#324: 川柳あれこれ・その4

2011-01-15 | Weblog
 川柳のルールに「し止めは御法度」というのがある。「し止め」の「し」というのは動詞「する」の連用形のことで、句が「し」で終わってはいけないということである。終止形が「~する」となる動詞の連用形「~し」で下五が終わってはならないという意味で、これも以前ふれた「中八」同様、現代川柳では「句会や川柳誌等では通用しない」、「やっても無駄」といわれるものである。

 なぜ「し止め」が敬遠されるのかというと、川柳の発生と関係がある。何度も言うことだが、川柳は前句附から始まった。例えば「今が盛りじゃ今が盛りじゃ」のような七七の形式の前句が出され、「これに五七五をつけてください」という形式で題が課された。有名なところでは「江の島を観て来た娘自慢をし」という五七五が付けられ、「江の島を観て来た娘自慢をし今が盛りじゃ今が盛りじゃ」という三十一文字として観賞されていたのだ。

 これが、やがて前句附である五七五の部分が独立していく。「~し」の連用形で句が終わるのはその前提に七七の前句があってこそであり、そこではじめて意味が完成するわけである。後続の七七がなくなると「し止め」は、宙ぶらりんで不安定、中途半端になってしまい、軽薄な句になる、とされたのである。逆に言うと、前句のあった古川柳の世界では膨大な数の「し止め」の句があったことになる。

 初代柄井川柳が選句した多くの前句附(万句合)の中から秀句を選び「俳風柳多留」を編纂、出版した呉陵軒可有(ごりょうけんあるべし)は、「一句にて句意のわかり安きをもって一帖をなし、なかんずく当世俳風の余情を結べる秀吟等…」と書き記し、これが現代の川柳に至る流れの水源とされている。「一句にて句意のわかり安き」というのだから、前句がなくても意味が完結しなければならない。以後、これが「し止め」の句が断罪される根拠となるのである(笑)。言い換えれば、「し止め」は川柳の歴史の中で淘汰されてきたということにほかならない。



 「し止め」の具体例を挙げると、「用心」「行動」「洗濯」「買物」「宿泊」など漢字二文字の熟語に「する」がついた動詞の連用形がほとんどである。研究、勉強、演説、分裂、運動、練習など、これらの連用形「○○し」は全てひっかかるのである。

 一例として、NHK文芸選評の川柳の選者でもある大木俊秀氏による「し止め」句の添削を紹介しておこう。

 [原句]
 (1)雷が夫婦喧嘩を仲裁し
 (2)遠雷にオーディオファンが心酔し

 「仲裁し」「心酔し」はいずれも典型的な「し止め」である。「仲裁する」「心酔する」では六音字で下六の字余りになるので、五音字にまとめるためには「仲裁す」「心酔す」しかないが、どちらも文語体となってしまうので、口語体で仕立てる川柳にはなじまない。こういう場合は、同じ意味を持つ他の言葉を用意しなくてはならない。どうしても「仲裁」「心酔」という語を用いたいのであれば、下五以外の場所にもっていかなくてはならない。

 [添削例]
 (1)雷が夫婦喧嘩を和解させ
 (2)遠雷にオーディオファンが酔いしれる

 「し止め」については、まだまだコメントすべきことがあるので、「つづく」ということにさせていただきたい(笑)。

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 我が家の鉢植えの紅梅が一輪咲きました。例年だと、お正月もしくは年末のうちに咲き始めていたのですが、今年は作年末からの寒さでいつもより半月ほど遅れたようです。

 また、現在地に居を構えてから早や十余年、一度も手を入れたことのなかった我が家のシンボルツリー、金木犀の木が大きくなりすぎたので、初めて植木屋さんに手を入れてもらってすっきりとなりました。ついでにここ数年花がつかないツツジも見てもらって、なんだか自分がきれいに散髪してもらったような爽快感でいっぱいです。

 「ローン終え庭の樹木が元気増す」


 




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2 コメント

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勉強になります (伊閣蝶)
2011-01-16 23:28:02
「し止め」が禁じ手である理由、なるほどと思いました。
確かに連用形のまま終わったのでは、宙ぶらりんの感が強くなります。
「雷が夫婦喧嘩を仲裁し」という例について、例えば「雷が夫婦喧嘩の仲裁に」であれば、これは(句の巧拙は別として)許されるのでしょうか?
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し止め (管理人)
2011-01-17 22:40:29
伊閣蝶さん
ご来訪ありがとうございます。
「雷が夫婦喧嘩の仲裁に」
これは「アリ」だと思います。
ただし、下五が甘くなってピンボケの写真のような句になってしまいますね。
蚤助の好みで仕立てると「雷で夫婦喧嘩が仲直り」という感じでしょうか…。
なお、「けやぐ柳会」は「し止め」でも「中八」でも門前払いはありませんので、ご安心くださいませ(笑)。

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