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その1  がん大国白書

2016-04-01 03:21:50 | 日記


がん大国白書
第1部 新薬の光と影/1(その1) 特効新薬、年3500万円 免疫療法が飛躍的進化
毎日新聞2016年4月1日 東京朝刊
 男性はカップをゆっくりと持ち上げ、コーヒーをおいしそうに飲み干した。肺がんに侵されて約7年。手術や従来の抗がん剤治療を経て、自身の免疫機能を高める新タイプの抗がん剤「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」と約2年前に出合った。「がんは今、ほとんど見えなくなりました。体調も悪くないです」。関東地方の無職、松本宏さん(69)は満足そうに言った。
 持病の狭心症の検査で偶然、こぶし大のがんが見つかった。日本のがんで最も死亡数が多い肺がんだった。松本さんは当初、手術を受けたが、4年後に再発。抗がん剤治療を始めた。がんは小さくなったが、手足がしびれ、力が入らなくなっていった。抗がん剤の副作用だった。「治療を続けられるのか」と絶望的になった。
 松本さんの主治医が、肺がんでの承認に向けてオプジーボの効果を確認する治験参加を提案したのは、そんな時だ。松本さんは「この薬に懸けよう」と決断。今も2週間に1度、オプジーボの点滴を受ける。
 オプジーボは大人(体重60キロ)が一般的な使い方をすると年間の薬剤費が約3500万円と高額になるが、治験の松本さんには自己負担はない。1センチほどだったがんは、画像診断でほぼ見えなくなった。目立った副作用もない。
 今年1月末、妻(65)が白血病になり、現在も入院中だ。松本さんは「心からホッとしている。まだまだ死ねない。妻のためにも」。
 オプジーボは、がん細胞を直接攻撃する従来の抗がん剤とは異なり、免疫細胞が体内に侵入するウイルスや病原菌などを攻撃・排除し、病から守る仕組みを使う。その薬ががんの臨床医たちを驚かせた。一部のがんで、従来薬を上回る治療成績が確認されたからだ。
 3月、大阪市で開かれた日本再生医療学会のシンポジウム。会場に準備した200あまりの座席では足りず、立ち見が出るほどの聴衆が集う中、壇上に登った日本がん免疫学会理事長の河上裕(ゆたか)・慶応大教授が語った。「(オプジーボが登場する前の)がん免疫療法は十分な効果がないと考えられてきた。だが時代は変わった。がんが進行し、治療法がなかった患者にオプジーボは明らかに効いている。これは驚異的だ」
    ◇
 2人に1人ががんになる「がん大国」日本。国内のがん医療の向上を目指し、2006年にがん対策基本法が成立した。それから10年で何が変わり、次の10年で何を変える必要があるのか。第1部は、高い効果が期待できる一方、治療費の高額化など課題も見えてきた抗がん剤の今に迫る。

がん大国白書
第1部 新薬の光と影/1(その2止) 「生きたい」願いを託し
毎日新聞2016年4月1日 東京朝刊

新タイプの抗がん剤「オプジーボ」の治療を受けている安西智雄さん=神奈川県内の病院で、徳野仁子撮影


 <1面からつづく>
<新薬の光と影/1(その1)>特効新薬、年3500万円 免疫療法が飛躍的進化
 新しい仕組みでがんを攻撃するオプジーボ(一般名ニボルマブ)は、2014年9月に悪性黒色腫を対象に発売され、15年12月に肺がんの一部も使えるようになった。多くのがん治療では、まず手術か放射線によってがんの切除や破壊を目指す。その後、がんが残っていたり、再発したりした場合に抗がん剤治療が始まる。オプジーボが適応となる肺がんは、日本人の肺がんの85%を占める「非小細胞肺がん」で、切除できない進行・再発がんの患者だ。
 肺がんに適応が広がってから間もなく使い始めたのが、横浜市の会社員、安西智雄さん(51)だ。13年前に肺がんと診断され、手術を受けたが3年半後に再発。放射線や抗がん剤を使った治療を繰り返してきた。しかし、最近になって薬の効き目が悪くなり、「このままでは後がない」と感じていたときにオプジーボが登場した。これまでに3回投与し、効果が表れるのを待ち望んでいる。
 新薬に希望をつなぐ患者は、安西さんだけではない。
 横浜市の映像ディレクター、長谷川一男さん(45)は3月18日、入院先の病院から小学6年の長女の卒業式に駆けつけた。現在は、肺がんの手術後に起きた感染症の治療をするため、抗がん剤は中止している。娘が他の児童とともに将来の夢を語る姿を見つめながら、「ずいぶん成長したな。こういう姿を見るために自分は生きてきたんだ」との思いが湧き上がった。
 長谷川さんの肺がんが見つかったのは6年前。娘が入学する直前だった。せきが止まらず首の下部が腫れ、夜中に病院に駆け込んだ。検査で右肺に丸い影が見つかった。入院して受けた検査の結果は進行がん。喫煙歴はなかった。
 骨に転移していたため手術できず、抗がん剤頼みの治療が始まった。がんは小さくなったが、半年で効かなくなった。最初の2年間で7種類の抗がん剤を使い、3年目に右肺を摘出した。「少しでも長く生きたい」と、加速器でエネルギーを高めた粒子でがんを狙い撃ちする粒子線治療など、あらゆる治療を受けた。
 最初の診断から5年後の昨年、まさかの再発。「1〜2カ月は正気でいられなかった」。その中、患者会「ワンステップ!」を設立した。進行した状態で見つかることが多い肺がんの患者会は少ない。同年11月には、肺がん患者会の全国連絡会代表に就いた。患者会の活動は「自分らしく生きたい」という思いをかなえることにもなった。
 3月27日に退院した長谷川さんは「粘って生きていると新薬が出てくるといわれるが、オプジーボもそんな薬。体調が整えば、治療を再開したい」と話す。6人暮らしの安西さんには大学に通う2人の子どもがいる。「がんに負けられない。苦しくても、患者は目の前のがんと向き合うしかない。がん患者は新薬に望みを託しながら生きている」=つづく
    ◇
 この連載は、河内敏康、下桐実雅子、細川貴代、永山悦子が担当します。
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