#532: 受難の花、情熱の花

2013-05-21 | Weblog
パッションフラワー(Passion Flower)は中南米の熱帯・亜熱帯地域原産のつる性植物で、現在では世界中で観賞用に広く栽培されている。
熱帯生まれとはいえ、我が家のある埼玉あたりでも、ヴェランダに置いた鉢物は日によく当てると春から秋にかけて次々と花芽をつけグングン生長する。
私などはつるの徒長を嫌って適当なところで乱暴にちょん切ったりするのだが、それでも新しいつるが次々と出てきて、まことにたくましい生命力にあふれた植物である。
なかなか個性的な花を咲かせ、花弁が時計の文字盤、三つに分裂した雌しべが時計の長針、短針、秒針のように見えるので和名は「トケイソウ」という。

英名の“Passion Flower”は「受難の花」で、イエズズ会の宣教師らによって名付けられたという。
16世紀に中南米に派遣された彼らが、キリストの受難を象徴する形をしている「十字架の花」としてキリスト教の布教に利用したのだそうだ。
花の子房を十字架、雌しべを釘、つるの巻きひげを鞭、葉を槍などに見立てたものだという。
これは経験上のハナシだが、つるの巻きひげは、細いが一度何かに絡まるとがっちりとしがみつき、例えば鉢の植え替えをしたりするときに作業が難儀することがある。


最近人気の出てきた「パッションフルーツ」というのは、酸味の中にほどよい甘さが加わった爽やかな果物で、トケイソウの仲間の果実である。
日本では沖縄の特産品として知られているが、ブラジルでは“Maracuja”(マラクジャ)と呼ばれ人気のトロピカルフルーツである。
リオ・デ・ジャネイロに駐在していた20年程前、コパカバーナ海岸の裏通りにあったケーキ屋の甘くて酸っぱいマラクジャ・ケーキが抜群においしくてよく買いに行ったものである。
日本のクリスマスケーキ位のサイズの丸い形のタルトであった。
我が家の子供たちは今でもその味を覚えていてとても懐かしがっていて、私自身時折無性に食べたくなることがある。


“Passion Flower”の“Passion”は「受難」のほかに「情熱」の意味もあることからこれを「情熱の花」と理解している人が多い。

かつて「歌う通訳」とか「歌う親善大使」とか呼ばれたヨーロッパの人気歌手カテリーナ・ヴァレンテが1959年にヒットさせたのが“Tout L'Amour(Passion Flower)”(すべての愛)という歌で、ここでは“Passion”を「情熱」と解し、邦題は「情熱の花」とされた。
ご存知のように、原曲はベートーヴェンのピアノ曲「エリーゼのために」で、歌詞はバニー・ボトキン、ギルバート・ガーフィールド、パット・ムルタフの三人の共作である。


ヴァレンテは張りのある澄んだ声で、ドイツの指揮者ウェルナー・ミューラー(別名リカルド・サントス)・オーケストラのラテン・アレンジを伴奏にフランス語でダイナミックな歌を聴かせた。

日本でもこの曲はヒット、同年ザ・ピーナッツが音羽たかし、水島哲の訳詞、宮川泰の編曲で歌い、こちらも大ヒットしたが、「ララララ~」のあとの歌い出しが「小さな胸に~」と「私の胸に~」の二つのヴァージョンがあることをつい最近知った。
なぜ歌い出しが二種類あるのか理由は不明らしいが、ザ・ピーナッツは何度かこの曲を録音していて、何種類もあるベスト盤などでもどちらの歌詞で歌っているのか聴き比べてみるという楽しみがありそうだ。


また、1981年、この曲は阿木耀子の作詞、井上大輔のロカビリー調(オールディーズ風)アレンジで「キッスは目にして」と改題され、ザ・ヴィーナスがリバイバルヒットさせている。

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ところで、“Passion Flower”という曲には同名異曲があるのだ。
デューク・エリントンの右腕だったビリー・ストレイホーンが書いた名曲で、並み居るスター揃いのエリントン楽団の中でも至宝のアルトサックス奏者ジョニー・ホッジスのソロがフィーチュアーされるナンバーとしても知られている。
それもそのはず、1941年、ストレイホーンが、ホッジスのために作った当て書き曲なのである。

本来ならば40年代のエリントン楽団の名演を挙げるべきだろうが、今回は若き日の白人女性歌手ローズマリー・クルーニーとデューク・エリントン楽団の共演盤“Blue Rose”(1956)を紹介したい。


ロージーとエリントンとの共演とはいうものの、ここでの“Passion Flower”はロージーは歌っておらず、ホッジスのソロが縦横に活躍するインストナンバーとなっている。
50年代のHi-Fiで録音されたホッジスのリードがビリビリと震えるような素晴らしいアルトの音色が堪能できる。

このアルバムは、ロージーとエリントンのスケジュールが合わなかったため、ロージーはロサンゼルスで、エリントンはニューヨークで別々に録音されたという。
現在では当たり前の録音方法、いわゆるカラオケによる吹き込みの走りだったというわけである。

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受難の花でも情熱の花でもよいが、“Passion Flower”(トケイソウ)には500種ほどの栽培品種があるといい、色や形もさまざまである。
果実は、パッションフルーツ、マラクジャ(ブラジル)、リリコイ(ハワイ)などと呼ばれて、食用(果汁)として利用されるが、花弁の方もハーブとして鎮痛、精神安定等「精神や痛みを和らげる」働きがあるそうだ。

廃屋の庭にも四季の花が咲き (蚤助)




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