「My One and Only Song」
僕が独断と偏見でチョイスした唯一無二の一曲
大好きな曲、思い入れのある曲、泣ける一曲などを心をこめて
一曲入魂でお届けするコーナー
第43回目に紹介したのは、坂本龍一『戦場のメリークリスマス』(1983)
ご存知、大島渚氏が監督した映画作品のメインテーマだ
内容としては作者自身のインドネシア・ジャワ島での、日本軍俘虜収容所体験を描いたもので
カンヌ映画祭ではグランプリ最有力と言われるほど評価が高かった
一方、日本では賛否が分かれる映画だが
ラストシーンで死刑を受け入れるハラ軍曹(ビートたけし)の笑顔は映画史に残る名シーンだ
「ロレンス!」
ハラの怒鳴り声に振り返るロレンス
ハラは生涯最高の、そして最後の笑顔でこう続ける
「メリークリスマス! メリークリスマス、ミスター・ロレンス」
そしてその笑顔にかぶさるように、メインテーマが静かに流れる・・・
「自分は漫才師だから」などと言って真面目に俳優業なんてやるつもりがなかったビートたけし
しかも当初、ハラ軍曹は勝新太郎がキャスティングされていたのだそうだ
それが後に「世界の北野」などと呼ばれるようになることを誰が想像しただろうか
このたったワンシーンで彼の人生は変わったのかも知れない
同じく「世界の坂本」も、このサントラから始まったと言えるだろう
これが彼にとって初めてのサウンドトラック作品になったからである
そして、このメインテーマで英国アカデミー賞作曲賞を受賞する
映画自体が戦争がテーマでありながら、戦闘シーンが一切ないというように
ある種の非現実感から影響を受けて、西洋から見ても東洋から見ても
“どこでもないどこか”、そして“いつでもない時間”をコンセプトに作られた音楽だ
所謂、ペンタトニック(ドレミソラ)中心のオリエンタルなメロディーと近代西洋音楽の和声の融合
主旋律の音色はワイングラスの音をサンプリングしており
低音ではあえてチューニングが微妙に外れるように東洋の雰囲気を醸し出したのだそうだ
天才の考えることは僕のような凡人には到底考えもおよばないが
坂本自身は、この曲の作曲中に何度もぽろぽろと泣いたそうである
それほど琴線に触れる美しいメロディーと、あまりにも静かな静寂
大抵のクリスマスソングは華やかで賑やかだが
この曲はこの世の全てを超越しているかのような美しさに満ちている
坂本龍一(Ryuichi Sakamoto) Merry Christmas,Mr Lawrence
大島渚監督,デビッド・ボウイ,ビートたけし共演の『戦場のメリー・クリスマス』はカンヌ映画祭にも出品され惜しくもグランプリはのがしたものの大変な評判を呼んだ。殊にボウイと坂本龍一のラストのキス・シーンは話題になったものだ。一枚はオリジナル・サントラ,そしてもう一枚は全曲ピアノ・ヴァージョンとして新たに録音し新曲「JAPAN」「CODA」を追加収録。メイン・テーマ「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」は日本の伝統音楽と東南アジアの民族音楽を融合した感がする。
【坂本龍一】
日本音楽史上最重要人物、坂本龍一(愛称:教授)。細野晴臣、高橋幸宏とともに結成したYMOで一世を風靡した後、彼が世界にその名を轟かせたのは、なんといっても『戦場のメリークリスマス』や『ラスト・エンペラー』(アカデミー賞音楽賞受賞)といった映画音楽を手掛けたことが大きい。精緻なサウンド・プロダクションとアジアン・テイストあふれるノスタルジックなメロディが多くの支持を集めたのである。
さらに、YMO時代から彼を突き動かしてきた音楽的な先見性は飽くことなく、ワールド・ミュージックや実験性の高いエレクトロ・ミュージックにも食指をのばし、アート・リンゼイやタルヴィン・シンを始めとする海外のアーティストとも深く交流している。N.Y.在住ということもあり、日本のミュージック・シーンとは距離をおいたところで活動している印象があるかもしれないが、ゲイシャ・ガールズ(お笑いグループ・ダウンタウンによるハード・コア?ユニット)や中谷美紀のプロデュース、またソロ作品「ウラBTTB」の大ヒットなど、コンスタントに話題をふりまいている。
―――多くの日本人アーティストが世界で活躍し始めて久しいが、彼がその礎を築いたといっても過言ではないだろう。