天満放浪記

matsuken tenma blog

邦訳されているラテンアメリカ女性作家

2016年05月26日 | 西:LA文学最新情報

 ラテンアメリカ文学の女性作家。

  2000年に立教大ラテンアメリカ研究所が出している邦訳作品目録で、その名前と邦訳を網羅的に見ていくことにしよう。私が不勉強でよく知らない作家は?を付している。

 1. デルミラ・アグスティニ(ウルグアイ、詩):田村さと子編アンソロジー。

 2. イサベル・アジェンデ(チリ):『精霊たちの家』他多数。女性のラテンアメリカ作家の代名詞ともいえる人。子供向け幻想小説もコンスタントに翻訳されている。

 3. マリア・デル・カルメン・アブラム(メキシコ):?

 4. フアナ・デ・イバルブルー(ウルグアイ、詩):田村編アンソロジー。

 5. ラウラ・エスキベル(メキシコ):『赤い薔薇ソースの伝説』のみの一発屋。

 6. シルビーナ・オカンポ(アルゼンチン):各種アンソロジーにちょこまかと。

  7. カロリーナ・ガルシア=アギレーラ(キューバ):亡命した英語ミステリライター。

 8. エレーナ・ガロ(メキシコ):目録にはまだ出ていないが現代企画室から小説『未来の記憶』が翻訳刊行されている。ラテンアメリカ文学マッチョ界の帝王オクタビオ・パスのつけたしみたいな扱いばかり受けてきた人だが、実は優秀な作家。

 9. ベルキス・クサ=マレ(キューバ、詩):エベルト・パディージャの妻としてのほうが有名な詩人。マイナーな雑誌で詩が訳されているようだ。この人を主人公にした小説があれば面白そうである。

 10. マルガリータ・ゲレロ(アルゼンチン):ボルヘス幻獣辞典の共著者。

 11. アルフォンシーナ・ストルニ(アルゼンチン、詩):田村編アンソロジー。

 12. マルタ・トラーバ(アルゼンチン):美術評論家としても知られた作家。1986年のバラハス空港での事故で、夫だった評論家のアンヘル・ラマ、メキシコ人作家ホルヘ・イバルグエンゴイティア、ペルー人作家マヌエル・スコルサらと共に死亡している。小説『陽がかよう迷宮』が現代企画室から。

 13. マリア・エステル・バスケス(アルゼンチン):国書刊行会のアルゼンチン選集。

 14. ビオレータ・パラ(チリ):作家というより歌手。現代企画室から自伝が出ている。

 15. ルイサ・バレンスエラ(アルゼンチン):代表作『武器の交換』以外もちらほら。

 16. フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(植民地時代):ソルフアナは光文社文庫に旦敬介訳があり。オクタビオ・パスの枕みたいな本のほうが有名であるけど。

 17. ファニー・ブイトゥラゴ(コロンビア):?

 18. ロサリオ・フェレ(プエルトリコ):目録にはないが、その後『呪われた愛』が現代企画室から。

 19. ルイサ・フトランスキー(アルゼンチン、詩):田村編アンソロジー。

 20. マルタ・ブルネー(チリ):雑誌に短篇が。

 21. アナ・リディア・ベガ(プエルトリコ):野谷先生が群像や新潮で取り上げて、一時期けっこう名前を聞いた記憶もあるのだが、その後は聞かない。

 22. クリスティーナ・ペリ=ロシ(ウルグアイ):短篇。

 23. マリア・エルビラ・ベルムデス(メキシコ):?

 24. エレナ・ポニアトウスカ(メキシコ):目録にはないが証言文学の代表作『トラテロルコの夜』が藤原書店から出ている。この作家の伝記ものなんかは日本でも読まれると思うのだが。

 25. マリア・ルイサ・ボンバル(チリ):代表作『木』の訳がある。

 26. ガブリエラ・ミストラル(チリ、詩):さすがノーベル賞詩人だけあって分厚い翻訳の蓄積がある。近年では田村さんのアンソロジーや単著等が思い浮かぶ。

 27. ナンシー・モレホン(キューバ):?

 28. ピラール・デ・ルサレータ(アルゼンチン):国書刊行会の選集。

 このなかでもっともページ数が多かったのがミストラル。他はたいてい2行か3行だった。ミストラルがページが多いといっても、個々の詩を列挙しているからに過ぎず、本だけに限れば少ないかもしれない。なにしろボルヘスなんて15〜6ページ分ありますし。これ以降に初翻訳されている女性作家だってラウラ・レストレーポ(コロンビア)くらいのもの。

 日本におけるラテンアメリカ文学がいかに男性に偏っているかが理解されよう。

 もちろんそれには理由もないわけではない。

 バルガス=リョサ級の大小説家が女性でいるかと言えば、首を傾げざるを得ない気もする。

 じゃあ男性作家に引けをとらない女性作家がたくさん出てくることがよいのか…と言えば、そういう問題でもないような気もする。イサベル・アジェンデが出てきたときはガルシア=マルケスの後継者とずいぶん騒がれた。それは彼女にとっても不幸なことだったし、多くの優れた女性作家にとっても不幸なことだったのではあるまいか。

 ガルシア=マルケス等のいわゆる魔術的リアリズムをスタンダードとする「ラテンアメリカ小説観」からは、どうしても漏れ出てくる作品がある。その著者に性別はあまり関係ないように思う。結局、日本における特殊なラテンアメリカ文学像に合致する作家の大半が男性だった、というに過ぎないのだろう。主戦力だった翻訳者の皆さんも大半は男性でしょうし。

 マイナーなものもある程度つまみ食いしていくという読み方をすれば、そこには自然と女性の作家も入ってくるし、現況ではむしろそうした女性作家のほうが面白かったりする。ガルシア=マルケスの後継者なんて言葉もそろそろ死語になりつつあるようだ。訳者や研究者の数が圧倒的に違う英語や仏語の業界では、どんどん女性のマイナー作家が翻訳されている。そういう意味では、たとえばアルゼンチンのシルヴィア・プラスとか、メキシコの川上弘美とか、これからはそういうスタンスでラテンアメリカの女性作家を拾っていく方が私は賢いと思う。


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