けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

尖閣棚上げ論者はその背景の戦略を示せ!!

2013-06-06 21:21:49 | 政治
先日、自民党の重鎮であった野中広務元官房長官が中国に行って、田中角栄元総理が中国との国交回復の交渉過程で、「棚上げ論に同意した」との発言をした。勿論、公式文書にはその様な記録も無く、あくまでも後日談として田中元総理から聞いたという伝聞情報を紹介したに過ぎない。しかし、中国側は大喜びで騒ぎ立て、逆に日本政府は打ち消しに必死である。

何処に行っても話題に上る尖閣棚上げ論であるが、この棚上げ論を口にする人々に私は聞いてみたい。「その棚上げ論の未来に、あなたはどの様なシナリオを描いているのか?」を。

周恩来は田中角栄元総理から尖閣の話題を振られ「今はその話をしたくない」と言ったといわれるし、小平も「我々の時代には知恵がない。将来に託すべきだ」と言ったといわれる。これらには非常に分かりやすいシナリオがある。言うまでもないが、高度経済成長で戦後からの奇跡的な復興を成し遂げた日本に対し、中国は明らかに発展途上国で、蒋介石が率いる中華民国(台湾)との間で、どちらが正当な「中国」なのかの争いにやっと決着をつけ、世界から承認されたばかりの頃である。相対的に劣勢の日本に対し、今、紛争を起こしても勝ち目が無いことを理解しているから、自国の優位性が明らかになるまで時間を稼ごうと考えたのである。日本と異なり、中国は如何に無茶な帝国主義的な侵略行為であっても、国内から批判を浴びて実行に移せない可能性は限りなく低い。であれば、国力的に日本に勝てる時期までは問題を先送りし、逆転した自分にとって最も都合の良いところで一気に勝負をかけるというのが定石であろう。

これらの考え方は誰もが同様に考え、北朝鮮も核開発を確実なものにするまでは、有耶無耶な状態で時間を稼ごうとして、6カ国協議をいいように利用してきた。今回、核開発とミサイル搭載にある程度の目処を付け、自分が優位な立場に立ったところでちゃぶ台をひっくり返すという戦略は、純粋な戦略としては正しい考え方なのだろう。これは言うまでも無く、誰に聞いても同様のコメントをすると思う。

では日本の棚上げ論者は何を考えているのだろうか?私には、その背景にあるシナリオというものが理解できない。色々な展開シナリオを考えるが、日本側が棚上げ論で得るメリットというものが全く思い当たらない。逆に、リスクであれば幾らでも上げられる。

ここまで断言すると「そんなことはない!」と反論する人がいるだろうが、多分、その人達が考えているシナリオは「いつしか、日本と中国は本当の仲良し国家となり、お互いに譲り合いの精神で尖閣のことに拘らないようになるだろう。であれば、その時に『尖閣は日本の領土と認めよう。資源も日本のものと認めよう。ただ、その資源を安く譲ってね!漁業も尖閣近海での漁獲量を定めて、その範囲内であれば漁をさせてね!』ときっと中国人は言ってくれるに違いない。その時にこそ領土問題は平和的に解決できるから、その時まではこの問題には触れずにおいておこう。」というものだろう。それとも、「どうせ中国は、国内外に矛盾を抱えまくっているから、遅かれ早かれ崩壊するに違いない。その様に国力が弱まったところで、日本から助け舟を出して、それを恩に着せて尖閣を獲得すれば良い」という考えなのだろうか?

しかし、この様なシナリオが本気で成り立つと思って彼らは言っているのであろうか?少なくとも小平の時代より、現在は確実に二国間関係は悪くなっている。小平以降、中国では改革・開放派の胡耀邦氏が権力を握った。この胡耀邦氏は、あのタカ派の中曽根元総理をして、「盟友の胡耀邦氏に迷惑をかけたくない、中国国内での彼の立場を悪くさせたくない」と考え靖国参拝を見送ったほどの人物である。日本との友好関係を改善するというより、民主化による「普通の国」への変革を促す動きを見せていたところ、保守派の逆襲に合い、1989年4月8日の政治局会議で憤死(実際の死亡は1週間後)するに至った。その死を受けて民主化運動が高まり、これを抑圧する中で六四天安門事件が起きた。これ以降、日中関係は悪くなる一方である。江沢民の時代からは反日教育が徹底され、既に後戻りが出来ない状況になっている。江沢民の後、胡錦濤、習近平へと世代は変わったが、未だに江沢民は権力の中枢に居座っている。この辺の勢力が仮に10年後に一掃されたとして、その後に続くのは毎日の様に反日ドラマを見せられて育つ世代である。それにもかかわらず、仲良し国家になれるというシナリオを描くということは、何を根拠にその様な考えに至るのだろうか?

さらに1万歩ぐらい譲って、棚上げ論が選択肢にありえたとしよう。では、日中間の関係が悪くなるこれまで間に「棚上げ状態」は維持されてきたのだろうか?答えは「No!」である。昨年、野田前総理が尖閣の国有化を宣言して胡錦濤氏が激怒したというが、実はこの「国有化宣言」を先にしたのは中国である。1992年2月25日に中国国内で制定された中華人民共和国領海法では、釣魚列島(尖閣諸島)が中国領であると宣言している。中国では全ての土地は個人所有ではなく国のものだから、つまり「国有化を宣言」したことに相当する。日本は遠慮して中国に気を使った譲歩だけを続けてきたから、尖閣周辺には中国の船は来れても日本の漁師は近づくことができない。どっからどう見ても、中国は棚上げなどしておらず、一方的に尖閣奪取の歩みを進めている。日本はかろうじて実効支配を保っているが、領海・領空侵犯を当たり前の様に続けており、日に日に小平時代の棚上げ状態から後退を余儀なくされているのである。

そんな中、現在は落ち込んだ日本の立場が少しだけ盛り返しを見せ、逆に中国の経済発展が陰りを見せ、民主党政権で冷え込んだ日米同盟を復活させてやっと中国と向き合えるようになってきた。だから、中国は小平時代の状態をリファレンスとした棚上げではなく、民主党政権時代に中国が食い込んだ状態をリファレンスとした棚上げで状態を一旦確定しようとしているのである。まあ、株価が乱高下しそうだから、一旦、利益確定をしようという類の画策である。その様な前提条件を理解した上で、敢えて「棚上げ論」を唱えるならば、その背後にある戦略・シナリオを示していただく必要がある。それを示さずに、夢物語の様なパラダイスの世界を前提とする棚上げは、あまりにも無責任で明らかに国益を該する行動である。

ところで最後にコメントを加えておくが、田中角栄元総理が周恩来氏からの「今は話をしたくない」という提案に応じたことは、私は政治家の決断として支持をするものである。何故なら、そこには戦略があるからである。当時の日本にとって、高度経済成長を達成して経済的には戦後の復興を成し遂げていた。しかし、政治的、外交的には敗戦国としての決着をつけてはいなかった。サンフランシスコ講和会議には調印しても、最も戦争で迷惑をかけた中国との和解が済まないと、本当の意味での戦争の終結・国際社会への復帰にはならない。だから、それを実現するのは何よりも優先順位が高く、国交正常化を果たした後で領土問題を議論するというのは正しい選択だったと思う。「今は話さない」というのは、「領土問題が存在することを相互に確認した」という意味ではなく、問題の存在すら議論にならないという位置づけと取ることが出来るから、外交文書に公の記録を残さずに交渉したというのは正しい落しどころだと思う。もちろん、周恩来との合意の後、小平の棚上げ提案に乗っかったのは明らかに間違っているとは思うのだが・・・。だから、田中角栄元総理の判断が正しいかどうかという話と、現在の棚上げ論の是非とは全く別の問題であり、元総理がやったから今もそのままで良いとはならないのである。

話が最初に戻って野中広務元官房長官の発言であるが、文脈をちゃんと追っていないので彼にどの様な戦略があって発言したのかは分からない。しかし、結果として国益を害しているのは事実である。かつては国家のNo.2(官房長官)であった人物なのだから、そのぐらいの事が分からないとは思えないが、それでも敢えてその様なことをするその裏の思惑が何なのかを知りたいものである。

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