怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

池谷裕二「脳はなにげに不公平」

2017-10-14 08:47:35 | 
最近の脳科学の進展は目覚ましいものがあります。それはfMRIをはじめとする医療機器の進歩によって侵襲することなく脳の中の動きを見ることができるようになったことが大きいのですが、それだけ脳科学という分野が発展途上で新しい知見がどんどん出てきているということ。それでもまだまだ脳の中は不可思議がいっぱいで分からないことだらけなのですが、日々、私たちが常識的に思っていたことが覆されるような成果が出てきています。
結果としてそういった最新の研究成果を分かりやすく紹介しつついろいろな事象にコメントする脳科学者がテレビのコメンテーターとして活躍するようになってきた。
「ホンマでっかTV」の沢口さんとか中野信子さん、「ニュースキャスター」に出ているこの本の著者の池谷裕二さんなどはいつの間にか色々な局で露出が増えています。
でも私が池谷裕二を知ったのはテレビに出るよりもっと前で「進化しすぎた脳」を読んでから。以来気が付くと著書をフォローしています。
で、この本は「週刊朝日」の連載をまとめたもの。従って1項目で3ページほどのトピックスがいろいろ出てくるので、気が向くとちょこっと読んだりできて至って気楽に読めます。でも内容は最新の研究成果を踏まえているので知的好奇心を擽られることが多いのです。

詳しくは本を読んでいただくとしてダイジェストのダイジェストになりますが、興味を持った事柄だけでも列挙してみます。
・マネをすると好感度が上がる。「マネをする」ことは「あなたに共感している」「共感されて心地よい」などと相互に心を通わせるための表現手段とか。
・これはハエの実験ですが、「ハエでもアルコールが快楽」で「ハエでも交尾が快楽」。そして「アルコールと交尾という異なる快楽が相互に埋め合わせ可能」とか。そして人の脳にも同じようなペプチドがあるので酒とセックスは代替可能?代替物で満足するという能力はハエにもあるのだから進化的には起源が古い強力な生存戦略か。
・自分についてのことを話すとき快感の脳回路が活性化している。私がこうしてブログを書いているのも「自己暴露は快感」という基本的な脳生理からということです。
・カルフォルニア大学のビフ博士の実験によると上流階級ほどモラルが低いとか。でもそれは生まれつきではなくて下流層の人に「自分は社会的地位が高い」と思って行動してもらうと貪欲さが増し、非道徳的になるとかで、地位が人を作っている。上流階級というのは貴族的矜持があるのではなくて欲望に忠実みたいです。。
・「赤色は女性の魅力を高める」という心理学的データがありますが、同性には効果がなく異性へのアピールという点に効果がある。女性の「赤さ」は妊娠しやすさの信号であり、赤色の服を着るということは潜在的な性的アピール!さて赤い服を着た女性がいれば近づくべきか敬遠するべきか…
・人に見られている時の脳活動を測定したデータによると見られと脳の報酬系が活発化したとか。目が合うことは本質的に快感なのです。因みに野生動物では威嚇のサインになったり、狙われていることのサインなので嫌いますけど。
・私は英語がからきしダメで、あえて言えば英語の点が足かせになって志望校を下げたと思っているのですが、ある調査によると第二言語の習得は環境よりも遺伝的要因が強く、後者の寄与が71%とか。そして第二言語の学習能力は母語の獲得能力とはほぼ無関係。英語が苦手なのは勉強法が悪い訳でも気合が足りない訳でもなく親が悪かったということです。
・ヒトゲノムの解析が進み親から子どもにDNAがコピーされる時どのくらいの頻度で複写ミスが起きるのかというと12億分の1の確率。ゲノムの総DNA数は約60億個ですからその他の要因を含めると親のDNAのうち約70個は子どもには別物に入れ替わてしまうことに。そしてその変異の原因はほぼ父親の精子にあるそうです。なおかつ父親の年齢が高いほど変異の数も多いとか。変異が多いほど進化するという訳ではなくて、大部分の変異は死産や奇形児の原因になるとか。そうすると私の年齢になるとまだ生殖能力はある(この20年以上実績がないのであると信じているだけですが)といっても遺伝的変異の確率が高くなることを覚悟しないといけないのか。まあ、もうずいぶん前にあきらめているので何の問題もないのですけどね。
・進化の過程では何かを得ると何かを失うというトレードオフの関係が普通にあるのですが、記憶力と想像力は反比例し、トレードオフの関係にあると言えそうです。サルは短期的な記憶力とか瞬発力は人よりも優れているのですが、総体的な知能レベルではヒトにはるかに及びません。ヒトは正確な記憶力や瞬発的な判断力を失うことで、高度な知能を進化させたのです。私たちの知能はいい塩梅にチューニングされているので、むやみに特定の能力を高めると長期的には知能全体のバランスを崩してしまいそうです。
・睡眠は昆虫から哺乳類まですべての動物にみられる普遍的な生理現象です。では何のためにあるのかというと厳密には解明されていないのですが、ある説によると、敵に見つからないように静止し、かつ餌を獲ることが難しい時期をやり過ごすために最適化された合理的な行為とか。では人間にとって睡眠とは?
・睡眠不足は活動によるエネルギー消費が増加する以上に食べ過ぎてしまい、肥満を引き起こす!睡眠不足になると「食事を節制しよう」という自制心そのものも減ってしまい、結果、寝不足は太る。
・老人性うつはよく認知症と間違えられるのですが、ボケたと思われる人の7~8割はうつである可能性があるとか。加齢に伴ってウツが増えるのは神経伝達物質の減少という気質的な経年劣化。健康な高齢者は物事が必ずしも自分の思い通りにならないことを知っている諦める能力を持っている。
・相手の苦痛を取り除こうという努力、利他的な行為が同情ですが、これはヒトならではの行動。脳活動から見ると同情は快感とか。人助けは心地よいものなんです。
・直感的に決定すると自己中心的な行動よりも他人を利する行動が増えます。ヒトは生まれながらにして「善」であり、性善説が正しい。「悪」は直感的な結論を一歩踏みとどまって「考える」ことから生まれる。因みにイヌはその欲望をえさの獲得に向けていて欲望に忠実。利他性もない。性善説は成り立たない。でもサルになると他者のための行動も見られて性善説が芽生えている。ヒトもそれぞれなんでしょうけどね。
・感情は表情よりも身体に現れる。表情にはそれほどのレパートリーがなく、感情が判定しにくいのですが、ほとんどの人は表情に感情が現れると信じているのです。
これ以上書いているときりがないのでこれくらいにしますが、興味があればぜひ原本を読んでみてください。
ところで池谷さんは毎朝最新の関連論文を100報ほどチェックしていて、当然ながら多くは論文題目だけなのですが、気になった論文はフォローしていき、こうやって週刊誌のエッセイなどのネタになるみたいです。インターネットの時代はこうやって毎朝最新の論文に触れることができというわけです。雑誌が届くまでボーっとしていることはできないので、それはそれで忙しないというか大変ですけどね。
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