セルロイドの英雄

ぼちぼちと復帰してゆきますので宜しくお願いしまする。

【映画】ブロークン・フラワーズ

2006-05-06 23:05:51 | 映画は行


"Broken Flowers"
2005年アメリカ
監督)ジム・ジャームッシュ
出演)ビル・マーレイ ジェフリー・ライト シャロン・ストーン フランセス・コンロイ ジェシカ・ラング ティルダ・スウィントン マーク・ウェバー
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

初老に差し掛かった元プレイボーイのドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)は、IT関連のビジネスで成功し、今はよく言えば悠々自適、悪く言えば怠惰な毎日を送っている。
そんなある日、彼の元に匿名でピンクの便箋に書かれた手紙が届く。「あなたとの間に出来た子供はもうすぐ19歳になります」。自分に子供がいることに動揺を覚えた彼が隣人のウィンストン(ジェフリー・ライト)に相談したところ、ウィンストンは俄然乗り気になり、勝手に謎の手紙の書き手探しの算段を立て始める。ウィンストンに促されるままに20年前に付き合っていた女性達のリストを作るドン。
かくしてドンの昔の恋人探しが始まるのだった。

純粋な長編作品としては『ゴースト・ドッグ』以来久々の新作、カンヌでグランプリ受賞、主演は絶好調のビル・マーレイ、という無敵の好条件が揃ったジャームッシュの新作です。僕もこれはすごく楽しみにしていて早速シャンテ初日の3回目の回に行ったのですが、1時間前についたにも関わらず、ほぼ満席。良い席は空いてなさそうだったのでその日は断念、結局次の日に地元のシネコンで観ました。

今作のテーマは息子探しのロード・ムービー、そう、奇しくもヴェンダースの
『アメリカ、家族のいる風景』と全く同じ主題です。ヴェンダースは、気ままに生きてきた中年男が絆を求めてあがく様を真摯に、いささか生真面目に描いて成功したわけですが、ジャームッシュは相変わらず飄々と。

ビル・マーレイの演じる主人公、とにかくやる気が感じられない。
息子がいる、と聞いて当然心がざわつく訳ですが、おせっかいな隣人に何から何までお膳立てされないと全く動かない。「しょーがねえなあ」という感じで渋々過去の女性達を訪ねまわるわけですが、本人にやる気が無いわけで、昔の恋人たちと会ったって全然会話が弾むことも無い。
この会話の弾まないことによって生じる独特の間がもうジャームッシュ!

ただ、今作のジャームッシュはちょっと、ほんのちょっとだけど違います。
それは、ラスト近くの場面。
ドンが一所懸命走るんですよね。思わず。
全編受身だった彼がはじめて能動的に動く。
だけど、結局はそこで何も掴まえることが出来なくて、呆然と立ちすくむ。
まるで今まで送ってきた人生の空しさにはじめて気付いたかのように。
この感覚、今までのジャームッシュ映画には無かったものだと思います。

とぼけた感じに(特に後半)しっとりした情感も加わって
なかなかの作品ではあります。
だけど、僕が彼の他の作品と比べるとちょっとグッと来なかったのは、そんなドンの心持に共感出来るほどの経験の蓄積がまだ無いからなのかもしれません・・・。


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21 コメント

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TBいただきっ (隣の評論家)
2006-05-07 00:00:36
こんばんわ。1番乗りさせて頂きました。

ラストは、「???」と思ってしまう人も居るかもしれませんね。

>全編受身だった彼がはじめて能動的に動く。

遅過ぎるくらいかもしれないけれど、現実を受け入れたドン。そんな感じでしょうか?

正直、アタクシは。ラストの余韻に浸る感じにもならず。この作品は、とにかく散りばめられた小ネタのオンパレードを堪能する事で楽しみました。

Tを取ったらドン・ジョンソン。ココで、もう堪えきれずにカカカと笑ってしまいましたが。見渡す限り今笑ったのは私だけじゃん...アレッ?皆ドン・ジョンソンって知らないのかなぁ。などと。

隣人のウィンストンもなかなか面白いキャラでしたね。「シリアナ」の弁護士さんでしょ?フフフ。確か「仕事を3つ持ってる」というセリフがあったかと思うのですが。3つの仕事をこなしながらテキパキとドンの世話を焼くなんて、なかなかのやり手だなぁと思ったり。

ドンの元恋人の職業も、何か面白おかしかったと思いました。

うーん、どうしても長くなってしまうのですが、お許しを。
情感! (現象)
2006-05-07 00:38:03
ぐ…隣の評論家さんに一番乗り持ってかれた。

ジャームッシュ映画になかったもの、そうですねぇ。

情というか何というか、人間くささのようなものが、

昔の作品とは一線を画しているかなぁとか思っちゃいました。

しかし混んでますねジャームッシュ。

僕も1時間前に行ったのですがギリギリ座れるくらいで、

結局3時間ほど待ってその次の回にしました。
ジェフリー・ライトさん (Ken)
2006-05-07 01:04:21
隣の評論家さん、どもども!

小ネタの数々は相変わらずのジャームッシュ節で楽しいですよね。昔の彼女の旦那から「彼女、こんなにヒッピーだったんだぜ!」なんて写真を披露された後「あれ、俺が撮った写真だよな」なんて言ったり、アニマル・トレーナーの飼い猫に自分の考えを見透かされたり。

こういうセンスは変わらず好きです。

ジェフリー・ライトって、『バスキア』でタイトル・ロールも演じてるんですよね。『シリアナ』といい、ウィンストンさんと言い、エライ変わりようでびっくりしてしまいました。

そういえば、随分前に買ったジャームッシュのDVDボックス、まだ『デッドマン』と『ゴースト・ドッグ』が未見なんだよなあ。今度観ようっと。

そう、それ、情感! (Ken)
2006-05-07 01:13:00
現象さん、ご無沙汰しておりました。

いつものジャームッシュとほんのちょっとだけ違うと書いておいてそれが具体的に何なのか書けてなかったのですが、そう、それです、情感!

ありがとうございます!

こういうちょっと湿った感じの情感、今までのジャームッシュ作品ではストレートには出ていなかったような気がします。



しかし混んでますよね、流石にジャームッシュですね。と言いつつも僕は結局地元のシネコンで観賞、これが結構空いてて拍子抜けしました。

最近単館系でもシネコンでやる作品が多くて、これは重宝しますです。
情感・・・。 (Ken)
2006-05-07 10:39:19
あ、自分の記事読み返してみたら、しっかり最後のほうに「しっとりとした情感」って書いてありましたね。自分で書いたモノとは言え、勢いで書いてたので気付かなかったです。

さすがオレ(笑)。
地元鑑賞 (charlotte)
2006-05-10 00:08:07
kenさん

こんばんは~

私も地元鑑賞でした!シャンテ会員なんですが、混んでるからどうも嫌なんですよねえ。シネコンの方が実は音が良かったりして今回は地元で鑑賞しました~!

ラストの「しっとりとした情感」はなんかぐっときましたわよ。

さすがkenさん!笑

charlotte様 (Ken)
2006-05-10 00:49:37
こんばんは!

そうなんですよね、シャンテ・シネこういう作品だと異常に混むんですよね。シャンテに限らず単館系の作品でシネコンでも掛かる場合は僕はなるべくシネコンに行くようにしています。大作群の中でひっそりと上映されてる感が結構好きです(笑)。

今作は自分の人生経験の無さからか、意外に引っかかりが無かったんですよね。

あと20年くらい経ったら、フレッド・ぺリーのジャージに身を包んでまた観てみます(笑)。
こんにちわ。 (minori)
2006-05-10 11:04:58
こんにちわー。またお邪魔します♪

『アメリカ~』と同じようなテーマですけど

こっちはジャームッシュのアジをしっかり

だしてきてましたねー。

淡々としてたのに、最後にダッシュする

ドンがなんとも言えず…。

ピンクが効いたなんだか不思議な映画でしたね。



こちらにもTBさせていただきますね。

ではまた。
シネコンでガラ空きでしたが… (悠雅)
2006-05-11 00:55:09
こんばんは。ちょっとご無沙汰でした。

これ、近所のシネコンで上映があったので喜んで行ったのですけど、何しろ田舎につき、やっぱりガラ空きでした。



ドンは、あの年齢、あの環境で、気付かずに済んだかもしれないことに気付いてしまって、彼はあの後どうするんだろうとちょっと心配になったりして…



ジェフェリー・ライト、実は直前にゲイの看護師役を観たのです。もちろん違う役柄とわかっていても、脳裏を掠めるスキンヘッドの髭なし、ゲイの彼。。。

『シリアナ』との三つ巴で、頭はかるく混乱状態でした(笑)
minori様 (Ken)
2006-05-14 21:12:35
こんばんは!

ヴェンダースは主人公の男に救済らしきものを与えていましたが、ジャームッシュは道のど真ん中に置き去りにしてしまいましたね。

この、結末で主人公を放っぽってしまうのがまたジャームッシュ作品らしく、微妙な余韻が残って好きです。

それではまた宜しく!

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