天満放浪記

matsuken tenma blog

スペインの「今年の十冊」

2016年12月24日 | 西:LA文学最新情報

 今年もあまり本を読まなかった。心が新しいものを求めなくなっているような気がする。講義の準備でウナムーノやオルテガをめくっているほうが楽しかったりして。これは年齢のせいだろう。国籍を問わず30代の作家が書いていることに今一つのめりこめなくなってきた。まして20代の作家なんて。むしろ50代や60代の作家が書いたもののほうに興味がある。当たり前の話かもしれない。

 近所にできた新しい飲み屋にもまるで足を踏み入れなくなった。行く店は片手で数えられる程度の選択肢のローテーション。旅行にも興味がなくなってきて、なんだかもう、うちから半径3キロ以内ですべて完結してもいいです…という気分に。スマホもないから人ともつながらない。たまに地球の裏から「フェイスブックにご招待」とか来ても無視しているので不義理な奴だと思われているのだろうか。知り合いのつてで忘年会と思しき場所に出向いても、そうした場所では仮想空間内でのネットワークを前提にしたコミュニケーションがなされていて、とりあえず「あなたは誰?」みたいなところから話を始めたい私は少し落ち着かない。私は全く知らない異人種と初対面で話をするのは実はわりと好きなのだが、生きた人間とコミュニケーションすること自体は苦手で、どういえばいいのだろうか、南米みたいな外国のホテル暮らしがいちばん楽だ…と思うこともある。仮想と現実を自由に行き来しながら巧みにコミュニケーション…という21世紀型の生き方に乗り遅れてしまったのだろう。

 自己憐憫していても仕方がないので、年末恒例のベスト企画。

 今日はエルパイス紙の土曜版バべリア。

 ここは近年翻訳を混ぜ込んでアンケートをとるようになった。スペイン語本の情報だけ知りたい私としては、これはできればやめて欲しいのだが、スペイン語翻訳文学の動向が分かって興味深いものもある。

 1位は翻訳で、米国のルシア・ベルリンの A Manual for Cleaning Ladies. オリジナルは1977年だそうで、日本では未紹介なのだろうか、名前を聞いたことがない。私は英語が不自由なので、とりあえずこのスペイン語版を取り寄せてみることに。

 2位はフェルナンド・アランブルの『祖国』。アランブルはサンセバスティアン生まれのいわゆるバスク作家で、この小説はスペイン語の模様。他の各種メディアでも今年のスペインにおけるベスト小説の評価はほぼ固まりつつある。ちょっと私は手が回らないが、若者のどなたか、ぜひ読んで中身を知らせてください。

 3位はドイツ語からの翻訳、Reiner Stach のKafka. これって伝記じゃないでしょうか。小説よりも面白い、ということだろう。カフカ本ということで日本でも翻訳が出るかもしれない。

 4位はセクストピソから出たホセ・レサマ・リマ全詩集。スペイン語の文学者がレサマ・リマの詩を推すというのは、にわかSFファンがイーガンを推すのと同じで、本気で理解しているか疑わしいものがある。あのレサマ・リマだから…というので一票、という可能性も無きにしもあらず。ちなみにレサマ=リマは日本におけるラテンアメリカ文学研究・翻訳で残された最後の大物のひとり。若い研究者の皆さん、いかがですか?レサマ・リマ全詩集の日本語訳。

 5位はセルヒオ・デル・モリーノというスペイン人が書いた La España vacía, viaje por un país que nunca fue. というエッセイみたいで、これは少し調べてみるととても面白そうな本である。題名通り、過疎化して人が消えた寒村を中心とする紀行文のようなのだ。二度観光旅行でスペインに行ったとき、なんと無人地帯の多い国だろうか…と感心した記憶がある。それは南米のように異常に広大な大地の無人ではなく、少し加工すれば住みやすそうな野原なのに無人、かつていたかもしれないのに今は無人という感じの光景だった。この本は入手して読んでみたい。

 6位はリカルド・ピグリアの自伝3部作の2冊目。めくってみたが、小説と違ってとてもいい感じ。ピグリアは日本でも一冊翻訳が刊行され、もう少しフィーバーしてもいいはずと思うのだが、やや地味すぎるのだろうか。私はピグリアは読まず嫌いになっていて、いちおう揃えてはいるが、いまだに評価ができずにいる。とりあえずこの自伝からキチンと読んでいこうかと。

 7位は西仏対訳版ランボー全詩集。今ごろランボーかよ…という気もしないではないが、そういえばランボーのスペイン語版ってあまり見たことがなかったっけ。スペイン語詩の業界ではランボーはさほど注目されずに来ているかもしれない。小林秀雄みたいなのがいなかったということだろうか、あるいは日本が特殊で日本以外のほうが普通の受容なのか。訳者のマウロ・アルミーニョというスペイン人は英語の翻訳も手掛け、この種の古典を得意にしている。翻訳する人は英語からも仏語からもすると。そういう分業体制なのね。

 8位は、私が来年もっとも期待しているチリの若手パウリナ・フローレスさんの小説『なんたる恥知らず』。ここに写真もある美しいパウリナさんは1988年生まれ。ついに来た20代作家! チリは私の知る限り4人有望な女性作家がいて、彼女はそのひとり。今度サンティアゴに行ったらぜひお目にかかりたいです。小説は来年2~3月あたりには読んで詳しく報告いたしますが、こんなところで8位につけているからには、相当いい作品に違いない。今から楽しみ。

 9位は、揃えると岩波文庫より役に立つという噂もあるアナグラマのエッセイ文庫の新作で、ホセ・ルイス・パルド『不快の研究』というもの。パルドさんはコンプルテンセ大の哲学者らしく、翻訳した本を見るとその傾向は一目瞭然、あげていくとフレデリック・ジェイムソン「ポストモダニズムと後期資本主義の論理」、エマヌエル・レヴィナス「時間と他者」、ギィ・ドゥボール「スペクタクルの社会」、他にドゥルーズが3冊。この本も面白そうなので、取り寄せて阪大生向けの講読などで使用してみようかな。そうすると自分でも無理に読むし。ただ、ちょっと気になったのは、このパルドさん、エルパイスの常連ライターの模様。ま、ある種の身びいきはこういうアンケートでは仕方がないわね。

 10位はまたも翻訳でユダヤ系ドイツ作家の回想録の模様。Angelika Schrobsdorff という作家で題名は直訳すると「あなたは私の母ではない」となる。この種の本を読みだすときりがないけれど、ドイツ語など読めるはずもないので、ではスペイン語か?という気持ちになるのはお分かりいただけるかと。英語がダメで、日本語とスペイン語でしか本が読めないという惨めな境遇もあるのですよ、世の中には。ちなみにノルウェーのクナウスゴールはスペイン語版がもう4冊目に突入している。早川書房さん、とりあえず2冊目を夜、露、死、苦!

 

ジャンル:
ウェブログ
この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« あの言語SFが映画に | トップ | 大統領ツイートあれこれ »