質です。がん細胞はPARP蛋白の量が多いためDNA修復活性が高く、DNA損傷によって細胞を殺すタイプの抗癌剤が効きにくくなっています。したがって、PARP活性を阻害する作用は、がん細胞のDNA修復力を低下させて、アポトーシスを起こしやすくし、抗がん剤が効きやすくする効果があります。

3)がん細胞に対するナチュラルキラー細胞の攻撃を助ける効果が報告されています
正常な細胞は表面に
MHC-1という分子をもち、それによってナチュラルキラー細胞(NK細胞)が攻撃しないようにサインをだしています。がん細胞もこの分子を表面につけNK細胞の攻撃を回避して身を守っているのですが、Avemarはがん細胞がこの分子を表面につくらないようにしかけ、NK細胞の攻撃を促します。がん細胞やウイルス感染細胞でもMHCクラスI分子が発現しているとNK細胞は認識できないためNK細胞からの攻撃を受けません。 Avemarはがん細胞のMHC-1の発現を抑制し、NK細胞の認識を助ける作用があることが報告されています。

4)腫瘍血管の内皮細胞には接着因子のICAM-1の発現を高めて、マクロファージのがん細胞への攻撃を助けます。
がん組織は血管ができないと1mm以上の大きさに成長できません。したがって、がん細胞は自分を養う血管を新生して増大しようとします。この新生した腫瘍血管は正常な血管と異なり、ICAM-1という接着因子の発現が低下していると言われています。ICAM-1はマクロファージやリンパ球などの免疫細胞が血管から出てがん細胞へ移行するときに必要です。Avemarは腫瘍血管の低下したICAM-1の発現を高めて、マクロファージやリンパ球ががん細胞を攻撃するのを助けます。

【臨床試験で示されたAvemarの有効性】
多くの臨床試験によって、Avemarは標準治療と併用して、副作用を軽減し抗腫瘍効果を高めることが示されています。Avemar単独でもがん細胞の増殖を抑える効果や免疫力を高める効果など複数の作用機序で抗がん作用を発揮します。
大腸がん、悪性黒色腫、乳がん、肺がん、頭頸部腫瘍、小児がん多くのがんでAvemarの効果が検討され、その有効性が多数報告されています。標準治療にAvemarを併用することによって、副作用を軽減し、さらに奏功率や生存率などの抗腫瘍効果を高めることが複数の臨床試験で報告されています。特に再発予防に効果があることが明らかになっています。

●手術と補助化学療法を受けた170例の大腸がん患者を対象にした臨床試験では、手術と補助療法のみのグループでは17%の患者が再発したのに対して、手術+補助化学療法に1日9グラムのAvemarを服用したグループでは再発したのは3%のみでした。さらに、Avemarを併用したグループでは転移が67%減少し、死亡が62%減少しました。

●再発のリスクの高いステージIIIの悪性黒色腫の患者46例を対象にしたランダム化比較試験では、手術と抗がん剤治療のみのグループと、手術と抗がん剤治療に1日9gのAvemarを摂取したグループを比較した臨床試験が行われています。Avemarを服用した群では、そうでない群に比べて進行(progression)のリスクが約50%に低下したことが報告されています。

●43例の口腔がん患者を対象にした1年間の非ランダム化試験では、21例は手術のみで、23例は手術とAvemar摂取を併用しました。Avemarを摂取したグループではがんの進行が85%低下し、手術のみのグループでは57%の患者が局所再発したのに対して、Avemar摂取群では再発率は4.5%でした。 Avemarの摂取により、吐き気や倦怠感や体重減少や免疫低下などの副作用を軽減できました。

●Avemarは免疫力を高めて感染症を予防する効果があります。
抗がん剤の副作用の白血球減少による感染症の頻度を減少させる効果が報告されています。
小児がんで抗がん剤治療を受けている小児がん患者を対象にした臨床試験では、白血球減少による発熱(感染症による)の発生頻度が抗がん剤治療単独では43.4%に対してAvemarを服用することによって24.8%に減少しました。(J Pediatr Hematol Oncol. 26: 631-635, 2004)

●乳がんのホルモン療法の効果を高める効果も報告されています。

以上のように、標準治療との併用で、副作用の軽減と抗腫瘍効果増強の効果を発揮することが多くの臨床試験で報告されています。
また、がんの発生を予防する効果(前がん病変からがん細胞への進展を抑制。子宮頸部の異型上皮からのがん化、ウイルス性肝炎の肝硬変から肝臓がんの発生の予防など)、進行がんや末期がんにおける体力低下や倦怠感などの症状の改善、がん性悪液質の改善、生活の質(QOL)の向上、免疫力増強による感染症の予防など、様々な有効性が報告されています。
ヨーロッパの国々では、Avemarは『Dietary Food for Special Medical Purposes or for Cancer Patients(特殊な医療用途あるいはがん患者向けの栄養補助食品)という分類に入っています。日本でいえば、「特定保健用食品(トクホ)」のようなものです。日本ではがん治療に効果が認められた特定保健用食品はありませんが、多くの臨床試験で有効性が認められているため、Avemarはがん治療に役立つ特定保健用食品と言っても良いかもしれません。

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Metatrolは発酵小麦胚芽エキス(Avemar® ) の活性成分のみを濃縮した製品です。AveULTRAの1包(5.5g)中の活性成分を濃縮して2カプセルに詰めています。
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米国, アメリカン・バイオサイエンス社(American BioSciences Inc)社製
60カプセル入り 価格:20,000円(税込み)

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